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始まりの予兆 その2‐街外れの研究所‐

 朝食を終え、片付けまで済ませた4人はほんの十数分の食休みをした後、王都へ向かって出発した。

 シャノウにもカルディスの指輪の中、つまりは召喚を解いた状態でついてきてもらっている。

 本当は竜に興味を示している人間がいる場所にシャノウを連れていくことは避けたかった。

 けれど先日、リーシャが1日遠出をした際、召喚したままで留守番させていたシャノウが衰弱してしまうという事件が起こってしまったのだ。

 始めは偶然かと思っていた。けれど、後日リーシャが王都に出向いた際にもシャノウと留守番をしていたエリアルから、シャノウが時折苦しそうにうずくまっていたという報告を受けた。どうやらシャノウはリーシャと一定以上離れると魔力が供給されなくなるせいか、衰弱してしまうようなのだ。

 そのためシャノウを家に置いて行くわけにはいかず、王都へ連れて行くのはやむを得ずの判断だった。

 王都に着いてそのまま研究所へと足を進めていると、途中でルシア1人が足先の方向を変えた。


「んじゃあ、俺向こうだから」

「あ、そっか。ルシアは工房だったね。頑張って」

「おう。リーシャは無理するなよ。眠気でぶっ倒れるんじゃないぞ? 本気でヤバくなったら倒れる前に座るんだぞ? それと、他の奴に寝顔を見られないように物陰に……」

「どんな心配してんのよ! そもそもこれくらいで倒れるわけないから!」

「ははっ。そんだけ声が出るなら大丈夫だな。そんじゃ行ってくる」


 悪戯をして逃げる子供のようにルシアはリーシャの元を離れていった。リーシャはその後姿に手を振りながら見つめた。

 街中を歩くルシアはやはり視線を集めていた。主に若い女性たちからの視線だ。度々声を掛けられていたけれど、やんわりとあしらっているのか、揉めることなくすぐに別れ目的地の方へと向かって行った。

 その姿にリーシャはほっとした。

 ルシアが誰にでも優しいと言っても、兄弟やリーシャに対してとその他の人間に対しての態度では一線を画しているのだ。


「……それじゃ、私達も行こっか」

「はーい!」


 リーシャたちは再び研究所に向けて歩き始めた。

 こうして街中を歩いていると、街中のリーシャたちに向ける視線が変化していることを感じられた。


 よかった。街の人たちあんまりノアたちの事気にしなくなってきてる。


 最近は王都の人間のリーシャたちに対する、というよりもノアたち兄弟に対する当たりが弱くなってきていた。

 以前はノアたち兄弟が街中を歩こうものなら距離を取られたり、警戒や怯えた視線を向けられたりする事がほとんどだった。けれど今は気にする人も少なくなり、ほとんどの人が普通にすれ違って行く。稀に挨拶をしてくれる人もいるくらいだ。

 こうした街の受け入れ傾向が、リーシャにとってはとても嬉しい事だった。





 エリアルと夕飯の献立について話しながら街中を歩いて行くと、街並みに外れた場所に、大きな建物が見え始めた。あれが魔物の研究を行っている施設だ。

 近づくほどに、これまでの街の雰囲気からは切り離され、木々が生い茂った地になっていく。王都内にあるはずなのに、まるで壁外に広がる森の中に建っているかのような、孤立した寂しい場所だ。


「着いた。ここだよ」

「うわぁ、おっきい建物だね! どれくらい大きいんだろう?」

「ここはね、王都の中では国王様がいるあのお城の次に大きい場所なんだよ。研究のための生きた魔物がいるから、こうして街から離れた場所に建てられたんだって」

「へぇ、そうなんだぁ」


 エリアルは物珍しそうに、ぽかんと口を開けて建物を見上げていた。

 ここは王都内で王城から最も離れた、王都を囲む壁の近くに設立されている。ちなみに何かあった時に王都の出入り口をふさがないようにと、外壁の門とは真反対に位置している。

 リーシャはこれまでこの辺りまで足を運んだことはなかった。そのためこの場所へ来るのに、予想していた以上の時間を費やしてしまったような気がした。そろそろ約束の時間になっていてもおかしくはない。

