十話目 もうすぐ春が
この後のことを三人に相談した。E級が欲しければ付き合うと言ったのだが、やはり、今は一ヶ月の泊り掛けは無理の様だ。十五歳だものね。
「高専の二年か三年で言われたら、泣いて喜んじまうんだけどな」
「そうなると、僕らは軍の人に頼まれて入学までは二箇所はしごでD級獲る手伝いするんだけど、一緒に来る? 向こうは一人入れたらいいわけだから」
レズカップルはこくこく頷く。
安宮は見たことのない真面目な顔をする。
「だったらもう一人頼めるか。サリナが卒程受かったんだ」
「誰?」
「部の二年のサリナ」
「知らないから」
「三ツ木紗理奈。お前、女の子に興味示さないよな」
「今だから言えるが、一年くらい前までは本気で復讐者になる気でいたから」
「やっぱりな。会った時からそっち行きそうだと思ってた」
下級生の中には安宮を、危ない高志君を優しく見守る強くて頼りになる人、などととんでもない誤解をしているのがいたようだ。三ツ木紗理奈はその一人だった。
二年で卒程受かっても、特別頭が良いわけではない。中学卒業程度試験はダンジョン以前の知力基準なので、今では小学生で受かるのも珍しくない。三年の12月まで受からない方が珍しい。
社会的に最低限の知識と教養があれば良い、と言う事で無理に難しくしていない。
試験に受かれば、後は好みの選択授業を受けるだけで、全部実習訓練でもかまわない。
社会生活の練習なので、学校に来ないのはだめ。
二年生を軍の人と一緒にD級に連れて行けるか、百瀬先生に聞きに行った。生身の人間には霊力の吸収量に限界がある。RPGみたいに敵を倒せば倒しただけレベルが上がっていく訳ではない。
「3月までずっとなら週一ならいいかな。三年生も二日に一回くらいね。誰を行かせるかのローテと軍の調節はしとくから、やってくれれば有難いわ」
「週五日ですよ」
「お正月休んだでしょ」
「江戸時代の丁稚小僧ですか」
四人が来ない日は三年生の希望者を入れる。
軍の兵員輸送車で、D級ダンジョン二箇所を一日ではしごする。E級以上はどこに出るか判らないので、一箇所でボス戦を三回する。
もう一箇所はD級でも高尾駅北より少し強い、更に高い鳥が正面ボスの、八王子城跡跡。ボスエリア前に高い鳥が雑魚で出て来る。
軍の人からは冗談じゃなじに真祖君と呼ばれた。
二ヶ月以上やっていれば、アヴァターラと生身の両方に全身覆えるボディアーマー作るくらいに革が溜まるはず。予備のアーマーも出来そう。
結果として、週一でコヨーテ頭が誕生したので、僕のコードネームは真祖様に格上げされた。
高い鳥の革で予備のボディアーマーも出来た。ビキニアーマーとはなんだったのか。
装着した状態でストレージに収納すると、出すだけで装着される。余裕があれば複数作って、戦闘中に壊れたら瞬時に入れ替えるなんてことも出来る。
でも、一括で換装すると一旦全裸になる。美少女アニメなら日本の美しい伝統だけど、現実では男女共。
3月15日で終了して、入学式まで三週間あるので、土肥温泉近くのD級天狗山ダンジョンに行こうと思ったのだが、百瀬先生に止められた。
「普通の民間のマイナーになるなら、Dで飛行力獲ってもいいんだけど、行ける所まで行くなら、羊蹄山の三角山羊の方が強いの。飛行型はC級に三種類いるから」
「三角山羊ってミスターファーストのと同類で、出難いんですよね」
「その分強い感じ。空跳と射撃持ち、体力、防御力、霊力量が上がるのよ」
実質飛行力と言える空中跳躍、射撃力と各種強化。イヌワシ天狗は飛行力が一点豪華主義で、おまけは斬撃だけ。
十五歳でE級持ってるだけでも早いので、一人分出たら儲け、くらいの気持ちで、羊蹄山の麓の北海山羊の森ダンジョンに行く事にした。
獲るなら僕が先。存在感が上がって、スニークアシストがし易くなる。
アヴァターラ取得協力費が、中学生の財布には入りようも無い額になったので、温泉旅館は自費で泊まった。ちょっと良い部屋に泊まりたかったし。大き目の風呂付きの部屋って、色々良いよね。
北海山羊の森は、左が小山羊と羊の森、右は木登り山羊の森、正面は崖登り山羊の岩山。
左は原種の羊も出て来る。山羊とどう違うのか判らないけど、角の根元がちょっと違うらしい。
木登り山羊は当然木の上から跳び掛かって襲ってくる。山羊が木に登れるのを知らないと焦る。名前でばれてるわけだが、木に登れるのはレアモンだけだと思っていた人もいたらしい。
崖登り山羊は山道で上と下から挟み撃ち。見えてるので、撃ち落とせばいい。霊核拾うのが大変。
二人だけで温泉旅行のついでのつもりで採掘すると、通常の四割り増しくらいで革と肉が落ちた。肉の代金だけで旅費が出てしまった。
メインのアーマーが崖登り山羊製になった。
肉は食べたいとは思わない。デトックス効果とか、寿命が延びるとか言って、金持ちの年寄りが金払って実験動物になってくれている。善良な一般市民は十年くらいして安全が確定してからでいいんじゃなかろうか。
三角山羊は角が三本ある以外は、でかくて毛が長い普通の山羊だった。額の角は思ったより短い。三十センチ程度。これが高射砲的に可動する。
体がこっちを向いていなくとも撃って来るのが厄介なのだけど、判っていれば大丈夫。
攻撃の溜めを作らなければいいので、エレナに目立つ所に居てもらって、忍び足で接近、不意打ちでアキレス腱斬り、倒れたら斬首。
アヴァターラモンスターは基本ボス戦に乱入してこようと後ろに隠れているので、索敵があれば先手が取れる。
きっちり十日に一匹出て来て、二人ともD級になった。頭頂とヘッドジュエルの間に、耳より短い角が生えた。ぐりぐり動かせる。
ここの山羊の霊核にはたまに跳躍が入っているので、出て来たのは全部倒す。
正面のボス、一番大きなブルーセからは、二十戦して二本セットの角が四本、革が二枚出た。
D級の角は生産系が錬成すると鋼より良い武器になるので、僕のコサックサーベルとエレナのカゲロウ切を新調。
革は鎧にするには足りないので靴にした。
ミドルカットなら一枚から靴が二足出来るので、カントリーブーツとエンジニアブーツを一足づつ作った。
百瀬先生が、いいなあ、いいなあと五月蝿いので、イレギュラーの、革も黒いブラックシープの革を上げた。敏捷性が高くてトリッキィな動きをするので厄介だった。
「いいの? こっちの方が貴重性高いんだよ」
「二人とも黒靴好きじゃないんで」
「よかったあ。二人と好み違ってて」
四人へのお土産は跳躍入り霊核。サリナの分は5月の誕生日まで、安宮のストレージに。
そして、入試に落ちた時には考えられなかった、トリプルコアのD級シェイプシフターでの学園生活が始まるのであった。