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魔法学校 その9‐異質な魔法‐

 目を覚ましたリーシャの視界に入ってきたのは、どこかの部屋の白い天井だった。


「ここは……」


 起き上がって見回すけれど、白い布で遮られていて部屋がどうなっているのかはわからなかった。

 リーシャは記憶をたどってみた。

 思い出せたのはメガレットロンバーに向かって感情任せに魔法を放ったところまで。その後の記憶がない。

 そうだとするとここは医務室で、あの後倒れた自分はここへ運ばれてきたのだろうと予想を立てた。


「ノア? ルシア? エリアル?」


 リーシャが3人を探すように呼び掛けると、空間を隔てていた白いカーテンが開かれた。


「リーシャ、起きたんだな。大丈夫か? まだ寝ててもいいんだぞ?」


 ルシアは仕切られていた空間に入ると、リーシャが座っているベッドの端へ腰を下ろした。

 その後に続いて入って来たエリアルはリーシャの腰にしがみつき、眉尻を下げてリーシャの顔を見上げた。


「ねぇちゃん、大丈夫?」

「うん、大丈夫。それより、私が気を失ってからどれくらい経ってる?」


 リーシャの問いに、ルシアはカーテンの向こうの壁に掛けられている時計を見た。


「んーと、ほぼ1日くらいだな。ここに寝かせたのがちょうどこのくらいの時間だったし」

「そっか」


 丸1日経った今、2人が落ち着いた様子でこの場にいるという事は、無事メガレットロンバーは討伐できたという事だろうとリーシャは思った。

 けれど実際、メガレットロンバーを倒せた記憶がないため本当にそうなのか自信はない。現状、こうして1人ベッドの上で休んでいてもいい状態なのかわからず、落ち着かなかった。


「私が倒れた後どうなった?」

「あのでっけぇ魔物はリーシャの魔法で跡形もなく消えたぜ」

「よかった」


 リーシャの口元が緩んだ。それを聞けただけで一安心だった。

 けれどルシアの表情はリーシャと対照的で、言うべきかどうかを悩むように曇っていた。

 そして言いにくそうに口を開いた。


「あとさ、足やられた先生のことなんだけど、無事ではあるけど、やっぱりさ、どうにもなんねぇって」

「そっか……」


 リーシャの頭の中でシーラの太ももの先に続いていた原形をとどめていない赤い肉片がよぎり、罪悪感で手にキュッと力がこもった。

 そんな些細な仕草を見逃さなかったルシアの手が、そっとリーシャの手の上に重ねられた。

 いきなり視界に入って来た手に驚いたリーシャは、腕を辿ってその先に続いている顔を見た。


「どうしたの?」

「先生たちから伝言。リーシャが悪いわけじゃないから思いつめるなって。むしろ、こっちで対処しないといけないことなのに巻き込んで申し訳ないとも言ってた」

「そう」

「あんま気にすんな、って言ってもリーシャのことだから気にするんだろうな。そうだなぁ。なんていうか……俺らも先生たちもリーシャのことを責めてるやつはいないってことだけは覚えといてくれよ。ずっとそんな顔されてると俺らまで悲しくなっちまうから」


 そう言うルシアの眉尻は下がり、困ったように笑っていた。

 ベッド横の椅子に座り直したエリアルも口をギュッと堅く結んだまま、「早く元気になって欲しい」と目で訴えかけているようだった。

 リーシャにとって、今直ぐ気にしないようになるというのは無理なことだ。あの時すぐに気持ち引き締めて相手に挑んでいれば、もっと別の結果に辿り着けていたはずだとどうしても考えてしまう。

 だからといってこのまま悔やみ続けて、魔法使いであることをやめてしまうのも違うような気もした。

 以前の魔力の暴走させた時のように、またふさぎ込んでしまってはいけないと思ったリーシャの口元は静かに弧を描いた。

 無理やりな笑顔ではあったけれど、立ち直ろうとしているリーシャにルシアの表情も緩んだ。


「ん! 今はそれでよし! それでこそ俺らのリーシャだ!」

「……ありがとね。ところで、私をここに運んでくれたのはルシア?」

「ああうん、そう。いきなり倒れるから、かなり驚いたんだからな」

「そっか。ごめん、ありがとね。重かったでしょ?」

「たいしたことねぇよ。俺は力だけだったら兄貴にも負けてないからな」


 ルシアは大量の重たい荷物を抱えて鍛え上げられた二の腕を軽く叩きながらニッと笑っていた。

 けれどすぐに真剣な表情に変わった。


「倒れた理由は、最後に使った魔法が原因かもしれないって聞いたんだけど、そうなのか?」

「まあ、そうだろうね。いつものことだし」


 これまで何度かあの魔法を使ってきたけれど、いつも発動直後からの記憶が途切れていた。


「なあ、リーシャ。あの魔法、ヤバい魔法なのか?」

「よくわからない。魔法をいろいろ試してたら偶然使えるようになっただけだから。毎回使った後倒れちゃってるみたいだし、なるべく使わないようにはしてるんだけど……たまに衝動に駆られて使っちゃうんだよね。先生たちは何か言ってた?」

