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巨大な訪問者 その2‐怪しい人‐

「えっ……?」


 その男性の態度があまりにも親し気だったためリーシャは困惑した。


 あ、怪しすぎる……


 知り合いでもない怪しい相手を、そう易々と招き入れるわけにはいかない。そう思いながらも「嫌です」の一言が口にできずにリーシャは狼狽えていた。

 窓の外の男性がそう思わせる雰囲気を漂わせているからだろう。


「どうしよう……」

「入れない方がいいんじゃねぇか?」


 ルシアが眉間にしわを寄せて答えた。


「私もそう思うんだけど……」


 4人はもう1度窓の外を見た。

 男性は未だに薄笑いのような笑顔を浮かべ、招かれるのを待っている。

 そのまま男性を見続けていると、先ほどまではなんとなく逆らってはいけない相手程度の感覚だったものが、彼は自分よりはるかに力のある存在であると確信に近い感覚に変わっていた。

 男性はうっすらと魔力を纏っている。ただ、なんとなくその量はほんの氷山の一角程度のわずかのもので、あの体の内に膨大な魔力をしまい込んでいるように感じた。

 背中が汗でべっとりとしているような気さえしてきた。

 もし機嫌を損ねれば、4人ともただでは済まないのは間違いない。


「やっぱり……断ったらいけない気がする」

「ああ、俺も同感だ。あの男、隠してはいるようだがかなりの魔力を持っているんじゃないか?」


 ノアのその意見にリーシャは頷いた。

 空気が張り詰める中、リーシャはガラス越しに男性に話しかけた。


「あの、入口のドアを開けるので、反対側に回ってもらってもいいですか?」

「……ありがとう」


 男は目を細めて微笑むと、言われた通りに入口のある方へ向かって歩いていった。

 リーシャは緊張した面持ちで、ノアたちのいる方を向いた。


「とりあえず客室に案内しよう」

「わかった」


 リーシャたちは警戒しながら、怪しい男が待つ入口へと向かった。





「じゃあ、開けるね」

「ああ」


 リーシャはドアの傍で小さくノアたちに声をかけた。大きく息を吐いて恐る恐る扉を開ける。

 扉のすぐ近くに男性は立っていた。

 近距離に立って初めて、その男性がノアやルシアよりも高身長だという事がわかった。それでだけでも物怖じしそうになる。

 男性が相変わらずの表情で挨拶をした。


「こんにちは」


 何を考えているのかが全く読み取れなかった。

 リーシャは冷静さを崩さないように気を張って挨拶を返した。


「こんにちは。こちらへどうぞ」

「では、お邪魔するよ」


 リーシャは先導して客室へと案内した。

 ソファに座ってもらうように促したところでエリアルがお茶を運んできた。

 机にカップを置こうとしているエリアルの手はわずかに震えていた。エリアルもこの男性が危険である事を感覚的にわかっているのだろう。


「ど、どうぞ」

「ありがとう」


 男性は微笑んだけれど、エリアルはぺこりと頭を下げるとルシアの後ろへ飛んで逃げてしまった。

 警戒されていることはわかっているようで、男性はエリアルのそんな行動を気にする素振りはなかった。平然と出されたカップに口をつけていた。

 口を離すとノアたちに視線を向けた。


「君たちは、仲がいいんだね」


 そう声をかけられたけれど、3兄弟たちは口を開かなかった。

 怪しい人物を警戒しての事なのだろう。下手に自分たちの情報を教えないようにしようとしているのなら当然の反応ではある。

 ただリーシャとしては、気分を害して本性を見せてくるのではないかと背筋が凍るような思いのする時間だった。

 会話が絶たれ、しばしの沈黙が流れた。

 男性の正体がわからないまま、この居心地の悪い空間にい続けることに耐えられなくなったリーシャは、思うままに口を開いた。ノアたちも気になっている事だろう。


