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生きよ

 

 なんやかんやで本当に一晩中語り合ってしまった。気づけばもう朝だ。

 けれど一晩徹夜したくらいで体調に問題ない。今日も一日、元気に護衛生活の始まり!




 殿下はまだ眠っているので、聖獣様に見守っていてもらう。その間、朝食を取りに一階へ向かう。うん、相変わらずのメニューである。

 あっ! 折角陛下とオールバンス閣下が滞在されているんだから殿下の食事事情を直に確かめていただこう!


 善は急げ! とばかりに朝食セットを持って殿下の居室スペースに向かう。陛下もオールバンス閣下も昨日はちゃんと休めただろうか? まぁよっぽど神経図太くないと無理だと思うけど!


 陛下、オールバンス閣下、そしてミンスター卿の三人はすでに起きていた。というか、やっぱりよく眠れなかったらしい。お疲れの様子が見て取れる。



「……大丈夫ですか?」



 思わず口に出たよね。仕方ない。私にも良心と言うものがあったという証拠だね!



「……あぁ」


「まぁ、……な」


「……」



 三者三様。皆さんお疲れなのはわかりました。一晩で十年くらい老け込んだ感じですもん! アハハハっ

 えっ、私? 私は大丈夫かって? ふっふっふっ! 大丈夫な訳ないよね!? だけどもうなんか一周回ってこの状況が面白く思えてきたところだよ!! ハハッ

 考えても見てご覧なさい! 一生のうちで聖獣様とお会いできる人間なんて本当に極僅か、むしろここ数百年は誰一人として拝謁できなかった、というか認識さえされなかった存在よ!? それがまさかお目通り叶う所か、言葉を交して交流する事が出来るなんて!


 私は! 今!! とっっっても貴重な存在と! 同じ時間を生きている!!


 精神的疲労で頭が可笑しくなったかも? でもでも、今とっても楽しい!! 本来ならこんな感情持つべきものじゃないけど、ここはやっぱり〝バレなきゃいいじゃん?〟 精神でどうせなら楽しもうじゃないか!! なんせ、『普通』の人間じゃ体験できないようなことを『黒持ち』の私が出来ているんだから!!


 疲労困憊な三人と殿下の居室スペースに向かう。殿下はすでに起きており、身支度も済ませて朝食を前に席に着いていた。どうやら私たちが来るのを待っていてくれたらしい。自分で身支度できる子。ウチの殿下いい子!!



「おはようございます、殿下。昨日は少しお休みになるのが遅くなってしまいましたが、今朝は眠くありませんか?」


「おはよう! リズ! んとね! 聖獣様がね、庇護? してくれたおかげか体調がとってもいいんだ! それにそんなに眠くもないよ!」


『うむ! 我のおかげだな! アデルハイトよ、我に感謝してもいいのだぞ?』


「ありがとうございます!! ゼーレ様!」


「「「……」」」



 聖獣の庇護とは効果は抜群だ! 殿下は普段から朝にとても弱いのに。起きてもすぐには覚醒しきれないようでいつもベッドでうつらうつらとしているのに、今日はとても溌剌としている。気力が満ちているって感じかな。


 しかもすでに聖獣様相手を名前で呼んでいる。聖獣様が許可したという事だ。ニコニコ顔で聖獣様と話をしている。そんな殿下とは対称に、例の三人は何とも言えないしょっぱい表情を浮かべてた。



「……王国の守護聖獣ゼーレ様にご挨拶申し上げます」


『ん? おお、アーサーか! どうした、あまり寝れなんだか?』


「……はい、国を治める王として情けない限りでございます」


『良い良い。其方がよう働いておるのはわかっておる。其方たちにはわからずとも、我はずっと見守ってきた故』


「! も、勿体なきお言葉!! 感謝いたします!!」


「うむ! おお! そうだった。実は其方に頼みがある』


「何なりと! このアーサー、始祖の代から守護していただいている聖獣様のお望みとあらば全力で取り組む所存!」


『うむ! 実はな……』



 陛下が誰かに頭を下げることはない。例え、間違いがあったとしても頭を下げることはない。その陛下が今、王国守護、聖獣ゼーレに対して頭を下げる。これは聖獣が王に仕える存在ではなく、王に力をお貸しいただける存在である事を意味する。聖獣が仕えるのはあくまでも聖獣様が認め、契約を交わした主だけなのだ。


