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巨大な訪問者 その3‐敵か味方か‐

「竜王って、王都で会った国王ってのと同じで、竜の国の王様って事だよな? そんな奴がこんなとこまで何しに来たんだよ。まさかあの雷竜っていうやつを殺したから復讐ってやつをしに来たのか?」


 ルシアが緊張した面持ちで、低く唸るように言った。

 ピリピリとした重たい空気にリーシャは息苦しさを感じていた。

 竜王は緊張と警戒で口を閉じて固まってしまっているリーシャたちに向けて、相変わらずの穏やかそうな声を発した。


「私はね、人間側についた同胞がどんな子たちなのかを見に来ただけだよ。助言が必要な状況になっているかもしれないし、それとは別に確かめたいこともあったから」


 そう言った竜王の目線はリーシャの方を向いていた。

 それに気付いたリーシャは、どうやら確かめたいことというのは自分に関する事なのだとすぐに理解した。何か気に障る事を何かしでかしてしまっていたのだろうかという不安が襲い掛かってくる。

 けれど、竜王がリーシャを見つめる瞳は懐かしむような、どこか悲しく感じているような視線だった。

 

「あの、私に何か?」


 リーシャは視線の意味がわからず、困惑気味の声で問いかけた。

 場の空気を和らげようという竜王なりの配慮なのか彼の口は弧を描き、これまでで一番親しみを持てる表情をしていた。


「いや、用事があるわけではないよ。ただ、ファイに言われたことを確かめてみたくなっただけ。君を見ていると懐かしい奴を思い出すって言われてね。彼もそれなりに古い世代の竜だから、アイツの事を知っていたんだ。実際に君に会ってみたら全くその通りだったものだから、つい懐かしくて眺めてしまった。とはいえ、女の子をじっと見るのは失礼だったね。ごめんね」

「い、いえ……」


 見つめられていた理由はわかったけれど、また1つ謎を投下されてしまった。


 アイツ?


 この場では竜王にしかわからない回答にリーシャは眉をひそめた。

 いったい誰に似ているというのかさっぱりだった。

 ただ言えるのは、その似ているという相手は人間ではなく竜。誰なのか聞いたところでリーシャにはわからないだろうという事だけだ。


「見られるのは別にかまわないんですけど、アイツっていったい。その懐かしい方はそんなに私と似ていらっしゃるんですか?」


 途端に竜王の表情が曇った。

 その顔でなんとなくアイツと呼ばれる相手の今を察したリーシャは慌て、自分の問いを打ち消そうと言葉を続けざまに言った。


「あの、言いにくいことでしたら聞き流してください」

「いや、問題ないよ。アイツっていうのはかつて共に戦火を生き抜いた同胞の事だ。人の手に落ちてしまって今はもういないけれど。思い出すと言っても、顔が似てるとかそういうのじゃなくて、雰囲気とでもいうのかな? ただ君から何となく、アイツを思い出させるような懐かしい気配を感じるんだ」


 リーシャは目を伏せた。


 やっぱり……


 竜王は寂し気に、そして懐かしむような事を言っていたのだ。少し考えればアイツという竜の今はわかったはずだ。

 リーシャは不躾な質問をしてしまったと申し訳なく思った。


「……すみません。余計なことを聞いて」


 竜王はわざわざ懐かしいという竜と似た気配の人間を訪ねてきたのだ。よほど親しい仲だったのだろう。

 知らなかったとはいえ、自分の一言がきっかけで仲の良かった竜を人間に殺されたという思い出したくもない記憶を思い出させ、不快にさせてしまったのではないかと思ったリーシャは謝らずにはいられなかった。

 けれど実際には竜王は気分を害した様子はなく、口元は弧を描いていた。


「もうずいぶん昔の話だ。気持ちの整理もずいぶん前についているから気にしなくてもいいよ。むしろこっちが謝るべきかもしれないね。かつて生きていた竜と重ねられていい気はしないよね」


 たしかによくわからない、この世にいない竜に似ていると言われるのは何とも言えない気持ちではあるけれど、別に嫌というほどではなかった。

 ただ、1ヶ月ちょっと前にも他人に似ていると言われた事を思い出し、複雑な気分にはなった。


「いえ、大丈夫です」

「本当に?」

「は、はい……」

「なんだか複雑そうな顔をしているけれど」


 どうやら考えていたことが顔に出てしまっていたようだ。

 リーシャはぎこちなく笑った。


「本当です。ただ、最近誰かに似てるって言われることが多いなと思っただけなので」

「それならいいんだ。同胞に似ていると言われたのがよほど不快だったのかと思ったよ」


 竜王は本当に心配していたようで、リーシャが不快になったわけではないとわかって安心したように微笑んでいた。

 リーシャは竜族と敵対関係にあるはずの自分を気に掛けるような言葉をかけてくる竜王の事が不思議だった。友を殺した相手と同じ人間であるリーシャを嫌悪していてもおかしくはないというのに。


「……あの」

「なんだい?」

「私のことが憎くないんですか? 竜王様のお友達を殺した相手と同じ人間なんですけど」


 思いもよらない質問だったのか竜王はパチパチとさせ、フッという声を漏らした。


「もちろん人間は嫌いだし、憎いとは思う。けどね、彼を手に掛けたのは今を生きている君たちではないから、君たちが手を出してこない以上は私から手出しをするつもりはないよ。なにより同胞たちが添い遂げたいとまで思う相手を手に掛けるなんてことはしない」

