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二話目 スキル取得

 ダンジョンの入り口を塞いだ管理事務所で、氏名学校名を言って学生証を提示する。

 受付はわりと若い士長の女性だった。


「お誕生日おめでとう。高専入試の200番以内はここのダンジョンならソロで入れますが、能力を取得したら、一度戻って報告して下さいね。今は採掘者の人は誰もいません」

「はい、ありがとうございます」


 安宮は言ってくれなかったな。お互いに言った事ないか。管理事務所の後ろにダンジョンの入り口と同じ大きさの扉が開いている。

 ダンジョンの中は何も照明が無いが、薄暗い程度の明るさがある。

 入って、中の警備の人に一礼して、右でも左でもいい。立っている石柱に触る。右にした。


 技能【機敏】【行動間射撃】 職業適性 【斥候 前衛】 [射手] 「狙撃手」


 頭の中に文字が浮かぶ。機敏は僕のような軽戦士型だと表示はされていないが敏捷を持っているはずで、走り回っていれば生えてくるんだけど、最初から持っていると跳躍系が生えて来易い。動きながら闘気弾を撃てる行動間射撃は当り。

 斥候なら職能で索敵、前衛は命中補正。生えて来辛いのは索敵か。


「職業選択、斥候」


 声を出す必要はないんだけどね。ふわっと体が広がって、体の回りに何かあるように感じる。その中に小さな石版、ステータスプレートが浮いている。


「こういう感じなのか、ストレージって」


 なんとなくぼうっとしていると、警備の人が近付いてきた。


「職業、取得出来ましたか」

「はい」

「では、一度戻って報告して下さい」

「はい、ありがとうございます」


 戻ったらまだ受付に士長さんがいたので報告した。


「これから一回入ります?」

「はい、野ネズミの原っぱに」

「そうね、安全第一」


 リュックを下ろし、バックラーとコサックサーベルを出して装備。リュックをストレージに仕舞う。


「行ってらっしゃい。気を付けてね」

「はい、ありがとうございます」


 ダンジョンに入る前に、後ろから「かわいい」とか聞こえた。


 20メートルの壁のそれぞれに縦横5メートルの別空間が開いている。扉とかは無くて、切り取られたみたいだ。

 全体の床は焦げ茶色の土を固めたような物だが、別空間の入り口の前2メートルは乾いた赤土色をしている。

 なんども実習で来ているけど、初めて入るような気分になっている。ソロは初めてなんだけど。

 真ん中の向こうは足首くらいの草丈の明るい原っぱ。両側は白い靄がゆっくり動いている。一旦入って入り口から出ると左、奥のボスの後ろの出口からなら右から出て来る。

 ダンジョンは全てインスタンスダンジョンで、規模ごとに一度に入れる人数が違う。F級は三人。

 赤土色の上にいると、一人が入ると残りもダンジョンの中に転送される。


 原っぱに足を下ろすと、入り口から数メートル離れた位置にいる。移動した感覚は無い。ここから後ろを向いて入り口から出ても、左側の出口から出て、翌日までこの富士森ダンジョンの特異空間には入れない。リセットは夜中の十二時。


 左の膝丈くらいの草の方に行くとネズミ主体の野ネズミの原っぱ、少し木が生えている右はニワトリ系の野良鳥の疎林、少し進んだ先の正面はイタチ類のイタチが原。

 左に跳ぶ。跳躍を生やすために出来るだけ跳んで移動する。

 でかいネズミを見つけて、闘気弾を撃ってみる。腹から何かが腕に伝わって、武器に抜けて行く感じ。

 射撃系のスキルがないと撃てないので、初めての射殺体験。

 モンスターは霊的なナノマシンみたいなもので出来ているらしく、普通は血もその他の体液も出さずに細かい結晶になって、透明の結晶、霊核を残して消えて行く。なので、生き物を殺す忌避感はない。

 アイテムが落ちる時だけ、なぜか血がでる。


 がしがしネズミを倒して進む。ちょっとでかいネズミなど、子安中三年の敵ではない。ビー玉くらいの霊核はめんどくさがらずに全部拾う。たまに霊核にスキルが入っていることがあるのだ。ネズミはないけど拾う癖を付ける。

 白い紙の上で普通のと比べるとちょっと色がついているが、落ちていると見分けが付きにくい。


 奥に行くとネズミが大きくなって、マーモットが混ざるようになる。初期の頃にお持ち帰りしようとして血塗れになる人が続出した。ネズミより爪が太くて長い。

 もうそろそろ終点だと思った頃に、突然どこまでも左右に広がる壁とそこに開いた真四角の出口、その前に伏せた人間サイズのネズミが見えた。

 ボスのラットキングだ。出口の前には半径10メートルの枯れ草の半円があり、これを踏まないとボスは動かない。枯れ草の外から撃ったら動く上に、射撃は無効化される。


 先に目に見える範囲のネズミとマーモットを掃討する。ネズミの王様は子分を召喚はしないけど、ラットキングコールで一定範囲のモンスターを呼ぶ。

 お掃除が終わったら、枯れ草に踏み込むと同時に射撃。鼻面に当たって、怒りの咆哮を浴びせてくるが、うるさいだけ。

 跳び掛かってバックラーで張り倒し、諸刃の切先で首を突く。それで終了。


 ダンジョンは異世界の訓練施設だと言われている。ここは新兵に度胸を付けさせるための場所のようで、モンスターは見た目ほどの実力が無い。

 でなければ、中学生一人にやらせない。

 ボスの霊核を拾ったら、疲れるまで反復横跳びとか、垂直跳びとかする。ちょっと信じられないんだけど今でも垂直跳びが1メートル近くある。跳躍が生えると倍になる。


 管理事務所に戻ったら、受付が男の人になっていた。階級はどうでもいい。

 霊核を買い取ってもらう。小さいネズミが5円、大きいのは10円、マーモット50円、王様100円。その程度のモンスターだってこと。

 金額も、中学生の短時間のバイトならこんなもんじゃないの。


 この核はラノベでよくある設定の通り、今のところ害のないエネルギーになる。通称透明な石炭。だからこれを取って来る者はダンジョン採掘者、ダンジョンマイナーと呼ばれている。

 マイナーは日本人には余り馴染みのない単語だけど、叔父さんはクレメンタインのおとっつぁんだよ、と言った。

 デュエルタマイナー、フォーティナイナー、アンヒズドータのクレメンタイン、だって。クレメンタイン、ロストしちゃったんだよね。

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