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魔道具技師への道 その9‐死せる生物‐

「こっ、これ……生きてんの、か?」


 真っ先に口を開いたのはこの状況に困惑したルシアだった。とはいえ、困惑していたのはルシア1人ではない。


「……この姿を見て生きていると言えるやつがいると思うか?」

「いるわけないよ、こんなのを生きてるって思う人! だってこれ、骨じゃん!」


 ノアもエリアルも困惑を隠せない表情だ。

 ただ困惑するのも無理はない。どんな魔物が出てくるのかと構えていたのに、目の前に現れたのは巨大で真っ白な色をした、何らかの生物の骨だったのだ。

 リーシャも予想外の展開に、先ほどまでの焦りは消え、その場に立ち尽くしていた。


「もしかして、ずっと池の底に沈んでたから、死んで骨になっちゃった、とか?」


 だとするとがっかりだとしか言いようがない。一時は焦らされはしたものの、ずっとどんな召喚獣が現れるのだろうと楽しみにしていたというのに。

 けれど傍らで事の次第を見ていたもう1匹、スコッチはリーシャたちと違う判断を下した。


「みんな離れるんだ!」


 スコッチは叫ぶと即席の結界で骨と化した生物の周りを覆った。


「どうしたんですか?」

「その骨はたぶん生きてる。巨大な魔力が骨の内側に渦巻いているから」


 巨大な骨の生物は今までわざとただの骨を演じていたのかもしれない。周りを結界で囲まれた瞬間、骨は急に動き、咆哮をあげた。


「ギュアァァァァァ‼」


 先ほどまで何もなかった頭蓋骨の窪みに赤い光が宿った。

 口を開いたかと思うと、骨の生物の口から黒い炎が4人と1匹に向かって吐き出された。幸いにもスコッチが張った結界が亀裂を入れられながらもその攻撃を見事に防ぎ切った。


「私の結界じゃ、こんなに強力な攻撃は防ぎ続けられないよ。リーシャちゃん、これを指輪の中に戻すことは出来ないのかい?」

「ご、ごめんなさい。戻すことまで考えてなくて、戻し方がわからないの」

「そんなぁ。頑張ってみるけどそんなに長くはもたないよ」


 骨の生物はリーシャたちが話している間も、口から炎を吐き続けている。

 スコッチは結界に亀裂が入る度に修復しているけれど、すでに修復が追い付かなくなっているようだった。今にも破壊されそうな状況だ。破られるのは時間の問題だろう。


「それなら……水よ!」


 リーシャは水の刃を飛ばし、魔法の相殺を試みた。

 けれど骨の生物が即座に吐き出した黒い炎で、水の魔法はかき消されてしまった。スコッチの結界がなければ消し炭になっていたに違いない。


「うそ……」


 リーシャは今放った水の魔法が本当に自分が発動させたものなのだろうかと困惑した。

 ルシアもリーシャが困惑している正体に気がついたようだった。


「リーシャ、今の全力か?」

「うん……」


 おそらく魔力をカルディスの指輪に奪われているせいなのだろう。威力がいつもの半分以下になっている。

 この威力ではあの生物に一矢報いることは不可能なはずだ。

 ノアとルシアが前に歩み出た。


「一か八かだ。兄貴、竜に戻って抑え込もう」

「ああ、それしかないだろうな」


 ノアは振り向き、エリアルの事を見た。


「エリアル。お前はここで待機していろ。魔法を使ってリーシャを傍で守るんだ」

「わ、わかったよ、ノアにぃちゃん」


 エリアルは恐怖を抑え込むことができないようで、わずかに震えていた。

 けれど自分もリーシャを守らなければと思ったのだろう。泣きそうになりながらもノアの指示に返事をしたのだった。

 けれど大切の者を守りたいと思う気持ちはリーシャも同じだ。


「ダメ! あの黒い炎に当たったら2人が!」


 あの黒い炎はリーシャも使える魔法だ。故にどんな影響力を持っているのかがわかる。

 あの炎はまるで怒りの感情。当たれば最後。全てを燃やし尽くさなければあの炎は収まらない。

 リーシャが必死に止めようとすると、ルシアは困った表情をした。


「そうは言ってもずっとこのままじゃいられねぇだろ。俺らも時間稼ぎするから、リーシャはどうにかこいつを消す方法を考えてくれ」

「でも……」

「惚れた雌を守んのが雄の役目なんだぜ? ここでリーシャを守れないなら、俺らが雄として生まれた意味がねえ。だから行かせてくれ」


 ルシアの目は覚悟を決めた目だった。

 リーシャは覚悟の現れに負け、それ以上止める言葉を口にはできなかった。

 リーシャが黙るとノアとルシアの骨格は変化し始め、数秒後には巨大な元の黒竜の姿に戻っていた。


「大人しくしやがれ!」


 ルシアは叫ぶと、ノアと2匹がかりで骨の生物を抑え込むため襲い掛かった。けれど骨の竜の身体能力は高く、2匹との力の差があり過ぎた。ノアたちは振り回されるばかりで、一向に抑え込むことができない。

 何度か黒い炎を受けそうになったけれど、その都度スコッチが結界をうまく展開し、不発に持ち込んでくれている。

 しばらくの間は炎の攻撃を受ける心配はなさそうだけれど、あの竜を抑え込む手段が無い以上このまま続けば全滅は確実だ。

 リーシャは、やはりこの召喚の指輪をどうにかするしかないと思った。


 今もずっと魔力をこの指輪に吸われ続けてる感覚がある。指輪さえ外れればどうにかなるはず!


