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始まりの予兆 その6‐隠し事‐

「もう言い逃れはできねぇぞ。で? 隠してる事って何だよ」


 フェンリルはニヤつき、浮かれた声をしていた。これまでの国のことを案じて深刻そうにしていたのが嘘のように思える態度。

 あまりの変わりように、何か良からぬことでも考えていないだろうかと思ったリーシャは怪しむような視線を向けた。


「……なんで嬉しそうなわけ?」

「そりゃあ決まってんだろ。どんなとんでもない隠し事が出てくるのか楽しみだからだよ」

「もし隠し事が、また国の危機になるような事だったらどうするのよ」

「そん時はそん時だ。また考えればいい。だからリーシャ、さっさと白状しちまえよ」


 なにがなんでも聞き出そうというのが見て取れるほどフェンリルは上機嫌だ。

 本当に悪い知らせだったらどうするんだど思い、リーシャは溜め息をついた。


「もう……いい加減だなぁ」


 そして口を閉じ、何を話そうか考えた。

 隠し事に分類されることと言えば、まずカルディスの指輪の事だろう。

 かなり貴重な魔道具であると同時に、召喚獣が先ほどまで話題になっていた竜が成れ果てた生物だ。竜王の友だという事もあり、今後の竜たちの動向に影響を与える可能性がある。

 あとはリーシャ自身が闇の魔力を操れるという事だ。これに関しては、フェンリルに伝えなかったからといって問題になりそうな要素は今のところ思い当たらない。むしろ伝えたことでリーシャに降りかかる問題の方が多そうだ。

 ただ、カルディスの指輪について追及されれば闇の魔力を所持しているとバレる可能性がある。故に召喚方法については絶対に教えてはいけない。

 結論として、リーシャはカルディスの指輪について話すことにした。


 うまくごまかされてくれればいいんだけど……


 リーシャは大きく深呼吸するとフェンリルの事を真っすぐに見た。


「フェンリル」

「なんだ? やっと白状する気になったのか?」

「……いちいち私が悪いことしてるみたいな言い方しないでもらえます?」

「わりぃ、わりぃ。んで?」


 絶対に悪いと思っていない言い方だ。

 リーシャは不快そうに少し眉間に皺を寄せはしたけれど、それには触れず話を続ける事にした。毎回反応し続けていたら自分の体力が削られるだけだ。


「……フェンリルはカルディスの指輪って知ってる?」

「カルディスの指輪? どっかで聞いたな。ちょっと待ってくれ……」


 フェンリルも真剣に話を受け止め始めたようで、リーシャの言葉と自身の記憶と結び付けようとしているのか、瞼を閉じた。

 説明した方が早いのだけれど、かなり真面目に思い出そうとしていたので、リーシャはあえて黙って待つことにした。

 フェンリルはしばらく難問を解くかのような表情を続けた後、突然目を開いた。


「ああ! あの召喚の指輪か! 魔物が封じ込められてるってやつ」

「そう、それ。よく知ってたね。あんまり知られてない魔道具なのに」


 知っているのは限られた魔道具技師や珍しい魔道具を収集している人間くらいだ。彼らですら幻のような扱いをしている魔道具なので、魔道具に興味がない人間が知っている方が珍しい。

 リーシャに褒められた事で気分を良くしたらしく、フェンリルは誇らしげにふんぞり返った。


「そりゃな。城の宝物庫に1つあるからな」

「へぇ。そうなんだ。宝物庫に……えっ?」


 やや鼻につく態度のせいで一瞬流しかけたけれど、聞き捨てならない事実に気付いたリーシャは時が停止したように固まった。

 カルディスの指輪は全て行方知れずとなっている。それが実は見つかっていたという事実はリーシャにとってもかなりの衝撃で、理解が追い付いた時には無意識に大きな声を出していた。


