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 壁面に映し出された人物にフロイドは目を見開いた。何故ならそこに映し出された男は国王陛下の幼馴染にして最も信頼されている最側近と名高い エドガー・オールバンス その人だった。

 オールバンス公爵家出身で陛下の信頼の厚いかの方が、何故……。



「この人で間違いないよ。左目の下の黒子が印象的だった」


「、オールバンス様が……、そんな」



 信じられないというようにフロイドは何故と小さく繰り返す。彼は陛下の側近で、幼い頃からの親友だということは有名な話だ。学院時代の陛下のやんちゃ話を父であるバーセル侯爵からも聞いていた。そこには必ずエドガー・オールバンスの名前があった。


 陛下の一番の親友でもありライバルでもあったと。

 そんな彼が陛下の子であるアデルハイト殿下を脅すような真似をした?まさか。


 ありえない。


 真っ先にそう思った。

 だが、殿下がいうには彼で間違いないらしい。百歩譲って彼がそうだとして、目的はなんだ?


 信じられないとは思いつつ、オールバンスが殿下を脅すような真似をする理由を考える。政治的立場、派閥、友人関係、、、それでもフロイド自身が知っているオールバンスについての情報は主に父からもたらされた学院時代の陛下との悪ガキエピソードくらいなもの。あとは側近として働く彼の人がものすごく有能であるということくらいなもの。他には……、と考えているところで思わぬ声が。



『殿下。聞こえますか?』


「!! リズ!?」


「!!?」



 今リズの声が!!

 一体どこからだ!?


 フロイドの思考は一気にリズに変わり、声の発生元を探す。すると、



『あ、良かった。ちゃんと聞こえますね。映像を届けている魔道具を中継して今声を届けているんですよ』



 宙に浮きながら壁面に映像を映し出すリズ特製の魔道具。まさか、声まで届けることが出来るなんて……! うちの妻天才!!


 と、一人感動するフロイドに対しアデルハイトは魔道具に興味津々。



「リズ! 聞こえる!? ほんとに!?」


『はい。ちゃんと聞こえておりますよ。殿下。』



 キラキラ目を輝かせるアデルハイトは色々リズに話しかける。



「あの男の人ね。フロイドがいうにはエドガー・オールバンスっていうらしいよ。……父上の側近なんだって」



 そういったアデルハイト殿下は一気に静かになった。まさか父の側近から脅されるとは思いもしなかったのだろう。そこまで危険視されていたことに少なからずショックを受けた様子だった。



「……オールバンス、というとミンスター卿が陛下との謁見を求めた際に断った人物のことでしょうか?」



 ミンスター卿と呼ぶリズ。また、距離が開いたように感じたフロイドだが、今はそれどころじゃない。



「ああ、間違いない。彼なら殿下のことを知っていても可笑しくない。……だが、信じられん」


『……信じられないとは?』



 リズの高すぎず低すぎないよく通る声は耳心地がいい。ずっと聞いていられる。彼女の声だけでも愛おしい。そんな思いを抱きつつ、リズに答える。



「オールバンス様は陛下の最側近。信頼も厚い忠臣だ。そんな彼が陛下の子である殿下を脅かすような真似をするとはとても思えない」


『……』


「それに、オールバンス公爵家は権力欲のない家でも有名だ。王家の傍流ということも大きい。波風を立てる理由がない」



 元々オールバンス家を始めとするブラッドフォード、メイウェザーの三公爵家は王家の血を引く家系だ。これまでの歴史の中でも三公爵家の中から王妃が選ばれることが圧倒的に多かった。現国王陛下の王妃様はリンク侯爵家出身ではあるが、王妃様の母はメイウェザー公爵家の出身。


 この三公爵家は王家との関わりが深い分、他家とは違いわざわざ王家に媚びを売る必要がなかった。王家からの命であったとしてもある程度は断ることのできる家柄なのだ。


 そんなオールバンス家の人間がわざわざ塔に夜な夜な忍び込み、殿下におとなしくしているように脅してくる理由は?