 リーシャは再び指輪を引き抜こうと力強く引っ張った。けれど外れる気配はない。


「もう! どうしたらいいのよ!」


 おそらく魔力の供給さえなくなれば指輪は機能を停止するはずだ。とにかく魔力を生成し続けているこの体から離すことができればいい。


「いっそのこと……」


 ある考えに思い至ったリーシャは地面の鉄分を集めナイフを作り上げた。

 そして指輪がはまっている指の付け根に刃先を当てた。


 指を切り落としてしまえば……


 その様子に気がついたエリアルはリーシャのナイフを持った手を握りしめた。


「ダメ! そんなことしちゃダメ‼」

「けど他に方法が!」


 時間は刻一刻と過ぎ、強敵を相手にしている2匹の黒竜の動きは疲労で徐々に鈍くなっていくばかり。


「このままじゃ、ここにいるみんな全滅よ! そんなことになるくらいならこの指を」

「だからダメだって‼ そんなことして助かっても僕もにぃちゃんたちも嬉しくないよ‼」

「じゃあ……」


 どうすればいいのか困っていると、急に地面がドスンと揺れた。

 ノアたちの方を見るとついに2匹は押し負け、まとめて地面に拘束されていた。骨の生物に頭を押さえつけられ、立ち上がろうともがくけれど拘束は解けない。


「どうすれば……」


 指すらも落とさせてくれないのならこの状況。リーシャには手の打ちようがない。

 リーシャが苦悩の顔をしていると、池の水がバシャンと動く音がした。スコッチが身じろぎをしたのだろう。


「どうしたんですか?」

「救いなのか脅威なのかはわからないけど、ものすごい速さで向かって来てる」

「向かって? 誰が?」

「大きな魔力の塊。たぶん竜王って竜だと思う。間違ってなければだけど」


 スコッチがそう言った途端、かなり大きな地響きが起きた。


「な、なに? 地震?」

「ただの地震じゃないよ。到着したみたいだ。その竜王が」


 巨大な揺れの後、小さな揺れがもう1度起こると地面の揺れは収まった。

 周りの様子を窺っているとスコッチが叫んだ。


「上だ!」


 リーシャとエリアルが上を向くと白い体の竜が勢いよくリーシャたちの方へ向かって来ているのが見えた。

 竜王はそのまま骨の生き物の方に向かって飛びかかるとノアとルシアから引きはがし、投げ飛ばした。そして骨の生物に圧し掛かかると、それに向かって巨大な咆哮をあげた。

 リーシャは何が起きているかわからず呆然とした。

 そんなリーシャの隣でエリアルがぼそりと呟いた。


「竜王のおじちゃん、あの骨と知り合いなのかな?」

「なんでそう思うの?」

「だって竜王のおじちゃん今、『いい加減にしろ、意識はあるんだろう』って言ってたよ?」

「え?」


 竜王の咆哮で骨の生物は動きを止め、小さく鳴いた。

 エリアルが通訳を続けてくれた。


「なんで人間なんかに味方するんだ、だって」

「エリアル、あの生き物の言葉わかるの?」

「うん」

「ってことはあの骨って」


 リーシャたちの会話は竜王にも聞こえていたようだ。

