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魔術師リズ 結婚することになりました

憧れの連載物です。

行き当たりばったりですが、完結目指して頑張ります!

 

 国の決められた教育機関を卒業し、実地研修という名の強制労働を満3年勤め上げ西方地域の自分に縁も所縁もない村にやってきたのは半年前。子供の頃近所に住んでいた何を売っているのか、何を作っているのかわからない頑固な偏屈オヤジの道具屋を真似て雑貨屋を開いたのは5か月前になる。



 私の見た目は黒髪・黒目。この国及び周辺国の一般的な人間からは異質な色だ。


 そんな私が何の後ろ盾もなく、全く知らない土地で店を開けたのはこの土地は魔獣被害が深刻で毎年何人かは亡くなっていることに関係する。この外見の私でも『魔術師』である私は魔獣退治をすることで遠巻きにされながらもなんとか受け入れられたのだ。


『魔術師』の認定は国による魔力調査によって魔力持ちかどうか調べ、魔力有りとされた場合に国立魔術学院に強制入学させられる。認定は5歳の時に行われ、6歳から親元を離れ寮生活となる。卒業は16歳。卒業後は国に貢献するため3年間地方に飛ばされ魔獣退治や国境防衛などに携わる。そして満3年勤め上げてようやく一人前の『魔術師』と認められるのだ。(実地研修を行わなかった、途中でリタイアした者は『二級魔術師』と呼ばれ、区別される。『魔術師』と言えば『一級魔術師』を指す)


 この卒業までは難なくこなす人間は多い。だけども3年の強制労働期間は途中で音を上げ、去っていく者や運悪く命を落とし魔術師認定を受けられないままになる人間は多い。特に、貴族の女性の場合はそれが顕著だ。


 そもそもの話、魔力認定で魔力有りと判定されるのは大多数が貴族なのだ。むしろ貴族で反応なしの方がおかしいとさえ言える程に。彼らはあって当たり前を証明するためだけに学院に入学する。本気で魔術師になりたいわけじゃない。貴族社会の通過儀礼の一つに過ぎないからこそ、卒業後の実地研修には結婚や家業の引継ぎなど理由をつけて断る。


 そんな中、認定を受けてまで『魔術師』になるのは家系的に『魔術師』を多く輩出する貴族の一族か魔力はあれど騎士には不向きな貴族の次男・三男などの嫡男以外の貴族男性。平民の比較的経済状態の良くない者。断る理由がない者。そして、私のような『黒持ち』だ。


『黒持ち』と呼ばれる黒髪の人間は何故だか他の髪色の人間よりも魔力が圧倒的に多い。国境防衛や魔獣退治などにはとても重宝される。まぁ、それも現場での話で一度離れれば蔑みの対象なのだが。


『魔術師』になるには時間もかかるし危険なお仕事ばかりなのであまり多くないのが現状だ。私は『魔術師』になったが、一線を退いた。それでも『魔術師』の私は国からの徴集がかかれば馳せ参じなければならない。魔力が何らかの要因でなくならない限り、死ぬまで『魔術師』なのだ。


 そんなこんなでだらだら解説を誰に向かってしているのかは私自身謎である。これはもはや、この状況からの現実逃避でしかない。



「『魔術師』リズ。貴殿を本日付でアデルハイト・ウィリアム・ラファティ殿下の護衛魔術師に任命する」



 耳を疑いたくなる命令書を読み上げるのは宮廷魔術師団団長、ダニエル・グリーンフィールド。代々魔術師を輩出する名門一族でバーゼル侯爵位を持つ歴史ある貴族一族の当主だ。

 白くなり始めた赤茶色の髪を後ろに撫でつけ、粛々とした態度の師団長の横には彼の息子で私と同期の『魔術師』フロイド・グリーンフィールドが並び立っている。(彼は爵位を譲られてミンスター子爵になっていた)

 彼こそが私をこのありえない命令を出す羽目になった原因を作った張本人!


 心の中でぎりぃっと歯を食いしばり、ちょっとばかし睨みつける。これくらい許してくれてもいいはずだ。



「……拝命いたしました。『魔術師』リズ、これより任務に入ります」



 私は広い応接部屋の一段上がった席に座る人物に向かって恭しく頭を下げる。



「『魔術師』リズよ。我が息子の護衛、励むがいい」



 そう言って立ち上がるのはこの国トップ。国王、アーサー・ヴェルデ・ラファティ陛下だ。


 40代半ばの国王陛下は実年齢よりも若く見える。金髪と藍色の瞳は王家直系の証とされ、彼のお方もいうまでもない。


 国王陛下は跪き頭を垂れる私の方に歩み始めた。



(!? 何でこっち来た)



