巨大な訪問者 後日談1
よく晴れた日の昼下がり、リーシャとエリアルの2人が家の中で各々の時間を過ごしていた。
リーシャは先日現れた竜王について1人であれこれ考えているところだった。
その中でも特に気になる事があり、窓辺の椅子に座りモヤモヤしていた。
うーん。やっぱり、聞いてみた方が早いよね。
疑問を解決しようと出入り口へ向かっていると、背後からエリアルの声が聞こえてきた。
「リーシャねぇちゃんもどっか行っちゃうの?」
エリアルはリーシャが外へ出ようとする気配を感じ取り、眉を下げて寂し気に後を追ってきていた。
兄2人が揃って王都へ出かけ、リーシャまでも出かけてしまうとエリアルは家に1人取り残されてしまう。
甘えたがりのエリアルにはそれが耐えられないようだ。
リーシャはエリアルの不安を払拭するようにニコリと微笑んだ。
「出かけるわけじゃないよ。スコッチさんに聞きたいことがあるから聞いてくるだけ。すぐ戻ってくるから」
「ほんとに?」
「そんなすぐバレる嘘なんかつかないって」
「うーん、じゃあ僕も行く。僕もおじちゃんとお話したい!」
エリアルはリーシャを追い越し、我先にと家の外へと出て行った。
近頃、エリアルはスコッチが水面に顔を見せに出てくるのを見かけると、喜んで池の側へと駆けて行く。2人はそこで会話を楽しんでいるようだった。
話の内容まで詳しくは聞いていないけれど、どうやらスコッチが考えた物語をエリアルに聞かせているようだ。
上機嫌で池の端へと向かったところを見ると、今日も続きを聞かせてもらおうと思っているのかもしれない。
「先に私に話させてね。エリアルの方は話長くなるでしょ?」
「うん、いいよ」
リーシャに話しかけられたエリアルは体を反転させ、後ろ向きに池の方へと歩いた。池まであと2メートルもない。
「エリアル。前見て歩かないと池に落ちるよ」
「大丈……おっとと」
「ちょっと‼」
前を向いたエリアルは落ちる寸前でなんとか池の淵に留まった。
リーシャは慌てて手を伸ばし駆け寄ろうとしたけれど、エリアルが無事踏み留まるのを見ると胸を撫で下ろし、歩いて池の方へと向かった。
「だから言ったのに」
「えへへ」
池の端まで来ると、リーシャはスコッチのところに届く声を出そうとスゥっと息を吸い込み、空気を肺へ貯め込んだ。
声を出そうと口を開けた瞬間、隣にいたエリアルが先に耳を塞ぎたくなるほどの大音量で彼の名前を叫んだ。
「スコッチのおじちゃーーん!」
両手で耳を押さえたまま待機していると、静まり返っていた水面に泡がぷくぷくと上がって来た。池の底から巨大な影がリーシャの元へと近づいて来ている。
しばらくすると、水面ではじける泡を押しのける水の山が現れた。水の膜の中からスコッチのナマズのような顔が現れた。
「やあ、エリアルくん。話の続きが聞きたくて呼んでくれたのかい?」
「うん、聞きたい! けど今日呼んだのは、ねぇちゃんがおじちゃんに用事があるみたいだからなんだ。お話はその後に聞かせて」
スコッチの巨大な目玉がリーシャの方を向いた。
「リーシャちゃんが? どうしたのかな? 何か困りごと? また結界張るの?」
「ううん。違うよ。聞きたいことがあるだけ」
「私に答えられることかい?」
「どうだろ。あのさ、スコッチさんって竜王様と知り合いだったりする?」
スコッチの頭が少しだけ傾いた。
その動きを見ただけで、リーシャの疑問は解決した。
「竜王様? 竜の王様ってことだよね? 竜族に王なんて地位があること自体、私は知らなかったよ。というか、そもそも私、ずっとこの池の底にいたのに、水面より上に知り合いなんていると思う?」
「えーっとですねぇ……」
リーシャがこの場所に住み始めてから最近まで、警戒して1度も姿を現わさなかったのだ。異質で巨大な魔力を持つ竜王などという存在がこの辺りをうろついる時に彼が顔を出すわけがない。
ただなんとなく「いないと思う」と答えるは躊躇われたため、リーシャはあえてその部分を避けて話を進めることにした。
「スコッチさんはこの前ここに変わった訪問者が来たの気付いた?」