「陛下に対する忠誠心から? 殿下が陛下にとっての弱みになると感じての独断?」


『若しくは、本当に殿下を心配してか。どちらにせよ、護衛の立場からすれば迷惑極まりないことです。それに、護衛は問題ないとして問題なのは食事について。本気でこれでいいと思っているなら半年程監禁でもして毎日うっすいスープと黒パンの生活をさせてやりましょう……!』


「待て! 早まるな!」



 意気揚々とオールバンスに向かって歩みだすリズに待ったをかけるフロイド。だが制止もむなしくオールバンスがこちらに気づいたようだ。



「……何者だ。ここがどこだかわかっているのか曲者め」


「礼儀はなっていませんが、自己紹介を。

 第五王子殿下付き護衛魔術師リズと申します。本日、オールバンス閣下に確認させていただきたいことがございましたので参上いたしました。急に押し掛けたことにつきましては謝罪いたします」


「殿下付き……。ふんっ、『黒持ち』か。よくもまぁ、化けたものだな」


「王宮へ入るには私の髪色では目立ちますので」



 そういってリズは自身の髪の先をくるくるいじる。その色は明るい茶色をしていた。

 オールバンスは書類から視線を外しリズと向き合った。その眉間には深い皺が刻まれていた。



「貴様、魔術師とはいえ『黒持ち』の分際で私に何の用だ。場合によってはその首刎ねられること覚悟せよ」


「「!!」」



 ギンッ!! と一層鋭い眼光でリズを睨みつけるオールバンス。リズの目を通してのことでも、フロイドとアデルハイトは気圧された。


 ゾクッと身震いする二人。ただ、この二人の存在はオールバンスは認知していない。ただ彼からすれば目の前にいるリズに対してのみの威嚇に過ぎなかった。


 そのリズはというと。普段ののんびりした少しふざけた態度は鳴りを潜めていたものの、特に怖気づいたこともなく淡々と目的を告げる。その様子に内心オールバンスは驚きつつも、表情に出すことなく威圧をかけ続ける。



「首は刎ねられる前に逃亡いたしますのでご心配には及びません。それより本題に入ります。……殿下の寝所に夜な夜な忍びこみ、大人しくしているようにと脅していたのは閣下でお間違いありませんか」



 直球―――!!?

 いくら何でも直球過ぎる!!


 腹芸にかけては貴族は一癖も二癖もあるなか、オールバンスは陛下の最側近。人の顔色、目線にしぐさ。それだけで心理状態を揺さぶりほしい答えを導き出す。そんな厄介な相手に直球で投げかけた!!


 さすがのリズも貴族流の腹の探り合いはまだまだ未熟だった。下手に探りを入れるよりもズバッと聞いてしまった方が早いと判断してのことだった。素人が小手先の知恵で熟練のプロに勝てるはずがない。



「……はぁ。もう少し腹芸を磨いたらどうだ。これでは手玉に取られるのが落ちだ」


「それでお答えは」


「貴様、少しは反省しろ」


「問題ありません。いざとなれば消せばいい話です(けろっ)」


「っ!! 人選ミスだ……!! お前を選んだのは確実に人選ミスだ!!」


「何を今更。もうすでに3か月も経過しておりますよ」


「~~~っ!! だめだ、今からでも別の人員に配置転換の要請を」


「したところでそう簡単に最適な人材が見つかるとは思えません。もし見つかったのなら喜んで交代いたしますが」


「……減らず口を」


「それで先ほどの問いに対するお答えは」


「はぁ~~~っ……」



 リズのペースに流されるオールバンス。普通なら身分に対して委縮してしまう場面なはず。だがしかし、彼女はオールバンスに全く怯む様子もなく、ただほしい答えの回答を待った。

 その様子にオールバンスの方が呆れ果てる。深いため息のあと、しばらくリズの目を見つめた。



「答えは『YES』だ。わかったらさっさと戻れ。『黒持ち』どころか、関係者以外立ち入り禁止区域だぞここは」


「そうでしたか。普通に入ってこられたので存じ上げませんでした」



 ありがとうございましたといって、リズはその場を離れるため踵を返す。

 お忘れかもしれないが、オールバンスは国王陛下の側近。したがって、仕事は主に陛下の傍についてサポートすること。つまり、ここは扉一枚隔てて陛下が隣の部屋にいるということ。