「あの、あなたは誰ですか?」


 男性が持っていたカップがカチャンと小さな音と共に、ソーサーの上へと戻された。

 ただ者ではないオーラを纏う男性の前では、ただ陶器が触れ合った時のわずかな音でさえも不安を駆り立てる要因だった。

 緊張の面持ちで凝視していると、男性が微笑んだまま口を開いた。


「誰だと思う?」

「えーっと……?」


 全く覚えのない相手にそう聞かれても、わかりませんとしか答えようがない。

 けれどそんな聞き方をしてくるという事は、会ったことはなくとも想像は付く相手という事のはずだ。リーシャは思い当たる出来事はないか記憶を辿った。

 しかしながらどれだけ考えてもリーシャに思い当たる節はなかった。


「あっ‼」


 突然叫んだルシアの声に、リーシャは肩を震わせた。


「どうしたの?」

「リーシャ、離れろ! そいつ竜だ!」

「え?」


 慌てたルシアに手を引かれて立ち上がると、彼の背中の後ろへと隠された。


「思い出した! この感じ! 森で会った火竜とか、この前戦った雷竜(いかづちりゅう)と同じ気配だ!」


 ルシアの言葉にノアも納得したようだった。一瞬目を見開いたかと思うとすぐにリーシャとルシアを庇うように前へと出た。そして牙を剥き、より強い警戒心を男性へ向けた。


「何しに来た」


 男性はノアとルシアの2人から威嚇されている中、竜であることを否定もせず、変わらぬ笑顔のまま2人の事を見ていた。実力は自身の方がはるかに上だと確信を持っているに違いない。

 ノアとルシアはこの男性より力が劣ると思われる雷竜にですら2人がかりでやっとだったのだ。人の姿を模したこの竜の真の力がわからない以上、無暗に戦いを仕掛けるのは愚策でしかない。


「ま、待って2人共!」


 リーシャはノアとルシアの服を引っ張って制止すると、2人の間から竜と思われる男性を見た。


「ほんとに、あなたは竜なんですか?」

「ほんとさ。と、口で言って君は信じられるかい?」

「まあ。絶対に嘘だとは言い切れないですね。ここに3例ほど、同じ状況の子たちがいますから。逆に聞きますけど、あなたはそれを証明できますか?」

「ははっ。まあ、そうくるだろうね」


 男は目を瞑ると、すぐに開いた。

 リーシャは開かれた瞳を見て息を呑んだ。

 先ほどまでの瞳は黄色という珍しい色をしていたものの、人と変わらない形をしていた。それなのに、今では黄色の瞳の中心に、縦長の鋭い瞳孔が浮かび上がっている。それは竜の瞳と同一のものだった。


「これでいいかな?」


 男性は瞳を人間の形に戻すと、机に置いてあったお茶の入ったカップを再び手に取って口へと運んだ。


「はっ、はい。あの、それであなたはなぜ人の姿でここに……」

「何故という問いの答えは、こんな小さな住処には元の大きさのままでは入れないから。警戒されないためには竜より人間の姿の方がいいかと思ったのだけれど……」


 男性はリーシャたち4人を見ると、少し困った顔をした。


「あまり効果はなかったようだね」


 どうやら敵意を持ってやってきたわけではないとわかり、リーシャはほっと胸を撫で下ろした。

 しかしながら、それはそれでなぜリーシャたちの前に姿を現したのか、理由に全く見当がつかなかった。


「……それじゃあ、何の用でここに? 私たちのことを知っていて来たんですよね?」


 人の姿をした竜は、しつこく一方的に質問を受けているにもかかわらず、嫌な顔一つしなかった。わずかに上がっている口角を下げることもない。


「ファイに君たちのことを聞いたからだ」

「ファイ?」


 全く聞き覚えのない名前をさも知っているだろと言わんばかりの態度で言われ、リーシャは眉をしかめた。


 話が見えてこなさすぎる……ファイって誰? そもそも、敵意があるわけじゃないのに、話を聞いたからってだけで何で私たちの前に姿を現す必要があったの? 


