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アイを与えし聖女と番いの獣  作者: kettocer
序章 キマイラと覚醒
2/10

その獣は困惑していた2

後半部分の改訂が終了しました。(2021/2/21)

「え?」

 間抜けな声が彼の口から漏れる。


 ドサリと音を立てながら彼の上半身が、続いて下半身が倒れた。


「な、にが」

 吐血をしながら呟くアンフレット。はみ出ら臓器。流れる血が大地に広がるのと共に、徐々に目から生気が無くなり——彼は物言わぬ骸となった。


 突然の襲撃に加えその襲撃者本人が命をかられた。

 何が起こっている。何が、私たちを狙っているんだ。




 それは、積み上げた人生が織りなす勘による行動。咄嗟に屈んだ私の上を何かが通り過ぎた。

 見上げた先には、青い空。燦々と輝く太陽。それを囲むように生い茂る森の木々。


 そして、私では到底勝つことのできない……一体の幻獣種上位格。


 様々な動物の特徴を宿しており、討伐方法が確立していない、混合獣——キメラ。

 そしてその中でも原点と呼ばれる、キメラの王。

 白い剛毛に覆われた山羊の巨体。雄々しい鬣を持つ獅子の顔。その顔よりさらに上からこちらを覗くように見つめる蛇の姿。

 間違いない。こいつが


「……キマイ、ラ」

 異形そのものが私の目の前でいた。


 体が動かない。

 動かせない。




 動かしてはならない。そう本能が訴えている。

 偶然私はキマイラの攻撃を避けることができたが、次はどうなるか。

 騎士のなかでも随一の速さをもつ風の適正を持つアンフレットが捉えられないほどのそれを、果たして避けることができるのか

 ……いや、無理だ。私の実力ではこいつには勝てない。


 怖い。あの獅子の牙は容易く魔力壁をも噛み砕くだろう。



 怖い。あの山羊の脚で蹴り飛ばされれば、肉塊に変えられるだろう。



 怖い。あの蛇の頭に呑み込まれれば、全身を焼き溶かされるだろう。



 怖い。怖い。恐い。


 頭がクラクラする。体から汗が止まらない。震えが激しくなる。


 やられる。何もできずに。なにも——


「うぅ……うぁうあ」

 恐怖がで埋め尽くされようとしたその時。私の腕から聞こえた泣き声に、ハッとする。

 真珠のような白い髪。優しげな緑の瞳をもつ赤ん坊。



 私が託された。最後の希望。


 それをこんなとこで失うわけにはいかない。

 何を躊躇っている、それでも国を守る王かっ。


「私は、情けないですね……」

 つぶやいた私の言葉に反応したのか、ぽかんとする姫さまのその顔にクスリと笑ってしまった。

 そうだ。この子のために。私は……負けない、負けてはならない!


「しばらく、ここにいてください、妹よ」

 馬車に備え付けられていた椅子にそっと置くと共に、振り返りざま、身体を強化する魔法をかける。


身体強化フィジカル・アップ

 一つ。全身の強化を。


軽重化ウェイト・ダウン

 二つ。ただでさえ軽いその体を更に軽く。


命中範囲拡大エクスペンテッド・レンジ

 三つ。アネラスを抜剣すると共にその剣身を光の刃が包む。

「私は、情けないですね……」

 つぶやいた私の言葉に反応したのか、ぽかんとする姫さまのその顔にクスリと笑ってしまった。

 そうだ。この子のために。私は……負けない、負けてはならない!


「しばらく、ここにいてください、妹よ」

脚力強化ピンポイントアップ・レッグ

 四つ。素早く立ち舞えるように。


気配把握グラスプ・センス

 五つ。己ができる限界強化を行った。



 差し違えてもいい。


「私が、相手だっ」

 アネラスをキマイラに向けて、アネモネは叫び、走り出した。










 その獣――キマイラは何もせぬままじっと待っていた。

 己が爪を避けた人間、自身の持つ最速の一撃を交わしたものは、大抵強い。

 なぜそう思うか。この身につけられた幾つものを傷がその証明だからだ。

 そう言った人間はいくらを爪を使っても掻い潜り、攻撃してくる。


 そのいずれもの攻撃は重く、痕が残るものが大抵であった。


 だからこそ、警戒しなければならない。油断してはいけない相手だ。



「――――」

 呟きが耳に入った時。奴の体から何か揺らめきのようなものが見える。


「———(ウン)

