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巨大な訪問者 後日談2

 横で黙って2人の話を聞いていたエリアルがリーシャの顔を覗き込んだ。


「お話終わったの?」

「うん。スコッチさんも竜王様のことはわからないみたいだし、もういいよ」


 リーシャは竜王、というより白い体の竜についての情報を得たかった。けれど、その存在は人間には知られていないし、知っている可能性のあったスコッチも知らない事。

 他に聞くとするならば竜王本人かファイドラスと名乗っているあの火竜に聞くしかないけれど、彼らとコンタクトを取る方法はない。会えるかどうかもわからないのだから八方塞がりというものだ。

 リーシャが溜め息をつくと、スコッチが面白がるような声で話しかけた。


「で? その竜の何が知りたかったんだい? もしかしてまた告白でもされた? リーシャちゃんも隅に置けないねぇ」

「違うから」

「なんだ、残念。泥沼の愛憎劇の始まりかと思ったんだけどなぁ」


 スコッチは心の底から残念がっているようだ。

 リーシャには前々から思っていた事があった。今も話をして感じていた。ずっと池の底で暮らしていたわりにはスコッチは言葉を知りすぎている。


「愛憎劇って……そんな言葉どこで覚えてくるのよ……」


 リーシャがボソッと言った言葉をスコッチは耳聡く聞いていた。


「それは秘密。長年生きているとね、いろんなことがあるのさ。池の中に人間が落っこちてきたり、愚痴のはけ口になってあげてみたり。それこそ君たちみたいな珍しい関係を築き上げている子たちと仲良くなったり、なんてね」

「それって、実際にあったこと?」


 スコッチからの返事はなかった。

 言いたくないというより、答えを濁しつつも無言で肯定をしているような気がする。リーシャにはスコッチが笑顔を向けている、そんな風に見えていた。


「まあ、私のことはいいじゃないか。リーシャちゃんは竜王とやらの事が知りたくて僕を呼んだんだろ? 話を戻そうよ。で、君は竜王のどんな事を知りたかったの? もし昔ここに来たのが本当に彼だったなら、知りたいことの内容によっては多少なりとも答えられるかもしれない」

「ほんと⁉」


 諦めかけていたところにもしかしたらという期待が再び膨らみ始め、リーシャは目を輝かせた。


「性格とかそんなのはわからないけど、魔力に関することならもしかしたらわかるかもね」


 ろくに関わったことのない相手の事が何故わかるのかという疑問もあった。けれど、そんな事よりも、気になり続けていた事がわかるかもしれないと思ったリーシャは、はやる気持ちを抑えられなかった。


「そう! そういう感じの話が聞きたかったの‼ 1番聞きたかったのは竜王の能力について。帰り際の飛び去る姿を見て、どうしても気になる事があったんだ。竜の頂点に君臨するような竜だし、もしかしたらあの竜も異質な存在なんじゃないかって、そんな気がして……」


 リーシャが考え込むように難しい顔すると、スコッチも竜王に対して思うところがあったのか、今までの明るい態度から一変し、冷静な声音で問いかけた。


「何が気になった?」

「竜王様の体の色が白かったの」

「白だと何か問題でもあるのかい?」


 人の間ではずいぶんと知られている事ではあるのだけれど、魔物であり陸に上がれないスコッチが知っているわけがなかった。

 スコッチは頭を少し傾けていた。


「あのね、竜は体の色で得意としている魔法とか戦い方がある程度わかるんだ。赤なら炎の魔法を得意とするとか黄色なら雷の魔法を得意とするとか。けどね、白い竜は存在自体が知られてない。どんな能力を持ってるのか、何を得意とするかわからない未知の存在なの」

「なるほどね。体の色とか能力とかの関係は私にはよくわからないけど、たしかにあの竜の魔力は他にない感じがしたね」

「魔法が発動されてなくてもわかるの?」

「うん、わかっちゃうんだよね、これが」


 リーシャは驚いた。

 魔力を見ることができる人であっても、魔法を使わずただそこにいるだけの相手の魔力を見ることは出来ない。

 魔力は魔法を使おうとしなければ魔力は体外には漏れ出ることはない。そもそも体内で生成されたばかりの魔力は全て無属性の魔力でしかないため、どんな有属性魔法を得意としているかなどわかるはずはない。

 リーシャは実際に竜王が魔法を使う姿を見たわけではないため、竜王の持つ魔力を感じ取ることは出来なかった。だから、リーシャは竜王の能力について悶々と考えていたのだ。

 もしかしたらスコッチは魔力そのものを見ているのではなく、他の要因からそう言っているのかもしれない。

 リーシャの驚きを他所に、スコッチは自身の見解を述べ始めた。


「あの魔力は異質すぎて、私もその竜王以外には感じとれたことはないかな。上手く言えないんだけど、暖かそうなんだけど落ち着かないっていうか、むしろ恐怖を感じる。あとたぶん、リーシャちゃんの得意属性は相性悪そうだよね」

