表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/178

魔道具技師への道 その10‐竜王の目的‐

 本題という事は、竜王は死竜を止めるためにこの地へ来たわけではないという事。リーシャたちを助けたのはその本題のためやむを得なかったというところだろう。

 親しげに話しかけられ忘れかけていたけれど、竜王はやはり竜なのだ。やはり人間である自分とは相容れないのかもしれない。

 自分たちを助けるのが目的ではなかったという事がわかってしまい、リーシャは竜王に対する複雑な気持ちが湧いてきた。


「本題、ですか? 竜王様は私たちに何か伝えたいことがあって、またここまで来られたんですか?」

「ああ、そうだよ。難問になるかもしれないんだけどね。彼、死竜の今後についてだよ」


 当の死竜は抵抗を諦め、不貞腐れたように大人しく竜王の下敷きになっていた。

 それでも竜王は死竜を押さえ、そのまま話を続ける。


「私としては彼を私たちの国へ連れて帰りたいと思っている。こんな姿に成り果ててはしまっているけれど、彼もれっきとした竜族だ。君が嫌な人間だったなら問答無用でその檻を奪って連れ帰るところなのだけど、そうではないからね。どちらかというと気に入っているんだ、君の事は。だから話し合いの余地を与えようかと。君はどうしたいと考えているのかな? 彼を道具として手元に置きたいのかい?」


 檻。魔道具の事を言っているのだろう。

 確かにリーシャは珍しい魔道具は手元に置いておきたいと思うタイプの人間ではある。けれど訳ありの魔道具を、無理やり手元に置いておきたいというほどの欲求があるわけではない。

 それにこの指輪は諸刃の剣。

 中途半端にしか扱えないこの魔道具を手元に置いておくのはいろいろと危険すぎた。


「私は別に。連れ帰ってもらってもかまわないです。なんか私、この竜に嫌われてるみたいですし。これ以上問題事を抱えたくはないので」

「そうか」


 闇の魔力に死竜という新種の竜。

 隠しておかなければならない事は、手放せるのであれば早いうちに手放してしまいたいというのがリーシャの本心だった。

 竜王は死竜を見た。


「グアウ」


 互いに鳴き声を出している。会話をしているようだ。

 しかしリーシャには彼らが何を言っているのかわからない。


「ねぇ、あの2匹はなんて言ってるの?」

「竜王は死竜の考えを聞いている」


 声がした方には、いつの間にか人の姿に戻ったノアが立っていた。服を着ていないのに気がついてしまったけれど、リーシャは下を見ないようにして自分の意識を誤魔化した。

 ノアは竜王と死竜の会話を訳し始めた。


「竜王はリーシャの考えを伝えた。連れて帰りたいなら連れて帰ってもいいと。対して死竜は帰りたいがこんな魔道具と同化した体で帰れるのかと聞いている。竜王は、どうにか手だてを探してみるから戻ってこい、と言っている」


 リーシャは死竜の言う通りだと思った。

 今の死竜はリーシャの魔力を使って現れていられる状態だ。竜の国へ連れ帰るにしても、リーシャの手元から離れた後も召喚し続ける方法を見つけるか、指輪から解放する方法を見つけなければ、死竜は指輪の中に閉じ込められたままだ。

 現実的に見えるのは前者だけれど、そもそも必要な魔力が闇という特殊な魔力だ。闇の魔力を供給し続ける方法を探すのは骨が折れる。それに仮に見つけられたとしても、それは根本的な解決ではないため、膨大な時間、珍しい魔力を供給し続けなければならない。故に現実的ではなく、最終的にはどうしても後者を模索するしかなくなるだろう。

 リーシャは自分の指にはめられた指輪に視線を落とした。


「この指輪とその竜を切り離す方法って存在するのかなぁ」


 こぼしたような小さな言葉を竜王は耳ざとく拾っていた。


「わからない。あるかもしれないし、ないかもしれない。それを作った人間に聞けばもしかしたら方法がわかるかもしれないけれど」


 そうなると、この闇の魔力刻印を依頼した人間の子孫を探す事がすぐにできる最善の行動だろう。

 その人物は魔法貴族だという事はわかっている。けれどもそれだけだ。

 人類全体からすると一握りしかいないけれど、決して少ない人数でもない。それに聞いたところで正直に答えてくれるとも限らない。

 もし死竜を解放できる方法があるとしても、しばらくは指輪の中で大人しくしていてもらうか、もしくはリーシャの魔力で召喚し続けなければならないという事になる。死竜が自由を手にするのはまだまだ先の事になるだろう。