 ごくり。


 固唾を飲んで次の言葉を待つ陛下。オールバンス閣下、ミンスター卿も緊張から固まって動かない。あ、ちなみに陛下の後ろにオールバンス閣下、ミンスター卿が控えて跪いている状態。聖獣様は獣化の状態で殿下の傍らに侍っている。殿下は椅子に座ったまま、私は聖獣様の斜め後方に控えて平伏の体勢。立ち位置とかわからん! とりあえず平伏しとけっ! て感じです。



『昨夜見ていたであろうがアデルハイトを我の主とする。が、今のアデルには体力的にきついのだ。そこで、アデルが成熟するまでの間をそこのリズに頼もうと思ってな! 我の中では決定事項だが、アーサーの意見も聞いておこうと思ったのだ!』


「「「…………!!!?」」」



 目玉が落ちそうなくらい大きく開かれた目は驚愕がありありと伝わってくる。まぁ、平伏してるから予想だけど! その後はもはや言葉にならない。絶句だ。殿下の様子をちらりと盗み見ると殿下も口を開けてポカンとしている。でもそれは聖獣様の発言によるものではなく、父親の驚愕の顔を見たからだろう。恐らくだが、殿下は聖獣様のこの言葉の意味と重さをまだわかってはいないはずだから。


 冷遇された生活からの脱却。千載一遇の機会を逃すわけにはいかない。この機会をものにすれば殿下を取り巻く環境は大きく変わる。だがそれは良いことばかりではないだろう。


 今後、殿下は王家の一員としての責務を本格的に担うことになる。他の誰でもなく、現状王族の中で唯一殿下のみに与えられた大きな役目がこの小さな肩に圧し掛かることになるのだ。

 これまでとは180°変わるであろう環境に殿下は付いていけるのであろうか? 出来なくとも、やらねばならない。殿下にしか出来ない大役なのだから。だが、そんな中で殿下が真に心許せる人間はいるのだろうか。否。いるはずがない。


 だが、メリットで考えるのなら聖獣様との仮主契約を結ぶことはなにより大きいのは間違いない。殿下にとっては。



「主? 何それ?」


『我と共にこの国を守ろうということだ。そうすればアデルも外に出られるぞ!』


「外に……?」



 〝外に出られる〟 これほど殿下の心を揺さぶるものはない。ずっと焦がれていた外の世界。大地を踏みしめ、風を感じ、太陽の光を目一杯に浴びる。これほど普通なことが殿下にとっては憧れ以外の何物でもないのだ。



「主になったら、リズとずっと一緒にいられる?」



 って、ちょい待ち!! そこでなんで私が出てくるの!?



「アデル、聖獣様の御前である!! 控えよ!!」


『良い、アーサー。アデルはすでに我の愛し子よ。それでリズについてだが……』



 聖獣様は少し悲し気だ。大丈夫。わかっているのでズバッと仰ってくださいな! 覚悟はもう、当の昔に出来ておりますので。



『……其方が成熟するまでの期間なら、な』


「せいじゅく……?」


『大人になるまでの間なら、傍にいられる。その間、我はリズから魔力を貰うからな』


「大人になったあとは……?」


『……』



 聖獣様は獅子の姿から人の姿に代わって、アデルハイト殿下を抱きかかえた。12歳というのに平気よりも小さい殿下のお体は、聖獣様の大きな腕の中にすっぽりとしまわれてしまった。



『……我がおる。だから、寂しくない』


「……っやだ。やだ! やぁだぁあ!! リズも一緒じゃなきゃやぁだぁ!! わぁぁぁぁん!!!」


「「「……」」」



 わぁぁぁぁ!! と声を上げ泣きじゃくる殿下。聖獣様の言葉の意味を察していただけたのだろうか。


 初対面の時以来、殿下がこんなにも感情を荒げることはなかった。冷遇された生活の中でもめげず、挫けず、曲がらず。諦め癖がついていたのも否めないが、まっすぐにお育ちになられていた。私とは大違いだ。


 物心ついた頃には掃き溜めのような場所で汚物に濡れて汚らしかった私。私を見た誰もが石を投げた。傍には誰もいなくて、頼れる人もいない。いつもお腹がすいていた。

 私は全てを恨んだ。憎んだ。呪った。

 国が亡びる事を何度願ったことか。


 おかげでこんなに立派に捻くれて育ちました!


