五話目 最強猫ちゃんへの第一歩
忍び猫のアヴァターラは最弱である。しかし、ここには落とし穴と言うか罠と言うかなのもがあった。
アヴァターラを取得した者は、なんとか強化出来ないか、色々試した。
先ず、同じモンスターのアヴァターラジュエルを融合する。これは成功して、能力が全体に上がった。
のちにボアアップと呼ばれることになった。
もう一つアヴァターラを得られないか、別のジュエルを融合しようとしたが、これはだめだった。神様しかも最高神だから十一も持っている。人間如きは一人一個でもありがたいと思え。
しかし、努力はまったく無駄ではなかった。今入っているジュエルより格上のものは融合ではないがアヴァターラに入る。マルチコアと呼ばれるようになった。
マルチコアはアヴァターラの能力が上がり霊気量が増える上に、スキルのリキャストタイムが短縮される。
最初が小さいほど別のジュエルを多く入れられるのだ。しかも、スキルも得られる。普通は見た目は変わらないが、飛行力がないアヴァターラが飛行力を得ると羽根が生える。
体が変形する狼男なんかと違って、まったく別の生き物に変身するシェイプシフターは、こんな風に体が二つあったんじゃないのってことで、アヴァターラ持ちはシェイプシフターと呼ばれている。
アヴァターラになるのはシフトチェンジ。体を入れ替えてるだけだから、変身ではなく転身と言う人もいる。職業が変わるわけじゃないけど。
「せんぱああい! ごいっしょさせてくださいよおおお!」
安宮に縋り付かれている。こいつに話さない選択肢はないのだが、話すんじゃなかった。
「早瀬君、どうしても1月まで待たなきゃいけないの?」
エレナにも迫られている。八分の一白人、八分の一フィリピン人、四分の三日本人の奇跡のブレンドが生み出した中学生離れした肉体である。足も長いので、日本人離れもしている。
少し前まで、女の子に興味を持つ余裕が無かった時はあまり意識しなかったが、普通に生きようと思ってからは、やけに気になる。
女の子の方からダンジョンに一緒に行ってくれと言うのはその後の性欲処理をします、ということになる。一切のごまかしは効かない。双方が承知で強制などが無ければ、性交同意年齢などと言うものは、なぜかレッドカードと共に消えた。強姦は当然赤斑になる。
高志くんは、据え膳食わぬは男の恥の日本の美しい伝統を守る、ニッポン男児である。
彼女のチームの二人も来ている。ダンジョンマイナー部で顔は見ている。東と小田だっけ。どっちがどっちだったか。
こっちはどうでもいい。ま、頂きますれば頂きます。この二人は本気でレズだと言う噂がある。
「やってあげてよ、ね、早瀬君」
ダンジョンマイナー部の顧問、百瀬由布子先生にもお願いされている。
先生は教師ではなく、元軍人のダンジョンマイナー養成用の特殊教官で、ダンジョン出現前に十五歳以上だった者の成長率に限界があるように感じて、後進の育成に回った人だ。
「忍び猫のアヴァターラは倒した本人と変わらない程度の強さだと言われてますから、シェイプシフターになったって、いい気になって突っ走ったら、死にますよね。誰かと一緒が安全だと思います」
「偉い! 早瀬君えらい!」
ほかの男子は呼び捨てなんだけど、僕だけ君まで名前。ちょっと小柄で歳より若く見えるんだけど、中学生が歳より若く見えるって、小学生にしか見えないってことじゃん。
みんな喜んでいるが、先生が一番嬉しそうだ。言う事を聞くシェイプシフターがいれば、後輩をパワーレベリングさせ放題。
「でも、すぐには行けませんよ。鎧作らないと」
「なんで」
「なんでじゃないでしょ。裸なんですよ」
アヴァターラはモンスタードロップの革は皮膚と見なされるのか直接張り付くのだが、地球産の物質はオーラバリアが弾く。
手の平から武器には霊気が流せる。その武器も自分の体に触れられない。体に触れる可能性が高い盾も持てない。
服を着ても動くだけで破れる。わざと普通の服で低難易度のダンジョンに入って、ドローンで撮った映像を配信しているシェイプシフターが何人かいる。
有名なのが高機動猫ちゃんとアルティメットウサちゃん。道後の女狐ヴィクセン姐さんは最初から全裸で、アヴァターラが素手で何が出来るか見せているので、この部類には入らない。
「いいじゃない、女の子ばっかりなんだから」
「先生がそう言うなら。安宮、短い付き合いだったが、楽しかった。達者で暮らせ」
「ちょ、ちょっとおおおおお!」
結局、学校が最低限の鎧を作れる革をくれることになった。
ビキニアーマーってそう言うものだったんだな。