「私の? 得意属性?」


 リーシャは首を傾げた。

 大体の魔法は使いこなせているため、今まで自分の得意な有属性魔法など考えたこともなかった。


「あれ? 自覚なかった? リーシャちゃんが一番うまく扱えるのって闇の魔法だよ?」

「なんでそれを……」


 スコッチの言葉にリーシャは目を見開いた。

 自分ですら最近やっと闇の魔法について自覚したというのに、スコッチに何という事もなさげに言い当てられ体全体がゾッとした感覚に包まれた。


「だから魔法使ってなくても私にはわかっちゃうんだって」


 リーシャは戸惑い一瞬声を失っていたけれど、次の瞬間ほぼ無意識ともいえるような状態で、辺りに響くような大きな声で懇願していた。


「スコッチさん! そのことは絶対に誰にも言わないで! 闇は本来人間が使える魔法じゃないから、バレたらまずいの!」


 今のリーシャは少し考えれば思い至る事も考えられない程度には混乱していた。

 スコッチが人間と会話するなどリーシャ以外とはあり得ないし、誰かがこの話を聞いている可能性があるこの状況では口を噤むのが最善だったはずだ。

 リーシャの必死さにスコッチの瞳がほんの少しだけ大きく開いた。


「え? そうなのかい? 昔、闇の魔力を使える人間がいたから、てっきり使える人は使えるものだと思ってたよ」

「へっ……?」


 リーシャから呆気にとられたような声がこぼれ出た。


 闇の魔力を使える人がいた? 


 魔法学校で闇の魔力について話をした時に闇の魔法を使える竜の話は出たけれど、人間で使える者はいないと教員たちは言っていたらしい。

 なのにスコッチは闇の魔法を使える人間が“いた”という。

 つまりは遭遇したとまではいかなくとも、過去にスコッチが魔力を感じ取ることができる範囲にその人間が“存在していた”という事だ。

 リーシャが混乱して黙り込んでいると、スコッチがあわあわと焦り始めた。


「えっ、なに? 私、また何か変なこと言ったのかい?」

「それってほんと? もしかして、闇の魔法を使ってる人に会ったことあるの?」

「会ったというより、この辺りに来てたんだよ。まさに竜王らしき気配が現れた大戦中だったかなぁ。ああ、そうそう。そういえばもう1つ、闇の魔力を持つ大きな気配もあった気がするよ。たしか竜王と戦ってたのがそうだったような。うーん、あれも竜だったのかなぁ」

「ちょ、ちょっと待って! 1回頭を整理させて!」


 闇の魔力を持つのはアンデッドと呼ばれる魔物たちだけ。

 そう結論付けられていた事実が間違っていたという事をリーシャが自身の存在で覆し、さらにはその覆した事を肯定するかのように告げられたスコッチの発言を聞いて、心を乱されるなというのは無理な話だった。


「それが事実なら、何で知られてないの? 人や竜が闇の魔法を使ったってことがわかれば、普通は噂になるはず……魔法を研究する機関が黙ってないはずだよ」

「えー、そこまではわからないよぉ。もしかしたら、その人間、闇の魔法を人前で使ったことなかったんじゃないのかい? もう1つの気配も本当に竜なのかはわからないし、それにその辺にいた人間共々竜王に蹴散らされたみたいだから、ただ単に伝える人間がいなかっただけなんじゃないかなぁ」


 スコッチが話したことがすべて事実だとすると、これは1人で抱えるにはあまりにも大きすぎる事実だった。

 とはいえ、それを魔法の研究機関に伝えたところでリーシャの言葉だけでは信じてもらえるはずもない。

 信じてもらえるためにはスコッチの存在を公にしなければならないけれど、彼はそれを良しとはしないだろう。

 さらに言うと、下手をすればリーシャ自身が闇の魔法を操ることができることがバレ、自由を失ってしまう事だってあり得る。

 魔法を調べたり実験したりすることが好きなリーシャではあるが、さすがにこの話を聞くんじゃなかったと今さらながら後悔し始めていた。


「大丈夫? 顔色悪くない?」

「ちょっと頭痛くなってきたかも」

「それは大変だ。お家に戻ってゆっくりとお休み」


 少し勘違いをしているような言い方だったけれど、気分が悪くなってきたのは間違いない。リーシャは素直に頷いた。


「うん。そうする。私は家に戻るけど、エリアルはどうする?」


 エリアルも心配そうな表情でリーシャのことを見つめていた。


「僕はスコッチのおじちゃんのお話聞きたいからここにいたいけど……ねぇちゃん、僕も戻る? 看病する?」


 思考の幼いエリアルもスコッチ共々リーシャが頭を抱える理由などわかるわけはない。

 リーシャは力なくエリアルに微笑みかけた。


「大丈夫だよ。ゆっくりしてればすぐに治るから」

「ほんと? じゃあ僕、スコッチのおじちゃんと一緒にいるけど、何かあったらすぐに呼んで。今日はにいちゃんたちいないんだから僕を頼ってね」

「うん、ありがと」


 リーシャは2人に背を向け歩き出した。

 広がりつつある人外の繋がりと、彼らからもたらされる人間が知らない事実。

 その事実という情報はリーシャが認めたくなくて誰にも言えていない、ノアたちにすら打ち明けられずに隠し続けていることに結びつき始めているように思えた。

 そしてその事実が結びついてしまった時、周りがどう変化するのか。変わらずにいてくれるのか。

 リーシャは大きな不安に押しつぶされそうになっていた。

 お読みいただきありがとうございます。

 ちょっとした余談をさせてください。

 スコッチが言ったことが実話かどうかリーシャが聞いたけれどスコッチは言葉で肯定しなかった場面ですが、何故スコッチは何も言わなかったのか。それはエリアルに聞かせているお話に実話を織り交ぜているからです。スコッチはエリアルの主人公像を壊したくなくてあえて言葉で肯定しませんでした。おかげでエリアルは実話を織り交ぜている事には気がつかず、今も楽しくスコッチのお話を聞いています。

 次回更新は日曜予定。ですが、間に合うかどうかちょっと怪しいです。

 でわ、また次回!

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