その獣は困惑していた 3
お久しぶりです。
最新話、どうぞご覧くださいませ。
※第二話改訂してありますのでそちらからご覧ください。
オルニスの森。普段は小鳥が囀ずり、ときせつ開拓された道を馬車が通る和な場所。今その一部が災害と呼ばれるものに襲われていた。
一振り一線。はたまた四爪によるものか、切り裂かれ倒木と化す木々。
燃える森の惨状を嘆くものは、今この場にはいない……。
ヒュンッーー
自慢の爪が、またも簡単に避けられる。同時に相手から振るわれた光の長剣を風を纏った爪で弾き返した。
……何故だ。
左右の魔法壁を蹴りそのうちの一つの上に着地し、火の息吹を喰らわせてやろうと、息を吸い込んだ瞬間、奴がこちらに短剣を向け言い放った。
「魔法壁破壊っ」
取り付けてある白い魔石が輝き、その光は薄い波動となり、足場にしていたものを含む全ての展開した魔力の壁を無効化する。
またそれかっ。足場を失った我はそのまま何かに引かれるように地面へと落ちていく。それを見て好機と見たのか、こちらは向かい走る。
小賢しい!
落下する中、発動寸前だった火の息吹を無理やり体を縦に回転させながら放ってやった。
だが奴は横へ大きく飛び、木を足場にこちらは跳躍……ここだ!!
蛇の尾に魔力を込めて撃つは、溶解性の毒液。
その速度は馬程度の速度なら簡単に追いつき、当たれば銀色の甲殻を纏った人族のなど、中身もろとも溶かす高濃度のものだ。
これを使えば食えたものじゃなくなるが仕方ない。お目当てのエモノが残っているだけ良しとしよう。
エメラルドグリーンの溶弾はまっすぐ進む。役割を果たさんとするために。
勝った!! そう思った。
だが、われの考えは甘かったようだ。
奴は、翼ももたぬその身一つで動きを変えるという、人としてあり得ない動きをしたのだ。
空中を二度、三度となんども動きを変え、ついに――
「ぐるぅっ」
ぐっ、左肩をやられたか。
……かすかに聞こえた言葉。「空脚」
くくく。なるほど、我の動きを真似したということか。面白いっ。これは楽しくなって……。
我は、先ほどから、何をかんがえておるのだ?
「はぁ、はぁ……っ」
息継ぎをする間もない、絶え間なく続く猛攻の中。ようやく与えられた二撃目。
奴は先ほどから空中に生み出した魔力の壁を縦横無尽に蹴り、不規則な動きを見せてた。
その豊富な魔力にものをいわせ、自身の脚力にも耐えれる分厚い壁を造って行っていたそれをぶっつけ本番で模倣し創ってみた新規の魔法。それを使っての奇襲攻撃。
私には奴ほどの魔力量はないが操る技量に自信はある。
魔力の壁を足場にするのではなく、風の塊を逆に自身にぶつけるという荒技。
無茶も承知で行ったことだが、効果はあった。
蛇の口から出てきた液体を避けた瞬間、硬直した奴の隙を流すわけもなく、光の刃を纏ったアネラスですれ違いざま左肩を切り裂く。
そこまで深くはいかなかったが、充分だろう。
聞いたところによるとキマイラは、傷を負うとその場から退くことが多いらしい。
幾度となく体に剣を這わせたが、効果があったのは、アネラスに付与伸縮自在の光の魔法剣での顔へ一太刀。
そして、先程の二大刀だけだった。
まだ足りないかもしれない。だが、私は。姫騎士であるアネモネは、名のある剣豪や魔法士達のように、生半可な攻撃では傷一つ合わせることのできないあの幻獣に傷を負わせることができたのだ!
嬉しく無いはずがない。そして同時にこれで終わってくれと切に願う。諦めてこの場から去ってくれと。
「うぐぅっ………?」
風の衝撃を受けた部位が痛む中、ふと不思議なことに気づく。
キマイラが、その場から動く気配がないのだ。
逃げるでもなく。
襲ってくるわけでもなく。
ただその場に立っているだけ。
訝しげに思いヤツを見れば、こちらを見つめながら困惑したような顔をしていた。
さながら人間のように。
ゴブリンと呼ばれる弱い部類の魔物等、人に近い姿をもつ存在が表情を作るということは確認されている。
だが、目の前にいるキマイラは獣そのもの。
上位格であるから知識はあるかもしれないが、そういった存在が複雑な感情を顔にだすと言ったことを彼女は聞いたことがない。
目を細くしじっとこちらを見ていたヤツは、何かに気づいたかのように目を大きく開け辺りを見渡す。
忙しなく動くその首が、一つの場所に固定された。
その視線の先を追い、彼女もまた目を大きく開いた。
キマイラの見つめている先、それは半壊した馬車。
そこにあるのは、いるのは。
サニー――!!
ぺろりと、舌なめずりする声が耳に入る。
気づいたころにはもう遅い。キマイラは離れた先にある馬車へと駆けていく。
わずかな遅れ、それはとても致命的であった。
ただでさえ巨躯の獣が走るのだ。今更動いても、間に合わない。
絶望が、アネモネの体を走る。
だめだ、そんなのは。
世界がゆっくりと進む。
手をおもわず前へ差し出す。
だが、届くわけがない。
ふと、彼女の脳内にある映像が走る。
それは彼女も幼くふわりとした可憐なドレスを着ていた数年前の記憶。
王城の中で母上に連れられ入った場所。
自室より小さく衣装棚のない、シンプルなデザインの部屋。
その中央に、設置された自身より少し背丈の高く、母より低い柵。
その柵の中で何かが動いた気がした。
恐る恐る中を覗き見るとそこにはまるで人形のようなナニカがいた。
それは両の手足をバタバタと動かしながら、キャッキャッと母上が来たことがうれしいと笑うソレは、自身の妹なのだという。自分も昔はそうだったのだと聞かされ心底驚いたものだ。
そんな妹は、ふと自分を見てキョトンとした顔をする。
ボーっとこちらを見つめる妹――名前をサニーというらしい――は、あぅ。と一声だすと精一杯こちらに手を指し伸ばしてきた。
「あぅ。あぅっ」
ジタバタと手を動かすサニーに対し、アネモネも、柵をつかんでいた手をそっとその中にいれた。
ギュッと、中指が握られた。
それがうれしいのか、キャッキャッとまた笑う。
その姿がとてもかわいく。幼いながらも保護欲をそそられたアネモネは決意した。
必ず、妹は。サニーは。私が
私が、まもルんだ。
いノちに――
カエテモッ!!