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ⁉」


 その声の大きさは、爆睡していたエリアルが飛び起きてしまうほどだった。

 寝起きのエリアルは混乱しているようで、寝ぼけ眼で周囲を見回した。


「リーシャねぇちゃん⁉ どうしたの⁉」

「ごっ、ごめんね、エリアル。話してた内容にびっくりしちゃっただけで、なんでもないから」

「そうなの? それならいいや。ふあぁぁ……」


 どうやら十分眠れたらしく、エリアルは大きく伸びをしてソファに座り直した。

 フェンリルの方は手で耳を塞いでいたらしく、今は眉間に皺を寄せて迷惑そうにリーシャの事を見ていた。


「ったく、なんだよいきなり。そんな大声出して、驚いたのはこっちだ」

「ごめん」

「別にいいけどよ」


 リーシャは鼓動を早くした胸に手を当て、興奮を抑えた。

 とはいえ、見つかったという召喚の魔道具の事が気になりすぎて、自分の報告どころではない。


「ほんとにその魔道具がお城にあるの?」

「ああ。100年くらい前に3つの内の2つは回収されてるんだよ。この国の宝物庫にあるのはガーゴイル系統のローインパーズっていう滅んだ魔物だ。もう一つの指輪は、どこかは教えられねぇけど東の方の国が持ってる。たしかフェニックス系統だったかな。そこはよく覚えてねえ。どっちの指輪も召喚獣が扱える全ての有属性の魔力、つまりは3つ以上の有属性の魔力を使う事で発動するらしい。見つけた時に、時間はかかったみたいだが検証済みだ」

「そうなんだ」


 死竜の持つ魔力の属性は闇。そして召喚には闇の魔力を要した。

 そこから考えてもリーシャが手にしている物と召喚の条件は同じ。そしてこの魔道具を扱える人間がかなり限られている事も同じだ。3つ以上の属性の魔力を同時に使い続けることができる人間なんてそうそういない。

 どの文献にも載っていない事実を知りリーシャは目を輝かせた。

 そして、ある1つの疑問に行き当たった。


「というか、そんな詳しい事を私に教えてもよかったの? 知られてないってことは、隠してたってことなんじゃ」

「ん? まぁいいんじゃね? 国が認定してる技師たちには教えてることだし」


 たいしたことではないという態度をとっているけれど、リーシャはどう考えても自分が聞いてもいい話のようには思えなかった。


 それ絶対、一般の人には教えちゃいけないでしょ……


 信頼しているから教えたのかもしれない。けれど、信頼を勝ち取れる程の時間を過ごしたわけでもないため、リーシャはフェンリルのいい加減さを、再び実感する事となったのだった。

 リーシャが呆れていると、フェンリルがはたと気がついたような表情をした。


「てか、話題に挙げてきたってことはお前、残りの1つの在処でも知ってんのか?」

「う……うん……」

「! どこだ! 在処がわかってんなら回収しねぇとなんねぇ。あれの中身は危険すぎる!」


 リーシャが答えた途端、フェンリルは切羽詰まっているように身を乗り出した。

 それもそのはず。先ほど召喚獣として挙げた生物は竜同様、暴れはじめたらとてつもない災禍を引き起こすほど危険な生き物たちだ。

 ろくでもない人間に召喚の魔道具が渡り、万が一にも召喚獣を呼び出せるような人物だったなら、大陸が危機にさらされる。

 それをわかっているフェンリルは焦りを隠せない様子だ。


「まさか竜たちが持ってるなんて言わねぇよな?」

「言わないよ。だってここにあるもん」

「なんだと⁉」


 リーシャは自分の指からカルディスの指輪を外してテーブルの上に置いた。


「これが3つ目の……」


 言い終わる前に指輪を手にしたフェンリルは、いろんな角度からそれを観察し始めた。


「この魔力刻印に特殊な金属。そしてこの石……本物っぽいな。お前、これをどこで見つけた」

「家の前の池の底に沈んでたの」

「そんな簡単なところに? いや、そんなはずはない。あの辺りも紛失時に捜索されたはずだ。見つからないわけがない」

「えーっと……池の底がかなり深いみたいだから見つけられなかったのかも?」

「そんな深いところにあったものを何でお前が持っててるんだよ?」


 物が物なだけに、フェンリルは鋭い目つきでリーシャの事を見ていた。

 なぜフェンリルは気がつかなくていいことに気がついてしまうのだろうか。リーシャの隠しておきたいことが芋づる式でどんどん掘り起こされていく。

 それとも、ただリーシャが隠すのが下手過ぎるだけなのか。

 リーシャはどう答えていいのかわからず口を閉じた。


「……」

「リーシャ」


 名前を呼ばれただけなのに、低く落ち着いた声が正直に言えと言っているようだ。誤魔化しはきかないだろう。

 リーシャは池の彼に被害が及ばないためにどう伝えようかと頭を悩ませた。


「あのね、今から言う事については、できればそっとしておいてほしいの」

「? 事と次第によるが、善処はしてやる」

「お願いします……この指輪はね、池に住み着いている魔物と知り合いになった時に持って来てくれたの……」

「は? 魔物が⁉」


 フェンリルは目を見開いた。こんな話、普通ならありえないと一刀両断され、相手にもされないだろう。

 魔の類の生物は、遭遇すると即座に襲い掛かってくる個体がほとんど。そんな生き物と知り合いになったなど頭がおかしくなったと思われてしまっても仕方ない。

 けれどフェンリルは、ただ驚きはしたものの茶化すようなことはしなかった。

 そのありえないような発言をしたのは、既に竜という危険な生き物を傍に置いているリーシャだ。リーシャならば魔物の知り合いがいてもおかしくはないという認識があるからこその反応だったのだろう。

