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魔法学校 その8‐vsメガレットロンバー‐

 ノアの右手と両足がメキメキという音を立てながら変形を始めた。

 その形状にリーシャは目を丸くした。


「え⁉ 何その手⁉」

「なんだ。何か問題があるのか?」

「いや、ないけど……」


 形を変えたといっても、ノアの手足は竜本来の手足になったわけではなかった。

 人の体に見合ったバランスの手足。だからといってそれが竜の手足だとわからないほど人間のシルエットをしているというわけでもない。

 手の指のほぼ全体は鋭い爪のような形になっていて、腕全体は鱗に覆われているというよりも防具でも着けているかのような形状。

 足の方はズボンを破くような事態にはなっていないけれど、明らかに太さが増し、人間の足をしていないことがわかった。

 ノアは自身の手足がそんな形になるという事をすでに知っていたようだった。


「問題ないなら、その間抜けな顔はやめろ。いくぞ」

「う、うん」


 竜の能力を上乗せしたノアは先ほどよりもさらに早い速さでメガレットロンバーへ飛びかかった。

 リーシャは混乱する頭を落ち着け、魔法が存分に行使できる状態へと意識をもっていく。

 そんな中、ルシアがぼそりと呟いた。


「兄貴、いつの間にあんな変形のさせ方を覚えたんだ?」

「ほんとにね……」


 リーシャは、いつの間にかどんどん成長しているノアを頼もしく思う反面、自身を頼ってくれない事に僅かだけれど寂しさを覚えた。

 ノアが飛びかかると、メガレットロンバーの周囲の宙に大量の土の塊が現れ、一斉に放たれた。

 そのあまりの数に、高速で移動しているノアもその全てをよけきることはできず、体に次々と当たり傷を増やしていた。

 リーシャは少しでもノアの負担を減らそうと、同じように土塊を放ってできる限り相殺した。

 

「リーシャ、大丈夫か? そんな連続で、あんな小さいものを狙い続けて……」


 ルシアが心配そうにリーシャに問いかけた。

 少しだけ魔法の領域に足を踏み入れたルシアは、リーシャがこともなげに使っている杖無しで発動させる魔法というものが一瞬のうちにどれだけ精神力を削る過程を経ているのか、なんとなくわかったのだろう。

 けれど、リーシャにとってはいつもの事で何という事もない。むしろこの状況下では話しかけられた方が負担が倍増して、手元が狂いそうだ。


「平気、まだいける。だから話しかけないで」

「あ、わるい……」


 ルシアはやってしまったというように、すぐに謝った。

 リーシャは集中してメガレットロンバーの攻撃を迎撃していった。思っていた以上に続く合戦に苛立ちを覚え始めた。リーシャの膨大な魔力もかなりの速さで削られている。


 この個体、思った以上に戦い慣れてる。魔力の方はまだまだいけるけど……このペースで飛んでるあの数の小さな的を狙うのは……集中力の方がきついかも……


 激しく魔法が飛び交う中でもノアはリーシャが正確に繰り出す援護もあって、強敵に一撃、また一撃といれていく。ノアの鋭い爪がメガレットロンバーの毛をどんどんと刈り取る。

 ただ、厚く硬い皮膚には力強い攻撃でもかすり傷程度の傷しか残せていない。

 突然ノアたちを襲っていた土塊の嵐がピタリと止んだ。

 一息付ける、などそんな考えを持っている場合ではない。この状況は逆に不穏な状況に感じられた。

 警戒していると、ノアが立っている場所の周辺の地面に暗い影が落ちた。

 遠くからノアの事を見ていたリーシャにはすぐに影が落ちた理由がわかった。その状況を対処しようとリーシャが手を伸ばしたとき、近くで魔力の流れを感じた。それと同時に周囲が暗くなったような気がした。


