八話目 無理が大手を振ってまかり通る
D級ダンジョンは一辺30メートル、出入り口は横10メートル、高さ5メートル。色変わりの床も5×10。
三高の鳥ダンジョンの入り口から見えている風景は、5メートル幅の赤土の道を挟んで、左右が森。
左はちょっと高い鳥の森。右は結構高い鳥の森。靄で見えない正面は高い鳥の森。命名権は最初に入った人間にある。
百瀬先生は前に五、六歩行ってから振り向いた。
「じゃあ、高い鳥の森に行くわよ」
「何をするつもりですか」
「奥の方が、ちょっと強くても数が少ないから安全」
「ちょっとじゃないでしょ」
最初からその積もりだったわけで、何言っても変更されるはずがなく、乾いた赤土色の道をまっすぐに行く。
膝丈の草原に入ると、いきなり同い鳥が出て来る。先生がカゲロウ切の穂先を敵に向けて、指示する。
「全員斉射後に右に退避」
鳥の頭が一斉に撃たれる。その間に僕は右に走って、足を斬る。先生の闘気弾が頭に当たって、人間と同じ高さに頭がある低い鳥よりちょっとでかい鳥が横倒しになった。
先生が本気なら一撃で終了のはずだけど。
「早瀬君、反対も!」
「はい!」
返事と同時にじたばたしていた右足も斬る。
「中島!」
「おう」
あらかじめ決めていた順番で、中島が突進してきた。走りながらの刺突を乗せた突きで強撃以上の威力を出せるランスチャージ。鳥胸肉に突き刺さって、血を吐いた。
「血が出た!」
「おっしゃああ!」
中島以上の大声を先生が出した。
斬って血が出りゃドロップの証拠。一部が物質化しているからなのか、単に合図に過ぎないのかはまだ判っていない。
「肉、肉、肉、肉」
「革、革、革、革」
革が出たら僕が貰う。肉だったら売って山分け。
「肉でした。グラム千円」
先生がなぜか勝ち誇る。
「1キロ100万ですか」
「中島、授業聞いてなかったのか」
先生が怒る。
授業とかじゃなくて、常識的に100グラム単位である。そう言う授業してないでしょ。
無駄に幸先が良かったが、残りの九人に順番に止めを刺させても、何も出なかった。当たり前。
少し進んで、同じ手順でちょっと高い鳥を先生と僕で仕留める。反対の足の代わりに首斬れば終了。
五匹斬ったら斬撃が生えた。元々猫は引っ掻くので、生え易い。
「斬撃生えたら、結構高い鳥も行けるよね」
「先生、ギャンブルやると破産しますよ」
「判ってるから、やらない」
「じゃあ帰りましょう」
流石にな。これ以上は許さん。
肉の山分けを抜いても、ファミレスランチには十分だったのでみんなで食べて帰ったら、学食で月見ソバ食った安宮が待っていた。斬撃が生えたのを報告する。
最早怒る気力も無くした安宮を連れて、ボス役の同い鳥がいる同い鳥の森正面に入る。
珍しい母衣武者鶏が出て来た。アヴァターラモンスターじゃないレアモンはイレギュラーと呼ばれている。尾羽が立派なだけ。少し強いはずなんだけど、差が判らなかった。
止めを刺させたら、安宮も刺突が生えた。
「よし、これで俺も高い鳥の森行けるな」
「なんでだよ」
「斬撃も生えないとだめなのか?」
そこまで頭が悪かったか。
12月2日に安宮が卒業程度試験に通った。恐怖のくじ引きで、中島が当たった。
馬鹿で主戦力。名前が違うだけなので、入れ替えても違和感が無い。
一日入りっぱなしで、中で昼食を摂りながらどんどん経験値を稼ぐ。先生はこの時期は、三年のトップを鍛えるのが仕事。
十日で正面ボスゾーンに到達。鳥革で競泳水着程度のアーマーが出来た。エレナの分も確保。
高い鳥は凶暴なオウム。足は長い。なんかキモイ。
「ここコヨーテ出るのよ」
みんな知ってることをわざわざ先生が言う。
「それ言うと物欲レーダーがイレギュラー出してきますよ」
お掃除が終わったら、尾ある鳥が出て来た。結構高い鳥に太い鞭の尻尾が生えていて、先はブラックジャック様の鈍器になっている。
「あっちゃあ」
「先生、行きますよ」
「あいよ」
気配を消して右に走る。先生は左に。
「喰らえ!」
先生のフェイントに引っ掛かって横を向いた首を斬り上げる。頭に闘気弾が当たって倒れた後ろ首を、斬撃のスキルを乗せて斬り下す。もう一発先生の闘気弾が頭に当たって止めになった。
「ねえ、高い鳥やっちゃおうよ」
「勢いでやるのはよくないです」
先生の側頭部にヘッドオーブを当てる。骨伝導でこっちの話は伝わる。
(僕の4時方向。見られている気がします)
「やちゃっていいの?」
(コヨーテだとちょっと大きいので)
「ありがとう。全員集合。休憩の後ボス戦よ」
全員を邪魔にならない所に移動させた。先生が高い鳥を睨んで溜めを作る。
「そこにいる奴! 出て来い!」
振り向きざまに先生が叫ぶと、木の影から細身だがシンリンオオカミより大きいものが跳び出した。
空中にいる間に鼻面を撃たれ、着地に失敗してよろける。
僕は気配を消して後ろに回ってから出す。消した気配を戻しただけなので、攻撃にはならない。
ちょっと後ろを気にして、潰れた鼻面を向けた痩せオオカミの右目に闘気弾が当たる。振り向く暇を与えず跳び込んだカゲロウ切の穂先が潰れた右目に刺さり、押し込まれる。
脳と穂先で押し合いをして勝てる訳がなく、巨大なコヨーテは倒れて崩れた。
半透明の緑色の珠が現われる。
「やったああああ!」
アヴァターラジュエルを握り締めた手を突き上げた先生に、みんなが走り寄ろうとしたので制する。
「触らない、触らない。先生、アヴァターラ造って」
「うん」
みんなが息を呑んで見守っていると、突然叫ぶ。
「ちぇんじ!」
そこには先生の姿はなく、細面のオオカミが、モデル立ちしている。
「どう」
「どうって聞かれても、どう答えればいいのか」
「すごいとか、美人とか、かっこいいとか、色々あるでしょうが」
「アヴァターラそれ全部標準装備ですから」
「そう。じゃ、あいつぶっ殺して帰ろう」
擬似生物とはいえ、八つ当たりで殺された高い鳥は哀れである。