 リーシャはスコッチが悪いイメージを持たれないよう、弁明した。


「魔物って言っても言葉は通じるし、人間に敵対心とか持ってないから。むしろ私たちにいつも協力してくれてるの。ノアたちの事で王都に呼ばれた日も、騎士の人が家に近づきにくいように結界を張ったりして、私を助けようとしてくれたの」

「結界……なるほど。何故かお前の家に辿り着くのに時間がかかったという報告があったが、そういう事だったのか。だが、本当に信用してもいいのか? こっちを油断させて、とかなくはないだろ」


 たしかになくはない話だ。けれどリーシャはスコッチに対して1度もそんな事を思った事などない。

 スコッチは出会ったあの瞬間まで、リーシャを警戒し、見つからないように池の奥底で隠れて過ごしていた。にもかかわらず、池に潜ったエリアルを危険だからと水面まで連れて来てくれた。警戒していた相手の前に姿を現してまでだ。

 そしてそんな彼は仲良くして欲しいと言い、それをリーシャが受け入れた時にみせた喜びは嘘には見えなかった。


「スコッチのおじちゃんはとっても優しいんだよ。いつも面白いお話聞かせてくれるんだから」


 エリアルが口をとがらせて言った。スコッチを悪く言われたのが面白くなかったようだ。


「遊んでもらってるのか?」

「うん!」

「へー、いいおじさんだな」


 フェンリルは優し気な瞳でエリアルの事を見ていた。エリアルの純粋な言葉に疑う気持ちも多少は解けたのかもしれない。


「絶対に信用できる、って言いたいけど、私はスコッチさんのこと全部知ってるわけじゃないから。けどそれって、人間同士でも言えることでしょ? ただ、スコッチさんと出会ってから、彼に対して危険だとか思ったことはないし、さっきも言ったけど色々助けてもらったりもしてるから信じたいって思ってる」

「そうか。ノアはどうだ? その魔物の事を信用できるか?」


 ノアは軽く頷いた。


「ああ。少なくとも他国で暮らすあの忌々しい人間の雄よりは格段に信用している」


 武闘大会の決勝でリーシャが戦ったラディウスの事を言っているのだろう。

 フェンリルは少しの間考えた後、口を開いた。


「まあ、そういう事なら、その魔物に関しては聞かなかったことにしても問題ないか。だいぶ長い間そこに居ついてるみたいだが、何も手出ししてきてねえしな」

「ほんと? スコッチさんを討伐になんか来たりしたら、私全力で抵抗するからね?」

「ああ、大丈夫だって。その代わりリーシャ、ぜってぇ王都には連れてくんなよ」


 これは冗談では言っていない。本気の目をしていた。

 ノアたちが竜であることを隠していた時の事を隠していた時の事を考えればそう言われるのも仕方はない。けれどリーシャとしては、なんでもかんでも王都に連れて行くと思われているのは心外だった。


「魚型の魔物だから陸には上がれないよ」

「ならいい。つーかお前さ、何でそんなのとばっかりつるんでんだ? 実は魔物の友達100匹とか目指してねぇよな?」


 リーシャは耳を疑った。フェンリルは本当にそう思っているようだったから。

 リーシャは勢い余ってソファから腰を浮かせた。


「はあぁぁ⁉ なんでそうなるわけ⁉ 偶然だからっ! 好き好んで仲良くなりにいってるわけじゃないから!」


 あらぬ誤解をされ、リーシャは全力の否定をしたのだった。

 お読みいただきありがとうございます。

 モソモソ書いてて気がついたのですが、ここ最近恋愛要素全くないですね。少し甘さを入れたいのですが内容が内容なだけに入れようがない……という状況です。この話が一区切りしたら恋愛要素を前に出した短い話をかけたらなぁと思っています。まだ決まっていないので、これから考えます。

 次回更新は次の日曜を予定しています。

 でわ、また次回!

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