魔道具技師への道 その8‐正体‐
リーシャとルシアは帰るギリギリまで、ディフェルドから弟子入りについて簡単に話を聞いていた。主に揃えておいた方がいい道具や、それを売っているおすすめの店についてなどを教えてもらった。
いろいろ質問も交えながら話を聞いているうち、空は若干の陰りが見え始めていた。
このまま聞きたいことを全部聞いていては帰り着くのが遅くなってしまう。留守番をしているノアたちも心配してしまうという事でリーシャたちはおいとますることにした。残りはギルドを通してディフェルドが追って連絡してくれるとのことだ。
2人はディフェルドに頭を下げ、工房を後にした。
ディフェルドはルシアのことをよほど気に入ったのか、帰り際に「待ってるからなぁ」と手を振って見送ってくれた。
「にしても親方ってすごいヤツだな」
「まぁ、すごくなかったら誰もついてきてくれないだろうからね」
家へと帰る途中、ルシアはずっと上機嫌で工房での出来事を語っていた。魔道具を完成させた興奮が未だ止まないといったところだろう。
リーシャが耳を傾けていると、ルシアは何かふと思い出したように突然語るのを止めた。
「どうしたの?」
「なあ、リーシャ。俺、あの本見てからずっと気になってたことがあんだけど」
「あの本?」
リーシャはずっと本を読んでいたため、どの本の事を言っているのかがすぐには思いつかず、首を傾げた。ルシアに見せた記憶がないため余計にわからない。
「ほら、なんかおっさんに聞きに行ってただろ?」
「うーんと、ディフェルドさんの覚え書き?」
「あれ、あのおっさんのだったのか」
「うん。何が気になったの?」
「あの刻印の形さ、何とかの指輪の柄の一部に似てなかったか?」
「え?」
リーシャは指輪型の魔道具をいくらか持っているし、ルシアに勉強を兼ねて見せてもいた。なのでなんとかの指輪と言われても、どの指輪の事を言っているのかすぐにはわからなかった。
ルシアはおもむろにリーシャの手を指差した。
「それだよ、その指輪」
「これ?」
リーシャがカルディスの指輪を指差すとルシアが頷いた。
確かにこの指輪も魔道具ではあるはずなのだが、試しに魔力を注いだ際に反応することはなかった。
もしこの魔力刻印がディフェルドさんの書いた覚え書きにあったものと同じなら……
リーシャは急いで指輪を外して刻印が彫られている部分を覗き込んだ。
ルシアも横から指輪を覗いている。
「ほら、ここ」
文字のような装飾の中にではなく、緑色の石の奥に魔力刻印らしきものが見えた。
「たしかに似てるかも。よく覚えてたね、あんまり見てなかったのに」
「実は、リーシャが寝た後こっそり調べてた。わりぃな」
「……」
リーシャはいまだルシアの忍び込み癖が健在だったことに唖然とした。文句を言いたかったけれど、話を逸らしたくなかったため不満はいったん腹の底へと沈める事にした。
もしカルディスの指輪に刻まれている刻印を発動させるのにディフェルドの言った通り、複数の合成の魔力や闇や光の魔力を必要とするのならば、この指輪の力を試そうとした時に発動しなかったのは当たり前だったのだ。無属性でも、どの有属性魔法でもなかったのだから。
可能性が見えてくると、リーシャの良い点でもあり悪い点でもある、好奇心が湧きあがってきた。
「ねぇ、ルシア。試してみてもいい?」
「試すって何を?」
リーシャはディフェルドから聞いた仮説をルシアにも説明した。
ルシアは真剣に頷きながら聞いていた。理解はできたようだ。
「なるほどな。けど、大丈夫か? もし闇とか合成魔法の魔力刻印だったとして、言う事聞かせることできるのかよ」
「わからない。そもそも普通の有属性の召喚獣だったとしても、言う事を聞かせられるのかどうかも怪しいわけだし」
「うーん。俺らだけで止められるかもわからない生き物呼び出すのは良くねぇよなぁ」
「でも、ルシアは気にならない?」
「そりゃあ……まあ、気にはなるけどさ……」
2人は揃って腕を組んで悩み始めた。
最近のルシアはどうもリーシャに似てきて、好奇心が増している気がある。とくに自身の興味のある魔道具については尚更だ。
そんな2人の出す答えに「止めておこう」という言葉が出てくるはずはなかった。
先に口を開いたのはルシアだった。
「それなら、家の前でやろうぜ。兄貴も家にいるし、もしなんかあってもスコッチが手ぇ貸してくれるだろ」
「そうだね。そうしよう。そうと決まれば急いで帰ろ、ルシア!」
「おう!」
はやる気持ちが抑えきれない2人は家へと向かって走り出した。
2人は家の前ではなく少し離れた場所に作った空き地へと向かった。ここは竜の姿をした彼らが離陸、着陸をするために作った場所。家からは離れているけれどスコッチの住む池はほぼ真隣にあるため何かあったらすぐ手を貸してくれるはずだ。
「ここでいいよね」
「だな。リーシャ、わかってるとは思うけど慎重にな」
