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愛する事を誓います

 

 夕方、勤務時間となったミンスター卿が現れた。いつも引継ぎやらなんやらで本来の時間よりも1時間以上前にやってくるミンスター卿。普段は冷静な顔つきで坦々と仕事をこなすかれだが、今日は違った。


 氷の君を揶揄される鋭い目に覇気がない。白目は少しばかり赤くなり明らかに寝不足なのは間違いない。ただ、解せないことが一つ。



「お疲れ様です。ミンスター卿」


「……」


「ミンスター卿?」


「……」


「……」



 返事がない。いつも『黒持ち』の私にでも挨拶を返してくれるのに、今回は返していただけなかった。鈍くはないつもりだが、ミンスター卿は私を一人の人間として扱っていただけている。それも恐らく、その……女として。書類上の妻ではあるけど、ミンスター卿はそうは思っていないのでは?


 間違っていた場合とても申し訳ない気持ちになるし、勘違いしても恥ずかしい。私に異性は勿論、何かを愛する権利はないのに。勘違いしそうになる。ううん、もうしてたんだ。



 だって、返事がなかった事に少なからず胸が痛い。



 任務のための結婚。同僚としての気遣い。護衛仲間としての信頼。

 全ての前提は『殿下の護衛』であること。


 そうでなければ『黒持ち』の私はミンスター卿と顔を合わせることも、話をすることもない間柄。雲上人の存在と、最底辺身分の『黒持ち』の私が同じ空間にいること自体がおかしいのだ。



(勘違いしてんな。私は、その辺の石ころ同然の存在。今までが可笑しかったんだ)



 ふぅー、と一つ。深呼吸。何か込み上げてくるものがあるけど、しらん振り。



「失礼いたしました。本日、これより所用で出ますので後のことは宜しくお願いいたします」


「!!」


「リズ! ……大丈夫?」



 退出する寸前、殿下が駆け寄ってきてくださった。

 うれしいと思う反面、これも本来の姿ではない。



「殿下。私のことはお気になさらないでください。あなたはこの国で最も高貴な血を引く一族の大切な方です。私のような誰の子かもわからない、下賤な身とは大違いなのです。私のことはお気遣いは不要にございますので、本日はゆっくりお休みくださいませ」



 そういうと、振り向きもせず退室した。

 まだ任務についてそんなにたっていないのに〝慣れ〟とは怖い。これが〝本当〟だと錯覚してしまう。ダメなのに、流されてしまう。


 忘れるな。私は『黒持ち』

 世間一般の幸せが手に入るなど、勘違いをするな。

 お前にその権利はない。

 お前(わたし)は『黒持ち』なんだから。



 *****




「フロイド。あの態度は何」


「……」


 一方その頃、殿下の自室にて男二人が睨み合っていた。

 睨む、と言ってもアデルハイト殿下の方は無表情。フロイドの方は眉間に皺を寄せ、何かに耐えるかのように目を瞑っているため正確には睨み合ってはいない。


 それでも二人は対峙する格好になり、当人同士も思うところはあるのでこの表現であっている。



「何で、リズに声をかけなかった? 聞こえていたよね。わざと聞こえないふりしたの」


「……」


「だんまり? リズ言ってたよ。『黙っているのは相手の時間を奪う行為だ』だって。ねぇ、フロイド。僕の時間を奪うつもりなの」


「っいえ、……そういうつもりは」


「ないなら一体何」



 普段リズといる時とは大違いだった。アデルハイト殿下は歳に対して幼い顔つきでとても愛らしい。言動もあまり行われていなかった教育のせいで同年代と比べると比にもならないほど幼稚であった。


 なのに、なんだ。これは。この威圧は……!


