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魔道具技師への道 その4‐誇り‐

 リーシャの不満などないと言わんばかりの笑顔を見たディフェルドは、口元に弧を描き、隙間から白い歯を覗かせた。


「時間の無駄にならなかったんならよかった。んで? 俺からも質問なんだが、(あん)ちゃんの調子はどうだ?」


 いきなりの話題の変更に、リーシャは誰の何の調子について聞かれたのか即座に認識できず、返答を詰まらせた。

 ディフェルドが言う兄ちゃんというのはルシア。調子というのは魔道具を作る体験は順調か、という事で合っているのか自信がなく、首を傾げた。


「えーっと?」

「竜の兄ちゃんが今作ろうとしてる魔道具の出来具合だよ。嬢ちゃんの目から見て完成できそうかってことさ」


 問いかけの意味合いはだいたい合っていたのだけれど、それでもすぐには答えられなかった。

 リーシャは魔法が得意分野ではあるけれど、その発動の媒体として使われる魔道具に関しては素人だ。そんな素人目に完成できそうかどうかなどわかるわけはなかった。


「うーん、魔道具を作るのを見るのは初めてなので……どうなんでしょう。ルシアは器用そうに見えてそこまでじゃないから……完成させるのにかなり時間がかかるんじゃないかと。あっ、でも、紙みたいな魔道具? に描き写すのは上手くできてるなぁとは思いました。魔力を流したら破れてましたけど、今やってる練習は近いうちに終えられるんじゃないかなって思ってます!」


 リーシャはせめてもの期待も込め、気合いを入れて言った。

 ただ、やはり次の段階で躓いてしまうだろうという気はしていた。おそらく次は魔力を扱う事を重視する練習だ。

 以前の魔法の発動のさせ方を教えたとき、ルシアは実力の伸び具合が今一つだった。魔力をコントロールすることが苦手なのだろう。

 故に、センスが無いという事はないとは思うけれど、使い物になる魔道具を作れるようになるには時間がかかりそうだと思っていた。

 完成できそうだと言ったわけではないのに、何故かディフェルドは口角は上げ、感心している様子だった。


「そうか。それなりに描けるんなら出だしは上場だな。ここに来る前に練習でもさせたのか?」

「いえ、座学ばかりでそういったことはまったく」

「そうか、できねぇやつはへなちょこな柄ばっかり描き上げるからな。そうじゃなくとも、今の段階から次に進むのにも意外と時間かかる。中には半月の間ずっと描き写しの作業をやってるやつもいるくらいだ。それを考えるとルシアのやつは、今のところはいい線いってるって言えるな」


 ただ写すというそれだけの作業しかしていないのに、ディフェルドのルシアに対する評価は不思議と高評価だった。

 リーシャは絵や図を描き写すという作業をしたことはない。それがそんなに難しいことだとは思っていなかった。

 意外な評価に驚いていると、ディフェルドは何か考えるように口元に手を当てた。


「なぁ、魔力の扱いはどうだ? 何かで試させたことはないのか?」

「魔道具無しでの魔法の発動の練習をさせたことはありますけど、成功率は低かったですよ?」

「へぇ……コントロールに難ありなのか。だとすると、今日中に作り上げるのは、まあ、無理だろうな」


 口では無理だとは言っていたものの、ディフェルドはルシアが実際に刻印を彫りはじめるのを楽しみにしている様子だった。成功率は低いとはいえ、魔道具を使わない魔法の発動を成功させた事があるとわかり、期待の新人を見つけたと思っているのかもしれない。そう思ってもらえているのなら、それはリーシャにとっても自分事のように嬉しい事だった。

 まだ竜の兄弟の事を敬遠している人間が多い今、ルシアを個として認識してもらえているのだ。ルシアの実力をきちんと評価してもらえていると胸を熱くしていたリーシャは、安心した柔らかい笑みを浮かべた。


「今日中は無理でも、いつか魔道具技師として働けるくらいに上達してくれたらいいなって思ってます」

「そうだな。けどまぁ、そりゃ本人のやる気次第だからな。嬢ちゃんの話聞いた限りセンスがねえなんてことはなさそうだし、途中でくじけなけりゃ、かなりいい線いくと思うぞ」


 ディフェルドは初対面の時からは考えられないほど良い顔で笑っていた。リーシャとルシアへの不信感は完全に払拭されたのは間違いなさそうだ。

 こんな人がルシアの師匠になってくれればいいのにとリーシャは密かに心の中で思ったのだった。


「ありがとうございます。きっとルシアもそれを聞いたら喜ぶと思います。あの、見学させていただいてからずっと思ってたんですけど、魔力を使いながらあんな難しそうな図案とほぼ同じものを彫れるなんて、ここにいる皆さんはすごいですね。私は魔法を使うのは得意ですけど、魔力を操りながら刻印を彫るなんて繊細な事は出来る気がしないですよ」