 また呟く。しかし何が変わったのかはわからぬ。


「————囲拡大(ッド・レンジ)

 己が爪となる鉄の刃を抜き出した瞬間、彼の者がもつそれは薄い何かに覆われたのが分かった。


 そっと、抱き抱えていた我のご馳走を木の箱の中に置いたかと思うと、また呟く

「——力強化(イントアップ・レッグ)

 食う部位の少なそうな足を更なる気配が包む。


「—配把握(ラスプ・センス)

 っ! 彼奴の周りにあったナニカが薄く、拡がりおった。

 攻撃かと思い体が強張るが、その力がこちらに向かってくる様子はなかった。


 見掛け倒しではないだろう。ならこちらも相応のモノを出さなければ。


 四肢に風の魔力を纏い、尾の蛇がシュルシュルと舌を出せば、周囲に見えない壁が幾つも出来上がる。

 口内には刃を弾けるよう魔力で強化する。


 さぁ、こちらは準備は整ったぞ。いつでもかかってこい。



「——が、相手だっ」


 いくぞっ。その声が耳に届くや否や走り出す。

 その足は軽やかで一息に大きく飛ぶ虫もかくやのように、グングンと我へと迫っていく。


 そんな奴に応えるように我も一歩。大きく跳ぶ。

 一瞬にして間合いが縮まった。そのことに大きく目を見開く人族へ、渾身の一撃を見舞う。


 前足から、さらにその先の爪へと風を移し、降り下ろす。その軌跡は大きくなり、あわや切り裂かんとしていた。


 ズンッ——


 振り抜いただけではならない地響きを起こし。小さな穴を作る。

 その手には感触はなく、奴の姿はどこにもなかった。


 右から地を蹴る音がした。


 そこかっ。


 叩きつけた前足をそのまま軸にして回転。


 奴がまた、こちらへ迫ってくる。



 その姿を見据えながら、次はどうでるのかと考え。


 ……?



 ふと、違和感を感じた。だが、目の前に敵がいるのに集中しないわけにはいかない。

 思考・・するのをやめ、本能に任せるがまま、上へと跳んだ。


 何もないところに跳んだように見えるが、そこには確かにあるのだ。

 先程顕現させし壁が。


 それらを右へ蹴り。左へ蹴り。上、下と蹴っていき加速していく。


 そして、最後の壁を大きく蹴り上げ、弾丸の如く人族(アネモネ)の元へ文字通り飛んでいった。


 その姿は視認できず残像ばかりが人の目に映っていることだろう。


 この噛みつきは、絶対にかわせない!

 大きく口を開けながら、勝ちを確信したキマイラ。




 悪寒が走る。

 頭の先から毛の無い尾の蛇まで、神経が逆立つのが分かった。


 まずい。急停止するため目の前に壁を構築し、そこに乗った。


 かなりの速度を持っていたため足から全身への衝撃が凄まじい。

 その痛みを堪えて、人族を見る。

 なんと、奴はこちらが来るのを分かってたかのように構えていたのだ。


 危なかったと、息をのむキマイラだった。


 更に違和感を感じた。


 先程から、我は何を?


 考えた瞬間だった。



 一瞬、奴の手元が光を発した。それと共に、足場としていたはずの壁も消えたのだ。


 ぐるぁっ(なんだとっ)!?


 戸惑いを隠しきれないキマイラ。


 そんな我に追い討ちをかけんと、人族は驚くべきことをした。


 振り抜いたのだ、己のの武器(エモノ)を。

 距離が空いてるにも関わらずに。

 それが届くわけがない。それは過去何度も人と会い見えたことのあるキマイラにもわかることであった。

 だが。



 一線———何かが通り過ぎ、顔に熱さが来る。


 当たらないはずのそれは、確かにキマイラの顔へ斜めの傷として、届いたのだった。

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