 なんて。確かに捻くれて育ったし国が滅びればいいと願ったのは一度や二度の話じゃないのは確かだけど! 生きていくうえで感情を見せる事は相手を喜ばせるだけだと知ってからは人前で泣いたことはないし、どれだけの屈辱を味わっても、表に出すことはなかった。


 でも殿下はまだそれが出来る。

 聖獣様の庇護を受け主に選ばれた以上、殿下と私は聖獣様という大きな傘の中に入れてもらえた。これはとても大きい。(まぁ、私はおまけだけど)

 だけどまぁ、やっぱりか……。聖獣様も『大人になるまでは一緒にいられる』と明言されたのだから。どこかで期待してたのかなー。わかってたことだけど、やっぱりちょっとクるな……。



(…………よし!)



 ならば!殿下が無事成人を果たすまではこの『魔術師』リズ。殿下のお傍におりましょう。ちょっぴり沈んだ心とはおさらばして私のできることで殿下を支えていこうじゃないか! それしかできないし! 護衛として、『黒持ち』として、年長者として。これから先を生きる殿下の盾くらいにはなれるだろう。



「殿下。私も人の子。死は必ず訪れます」


「っ!!」


「ですが死に怯えて生きるより、生を謳歌して生きたい。死ぬとき反省はあっても後悔はせずに死にたいのです」


「「「……」」」



 私を育ててくれたのは女性の『黒』だった。

 その人の最期を思い出す。痩せて自力歩行できなくなって横たわる毎日。日に日に弱っていく彼女には悔しさを見て取れた。でも、どこか晴れやかな顔をしていた。

 彼女は生き通した。寿命が尽きるまでを生き抜いた。そんな彼女のように私も、生きたい。



「あと何年生きられるのかは誰にもわかるものじゃありません。明日かもしれないし、今日かもしれない。十年後か二十年後か。もっと先なのか。そういう意味では『黒持ち』だとしても同じです」


「……ぅん」


「だから、毎日懸命に生きるのです。明日死んでもいいと思えるぐらい懸命に」



 ふふっ、自分の語彙力のなさとか説明下手とか。今まで気にしなかったけど重要だったか……! 殿下に伝われ! この想い……!



「ですから私は後悔せぬよう、懸命に生きます。殿下が成人するその日までは必ず。生き抜いて見せます。なので殿下はしっかり大きくなって一生懸命生きないといけませんよ? でないと、私の生きる理由が一つ消えてしまいますからね!」



 パチンっ! とウインクしてみた。む、難しい……っなんと高難度な技なんだ! ウインクとは……! 両目つぶったのではなかろうか?

 でもまぁ、へたくそなウインクで場が和めばいいよ。ぽかんとした殿下の顔が、みるみるうちに変わっていく。勿論、笑顔にね。



「ふふっ! リズはウインクするの下手だね。両目閉じてたよ」


「ありゃ、やはりですか」


『ふふん! まだまだだなリズよ! ウインクとは……こうするものだ!!』


 といって人化していた聖獣様がまた獣化してバチンっと決めた! くっ、出来る……!



『……人の生は我らのような存在からすればとても短い。だからこそ我らは命を燃やして輝くお前たちを美しく思う。それが人から見ればどれだけ無様であろうともな。そして、そうやって我武者羅に生き、足掻いて藻掻いて苦しんで。それでも必死に生きた人間の(かがやき)は何よりも美しい。……シリルもとても美しかった』



 悲し気に目を伏せる聖獣様の眼には今は亡きシリル様の魂を見ているようだった。



『生きよ! アデルハイト、リズ。其方たちもその魂を輝かせてみせろ!』


「「はいっ(はっ)!」」



 魂の輝き。何となくわかる。あの女性(ひと)の最期に感じた命が燃え尽きる様。最後の最期まで、命を燃やして生きたあの女性(ひと)

 とても美しかった。人から見ればきっと汚らしかったろうけど。私からすればこの世界で一番輝いて美しい女性だった。


 あの女性が残したものは今も輝いている。

 ううん、()()()()()()()は今もなお、輝いている。




 私の魂も、そうでありたい。



お読みくださりありがとうございました。もしよろしければ、評価お願いいたします。

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