 社交辞令も兼ねずっと思っていた本心を告げると、ディフェルドは目を輝かせながらズンズンとリーシャへと近づき、両肩を掴んだ。


「わかってくれるか‼」

「ふぇっ⁉ 何ですか⁉」

「おっと、すまん」


 ディフェルドは両肩の拘束を解いた。けれど距離は変えず、そのまま続けた。


「理解があってくれて嬉しいぞ。なにせ、『魔法を使うのと魔力刻印を彫ることの何が違うんだ?』って言ってくる奴も多いからな。まったく。ただ魔法だけを使うのと魔力を込めながらあの細かい模様を彫り進めることを一緒にするんじゃねぇってんだよ」

「そ、そうですよね」


 リーシャは距離の近さにたじろぎながら言った。

 ただ、こうして距離が近いのが気にならないほどに興奮気味になるのも、なんとなくわかるような気がした。

 魔法を追求していけば繊細さも必要にはなってくるけれど、魔道具を作る繊細さに比べれば簡単な事だ。それだけは魔道具を作った事のないリーシャでもわかる。

 魔法自体に長けたリーシャより、魔力量は少なく、有属性魔法を使えずとも多量の短剣を魔力で操る事のできるレインの方が魔道具技師としてのセンスがあると言える。

 故に魔力を使って魔法を使う事と魔力を利用して魔道具を作る事を同列に考えられるのは、魔道具技師としての誇りを持つディフェルドにとって耐えられない発言なのだ。

 リーシャが迫力に負け、困ったように笑っていると、ディフェルドは清々しい顔をした。


「よし、休憩ついでだ。ちょっと様子を見に行ってみるか」

「えっ。さっき仕事を始めたばかりなんじゃ……」


 ディフェルドが手掛けていた魔道具は、どう見てももう少しで完成というような状態には見えない。むしろあとどれくらい長い時間がかかるのだろうという感想が頭をよぎるほどに部品が床に散らばっていた。


 期限は待ってくれないとか言ってたけど……大丈夫なのかな?


 もしかしたら自分のせいで集中力を切らしてしまったのではないかとリーシャは申し訳なく感じた。

 少し浮かない表情をしているリーシャの考えをなんとなく察したらしく、ディフェルドはニッと笑った。


「問題ない。こいつは納期までだいぶ時間がある。今日1日やらなかったくらいで間に合わなくなるってことはないさ。ただ俺が早めに事を終わらせときたいってだけでやってるだけだからな」

「でも、これ以外にも何か仕事があるんじゃ……」

「いや、嬢ちゃんたちが来る前に今日中にやっとかねぇといけない事は終わらせてる。もともと、兄ちゃんには俺が指導するつもりだったからな。直前にティアに指導役を代われって言われて、押しに負けて変わってやっただけだから。それより、あいつ何かやらかしてたりしないか?」


 即答で「大丈夫です」とは言えなかった。

 とくにルシアに対し敵意を持っているわけではないし、危険を持ち込んできた様子はないのだけれど、指導に彼女が私情を挟んでいるような気配があるのはずいぶんと気になっていた。

 リーシャの様子を窺うディフェルドの眉間に皺が寄ったのは、それを察したからなのかもしれない。


「やらかしてはないですけど……」

「けど?」

「ルシアとの距離が無駄に近かったような気がします……」


 ディフェルドは片手で頭を抱えた。


「やっぱり……すまないな」

「いえ。謝るようなことでは……」


 誰がルシアに恋をしてもそれを咎める理由などない。好きになろうと思って人を好きになるわけではないのだから。

 それにリーシャ自身、自分の感情を決めあぐねている状況なのだ。

 そんな状況でスティアナにルシアに近づくな、など言っていいわけがないように思えた。

 リーシャが伏し目がちにそんな考えを巡らせていると、ディフェルドに軽く背中を押された。


「さて、こうしてても仕方ねぇ。とっとと兄ちゃんのとこに行こうか」

「あっ、はい」


 ディフェルドは足早に部屋の出入り口を潜り抜けていった。

 リーシャもその後を急いで追う。やや後ろから見えるディフェルドの顔はどことなく悩まし気な感じがした。


 ストロネシアさん……娘が竜の恋人になりたがってるって思ったから……やっぱり親としては複雑なんだろうな……

 お読みいただきありがとうございます。

 ちょっと今回は情景描写の辺りがいまいち納得いってないので後日修正したいと思います。

 次回更新は来週日曜にしたいところなのですが、今回平穏すぎて物語に波の無い内容だったので早めに1回更新したいところです。しかしながら、ストックが無いので日曜更新の可能性が高いです。

 でわ、また次回!

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