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これを訴えたかった!

 

 いくら聖獣様と殿下の中で話がまとまったといってもやはり陛下と議会の賛同が無ければ現状として、アデルハイト殿下を主として次代の王・王太子とするには難しいそうだ。


 あの後、茫然とする陛下とオールバンス閣下は我に返り、慌てた様子で殿下を王太子に据えるまでに必要な条件や派閥問題のほか、外交問題に国内情勢などの難しい話を始めてしまった。



 ……正直、暇です!!



 だって元平民(気分は今でも平民)に貴族の派閥問題とか外交問題とか言われてもわかるわけないじゃん? そういう難しいことを決めるのが王宮勤めの仕事でしょう? 決して安くない税金払ってんだし身分が高いことで優遇されてる部分だって平民より多いんでしょ? そっちはそっちでサクッと解決してくださいよ。


 お貴族さまや国の中枢の人間からしたらとっても重要なことなのかもしれないけど。現状、魔力供給が途絶えてしまったら聖獣様は顕現されなくなるし、このままいけば最終的には存在そのものが消えてしまう。なら、中継ぎとして私が仮の主になればこれから先も国は聖獣様の庇護を受けられる。


 理屈はわかれども、問題なのは私も殿下も『黒持ち』であるということ。

 そもそも『黒持ち』でさえなければ殿下が幽閉されることはなかった。王宮内で暮らしていれば聖獣様とももっと早くに主として契約を結んでいただろう。そうであったならもっとスムーズに立太子もできていたはずなのだ。あくまで〝たられば〟の話だけれど。



 なーんで『黒持ち』に生まれてしまったのかねぇ? 神様ってば底意地が悪い。



 そうしているうちにもどんどこ話は決まっていく。

 まず、殿下が聖獣様に主として認められたことを聖獣様ご本人に宣言していただく。いくら陛下が仰ったところで『黒持ち』ということですぐさま却下が下される案件だからだ。


 次に、殿下のお披露目。今まで公どころか非公式の茶会にも出席したことのない殿下のお顔はほとんどの人間は知らない。ここで正式に第五王子殿下の顔を売る。その際、殿下と聖獣様の仲が作られた偽りのないもだとアピールする必要があるらしい。不敬で愚かな連中の中には「『黒持ち』が主となれるのなら他の王子でも!」 と、勘違いを起こす者が必ず現れるそうだ。

 そうなる前に、相手を叩き潰す。ここ重要!! 


 で、最後に『魔術師』リズの出番です! やぁ皆、お待たせ!!

 殿下の魔力量は現在の王家と王家に由来する血筋の家の者の中でも断トツに多い。が、制御は出来ないし体力もない。魔力もまだまだ成長途中である為ムラが多い。これでは安定的に魔力供給ができないらしい。

 そこで、王国の中で最も魔力が多くかつ聖獣様にも気に入られ、さらには現在進行形で殿下の護衛として務める私、『魔術師』リズに期間限定の主に据える。というのだ。


 この中で一番難しいのが最後の問題だろうね。なんせ元平民の『黒持ち』が主に選ばれるんだから。


 これまでの王国の歴史が覆るほどの大事件に成りえる問題だ。……ただの護衛からどうしてこうなった!?


 殿下にはこれから王族として振る舞うためのマナーやその他教育が施されることになる。これから忙しくなるぞ!! と強張った表情の中にも、これからへの期待を覗かせた陛下。


 だが!! しかぁし!! ちょっと待て!!



「陛下、オールバンス閣下。どうぞ、こちらをご覧くださいませ」


「なんだ?」



 そうして指さしたのが、殿下の朝食。ミルク、サラダ、果物がちょびっと。

 これを訴えたかっただけなのに!! 昨日から話が飛躍しすぎだわ!!