 竜王は連れて帰りたいという思いが強いようで、すぐにはその思いを達成できそうにない状況に溜め息をついた。


「すまない。連れ帰りたいとは言ったが、今連れ帰ったとしても、解放する手段を見つけるまで彼は檻に捕らわれたままだ。よければ彼を切り離せるようになるまで、彼を預かっていてもらえないだろうか」

「えっ……」

「大人しくしているようにとは言って聞かせているから」

「まあ、死竜さんがいいならかまわないですけど……あの、でしたら小さくなるように言ってもらえませんか? 私たちが言っても聞いてくれないかもしれませんし、ずっとこの姿でいられると、とても困るんです」


 この家にあまり人が近寄らないとはいえ、全く来訪者がないというわけではない。シルバーが用事を持ってくることがあるし、ラディウスのように顔を見に来たという予想外の理由の訪問者も稀にいる。

 竜王は首を傾けた。


「都合が悪い時は召喚を解除すればいいのではないかい?」

「それができなくて困ってるんです」


 解除できるのならこんな大事になってはいないのだ。リーシャは溜め息をついた。

 するとエリアルがリーシャの背後から竜王の方へ顔を覗かせた。


「さっきねぇちゃん、止められないからって指切って止めようとしてたよ」

「ちょっと、エリアル!」


 実行してはいないとはいえ、指を切ろうとしたことをノアとルシアに知られたら小言を言われるに決まっている。

 エリアルの報告を聞いたノアとルシアは同時にリーシャの方を見た。

 やっぱりと思ったリーシャの動きは停止した。


「はぁ⁉ 何やってんだ! ちょっと指みせてみろ!」


 ルシアはリーシャの指輪をしている方の手をとると、まじまじとその手を確認した。


「ちゃんとつながってるな」

「そんな、指くらいでオーバーな……」

「あのなぁ……全然オーバーじゃねぇよ! ほんとは傷1つつかねぇように家に閉じ込めときたいくらいなのに!」


 握られた手に力が籠められ、ルシアが本気で思っているという事はわかった。


 心配してくれるのは嬉しいけど、それは重すぎるよ……


 そんな事を思いながらも、自分を思ってくれることを嬉しく思うリーシャは頬を染めた。


「そっ、そういうわけで召喚の解除方法がわからないんです!」


 リーシャが照れ隠しに力強く言うと、竜王は不思議そうにしていた。


「その魔道具は魔力を止めれば普通に効果は切れるものではないのかい? 今もそれは君の魔力を使い、動いているのだろう?」

「それが、魔力のコントロールが効かなくて……」

「ふむ。私は人間の言う魔道具というのがよくわからなくてね。どういう仕組みをしているのだろう」

「それはですね……――」


 リーシャは簡単に説明をした。

 ルシアに付き合って魔道具について学び、少し踏み込んだ内容まで理解していたためある程度竜王に理解してもらえる説明をすることはできた。

 そして、大きな魔法を発動しようとした際、魔力が暴走しコントロールできない状態に陥ったことがあり、もしかしたら今回もその可能性があることも伝えた。


「なるほど。人間は面白い仕組みを考えるものだね。ちなみにだけど、この状態で魔道具とは別で魔法を使うことは出来るのかな?」

「はい。さっき使えました」


 リーシャは水の魔力を使って宙に水の小さな球を作り出した。

 扱いにくさや、いつもより魔力が集まらないという不都合はあるものの、カルディスの指輪の発動とは別に魔法を使うことは可能だ。


「こんな感じです」

「という事は、魔力が止められないのは暴走の類、ではなくてこの魔道具にそういう力があるのかもしれないね。それなら別属性の魔力を上乗せして使ってみたらどうだい? 供給される魔力の属性が変わればその魔道具は反応しなくなるんじゃないのかな?」

「な、るほど……」


 竜王の仮説に納得は出来たものの不安要素があった。

 下手に魔力を合わせると、魔力が予期せぬ作用を発してしまうかもしれないからだ。

 竜王はリーシャの歯切れの悪い返事の理由を察したようだった。


「大丈夫。何かあったら私たちがちゃんとフォローするから」

「……わかりました」


 リーシャは覚悟を決め、カルディスの指輪に意識を集中して水の属性を宿した魔力を集め始めた。

 再び指輪が光を放ち始めた。

 それとほぼ同時に死竜の体から光の粉のようなものが溢れ出し、徐々に骨が透けていった。体が完全に光の粉と化すと、粉は指輪の石の部分に吸い込まれ、石は元の緑の宝石に姿を変えた。