「うん。大丈夫。じゃあまず合成魔法を使う感じでやってみる」
合成魔法と一括りで言ってはみたものの、問題はどの属性の組み合わせで、どんな割合で合成した魔力を作り出すかだ。
あの図案は5属性の図案が均等に描かれてた。となると魔力も均等な割合でって考えるのが妥当かな。
リーシャは推測した通りの割合で魔力を魔道具へと流し込み始めた。魔力のバランスが崩れないように細心の注意を払った。
時間だけが刻々と過ぎていった。
既に魔道具に十分な魔力量は伝わったはずだ。しかし魔道具が反応する気配は微塵も感じられない。少しずつ魔力量を調節してみた。使用する魔力の属性も入れ替えた。それでも指輪に変化は起こらない。
リーシャは魔力を魔道具に送るのを止めた。
もしかしたら有属性の魔力を合成する方法では発動しないのかもしれない。
少なくとも柄の通り、有属性の魔力を均等に流して発動する魔道具ではないということはわかったのだから、わずかにだが前進したといえば前進した。
それでももしこれが合成魔法の魔道具ならば、どういう割合で魔力を注げばいいのか、答えに繋がる可能性は無数に伸びていることには変わりない。迷宮入りしたと言っても過言ではないだろう。
リーシャは組み合わせのパターンの多さに落胆した。
「うーん……」
「ダメそうか?」
「少なくとも均等な割合ではないみたい」
「なら、色々変えながら試してみるか?」
「それもありではあるんだけど……組み合わせのパターンがありすぎるかな。時間かかるし、さすがに魔力使い果たして倒れちゃうよ」
「なら、合成魔法の方は親方に相談しながら考えるか」
「そうだね……」
ディフェルドにもカルディスの指輪の事を教えない方がいいだろう。
つまりディフェルドには「実は謎の刻印に近い魔道具を見つけたので試してみました」なんてことは言えないため、彼が作った魔道具を使い、また1から検証を始めなければならない。
5属性同時って結構大変なんだよねぇ……
3つの魔力を合わせた合成魔法ですら使える者が一握りしかいない。5属性同時となると、この世界に数人しかいないのではないだろうか。
そう思いながらも、リーシャは検証を進める事にした。
「じゃあ次、闇の魔力でやってみる」
リーシャは深呼吸をすると、闇の魔力をカルディスの指輪に流はじめた。
今のところ反応はない。
むしろ本当に魔道具に魔力がいっているのか疑問に思えてくるくらい何の抵抗も感じられない。まるで魔道具を魔力が素通りしているような、そんな感覚すらする。
どうやら闇の魔道具でもないらしい。
諦めて魔力を止めようとした時、リーシャは気がついた。
魔力が止まらない⁉
また魔力を暴走させてしまっているのかと一瞬考えたけれど、魔力を暴走させた時とはまた違うようにも感じた。
「‼」
指輪にはめられた緑色だった石が段々と濁っているのを見て、もしかしたら”何の抵抗も感じなかったのは魔力が強制的に吸い取られていたからではないか“、そう仮説を立てたリーシャは急いで指に付けていた魔道具を外そうとした。
けれど外れない。
「どうしたんだ? そんなに慌てて」
「魔力が吸われてる!」
「なっ、暴走か⁉」
「違う! そんなにたくさんの魔力を使おうとなんてないのに、いきなり。いつもとなんか違う感じがするし。それにこれが外れない……!」
「まじかよ! くそっ!」
ルシアも指輪を掴み、力の限り引き抜こうとした。それでもやはりはずれはしない。
「い、痛い痛い痛い‼」
「我慢してくれ!」
リーシャとルシアが大騒ぎをし始めると、池の底からスコッチが顔を出した。
「どうしたんだい? 闇の魔力なんか使って」
「スコッチ! あんたから貰った指輪がリーシャの指から外れないんだ!」
「? それがどう関係してるんだい?」
家の中からはノアとエリアルが出てきた。
「何の騒ぎだ」
騒々しすぎたのか、ノアの眉間には皺が寄っている。
けれど今はノアの機嫌伺いどころではない。
「闇の魔力をこの指輪に流したら突然魔力を吸い取られ始めたみたいで、外そうとしてるけど外れないの!」
リーシャの指から外そうとしている最中、カルディスの指輪の宝石部分から黒い光が放たれ始めた。
中の獣が外へ出てこようとしているのかもしれない。
現れた光は地面の一カ所に集まっていき、それは大きい、大きい形をかたどっていく。
「ちょ、ちょっと待って。何この大きさ」
空を仰ぐように見上げなければその顔は見えないほどの巨大な生物が姿を現した。
だが果たしてそれを生物と呼んでいいものなのだろうか。
お読みいただきありがとうございます。
物語が慌ただしくなってきて、書くのが面白くなってきました! この辺の話はどうしても書きたかったシーンなので指が進みます。
ですが次回更新はいつも通り日曜です。ストックが奇跡的に生まれれば1話分どこかで更新するかもですが……
でわ、また次回!