 そんな重要な場所に「普通に入ってこられた」はあり得ない。



「待て。貴様、一体どうやって入ってきた」



 立ち上がり、オールバンスは魔力を練り上げ始める。

 魔術師ではないが、公爵家出身のオールバンスは魔力も高く側近として魔術も体術も剣術も近衛並みに鍛えていた。それはいざという時に陛下の盾となる為に鍛えたものだった。



「窓からです(しれっ)」


「不法侵入ではないかっ!!」


「皆さん気づかないものです。第一、正攻法で会いにきても追い返されるのがオチなので」



 全く悪びれもせずしれっと答えるリズに開いた口がふさがらないオールバンス。

 なお、リズとオールバンスには声は届いていないもののフロイドとアデルハイトは先ほどから心臓に悪いリズの受け答えにハラハラしっぱなしであった。


 この状況、リズはケロッとしているが本来ならこの場で捕らえられるのが当然だ。まともな裁判など行われる筈もなく即日死刑が言い渡されても可笑しくない危険な状況。

 そうであるにも関わらず、当人は飄々とした態度のまま。


 リズとしては殿下への脅しを行ったのがオールバンスなのかどうかの答えがわかれば他の、特に自分に対しての事はそれほど真剣にはならない。

 それはこれまでの人生において『捕まらなかったら問題なし』というのが彼女の座右の銘となっていることに他ならない。


 斬首と言い渡されても、首を刎ねられる前に逃げてしまえば刎ねることは叶わない。そして逃げ出せる力をリズは持っている。

 学院時代を知っている者からすればただの落ちこぼれ魔術師だが、本来は国内でも3本の指に入るほどの実力者である。

『黒持ち』特有の魔力量の多さ、知識と閃き。技量の高さ。どれをとっても彼女を捕らえるには並みの魔術師では歯が立たない。



 このことに気づいているのは現在フロイドと国軍である中央司令部上層部の一部のみ。


 軍はそのことに気づいていたものの、当時の西方軍トップとその周辺の人間は彼女の危険性を見誤った。『黒持ち』が自らの功績を訴えることが出来るはずもなく、西方司令部は彼女の功績を我が物とすることに注力したのだ。

 

 あまりに無謀な作戦立案でさえも成功していることに疑問を抱いた中央司令部に存在する情報機関は西方軍について調査を行う。

 

 結果。西方軍の勝利はリズによる無謀な特攻によるものが大きいと判明。敵本体中心地における自爆行為にたった一人での敵軍からの戦線防衛。

 それを成したのが学院を卒業して間もない研修期間中のリズだった。


 軍はリズの危険性を察知し、最大警戒人物として囲い込もうとするも、彼女の功績を横取りした西方司令部はすでに彼女を追い出した後だった。無能のすることは意味が分からない。後の取り調べによると彼女の功績は自分たちの作戦立案のおかげ。成功させるのは当たり前。作戦が終了したことで『黒持ち』などという悍ましい存在を軍にいつまでも置いておくわけにいかない。だから追い出した、と。


 そうして彼女は三年の従軍により『魔術師』の資格を有したが、軍属にはならず一平民として必要な際呼び出しに応じる一般魔術師となったのだ。

 魔術省に訴え、軍属魔術師として軍に縛り付けることも考えたが時すでに遅し。


 リズはこの時すでに第五王子殿下の護衛魔術師として警護に当たることが国王陛下の命により決定されていた。リズからしてみれば間一髪で軍から逃れられたのだった。



 実戦にて経験値を積み上げることで彼女は国内でも屈指の魔術師となった。しかし、本人にその自覚はない。ただ、『まぁなんとか逃げきれればいいや』というテキトーな考えでやってきたのだ。


 そんな彼女だからこそ目の前の男が本気でないことはすぐにわかった。ついでに殿下に対する脅しについても。



「ただ確認したかっただけです。殿下を脅したつもりはなかったとわかりましたのでもう用は済みました。お時間取らせてしまい、申し訳ありませんでした。これにて失礼いたします」



 ペコリと頭を下げたリズに拍子抜けしたオールバンス。

 肩の力を抜きぐたっと椅子に腰かける。



「待て。……脅しとはどういうことだ?」


「……顔、怖かったんじゃありません?」


「!、殿下は……もしや」


「おかげで不満を心に留めて自分は恵まれていると思い込むような子供に成長いたしました」


「!!」


「夜遅くにしか時間が取れず執事や騎士にも内密となると仕方ないかもしれませんが、閣下のご尊顔は幼子には恐ろしい類のものでしょうから、仕方ありません」


「……はっきりいうなっ!気にしているのに……!」



 あまりに軽い掛け合い。

 オールバンスは厳しく冷血で汚れ仕事もこなすともっぱら噂されるほどの恐ろしい人間だ。それを『黒持ち』であるリズは平然とした様子で会話を行う。そこに恐怖はなく、ただ任務に忠実なだけだった。


 項垂れるオールバンスをしり目に今度こそ帰ろうとするリズ。

 だが、ここで意外な人物から声がかかり帰宅するのはまだまだ先になりそうだった。





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