「それじゃあ、竜王様は本当に私たちを消すために来たんじゃないんですね?」


 竜王はコクリとゆっくり頷いた。


「最初からそう言ってたはずなんだけどね。やっと信じてくれたと思っていいのかな? そこの彼が気にしていた殺された子については先走ったあの子の自業自得だから、私がそのことではとやかく言うつもりはないよ」

「そうですか」


 不安要素が潰されリーシャたちは一安心だった。

 客室に充満していた張り詰めた空気が一気に和らいでいった。竜王もその気配を感じ取ったようだった。


「さて、私に対する警戒心も解けたようだし、本題に入ろうか」

「本題?」


 リーシャはこれ以上何を話す必要があるのだろうと首を傾げた。


「私は“君たちのことを見に来た”以外の目的もきちんと話したはずだよ?」

「え?」


 リーシャの頭の中では、竜王は仲間の報復に来たのではという懸念が離れず、それ以外の情報は頭の片隅へと追いやっていた。

 思い出そうと「うーん」と唸りながら考えるけれど、それらしい記憶は引き出せない。

 リーシャはそんな様子だけれど、ノアは竜王がここへ来た目的をきちんと覚えていた。


「ということは“助言”というのが本題なんだな」


 竜王は正解の2文字を笑顔で表した。そしてリーシャに問いかけた。


「君は彼ら兄弟のうちの誰かと番うつもりなのかい?」

「へ⁉」


 訪れるタイミングでも見計らっていたのではないかと思うほどタイムリーな本題に、リーシャはドキリとした。

 ノアとルシアの方を横目で見ると、2人は緊張した面持ちでリーシャの出す答えを待っていた。竜王の問いに対する答えはノアたちにとって今1番知りたい答えなのだからそうなるのも当然だ。

 けれど、つい先ほどぐるぐると考え、答えが出なかった事をこの瞬間に答えられるはずはない。

 リーシャは期待して待っているところ申し訳ないと思いつつ、俯き気味に口を開いた。


「それは。まだ考え至ってないです」


 その答えにノアはだろうなという顔をし、ルシアはがっくりと項垂れた。

 竜王はリーシャの回答に対してとくに反応は示さず、続けてノアたちへ問いかけた。


「それじゃあ君たちは?」

「聞かれるまでもねぇよ。俺らはリーシャ以外と番うつもりはない!」


 ルシアがそれ以外の答えなどないと言わんばかりに、はっきりと言い切った。

 一瞬ノアも口を開きかけていたけれど、ルシアの回答に口角を上げ、口を閉じた。ルシアの熱量だけでも自分たちの感情の大きさは伝わると思ったのかもしれない。

 近距離でその大きな声を聞いたからか、今まで平然とした態度だった竜王は目を丸くした。そして目元をやわらげて微笑んだ。


「そこまで彼女のことを好いているんだね」

「もちろん。兄貴もエリアルも、俺ら兄弟は全員リーシャ以外はいらないって思ってる。な?」


 ノアとエリアルは無言で頷いた。

 こうやって3人は、はっきりと言葉で、態度で示してくれるのに、答えを決めかねている現状がさらに申し訳なく感じてくる。

 3人の答え聞いた竜王はというと困ったと言いたげに頬を指で掻いた。


「うーんと。これは手遅れかもしれないね」

「手遅れ?」


 何が手遅れなのか会話から読み取れなかったリーシャは首を傾げた。

 竜王の顔が薄笑いしているような表情へと戻った。


「その話をする前に聞いておきたいんだけど、君は将来家族を作るとしたら、子供が欲しいと思っているかい?」

「こど、子供ですか?」

「そう。子供」


 リーシャは頬を染めて戸惑った。

 竜王の言いぶりからして意味があって聞いているというのは間違いない。

 これまで恋愛という感情を持ったことがなかったためよく考えた事はなかったけれど、大人になったら結婚して子供もできて、というような漠然としたイメージがリーシャの頭の中にもあった。


「それは、まあ」

「なら、彼らとの関係はここで絶った方がいいね」

「……なんで、ですか?」


 気恥ずかしい話をしていたせいか突然の話の真意が読み取れず、リーシャはただそれしか返せなかった。

 ノアたちと離れるという選択肢を切り捨てていたため、意味の分からないその“助言”に「わかりました」と答えられるわけがない。けれど無意味に離れさせようとしているようにも思えず、「嫌です」とも言えなかったのだ。

 無意識に拳に力を入れて竜王の回答を待っていると、彼はさも当然なことを言うかのように口を開いた。


「それはね、人の姿をしていても人間と竜の間に子は生まれないからだよ」

 お読みいただきありがとうございます。

 人間と竜の関係性を書くのがとても楽しくてキーボードを打つ指が進みます。ほんとに楽しいです。けど、情景描写を書くのが苦手なのでセリフだけが先へと進んでいる状態です。という状況なので次回更新はいつ戻り次の日曜日予定です!

 でわ、また次回!

 

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