 迂闊に頭を上げる事も出来ないのでそのまま床を見続ける。赤いふわっふわなカーペットをゆっくりと踏みしめ近づいてくる国王陛下の足が、私の前方歩数にして約3歩という位置で止まった。



「面を上げよ、リズ」


「……はっ」



 顔を上げない訳にもいかず、恐る恐る視線を上げれば先ほどの形式ばった堅苦しい空気はなく、しげしげと見つめられていた。



「ほぅ! これは見事なまでな黒だな。全く他の色がない!」


「……」


「リズよ。堅苦しいのはやめだ。楽にせよ」


「仰せのままに……」



 出来るわけないわ! と、心の中でツッコミを入れるがこの方大丈夫か。安易に『黒持ち』に近づいて。



「陛下」


「むぅ、良いではないか師団長よ」


「なりません。お戻り下さい」


「全く、堅苦しいのぅ」



 魔術師団長、バーゼル侯爵により元の席に戻りこちらを見る国王は明らかに不貞腐れている。唇を突き出し、侯爵への文句が次々に出ているが、侯爵の「お静かに」の一声で口をつぐんだ。師団長強い。



「任命に当たるに重要な書類がある。この任命は重要機密事項も含まれる為、担当魔術師には誓約書を書いて貰う。魔術師リズ、魔術師フロイドの両名はこれより別室にて宣誓を行い、その後任務に当たれ!」


「「はっ」」



 師団長がいい終わると同時に重厚な扉が開けられ、入ってきたのは……メイドさん?



「宣誓は正装で行う! 控室にて着替えた後、大聖堂に移動!国王陛下も立ち会う為、粗相のないように! それでは取り掛かれ!」



 うぅんん~?

 大聖堂で宣誓? 重要機密事項があるなら内密に執り行うもんじゃないの? それに正装? 一応魔術師の正装姿で登城したのに? これ正装じゃなかったの?



「そ、そそれでは、こ、こちらに!」


「……」



 疑問も疑念も私の世話をしてくれるだろうメイドさんの狼狽えぶりに吹っ飛んでしまった。ガタガタ震え顔は青ざめ、呼吸は浅く涙が溢れている。同じ護衛任務に当たるミンスター卿の方をチラリと見れば師団長と会話をしていた。そしてその周りには勝ち誇った顔のメイドさん達が二人を取り囲んでいた。



(貧乏くじひかされたようだね)



 目を合わせまいと下を向き、手をぎゅっと握り締める恐らく私担当のメイドさんの数は3人。私からしたら下級貴族でも貴族は貴族。彼女達の世話になるのは気が引ける。



「着替えは自分で出来るので、貴女方もあちらを手伝って下さい。如何しても手が必要な時には呼びますから」


「! いえ、だいじょ」


「幼少の頃より着替えは自分でやって来ましたし、私の体は貴女方のような方には見るのも悍ましいでしょう。……それでもというなら」


「あ、あのっ! わ、私はあちらに向かいます!」

「わ、私も!」

「失礼します!」

「……」



 始めからそういっとけっつうの!

 着替えの最中に叫ばれ泣かれるこっちの身にもなれよなぁ、けっ!


 なんて悪態ついたのも正装として用意されていた衣装を見たら引っ込んだわ。何? これ。いや、分かるけど。


 任務に関係なくない? それとも入る部屋間違えた?正装?ある意味正装だろうけど。でもこれはどう見たって……



「うえでぃんぐどれす?」



 辿々しくなったが仕方ない。これはもう! 仕方ない!

 だってウエディングドレスだよ? 純白の!意味分かんない! これから護衛任務でしょ!? 何で!? 何でウエディングドレス!? はっ! まさか! ミンスター卿ってば相手間違えたんだ! 結婚間近に迫ってて大聖堂で宣誓するからって相手まで間違えないでよ~! もうっ! よりによって私なんかと間違ったなんて知れたら婚約破棄ものよ? 冗談でなく!



「師団長! 衣装間違ってます! あれは魔術師の正装ではありません!」



 恐らくミンスター卿の控室にいるだろうと思い、慌ただしくノックして返事も待たずにドアを開ければ。



「……問題ない。早急に着替えて大聖堂で宣誓を行う」


「ですが!」


「問題ないと言った筈だ。下がりなさい」


「……失礼いたしました」



 問題ない訳ない。主に わ・た・し・が!