「言ってたっていえば言ってたけど、詳しくはわかんねぇらしい……」





 1日前――


「リーシャ! おい、しっかりしろ! リーシャ‼」

「ねぇちゃん死んじゃだめぇぇ」


 ルシアとエリアルは取り乱し、目を閉じたリーシャに向かって必死に呼びかけていた。


「どいて!」


 ちょうどステファニーを送り届けて戻って来たナタリーが慌ててルシアを押しのけ、リーシャの手首に指をあてた。

 心臓は正常に鼓動していた。胸の隆起もしっかりとしている。

 

「よかった……」


 教え子が無事だとわかったナタリーは安堵の息をこぼした。

 ナタリーが言ったそれだけの言葉では安心できなかったルシアは彼女の肩を掴んだ。


「なぁ! リーシャは大丈夫なのか⁉ なんで倒れたんだよ‼」

「ひっ! だ、大丈夫。気を失ってるだけだから」


 倒れているリーシャの姿を見て慌てていたナタリーは、ルシアたちの存在を認識できていなかったようだ。

 自分が押しのけた相手が、リーシャの連れている竜の1人だったという事に気がついた途端、彼女は体をビクッと震わせていた。

 ルシアはナタリーのその様子に気がついていたものの、リーシャが倒れた今、他人のそんな些細な仕草などどうでもよかったためとくに気にすることなく問い続けた。


「さっきの炎の魔法が原因なのか?」

「たぶん、そう……そ、それと、厳密に言うと、たぶんあれは炎の属性魔法じゃなくて、おそらく闇の属性魔法……かと……」


 2人のやり取りを後ろで聞いていたノアが目を細めた。


「闇?」


 いろいろと書物を読み進めていたノアにはその異常さがすぐにわかった。

 ルシアもノアほどの知識量はないけれど、自身が学んでいたことと齟齬が生じている事はすぐに気がついた。 


「闇って……人間が使える魔法じゃねぇんじゃなかったか?」


 ルシアの問いかけに、ナタリーが頷いた。


「いっ、今わかってるのは、闇魔法の性質と発動に必要な魔力量から、人間の魔力では使う事は無理だろうってことくらいです。闇の魔法を使えるのは、アンデッドって言われている系統の魔物しか確認されていません。その魔物は稀に闇夜に現れて、日の光に当たるとすぐに消えてしまうので遭遇率が低いし、その上どの魔物もSランク以上の強さなので検体を捕獲するのが困難なんです。そ、それで闇魔法の詳しいことはわかってないんです……」


 そう言ったナタリーをはじめ、リーシャを見つめる教員たちは心配そうな瞳を向けていた。

 けれどそれと同時に、人間に使えるはずのない闇魔法をリーシャが使ったという事で、その場にいる全員がリーシャの異質さとそこから来る恐怖心をうっすらと感じているようだった。

 リーシャの意識があったとしたら、きっと今の状況に苦しんだだろう。気を失ってしまってある意味よかったのかもしれない。

 リーシャへ向けられている感情をどうにか紛らわせたいと思ったルシアは、聞いてもどうしようもないとわかっていた事を問いかけた。


「ほんとにそのあんでっど? っていうやつら以外に使えるやつはいないのかよ。リーシャが使えてたんだ。探したらいるんじゃないのか?」

「いえ。使える人がいたら噂になっているかと。そんな噂は聞いたことはないし、魔物ですらそんな話は……」


 何かをはたと思い出したように言葉を止めたナタリーは、深く考え込み始めた。

 お読みいただきありがとうございます!

 今回、1話分の予定だったものを仕上げ段階で途中できってます。「説明が不十分だなぁ」とか思いながら仕上げてたらとても長くなりました……切り方が中途半端、プラスほぼ完成しているものがあるので、日曜までに1回更新する予定です。

 でわ、また次回!

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