「……これは」


「まさかっ」


「殿下の朝食でございます」


「「!?」」



 眼を見開いて驚くお二方。いや、気づけよ。ずっとこの席に殿下は座ってたろうが。



「病弱設定とあってあまり華美なものは与えられないとはいえ、これから殿下は成長期に入る大事な時期です。昼、夜もこれに黒パンが付くくらいなもの。とてもではありませんが、王族の召し上がるものではございません。まして、殿下自身が何か罪を犯したようなことはなく、生まれてすぐの幽閉。致し方ないにしろ、改善を直訴いたしたく昨夜閣下の元を訪れました。……勝手な行動、お許しください」



 私も気が大きくなったのか、陛下と閣下相手にすらすら言葉が出てきたことに自分で驚いた。わぁお、あとで処刑されるかも!? いや、殿下が成人するまではない!? 



「こんな、……まさかそんな」


「くそっ! ……殿下これまでの不自由、お許しを!」


「? ……ぇ、なにが」


「……わざとこのような食事を出していたのでは?」


「違う!! 少なくとも、このような指示は出していない」



 そうして項垂れる陛下。握りこぶしを作るオールバンス閣下。お二人とも、本当にこんなことは指示していなかったようだ。悔しさと怒りが見て取れる。

 だが、知らなかったとはいえこれは聖獣様のお怒りに触れるには十分な案件だった。



『〝知らなかった〟? よもやそれで全てを済ますつもりか?』


「「「……!!!」」」



 ブワッ!!


 溢れだす聖獣様のオーラ。そこには明らかな怒気が含まれていた。

 息をすることも忘れてしまう聖獣様のオーラに、ガタガタと震えだす陛下達。その後ろにいたミンスター卿は昨夜とは違い、聖獣様の圧に対抗していた。眉間に皺を寄せ、汗が流れているがガタガタと怯える様子はない。さすがの対応力。やっぱりミンスター卿ってば優秀だなぁ~。



『アデルハイトはすでに我の愛し子。昨夜も言ったが、アデルを害するのは我を害するも同義! ……忘れるでないぞ』



 獅子の姿でグルグルと牙を見せながら唸りを上げる聖獣様。唯の獅子でも目の前に現れたのなら恐怖でしかないのに、怒気を含んだオーラは人でも殺せる。昨夜のように原始的な恐怖が込み上げ呼吸一つするのも苦しい。

 が、それもあっけなく終息する。



「ゼーレ様! 父上をいじめないで! 僕は別に怒ってないよ?」


『むっ。だがな……』


「それに、リズが来てくれてからは僕毎日楽しいよ。フロイドもね。二人ともとっても良くしてくれるから、あまり怒らないで?」


『いや、パフォーマンスも必要だからな……』


「それは、僕のお披露目の時にお願いします! そうしたら、僕とリズに文句がある人達も黙っちゃうと思うから」



 やぁだ、殿下ってば結構腹黒い? 可愛いお顔なのにそういうことはっきり言っちゃうなんて……!

 殿下、恐ろしい子……!

 思っていた以上に強かな殿下に恐れをなす。いやー、人は見かけじゃないとはこのことか? ていうかいつの間にか随分仲が良さそうな感じじゃないか。



「……謝って済むことではことではございません。早急に調査を行い、原因の究明をしてまいります。ですが、その前に。アデルハイト殿下。私が至らぬばかりに、申し訳ございません……!」


「……」



 オールバンス閣下が深々と頭を下げるのを不思議そうに見つめる殿下。中々頭を上げない閣下に対して困惑し始めた。



「なんで、謝るの……? 僕が何か訴えたら〝困る人〟がいるから、問題を起こすなっていったのはあなたでしょ? なんで……?」


「……そのことにつきましては、私の配慮が足りず殿下を苦しめてしまいました。本当に、どう謝罪すればよいのか……」



 そう言って項垂れる閣下。が、すぐに顔を上げ殿下を真っ直ぐに見つめ何故ああいったことを言ったのかを語り始めようとする。殿下にとっては不快な思いをすることになってしまうかもしれないが、と前置きをし殿下もそれについて了承したことを確認した上ようやく語り始めた。