「うわああああ‼」


 近くからは誰かの叫び声が上がった。

 声の主は宙に向かって魔法を放っている。宙を見たリーシャの顔は青ざめた。


「こっちにも⁉」


 ノアが置かれている状況と同じ状況下にリーシャたちも置かれていた。自分たちの真上に巨大な土塊が宙に浮いていたのだ。

 教員が放つ魔法は岩に当たっているけれど全く歯が立っていない。

 突然土塊は落下を始めた。このままではリーシャも周囲にいる教員も潰されてしまう。


「風よ!」


 リーシャは落ちてくる岩のような土の塊に向かって強風をぶつけ、落下地点を逸らした。土塊はドーンという音を立て、地面にぶつかり、砕け散った。

 どうにか危機から免れたリーシャは、ノアの事が心配で急いでそちらの方を向いた。ノアの方もどうにか躱せたようで、すでにメガレットロンバーとの戦闘を再開していた。

 リーシャはふうと息を吐きだした。


「危ない‼」


 突然エリアルの叫ぶ声が聞こえた。エリアルを見ると地面に手をついている。

 またメガレットロンバーに奇襲をかけられたかと思ったけれど、リーシャの周囲にそのような魔法の気配は感じられなかった。


「どうしたの、エリアル」

「ねぇちゃん、あれ、どうにかして……僕じゃ、もう無理……」


 エリアルの体が向けられている先に視線を向けた。

 リーシャたちの位置とは離れた地点にヒビが入った大きな土の山ができていた。その山の上には先ほどまでリーシャたちの真上にあったものと同じ、巨大な土塊が乗っている。

 何故あんな位置に向かってエリアルが咄嗟に魔法を使ったのか。あの位置に何があったのかリーシャは考えた。


「‼」


 思い出した光景には、散り散りの位置からメガレットロンバーに向けて魔法を放っていた教員のうちの2人がいた。

 つまりエリアルは学び始めたばかりのつたない魔法で教員2人を守っているという事だ。

 まだ魔力を操りきれていないエリアルの力では、あの守りの魔法はそう長くはもたないだろう。


「すぐ助ける! 土よ」


 リーシャが空に手を掲げると、頭上に巨大な岩のような土の塊が出来上がった。


「いけっ!」


 手を振り下ろすと、リーシャの作った土塊はメガレットロンバーが作りだした土塊に向かって飛んで行った。

 リーシャが放った土魔法は鈍い音がしたと同時に標的を突き抜け、穴をあけた。穴の開いた土塊はひび割れ、パラパラと小さく崩れ落ちていく。

 教員を包み込んでいた土の防壁は上に乗っていたものが消えると、何事もなかったかのように地面へと吸い込まれていった。

 役目を終えたエリアルは安堵して座り込んだ。


「ふぅ……あれだけしか魔法使ってないのに、すっごい疲れちゃったよ。やっぱり、ねぇちゃんはすごいや。いつもこんなに疲れる魔法で戦ったりしてるんだから……ねぇねぇ、僕、ちょっとは役に立てたかな?」


 エリアルは不安そうな顔でリーシャを見上げた。

 自分1人で教員たちを守り切れなかった事が自信を失わせているのかもしれない。

 リーシャは優しく微笑んだ。


「ちょっとどころじゃないよ。エリアルがいなかったらあの先生たちは助からなかったかもしれないんだから。エリアルがいてくれてよかった」

「ほんとに? よかった!」


 リーシャの言葉に、エリアルは顔をほころばせた。

 そんなまったりとした会話を2人がしている間も、メガレットロンバーとの戦いは繰り広げられていた。


「きゃあああああ‼」


 助けた教員たちとは別の方角から、また女性の悲鳴が聞こえてきた。


「! 先生‼」


 叫び声の主はシーラ・ホーリンスだった。

 彼女の真横に、先ほどからリーシャたちに襲い掛かっていたものと同じ、巨大な土の塊が鎮座していた。


「うっ……ぐっ……」


 微かな呻き声をあげているシーラの顔は苦痛の表情に歪んでいた。

 よく見ると片足が岩の下へ消えている。


「濁流よ!」


 リーシャの手元から勢いよく大量の濁った水が言葉のごとく吹き出し、シーラの足を抑える土の塊だけを押し流した。


「ノア!」


 その一言でリーシャが求めている事を察したノアは、戦う手を止めてシーラの元へ風のように駆けつけた。


「少し我慢してくれ」

「うぐっ……」


 ノアは痛みを堪えるシーラを抱え上げると、リーシャたちの元へと急いで運び、ゆっくりと地面へ寝かせた。

 その役割を終えると、ノアはすぐに戦いへと戻っていった。

 入れ替わるようにリーシャたちはシーラへと駆け寄った。


「先生!」


 リーシャは一瞬、胃の中身が込み上げてくるような不快な感覚に襲われた。

 シーラの右の膝下は完全につぶれて血が溢れ出し、目を覆いたくなるほど無残な形に成り果てていた。


「誰か! 早く回復魔法を!」


 リーシャは回復魔法をうまく使いこなせない。それなのに、回復系の魔道具を持ち出してはいなかったのだ。

 リーシャの呼びかけに1人の女性教員が名乗りを上げた。


「私が主導でやります! できれば誰か補助を!」


 回復魔法を得意とする教員たちがすぐに手当を始めた。

 血の流れは治まった。これで命に別状はないはずだ。ただ、足の機能が回復しているかどうかは別の話だ。


「これは……足はもう……」

「そんな……」


 この場にいる全員が察してはいたけれど、それを言葉として突きつけられ顔を歪ませた。

 リーシャの手にぐっと力が込められた。


 もっと周りに目を向けられていたら。あの時油断してなかったら!


 リーシャの中に、メガレットロンバーへと自身へ向けた怒りが燃え上がった。

 リーシャは怒り任せに地面を蹴り、メガレットロンバー向かって飛びかかった。


「リーシャ⁉」


 様子がおかしいリーシャの突然の行動にルシアが戸惑いの声を上げた。

 メガレットロンバーの体を覆っていた毛は、ノアの鋭い爪でほとんどそぎ落とされている。リーシャが操るどんな魔法であっても、もうすぐにとどめを刺せるまでにお膳立てされている。

 けれどリーシャの内側からはただ倒すだけでは足りないと、ドロッとした感情が込み上げていた。


 普通の魔法じゃ足りない……もっと強力な魔法を……


 メガレットロンバーの上へ足を付けると、片足に力を入れて踏みしめた。

 驚いたメガレットロンバーは振り落とそうと体を揺すっていたけれど、落とされるより先にリーシャが叫んだ。


「地獄の業火よ‼」


 次の瞬間、黒い炎がメガレットロンバーから燃え上がった。

 リーシャが飛びのいた後一瞬だけ呻き声が上がり、すぐに跡形もなくメガレットロンバーの体は燃え尽きてしまった。


「リーシャさん……その魔法……」


 近づいてきた教員の額には、うっすらと汗が浮き出ていた。

 リーシャは何の言葉も返すことなく、ただその場に立ち尽くした。というより、魔力切れで立っているのがやっとだった。

 メガレットロンバーとの戦いは終わったというのに張り詰めた空気は今も続いている。

 また別の教員が掠れた声を漏らした。


「あの魔法、炎じゃない」


 それを聞いたリーシャは崩れるように地面へ倒れた。

 お読みいただきありがとうございます。

 だいたいの戦いの流れを考えていた時は、もう間に合わないと思うくらい進んでいなかったんですけど、いざ書き始めるとあっという間に書き終わってしまいました。しかも思い描いてた戦いとは別物になりました。(いつものこと)

 次回更新は来週の日曜予定です。

 でわ、また次回!

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