「うん。あれだけ存在感があれば池の底からでもさすがにね」
「その訪問者が竜王様だったの。なんだかスコッチさんのことを知っるような言い方してたから、もしかしたら知り合いなのかなぁって思って」
スコッチの既に限界まで開いたような丸い目が、さらに見開かれたように見えた。
「ああ、やっぱり。この前来たの竜だったんだね」
「何か思い当たる事があるの?」
「うーん、思い当たるというか。ただ、エリアルくんたちと似た気配だったからそうかなぁとは思ったくらいだよ。だから、残念ながら私から得られる情報はな……」
スコッチの口の動きが何かを思い出したようにピタリと止まった。
制止したまま瞳孔は上を向いていて、考え事をしているかのようだった。
「どうしたの?」
「んー? そういえば昔この辺りにあの竜と似たような気配の生き物が来てたことがあったような……」
スコッチは唸りながらその時がいつなのか思い出そうと努力をしていた。
そんな彼の傍らで、リーシャも何か引っかかりを感じていた。何かがかみ合いそうなのだけれど、結論に辿り着けずもどかしさを感じた。
そしてふと気がつき、前のめりに尋ねた。
「もしかしてこの辺りが戦場になってた時?」
竜王はこの辺りが戦場になったときからスコッチがこの池にいたことを知っていた。スコッチが竜王の気配を感じ取ったとしたらその時に違いない。
「あー、そうそう、たしかそうだよ。人間たちの声と魔法のぶつかり合う音がうるさかったんだよね。ただね、昔のことだし、その時の気配の生き物はかなり怒気が混ざってたから、絶対に同じ竜だとは言えないんだよねぇ」
「竜王様が? 怒ってたの?」
竜王とはつい最近出会ったばかりではあるけれど、リーシャは彼のことは異質な存在だけれど、おそらく基本的には心穏やかな竜だろうと認識していた。なので、気配が大きく変わるほどに怒りをあらわにしていたという事がかなり意外だった。
スコッチの頭部は縦に揺れた。
「うん。何があったのかは知らないよ。私も自分の身を守るので必死だったからね。今ではこんなに大きな体になっちゃったけど、あの頃は少し大きめの魚と同じくらいの大きさしかなかったから。住処を守るって意味でも、飛んでくる魔法とか武器とかからこの池を守らないといけなかったわけだし」
「この池を? スコッチさんが守ったの?」
「うん」
スコッチの住むこの池は決して小さくはない。巨大なスコッチが泳げるほどに広く、深さもかなりあるようだ。
この池を、小さな体の時に守っただなんて……
それが事実であるなら、体が巨大化し魔力も巨大化しているであろうスコッチとは絶対に敵対しないようにしようと、リーシャはひっそりと思った。
そんなリーシャの考えを知らないスコッチは、どうかしたのかいというように頭を傾げていた。
「あっ、そういえば」
スコッチがまた何か思い出したように声を出した。
「どうしたの?」
「君にあげた指輪もその戦いのときに降ってきたような気がする。あー、そうそう思い出した。たしか、その竜王とかいう竜の気配ともう1つ気味の悪い気配をかなり近くに感じた時、たぶんその2体の魔法がぶつかり合ったんだろうね。あの戦いの中で一番の爆発が起きたんだよ。その後しばらくして私の作った結界をすり抜けてここに落ちてきた。あの頃の指輪は魔力を帯びていたからすぐに目に留まったんだ。じゃなきゃ、そんな小さい物が池に落ちて来たって気づくわけないよね」
「竜王様、何でそんなに怒ってたんだろう」
「さあ。直接見てたわけじゃないから、そこまではわからないかな」
「そっかぁ」
竜王についての収穫はほとんどなく、これ以上は望めないだろうと感じたリーシャは肩を落とした。
お読みいただきありがとうございます。
結局後日談入れることにしました。よくよく考えたらこの場面にわりと重要なこといっぱい入るなぁと思ったので必死で書きました。2話構成です。今回の内容は分けて少し短めになってるので、次回更新は日曜日を待たず、近いうちにとお伝えしておきます。
でわ、また次回!