 今日まで見ることのなかった王族の威厳。それを垣間見た。まだまだ幼いものの、第一王子殿下と同種のものを感じた。やはり兄弟か。

 背に冷たいものが走っていく感覚に思わず身震いするフロイド。生涯仕えることを決めた第一王子殿下と血を分けるアデルハイト殿下に対し、第一王子以上の畏怖を感じた。



「申し訳、ございません……。私情を挟んでしまい、直視、できなくて……」



 情けないことだが、正直に答えると殿下はきょとんとした顔をした後、訝し気に顔を顰めた。



「なんで?」


「う、いえ、これは本人にちゃんと弁明いたします。殿下はお気になさらないでください」


「気になる。それに、もうリズが耳を傾けるかわからないよ」


「……ぇ、えっ!!?」



 リズが、リズが私の話に耳を傾けない!?何故だ!?それに、殿下が何故そう思うんだ?



「『黒持ち』である以上、本当ならフロイドはリズと一緒にいられない。そのための結婚。けど、それは期間限定。任務終了すればすぐに離縁。そんなことはわかりきってるから絆されるようなことが無いように言い聞かせてる。『黒持ち』に『人並』の幸せは送れないって」


「……なに、を。何をおっしゃるのです。わたしは!」


「フロイドがそうでも、リズはそうじゃない。僕は『黒持ち』だけど一応身分は王族。でもリズは『黒持ち』の平民。魔術師となった今は平民を名乗れるけど、最底辺の身分。身分違いは悲劇しか起きないしリズといることでフロイドが中傷される」


「……」


「それは嫌なんだって。努力家で真面目で直向きなフロイドが自分のせいで他人から誹謗中傷されることが。フロイドの未来に影を落とす事が。……日陰を歩く真似、してほしくないんだって」


「―――っ」



 結婚式で言ったことは本当だ。リズと結婚したところで自分の将来は揺るがない。勿論今もそのつもりだ。今後も誰にも何も言わせない。……だけど、確認はしていないが侯爵家と距離を置き始めた家は少なくないだろう。宮廷魔術師の中でも、私に対する評価は賛否ある。


『『黒持ち』と一緒になってまで王家に媚びを売りたいか』

()()()の方は意外といいのか!?』

『かわいそうなフロイド様。慰めてさしあげたいわ』


 魔術師棟に向かう際、こんな言葉が投げかけられた。私に言うぐらいだ。リズならもっと……

 そうして守れていなかったことがようやっとわかった。私はバカだ。愚かな男だ。リズのことを愛しいと思っていながら、結局私自身が原因で彼女を苦しめている。私のせいで……



「たぶん、さっきのでまた〝思いあがるな〟って言い聞かせたんじゃないかな。本来なら、ありえないんだって」


「……」


 何も言えない。そうだ。彼女はいつも自分の立場をわきまえていた。学院時代も誰よりも、私以上に優秀な彼女はわざと試験の手を抜いていた。それが一番波風が立たない事をわかっていたんだ。実地研修でも最前線に配置され、死と隣り合わせの毎日を過ごした。それが一番周囲の都合が良かったから。


 私も、そうだ。

 リズと結婚できたことに浮かれていたが、本当はこの気持ちを隠したまま生きて行こうと決めたのに。知られてしまったらリズがどれだけ危険な目に合うか。想像にかたくなかった。だから、封印しようと。見守るだけに留めようと。そう決めたはずなのに。


 ぎゅっと掌を握る。爪が食い込んでしまうほど握り締めた。己の不甲斐なさ、周囲への牽制、リズに対する言葉の少なさ。全てが足りずに今がある。もし、リズが本当に話を聞いてくれなくなったら……



「ぁ、でもそうなったら僕と結婚したらいいよね。お互い『黒持ち』だけど、父上に頼んだら何とかしてくれるかも……!」


「!!? ち、ちょっとお待ちください、殿下!?」


 いきなりなんだ!? 確かに不甲斐ない私のせいでリズの立場は弱いけど、だからと言って殿下と結婚!?いや、まて、そもそもまだ



「離縁などしていません!! いや、絶対にしません!! なので殿下の妻になるなどありえません!!リズは私の妻です!!!」


「ええ~? フロイドなら他にもたくさん えらびたいほーだい なんでしょ? なら、リズは僕がもらってもいいでしょ!」


「いいわけありません!! 第一何ですかその、選びたい放題とは!? リズ一択です!!」



 リズがいい。リズだけでいい。リズしかいない。私の最愛。私の唯一!それがリズ。誰にも渡さない……! 例え殿下でも!