 竜王はリーシャが結論を言う前に口を開いた。


「これは私たちの同胞。そして私の友の成れの果ての姿。暗黒竜としての姿を失い、恨みの念を糧に生きる死竜と化した姿だ」


 死竜は竜王に何か訴えるようなそぶりを見せたけれど、竜王に一睨みされ、項垂れた。

 竜王は続けた。


「幸か不幸か、また再会できるとはね。まさかまだこの世に留まっていたなんて。あの時、人間の操り人形と化していた君を魔道具とかいう物ごと破壊できたと思っていたのだけれど……」


 リーシャの中で仮説として不完全に繋がっていた点と点が、竜王の言葉で新たな真実を交えながら完全に繋がり始めた。


「あの時ってもしかして」

「人間の間で起きていた戦争の時さ。あの時彼は自我を持たない人間の操り人形になっていたんだ。きっと彼もそんなことを望んでいないだろうし、私もそれが耐えられなかった。だから私は彼ごとこの辺りにいた人間を全て消し去った。はずなのにまさか肝心な物を壊し損ねていたなんて」


 竜王はリーシャの事を見ていた。

 いや、おそらく正確にはリーシャの指にはめられているカルディスの指輪を見ているのだろう。


「グルルルル……」

「グウゥ。グワウ!」


 死竜が竜王に何か訴えかけるように鳴いた。けれど、竜王はそれを一括したようだ。


「なんて言ったの?」

「骨のおじちゃんが『けどあいつは』って言って、竜王のおじちゃんが『わかっている。だがそれは彼女が悪いわけではない』だって」

「そう……」


 竜王の言葉で、リーシャは自分が気づかないうちに何かをしてしまったのだろうかと感じた。もしくは“リーシャに関わる誰か”なのかもしれない。

 おそらくリーシャが全くの無関係というわけではないだろう。


「あの、私が何か……」


 竜王は一瞬リーシャから視線を逸らした。そしてすぐに視線を戻した。


「……彼は人間に殺され、こうやって道具の一部にされてしまった。だから人間である君のことが憎いだけさ」

「本当に?」


 黒竜の赤い瞳はリーシャの方を向き、低く唸り続けている。


 本当にそれだけ? もしかして……


 リーシャは息を呑んで竜王の回答を待った。


「……それだけだよ」


 何かを知っているような含みのある言い方だった。けれどこれ以上追及しては藪蛇になる可能性が高い。

 リーシャは追求したい気持ちをぐっとこらえた。


「そう、ですか……」


 リーシャの返答に竜王は満足したようだ。竜王の雰囲気が柔らかくなったように感じた。

 そして竜王は続けた。


「さて、それじゃあ今回の本題に入ろうか」

 お読みいただきありがとうございます。

 もはや”魔道具技師への道”からは想像つかない展開になってしまいました。だから話を変えようかと思ったのです。けれど、まあ一応魔道具関連だしってことで続いております。

 次回更新は次の日曜予定です。

 でわ、また次回!

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