 核心をつかず、相手に少しずつ答えを探らせるような話し方に、リーシャは多少なりとも苛立ちを覚えていた。

 そんなリーシャの心の内を知ってか知らずか、訪問者は更なるヒントをチラつかせた。


「ファイドラスと名乗っているらしい。私はファイと呼んでいるけどね。君も会っているはずだよ。そしてそこの君も」


 彼はルシアの方を見ていた。


「お、俺も?」


 ルシアは自身を指差して目を見開いた後、全力で思い出そうとしているのか唸りながら考え始めた。

 リーシャも自分たちの事を竜の彼に教えてしまった相手とは誰なのか、記憶を辿り始めた。


 私とルシアが会ったことのある相手。ノアとエリアルが知らない相手。うーん。というか、今、目の前にいる相手は人間の姿をしているけど正体は竜だよね? 竜と親しい相手なんて、私の知り合いにはいないし。私だって親しくできてる竜っていったら、ノアたちくらいしか……ん? あれっ、そういえば……


 ルシアの方は未だ見当もつかないようでうんうんと唸り続けているけれど、リーシャはファイというのが誰の事なのかわかった気がした。


「ファイっていうのは、竜の国を追放された火竜……のことですか?」

「正解だ」


 男性の姿をした竜の口角がわずかに角度を上げた。

 まさかここで火竜の話が出てくるなど、リーシャは夢にも思っていなかった。あの火竜に対して何かやらかしたわけでもないのに、別の竜がこうして現れる意味がわからない。

 ただこうして話に上がってきたからには、悪さをしていないか心配していたリーシャがあの火竜の所在について気にならないわけがなかった。


「えーっと、あの、ファイさん? はお元気ですか?」

「さあ? だいぶ前、1度だけ私たちの国に帰って来た時に会っただけだから。その時は元気そうにしていたけど、その後のことは知らないよ。本来なら追放された者を招き入れるわけにはいかないんだけど、やけに熱心だったからその時だけ国に入ることを許可したんだ。自身に起きたことや君たちのことを、どうしても私に伝えたかったみたいでね」


 すべての権限を持っているかのような言いぶりに、リーシャのこの竜に対する警戒心はますます高まっていた。


「あなたはいったい……」

「考えなさい。君は彼から聞いているはずだ」


 目の前の相手は相変わらずヒントのみしか教えようとはしない。

 リーシャはこれまでの話を整理し、あの時の火竜との会話を思い出してみた。

 記憶から引き出される会話は、主にあの火竜に起きた出来事の話と竜が人間の姿に擬態する原因に関することについてばかり。リーシャはさらに記憶をたどった。


 火竜と会話したあの時、他に話題に上ったのは若い世代が攻撃を仕掛けようとしてるってことくらいしか……けどそれは特定の相手についてじゃないから、この竜の正体には関係ない。うーん。それ以外で他の竜について聞いたような覚えは……あっ……


 竜の擬態について話をしていた時の事。

 火竜とノアたち兄弟以外にもう1匹、人間に擬態できる特定された竜の存在を教えられたのを思い出した。

 リーシャは思わず1歩後ずさった。


「リーシャ? どうしたんだ?」


 ルシアはその答えに辿り着かなかったのだろう。だからリーシャが動揺している理由などわかるわけはない。


「最古の竜……竜王……」


 リーシャから無意識に出た言葉を聞いた竜王と思しき竜は、先ほどまでの薄笑いのような表情ではなく、納得のいく答えに満足したかのように、顔全体を使ってにっこりと微笑んだ。


「そうだね。その名称が人間の言語の中では最もふさわしいかもしれないね」


 男の表情とは反対に、リーシャの顔からは血の気が引いていった。心臓は、はじける直前なのではないかと思うほどに鼓動を大きくしている。

 彼は王と称えられるような竜だ。

 おそらくどの竜よりも力のある存在。そして、この男の機嫌を損ねれば、即人間と竜との戦争が起こりうる可能性だってなくもないのだ。

 お読みいただきありがとうございます!

 1年前、よりちょっと短いくらいにちらりと名前だけ出てきた竜王登場です!(ということは連載初めてそろそろ1年経つのでは?)あの頃から竜王を出すつもりはあったのですが、設定を全く考えてなかったので今必死で設定を固めているところです。楽しい。

 次回更新は次の日曜更新予定です。

 でわ、また次回!

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