 意味分かんないー! 何でさ? ウエディングドレス? そんなのこれから結婚式でも挙げるみたいじゃん。チラッと見えたミンスター卿も結婚式や式典でしか着ない魔術師団の制服だったし。隣に立ったりしたら私殺されるわ。目力だけで殺されるわ。


 だがしかし、公僕は辛いかな。上司命令な上任務内容が王族の護衛だ。駄々をこねて時間を食い潰す訳にはいかないのだ。



「……腹、括りますか」



 そうして魔術を駆使してどうにか一人で着替え完了。

 鏡に映る自分の姿を見ればまぁ、化粧もしていないのだからこんなもんだわな。うん、馬子にも衣裳にすら成れない。いやいや、『黒持ち』の私がこんな綺麗なドレスを着ることができたんだ。本来なら許されない。笑いものになろうがいい思い出だと思えばいい。



「おい、準備はできたか」



 ノックも無しにドアが開かれた。準備はできていたからよかったものの、着替え中だったらどうするつもりなんだ。ノック位しなさいよ。



「……ミンスター卿。せめてノック位なさってください。着替え中であった場合、私の醜い体であなたの目を汚してしまいます」



 自慢じゃないがあちこちそこら中に消えない傷がついてますからね。きっとお貴族様には見るに堪えないものですよ。ふんっ!



「……」


「……ミンスター卿?」



 息がない。屍のようだ。

 なんて。目をかっ開いたまま微動だにしない。……病気か?



「ミンスター卿? 体の調子がお悪いのですか?」



 そう言ってミンスター卿の顔を覗き込むとおもいっっっきり体を逸らし転げるように部屋を出て行こうとする。



「……時間がない! さっさと行くぞ!!」


「はぁ」



 顔がめちゃくちゃ赤い。顔を寄せたくらいでそんな赤くなるもんかね?貴族ならやらしいほどダンスの時に密着するだろうに。はっ、そうか! 私に寄せられたことが原因か。


 当たり前だ。私は『黒持ち』なんだから。顔が真っ赤になるほど怒っていたという方がしっくりくる。



「悪いことしたなぁ……」



 ぽそっとつぶやき、足早にというより最早走って向かってしまったミンスター卿のあとを追うべく私もこのクソ重いウェディングドレスのスカート部分を持って走る。これも中々ない体験だな。身体強化の術を施す程でもないが重みのあるドレスを着てハイヒールで走るのは体力のいることだ。


 なんてくだらないことを考えながらミンスターを追えば、あっという間に追いつき何故か用意されていた馬車に押し込まれ、何故か学生時代の教師にエスコートされ、何故かミンスター卿に交代し、何故今司祭によって婚姻の誓いを立てているのだ?



「『魔術師』フロイド・グリーンフィールドは神の名のもとに『魔術師』リズを伴侶として認めますか?」


「はい。認めます」


「『魔術師』リズは神の名のもとに『魔術師』フロイド・グリーンフィールドを伴侶として認めますか?」


「……」


「……」


「……」


「『魔術師』リズ。認めるなら返事を」


「……」


「……」


「「「……」」」



 認めるわけねえぇだろがぃ!!

 何!? もう何なの!!? えっ、意味わかんない!? 何を認めるって!!? 『伴侶』!!? んなもん私に一生涯関係ないもんだわ!!



「『魔術師』リズ。認めるなら返事を……」


「認めません」


「「「「「……」」」」」



 認めない。認めるじゃない。なんだこの茶番!



「ごほんっ、えー、それでは誓いのキスを」


「認めないのにやるわけねぇだろが。耳聞こえてんの? その耳飾り? 聖女様に診てもらいなよ。人の話聞けないで説法もできんだろ。今すぐ見てもらいなよ。神に祈る時間あるんだからあんた一人くらい診てもらえるでしょ。できない? そんなわけないよね? 戦場に出てるわけでも、慰問に行ってるわけでもないよね。ねぇ何してんの。聖女様も司祭様も忙しいっていったい何してんの。何がどう忙しいの、ねぇねぇねぇ!!」


「『魔術師』リズ。落ち着きなさい」


「落ち着いてる。落ち着いてるよ。司祭様。でもね、認めないって言ったよ。なのになんで話聞いてくれないの。何進めようとしてんの。大体私は『黒持ち』だよ。結婚なんか認められていないでしょ。どういうことよ。何してんのよ。何やってんのよ?」



 じっと司祭様の目を見て不満をぶつけると『黒持ち』の私の目に怯えたのかびくつく司祭様。冷や汗を流しているがそんなの私にはどうでもいい。いい思い出だ、なんて言ってた数十分前の私を殴り飛ばしてやりたい……!



