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アイを与えし聖女と番いの獣  作者: kettocer
第一章 一節 獣と行商人
9/10

青年 4

あけましておめでとうございます!


僕はちゃんと生きてますよ〜!

 この森にある唯一の大川、かつて彼が飲水や体の洗浄に利用していた場所に彼はいた。


 小さいものも含めれば他にも池や小川はあったのだが、そこへは行かなかった。


 そこはウサギや猪などの、彼で言うところの小さき生物の憩いの場であるからだ。

 そんなところにいって彼らを怯えさせるわけには行かないという彼なりの配慮である。



 以前けものときから行なっていたことなのだが、なんせこの川に来るまでにたまたま見かけた小動物達は、獣であった頃と同じ恐怖の表情を浮かべ逃げていったのだ。


 外見は違えども、本質は変わらない。

 動物達と同じく本能的に察したキマイラはいつも通り、この川にやってきたのだった。




 かつてこの流れる大川プルートパーキスンに写るのは鬣の立派な獅子の形相だった。


 しかし今ではその面影を何一つ残っておらず、代わりに筋肉質の雄々しい人間の雄の顔が写りこむ。

 瞬きすれば、水の向こうにいる我も同じように瞬きする。右手を動かせば向こうは左手がうごく。


「……本当に、人になったのだな」

 安易に期待してたわけではない。

 しかし……やはり受け入れたくはないのだろう。流れる水越しに自身の姿を見たキマイラの口から言葉がこぼれる。


 自身を触れる質感。


 風のが当る感覚。


 太陽から受ける暑さ。


 見える景色。



 光に包まれ、解けた時は驚いたものだ。

 先ほどまで見下ろしていた箱の残骸が、同じ目線上にある。

 逆に同じ視線にあったはずの森の木々は俺の方が大きいとばかりに主張しているようにも思えた。




 どれもこれも飽くほどの時間の中で一度たりとも経験のない新鮮なものだった。




 故にため息がこぼれる。




 現実は変わらない。とりあえず受け入れるしかないのだなとキマイラは自身に言い聞かせた。








 問題はそれだけではなかった。


 キマイラは先ほどから思考に割り込んでくる自身のではないナニカに四苦八苦していた。


 [ねーねー。ここなに? ここなに? なんかとびはねてるよ!!]

 流れてくる誰かの思考。それが一体どこから来てるのか。



 正直答えはでている。


 彼の腕の中で楽しそうに川を眺めている人間の赤子。キャッキャッと声をあげるたびに、その声は頭に入ってくる。



 キマイラが人の姿になった元凶であるソレをじっと見つめる。

 無邪気な顔をしているそれは視線をかんじたのかキョトンとした顔で彼を見つめた。


 [なにー? どうしたのー]

「いや、別に。何もないさ」

「?」

 不思議そうに見つめてくるコレのせいでこうなったんだと思えば、普通は湧いてくるだろう怒りなどの負の感情が不思議と湧いてこない。

 むしろ、愛おしく感じて仕方ない。

 無理に喰らおうものなら胸がとてつもなく痛み断念した。



 俺ではこいつを傷つけることはできない。そう、結論づけたキマイラは馬車の中から赤子を連れ出した。


 ここに置いていてはいけないと何故か思ったからである。


 獣だったころより飲みにくくはあるが、なんとか水分を取り馬車のあったところは戻る。


 途中、馬車付近で獣の気配があったが俺が近づいていることに気づいたのか一目散に逃げていった。


 戻ってみれば人だったモノが所々欠けている。

 "死体喰い"の連中が来ていたようだ。それなら少し悪いことをしたなと思いつつ、あのメスが食われていないか確認した。


 どこも食われていない。舐められた跡はあるが、生きてるモノに興味はないあいつらは味見だけして死体を貪っていたようだ。

 なんとなくだが、こいつが死んではいけない気がする。

 直感がそう伝えてくる。


 かくいう赤子からの思念も、このメスのことを呼んでいるようだ。


「当分は起きないと思うが、この場所に居続けるのは彼らにも悪いからな……どうしたものか」


 何か大きな気配が一つ、こちらに向かってきている。

 赤子を来襲してくるものを待っているとそこに現れたのはでっぶりとした二足歩行のケモノだった。


「ンブモォオオッ!」

 手に持った得物を使い木々を切り倒しながらのしのしとやってきたそいつは俺の姿を見るなり威嚇してきた。

 たしかこいつは、森の向こうにある平原地帯に住まうやつらの長だったはず。

その証拠として見た目に不釣り合いな煌びやかな被り物をしている。

 なんかニヤニヤしてるが、こんなところに1匹できて何がしたいのだろうか。


「ブモ、ブモオオオ」

 俺が怯まないのが気にくわないのか地団駄踏む二足歩行のケモノ。

 多少頭回るから、我が誰なのか気配でわかるはずなのだが?


「ブモ、ブモブモ!!」

 切っ先をこちらに向けて叫んでいるが、二足歩行のケモノの言葉は俺には分からぬ。



 頭をひねっていると、しびれを切らしたのか、ソイツはその見た目にそぐわぬ速度で襲ってきた。

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