「いざというときは国を捨てる覚悟。……もう、彼女しか目に入らないんです」


「僕もリズがいいのに。フロイドのばーか」


「どうとでも仰ってください。リズと共に居られるなら、何でも受け入れます」



 私はリズの夫だ。他者が認めずとも、世界中から否定されても。彼女は私の妻だ。

 それを引き裂くというのなら、こんな国に用はない。邪魔する者など焼き払うのみ。

 好意を隠すのもやめだ。私が愛するのは唯一リズのみ。私の愛が向くのはリズだけなのだ。他のメスに興味はない。



「リズは私が愛する唯一の女性。誰に何を言われようと、彼女が私を受け入れなかろうと私の愛を捧げるただ一人の女性です。例え殿下でも、彼女は私のものです」



 殿下と目線を合わせるために、膝をつく。そして目をあわせて宣言した。



「フロイド・グリーンフィールドはリズを一生涯愛し、この魂を捧げる。生まれ変わっても、身分が違っても、年の差があっても、種族が違っても。彼女を見つけ出し愛する事を誓います」



 侯爵家に伝わる歴代当主の中には死を同じくして再び来世でも結ばれようと、魂を繋ぐ術式の研究をした者がいた。研究は上手くいったのか、それとも失敗したのかはわからない。だが、その術式は今日までバーセル侯爵家に伝わる。

 今度家に戻った時にもっと詳しく調べておこう。この術式を発見したときは女性不信を発症していたから、ここまで当主が執着する意味が分からなかったのだ。だから、術があるという事実だけを記憶して詳しいことは調べなかった。



(あの時ちゃんと解読してさえいれば、今この場でその術を発動させてリズと私の魂を結び付けられるのに……!)



 激しい後悔がフロイドを襲う。

 そして、それを目の前で宣言されたアデルハイト殿下は。



「僕にせんげんする意味、ある? 本人に言うべきことじゃないの?」


「っ、ちゃんと、本人にもいいますっ、言いますよ!!」



 痛いところを突かれたフロイドは顔を赤く染め、声を荒げた。が、それは八つ当たりというもの。アデルハイト殿下がいうことは正しい。



「もういいよ。それより……」



 殿下の言葉に驚愕するフロイド。今日、見ていた映像に殿下に〝教えてくれた人〟というのがいてそれにリズは会いに行くと。そして、それが一体誰なのか。魔道具にて映し出された映像を殿下と確認してほしい。今日はそれとなくどんな人間なのかを確認するだけに留めるが、善は急げということで今日その人物と接触を図る。そして先ほど退勤したので早速動いた。ということだ。


 聞いていたフロイドは顔を青褪めさせたあと徐々に怒気を含み赤くなる。



「リズが、他の男に会いに行ったということですか……! 私のリズとその男が会うと? 私の知らないところで……? ちっ、そいつは絶対に殺すっ。生きて明日の朝を迎えられると思うなよ……!」


「……私情をはさみすぎだよ。リズはちょっと見に行くだけっていってたし」


「それでも! 『黒持ち』の彼女が宮中をうろつくのはそれだけで危険な行為です! 最悪、捕らえられたあげくに拷問されてもおかしくない。陛下の後見はあれども、どこまで効力があるのか」



 フロイドの心配をよそに、リズからの映像が届いた。

 そこには、遠目からだが目的の人物が映し出されていた。


 すかさず壁面に映る人物が誰なのか、記憶をたどる。いや、その必要はなかった。何故ならこの人物には最近会っていたのだから。



「……オールバンス様?」



 壁面には国王陛下の側近にして最も信頼されている男の姿があった。


ありがとうございました!

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