「……リズ」



 睨みを利かせ司祭様を威嚇する私に、真横から声が。



「……仕事だ。割り切れ。さっさと済ませるぞ」


「……ミンスター卿。仕事とはいえあなたの出世にも関わる事です。……任務とて、あなたの一生を棒に振ることはないでしょう」



 ミンスター卿はすごい。仕事と割り切って『黒持ち』を伴侶にすると決めるなんて。こんなこと、貴族の彼には致命的な汚点でしかないのに。



「問題ない。お前を伴侶に迎えたところで私の将来は揺るがない」


「……あなただけではない。ご家族や一族はもちろん、本来の伴侶となるべき女性側にも影響があるでしょう。その方と子供ができた場合、子供の方にだって……」



『黒持ち』は法律上結婚は認められない。

 人ではない者と結婚することは叶わないのだ。穢れの温床。闇の使者。『黒持ち』は人ではない。だから結婚することは叶わない。人外の血を人の血と混ぜる訳にはいかないのだ。

 家族であっても『黒持ち』であれば簡単に捨てられる。



「リズ」


「!」



 ミンスター卿が普段よりも更に真剣な顔付きと眼差しで荒んだ私を見つめる。それは心の中を見透かすような、不思議な力があった。睨まれた訳ではないが、その瞳から視線を外す事なんて出来ない。ただ見つめ返すだけだ。



「私を信じろ」


「……はい」



 有無を言わさない力強さと本当に信じていいような錯覚に陥り、返事をしてしまった。



「それでは両名、誓いの口付けを」



 するの!?


 ヴェールを上げるミンスター卿には何のためらいも無い。頭一つ分背の高いミンスター卿を見上げるが、やはり何とも思っていないようだ。


 つまり、私の自意識過剰。


 そうだね。そうだよ。そうだった!

 結婚式なんか私には有り得ないのだ。これは恐らく王子殿下護衛に必要な段取り。いくら『魔術師』でも王族の護衛に当たるに私の身分は低すぎる。


 王城は王族や貴族で溢れかえっているんだから何かあった場合、私は逆らえない。だが、侯爵位を持つグリーンフィールド家の嫡男と婚姻を結べば話は変わってくる。


『黒持ち』の婚姻は認められていないが、先ほど師団長は国王陛下もいらっしゃると言っていた。なら、今回のこれは国王陛下による勅命。


 異議があろうとも否定は出来ない。それは陛下の判断を否定する事になる。


 つくづくミンスター卿には申し訳ない。いや、彼の家族と一族にも、ミンスター卿を慕っている方々にもだ。


 ゆっくりと確実に迫るミンスター卿の整った顔には緊張が窺える。こんな近くに私がいて、勇敢な事に口付けしようというのだから。



(可哀想なミンスター卿)



 ならばせめて、迷惑がかからないように空気になろう。恐らく任務終了となれば自ずと離縁になるだろうから其れまでは手を煩わせないように務めよう。


 そう決意し、瞼を閉じれば唇の横に柔らかい感触が。

 角度や距離を考えれば口付けをした様に見えるだろう。……わざわざ唇にする必要なんて何処にもない。



「これにより『魔術師』フロイド・グリーンフィールドと『魔術師』リズを夫婦と認める」



 司祭様の落ち着いた声がしっかりと大聖堂に響いた。

 参列者の中には息を呑む音やすすり泣きの音がそこら中から聞こえてくる。当然だ。将来有望で高位貴族な上、容姿端麗な独身者が『黒持ち』と結婚したのだから。



(私が一番信じられんもの)



 司祭様からの祝福を受けると、国王陛下からの祝辞。

 これが一番の狙いなのだろう。陛下が認めた夫婦なら迂闊に手は出せなくなる。



「二人の新しい門出を祝う。おめでとう。其方らの後見は余、自ら行う! 何かあれば頼るといい」


「はっ! 勿体なきお言葉、感謝致します!」


「今後は夫婦共々我が息子の護衛だそうだな。新婚というのに悪いがよろしく頼む」


「誠心誠意、夫婦共に命を賭けて御守りいたします」



 うむ。と頷き、国王陛下は去って行った。大聖堂は陛下の発言にザワザワし始める。これからは貴族達の腹の探り合いの時間だ。


 私とミンスター卿は再び王族の控室に戻り着替えた後、護衛任務に入る。寧ろこっちがメインなのに段取りで疲れた。はぁ、帰りたい……。帰る家ないけど。


 魔術師の本当の制服に着替えたらミンスター卿と師団長がやって来た。タイミングバッチリ!



「さぁ、これからが本番だ」



 師団長の声は堅い。緊張しているようだ。隣に座るミンスター卿も顔付きが硬い。いや、それはいつもか。


 そうして私は今日から『リズ・グリーンフィールド』となり、護衛対象である第5王子、アデルハイト殿下との初対面を迎えるのだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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