「できた……」

「どうやら推測は当たっていたようだね。解除してしまったところすまないのだけど、彼をもう一度呼び出してもらってもいいかな?」

「あっ、はい」


 リーシャは竜王に言われた通り、カルディスの指輪に魔力を送り、死竜を召喚した。

 姿を現した死竜に竜王は何か話しかけていた。

 伝えたかったことは短かったようで竜王はすぐにリーシャの事を見た。


「そういうわけで、リーシャ。君にお願いがある」

「はい。なんでしょう」

「私の方でもその指輪について調べて回ってみるけれど、君の方でも調べてもらってもいいかい?」

「それはかまわないですけど、竜王様の方はどうやって」

「今面倒を見ている同胞の番が、たしか魔道具に関する職を有していたはずだ。彼の伝手を辿ってその魔道具を作らせた者の一族を探してみようと思う。が、あまり期待はしないでほしい」

「わかりました。こっちも作ることを依頼した人物はかなり絞れているので。機会も作れそうですし、やってみます」

「そうなのかい? それは頼もしい」

「あんまり気が進まない方法ではあるんですけど……」


 本当は魔法貴族とは出来る限り関わりたくはない。けれど、人助け、ではなく竜助けのためならばとリーシャは腹をくくったのだった。

 リーシャの浮かない表情に、竜王は少し申し訳なさげな表情をした。


「すまないが、よろしく頼んだよ。彼にはできる限り君の言う事を聞くようには言っておいたから。あまりにも酷いようなら、次回会ったときにでも言ってほしい」


 竜王は死竜へ視線を流した。迷惑をかけるようなら灸を据えるという事なのだろう。

 死竜は巨大だった体をするすると縮め、リーシャの腰ほどの大きさの姿になった。

 これならば家で匿う事が出来る。のだけれど、これはそもそも召喚を解くなという死竜の意思表示でもあるのかもしれない。

 リーシャはじっと不貞腐れている死竜の事を見た。すると何故か懐かしさのようなものを感じた気がした。

 その感情がどこから来ているのか思い出そうとしてさらに見続けていると、リーシャの視線に気がついた死竜はそっぽを向いてしまった。大人しくはするけれど馴れあうつもりはないという意思の表れだろう。

 懐かしく感じたのはもしかすると、ノアと態度が似ているからかもしれない。とくに人の姿を手に入れる前の子供の黒竜の姿をしていたあの頃に。

 リーシャが死竜の態度に苦笑していると、竜王が口を開いた。


「意思の疎通はその子たちができるから大丈夫かな?」

「それは、大丈夫だと思います」


 ノアたち3人も頷いた。


「それならまあ、どうにかなりそうかな」


 竜王は安心した声を発すると、大きな翼をいっぱいに広げた。


「彼、態度はあれだけど悪いやつではないから。もう君たちを襲うようなことはないよ。だからよろしく頼む」


 そう言い残すと竜王は大きく翼を羽ばたかせ、以前飛び去った時と同じ方角へ向けて飛び去った。今回もあっという間に竜王の姿は遥か彼方へと消えていった。



 リーシャは再び死竜の方へ視線を落とした。

 今度は死竜の赤く光る目と視線が合った。その感覚は以前指輪を見つめたときにも感じたような感覚。死竜も何か思うところがあったのか何故かリーシャの事を見つめ続けた。

 しばらくすると死竜はプイッと視線を外し、のそのそと森の方へ歩き始めた。

 死竜はこの辺りにいる動物どころか魔物よりも強いのは間違いない。襲われる心配はないし、もうすぐ暗闇が訪れるという時間に活動を続けている人間もそうはいないだろう。

 そう思いはしたけれど、リーシャは思わず口を開いてしまった。


「あの、暗くなる前に帰ってきてくださいね!」


 死竜はリーシャの呼びかけには答えず、森の奥へと姿を消した。

 その後、死竜が帰って来たのはリーシャたちが寝静まってから。翌朝リーシャが心配して外へ出ると、池の側でうずくまって眠っている姿があったのだった。

 お読みいただきありがとうございます。

 ”魔道具技師への道”は今回で終わり、次回おまけ話を入れようと思います。

 次回更新については、次回おまけという事なので少し早めに更新出来たらなと思ってます。まだ完成してないのでどうなるかわかりませんが……

 でわ、また次回!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