 リーシャはガラス張りの入口の取っ手に手をかけた。


「さあ、中に入ろ」

「うん!」


 リーシャたちは扉を開け、中へと足を踏み入れた。



 王都が運営の一端を担っているだけあって、研究所の中はしっかりとした造りをしていて、働いている研究員数も多いようだ。

 雰囲気も王城とはまた別の、非日常的な雰囲気をしているように感じた。リーシャでなくとも好奇心に負けてあれこれと視線を彷徨わせてしまうのは間違いないだろう。

 そんな光景に目を奪われていると、リーシャたちの目の前に1人の女性が立ち止まった。


「あっあの、リーシャさん、ですよね?」


 声をかけてきたのは丸渕メガネをかけた女性だった。第一印象としては気が弱そう、といったところだ。


「はい。そうです」

「ですよねですよね! お待ちしてました!」


 丸渕メガネの女性は自分の目の前にいるのがリーシャだと確信を持つと満面の笑みを浮かべ、リーシャの手をいきなり強く握った。


「へっ⁉ なっ、なんですか?」

「ほんっとーに、よく来てくださいました! どれだけこの日を待ち望んだことか!」


 突然の歓迎に戸惑うリーシャに気がついていないのか、女性はその手を勢いよく上下に大きく振り続けた。理由は謎だけれど、かなり興奮気味のようだ。


「今日はよろしくお願いしますね! あっ! あなたたちが人間に擬態しているという黒竜の御兄弟さんですね。お会いできて光栄です!」


 女性はノアとエリアルの存在に気がつくと、今度は2人の手を取り、交互に振り回し始めた。

 リーシャは初対面でその勢いで接してくる女性に、若干引き気味だった。

 ノアは珍しく困った表情をし、エリアルは目を点にして大きく振られる手に合わせて頭を上下させている。

 女性研究員はそれで満足したのか、やっと手を放した。


「ささっ、所長がお待ちです! こちらへどうぞ」

「え? あの、このままは行っちゃってもいいんですか?」

「行っちゃっていいんですよ! なにせあの有名なリーシャさんなんですから! 顔パスですよ、顔パス!」


 リーシャたちは上機嫌に歩きだした女性研究員の後を追うことにした。

 ノアは研究員女性に聞こえないよう距離を取ると、小さな声でリーシャに話しかけた。


「なんなんだ、あの雌は……」

「妙に元気いっぱいだね」

「あいつについて行って問題ないのか?」

「さ、さあ。わかんないけど、ここで働いてる人みたいだし大丈夫なんじゃない?」


 ノアは顔をしかめていた。警戒しているのか、ただ単に苦手なタイプだからそんな顔をしているのか。

 3人が距離を空けてついて行っていると、女性研究員がくるりと振り向いた。


「何してるんですか? 早くしないと置いて行っちゃいますよ!」

「は、はい!」


 馴れ馴れしいなとは思いつつ、何かを企んでいるわけではなさそうに感じたため、リーシャはその女性の後を急いで追いかけた。


「いやー、それにしてもこんな日が来るなんて夢にも思っていませんでしたよ」

「何がです?」

「そちらのお2人の事ですよ。お2人とも黒竜なんですよね? 生きてるうちにこうして竜と一緒に歩けるなんて。はぁ……夢のようです」


 時々リーシャたちの方へ振り返る女性の顔は、まさに幸福ですと言わんばかりの表情をしていた。


「えっと、竜、好きなんですか?」

「はいっ! 強くてかっこよくて、小さい頃から大好きなんです! 研究員になれば生きている竜に会えるかもって思ってここに就職したんですけど、いざ入社してみたら竜の影形もなくてがっかりで……最近、もう諦めて転職しようかなと考えてたんですよ。私、別に魔物の研究をしたくてここに入ったわけじゃないですから」

「へ、へぇ……」


 先ほどまで熱く語っていた彼女のショボンとした姿を前にして、リーシャは苦笑いを浮かべた。


 そりゃそうだよ。竜は個体数少ないし遭遇率が低いうえに、強すぎて生きたままの捕獲なんて無理だよ。


 生きた竜を目にしたいのならば研究所勤めでは普通に考えて無理だろう。どうしても見たいというのなら、ギルドへ所属し、クエストを請けて各地に赴いた方が確率は高い。

 俯いていた研究員女性が突然顔を上げ、再び目を輝かせ始めた。


「それなのにですよ! 突然、実は人間に化けた竜がこの王都に出入りしていましたって話を聞いたんです! もうこれは運命だと思いました!」


 横からノアが鼻で笑う音が聞こえてきた。コロコロ変わる表情が滑稽だったのかもしれないけれど、真剣に話す彼女に失礼だ。

 リーシャは黙ったままノアの横腹を肘で小突いた。この行動の意味は汲み取れるだろう。思った通り、ノアは口を閉ざしたまま視線をリーシャから逸らした。


「リーシャさん?」

「なんでもないです。運命、なんですね」

「ハイ! 運命です! そういえば、リーシャさんの方がこの方たちとは運命的な出会いをなされたんですよね? はわぁ……羨ましい限りです!」


 興奮した女性の言っている意味は段々よくわからなくなってきていた。

 助けを求めて、話術の優れたノアの方を向くけれど、ノアの方も対応不可と判断したのだろう。首を90度回してしまった。


「あ、すみません! こんな話ばかり。つい興奮しちゃって。そう言えば名前も言ってなかったですよね。私、所長の助手をしています、メルティナ・モンハメルドといいます。ちなみに所長は私の父です」

「そ、そうですか」


 もしかするとその所長もメルティナと似たような性格なのではという不安がよぎった。

 そうこう話をしているうちに目的地にたどり着いたようだ。メルティナがとある横開きの扉の前で足を止めた。


「ここです。ここが所長室兼父の研究室です。お父さーん。リーシャさんたち来たよー」

「入ってきなさい」

「はーい」


 メルティナが扉横の壁に取り付けられた機械にカードを通すと、扉が左右に開かれた。

 その先では3人の人影がリーシャたちの事を待ち構えていた。

 お読みいただきありがとうございます。

 だいぶこの物語全体の重要な部分に入ってきました!

 次回更新については、まだこの編の重要な部分に触れられていないので早めに更新したいのですが、続きが全く手つかずの状態です。おそらく次の日曜になると思います。早めに進められれば唐突に更新するかもしれません。

 でわ、また次回!

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