三話目 ヒロイン登場
「せんぱーい、ご一緒させて下さいよう」
富士森ダンジョンに通うこと早くも一週間、今日もダンジョンに行く前に安宮に泣き付かれる。高専入試が200番に届かなかったこいつは、ソロでは入れない。
しかも、100メートルが11秒台。機敏のスキルを得た9秒台の僕には足手纏いでしかない。中学生ですらこんななので、競技としてのスポーツはプロアマ共に消滅した。
個人差があり過ぎて見てもやってもつまらない。格闘技なんて対戦のたびに死人が出かねない。
「なんと言われても1月までは無理だな」
勿論、安宮も判ってじゃれているだけなんだが。
「安宮君、いいかげんにしなさいよ」
約一名、切れた女子がいた。久井恵麗奈、エレナ・プレンダ・ヒサイ・ピンカートン。お母さんが日本人とフィリピン人のハーフで四分の三日本人なんだけど、お婆ちゃんが国籍はフィリピンで、父親がスコットランド系アメリカ人の海軍将校だったので、八分の一白人、八分の一フィリピン人。普通のクオーターとはちょっと違う。
僕と同じ、テロ被害遺児。浅黒い肌と鼻筋の通った顔、大きな瞳のエキゾチックな美少女だが、なんとなく思い詰めた感じがある。
高専の入試は153番。実力は僕より上。150番までが補欠なので、諦めきれないようだ。
「早瀬君は今は自分を高めなきゃいけないのよ、あなたが付いていったら、邪魔なだけじゃない」
どうしようこれ。
「久井さん、心配してくれてありがとう。でも、これ、ふざけてるだけだから」
さっとエレナの顔付きが変わる。人の顔が判るように変わるって、見たことが無い。
「え? わたし、余計なこと言った?」
「いや、毎日こいつがしつこくしたのが悪い」
「ごめんなさい」
うわあ、暗い。
「良かったら、1月以降に一緒にいかないか」
「いいの? わたしたちも、前衛と主戦力は欲しかったの」
にこっと笑う。立ち直りが早い。狙撃手のエレナは、別のクラスの射手の女の子二人と、少し強いモンスターが単体で出て来るE級ダンジョンに行っている。
六人入れるので三人分残っているが、誰でも良い訳じゃない。
「主戦力って俺のことだよね、ね」
安宮が縋り付いて来る。
「しつこくすんなって」
世間の柵を逃れて、今日も富士森ダンジョンのちょっと強い方の、野良鳥の疎林に向かう。
富士森の向かって右の野良鳥の疎林の主力はニワトリ系。ティラノサウルスの成れの果て説もあるので、大きくして凶暴にすれば立派にモンスターが勤まる。
入るとすぐに、七面鳥サイズの地鶏が飛び蹴りを仕掛けてくる。羽根があるので、ちょっと飛べる。
人間の跳び蹴りとはタイミングが違うが、パターンが単調なので、慣れれば苦労はしない。
一匹10円のニワトリを斬り倒しながら、どんどん進む。
少し大きいニワトリは20円、混ざり出した軍鶏は60円。目指すボスは他所では雑魚の低い鳥の、さらに劣化版。150円。
恐鳥類っぽい見た目で、前傾姿勢で人間より頭の位置が低いので低い鳥。
ボスエリアに入った途端に、長い目のニッパみたいな嘴を突き出して突進してくる。
目の辺りに一発撃って、躱して足を払って、もう一発撃って首に斬り付ける。
慣れたので、ボス戦も作業になった。止めを差すときに跳び上がったり跳び込んで仕留める。欲しいスキルが生え易いと言われている。
ボスの劣化低い鳥が結晶になって崩れると同時に、頭の中に文字が浮かんだ。
取得技能【跳躍】
帰ってエレナに、君がくれたような気がするといったら、すごく喜んでくれた。
安宮の見ている前で、トランポリンをやっているみたいにぴょんぴょん跳んで見せる。
「どんどんお前に引き離されて行く」
「まず、斬撃か刺突に絞って取得しろよ」
こいつの職業は戦士。取得技能は防御力耐久力の上がる頑丈と、攻撃力全体が上がる強撃。職能は威圧系の精神攻撃に耐性が付く勇気。
はっきり言っちゃうと、器用貧乏のオケラ野郎。
攻撃用のスキルが生えやすくて、生えたら全部に強撃が乗るので化ける。
友達だから見捨てる気は最初からないが、今だめだからって切ったら、後で後悔するのはよくある話。