 陛下は殿下と共に椅子に座り、立ったまま語るオールバンス閣下の話を静かに耳を傾ける。おおっ、やっぱり親子だ。耳の形そっくりだわ。

 私は殿下の斜め後ろに。陛下は殿下の前の席に。オールバンス閣下は陛下の左斜め後ろに位置する。ミンスター卿は……。いつの間に? 私の左隣にぴたりとついていた。聖獣様は殿下の足元で眠たげにあくびをしている。話はちゃんと聞いているようだ。モコっとした素敵なお耳はオールバンス閣下の方を向いている。やだ、触りたい……!


 ピキッ


 んん!? 今、左から何か冷たいものが!?


 隣のミンスター卿はというと、何か言いたげな目を私に向けていた。それがとても、何というか……うん。あれだ! 浮気を疑う妻の目! そんな疑惑の篭った目を向けてきた! 何故に!?



「ミ、ミンスター卿?」


「……なんだ」


「いえ……その、何か怒ってませんか?」


「……」



 はい! 無言は肯定ととります!! 何に対して怒ってるの!?

 と、言いたいところだけど今はオールバンス閣下の昔語りの方が優先だ。



「……後程、ゆっくりお話しをいたしましょう。今後のこともありますから」


「……あぁ」



 小声で約束を取り付ける。さぁ、これで集中できるぞ!



「〝困る人〟とは元護衛騎士ヴァレンタイン伯爵の事。殿下にとって、唯一心から信頼できる人間だったことでしょう」


「……」


「伯爵と執事のブライアンは殿下を魔の手から何度もお救いになっている。信頼を得て殿下を篭絡することは簡単だったはずです」


 悲し気な表情の殿下。元護衛騎士、ヴァレンタイン伯爵は殿下にとってとても大切な人だったのだろう。その大切な人が自分のせいで不幸を被る。どれだけ辛かった事だろうか。

 殿下の背に手を添えて、顔を覗いた。驚いたようだけどほっ、と一息ついたようだからやっぱり緊張はしていたんだね。



「……二人はぼくを、だましてた」



 瞳に涙が溢れ、今にも零れ落ちそうだというのに殿下も真っ直ぐ閣下を見据える。そんな姿の殿下もなんと凛々しく美しいことか。

 恐らく私は一人場違いなこと考えてるかもしれない。……いや、ミンスター卿もどちらかというとこっち側な気がする。主に私に対してだが。


 今日は色々行動するつもりだったんだけど、殿下にはとても負担のかかる話になりそうだ。傷ついた心を治すことは出来ないけど、せめて傍にいてさし上げたい。これがただの自己満足に過ぎなくとも。


 んんっ、ところで。聖獣様のお素敵しっぽがさっきからビタンッビタンッ! と絨毯に叩きつけられているぅ! 今だけ絨毯になってしっぽに触れたい……! いいなぁ、あのしっぽ。って、また隣から冷気が!? って、ん? ()()()()


 おやおやおや? 

 私の中での元護衛騎士の評価がちょっと下がったぞ。殿下が信用し、信頼を置いていたのが元護衛騎士で現ヴァレンタイン家当主の伯爵様でないの?


 私はいつも無表情である。心の中では喜怒哀楽が激しい仕様にはなっているけれど。その私が今自分でもわかるほどに眉間に皺を寄せている。隣の残念なイケメンさんはどうもこんな表情の私が珍しいのかガン見してくるが、ツッコむ余裕というか気力というか、ゆとりがない。


『二人は僕を、だましてた』

 

 閣下のお言葉で信用していた人間からの裏切りに気づいた殿下。

 事と次第によっては誰にもバレない方法で元執事と元護衛騎士を闇に葬ろう。


 心の中でひっそりと決意した。

 

ありがとうございました。

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