序章・赤色と銀色
※
「おかえりイザヤ。どうだった?――――あたしの眷属君は」
とある街角で、その二人は落ち合っていた。一人は漆黒の外套を纏っている少女。少女の瞳は、金と赤紫の、オッドアイ。そしてもう一人は真っ赤な長衣を纏い、その顔には猫の面を被っていた。静かな夜風が、晒された銀髪を撫でる。
「どうもこうも―――相変わらずの甘ちゃんだよ、あいつ」
「あはは…そうみたいだね。でも、それもあの子らしさだから」
どこか愛おしそうに表情を緩める少女を、イザヤは不満気に眺めていた。今この瞬間、少女の瞳に映っているのが自分ではないことを知っていたから。
いつだってそうだ―――――いつも、その瞳に映るのは自分ではない。
それが、酷く悔しかった。
「なあ、アリス」
「んぅ?何かな?イザヤ」
人々が行きかう喧騒の中、そのざわつきに表情を歪めながらも、ふんわりとした笑みを自分に向けてくれるアリスにイザヤは安堵した。
思わず、頬が緩む。
「行くんだろ―――黒い鉤爪の、魔女夜会に」
その言葉に、一瞬だけアリスはきょとんとした表情を見せた。そしてすぐに、誤魔化すように笑う。
「そうなんだよ…少し、やらなきゃいけないことがあってね」
「…ぼくは本当に行かなくていいのか?」
「うん、大丈夫だよ。心配してくれるのは有難いんだけど、こればっかりはあたし一人で行かないと意味ないから」
それ以上言っても無駄だと思ったのか、一つ溜め息をついてイザヤは押し黙った。
アリスはそんなイザヤを見て、少しだけ可笑しそうに笑む。
「ほんとに大丈夫だって。あたしを誰だと思ってるの?魔女結社・黒い鉤爪の危険度SSランクの犯罪者だよ?」
「……得意気に言うなっつーの」
悪戯っぽい表情で胸を張るアリスに、イザヤは思わず笑みをこぼした。
「なあ、アリス」
髪と同じ銀色の瞳を細めて、イザヤは呟くようにその名を呼んだ。
そしていつかあいつにした質問を―――投げかける。
「どうして、人間は死ぬのかな」
「…」と、アリスは一瞬呆気にとられたような表情をした。そしてどこかいやらしく、「知りたい?」と聞き返す。
静かに頷くイザヤに、アリスはにっこりと笑った。
「ふふっ、教えてあーげないっ」
傷色幻想曲の第三弾です!