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魔法学校 その7‐厄介な相手‐

 第1練習場からは壁の外まで響く破壊音がしている。

 リーシャたちが急いで駆け込むと、そこにはナタリーが言っていたように毛皮を纏った巨大な獣のような姿の魔物がいた。その魔物は対峙する教員に向かって強力な魔法を繰り出している。

 突然動き出したかと思うと、魔物は人間の何倍もの速さで教員たちへと突撃していく。

 教員たちは魔法で応戦しているけれど、どうにも魔物には効いていない様子だ。

 リーシャは魔物の姿を見て、あの魔物がどんな魔物かすぐに理解した。


「メガレットロンバーかぁ……厄介だなぁ」

「あの形……見覚えがある。以前見たものはあんな大きさではなかったが」


 ノアのその感覚はあながち間違いではなかった。


「あの魔物はね、前にノアがクエストで毛皮を取るために追いかけてたシャレットロンバーの変異体。物理攻撃も魔法攻撃も効きにくい厄介な相手なの」



 メガレットロンバー自体の個体数はそこまで少なくはないけれど、討伐の報告数は異様に少ない。

 普段、大人しくしている時の姿はシャレットロンバーとほとんど変わらず、違いと言えば毛皮の色が少し薄いくらいだ。気性が大人しいため、メガレットロンバーの性質を知らない人間が出会ったとしても、怒らせない限り気づくことはない。

 けれど攻撃を仕掛けた途端にその姿は一変する。

 怒らせたメガレットロンバーは体を巨大化させ、臨戦態勢になる。もともと厚い皮膚もさらに厚くなり、腕の良い剣士の攻撃でさえもなかなかダメージを与えられない。さらには魔力に対する耐性のある毛皮によって、魔法攻撃は威力を弱められてしまう。

 メガレットロンバーは圧倒的な防御力を有した魔物だ。

 攻撃の方も、変異元のシャレットロンバーより圧倒的に魔力が多く威力も強い。話によると魔力保有量はSランクの中でもかなり上の方らしい。

 ただ、放っておいても被害がないため討伐の依頼が出される事はほとんどなく、戦力を削ってまでわざわざ倒す必要のある魔物でもないため放っておかれている魔物なのだ。

 


 メガレットロンバーがドスンと音を立て地面を踏みしめると、地面から鋭い土の突起が現れた。突起は1つだけではなく、おびただしい数の突起が教員たちに向かって一直線上に生え進んでいった。

 リーシャは咄嗟に地面に手をついた。


「割けろ!」


 手元の地面が割れ、その割け目は教員たちの方へ向かって伸びていく。


「リーシャ⁉ 何やってんだ⁉」


 守るべき相手に向かって魔法を使う瞬間を見たルシアはリーシャの腕をつかんだ。

 しかしリーシャが何の考えも無しにそんな事をするわけがない。


「大丈夫」


 リーシャの魔法は、メガレットロンバーの魔法よりも速い速度で進んでいき、教員たちのすぐ前の地面を割いた。

 そこへメガレットロンバーが放った魔法は到達した。地面の裂け目にぶつかると、土の突起はそれ以上現れはしなかった。

 リーシャが教員の方へと駆けて行くと、そのうちの一人の男性が手を振ってきた。あまり覚えてはいないけれど、高学年の教員をしていたような気がした。


「リーシャ! 助かった、ありがとう」

「戦況は? どうなってます?」

「見ての通り、僕らの魔法じゃあ全く歯が立たない。それどころか余計に興奮させてしまったみたいで……負傷者が6人、そのうちの4人が重傷だ」


 男性教員の視線の先にはひどい怪我をした教員と、彼らの怪我を回復魔法で塞ごうとしている教員たちがいた。状態もよくない。

 この状況で幸運なことは死者が出なかった事くらいだ。


「このまま私が討伐に回るので、負傷している人を移動させても丈夫そうになったら先生たちは皆で逃げてください」

「まだ君は成人もしていないのに……任せきりになって申し訳ない……」

「大丈夫ですよ。こういうのは慣れてますから。むしろ魔法練習になるので気にしないでください」


 リーシャはいかにも今から戦うのが楽しみですというような顔で笑った。

 実際、メガレットロンバーは魔法も物理攻撃も効きにくい厄介な相手ではあるけれど、複雑な攻撃を仕掛けてこないため魔法練習にはもってこいの相手だ。

 場所も場所のため加減も無用だ。


 思いっきり魔法を使うには、今攻撃に回ってる先生たちにも引いてもらわないとね。


 リーシャが隙を作るための攻撃を仕掛けようと1歩踏み出したとき、いきなり手首を掴まれた。

 掴んできたのは真剣な表情をしたノアだった。


「ノア? どうしたの?」

「俺が行く。リーシャは全員の避難が終わるまでここに残って流れ弾を防いでくれ」

「えー……」

「頼む」


 正直なところ、リーシャにはノア1人でメガレットロンバーに勝てるとは思っていなかった。

 とはいっても、簡単に戦闘不能に追い込まれるとも思ってはいない。リーシャが援護すればおそらく勝てるだろう。

 けれど、相手も場所も魔法の練習には好条件なのだ。そう簡単に譲りたくはなかった。

 躊躇っていると、ノアはリーシャの顔を覗き込むように自身の顔を近づけた。


「リーシャ? 俺の頼みを聞いてはくれないのか?」

「っ‼」


 普段見せないような、少しだけ眉を下げた柔らかい表情に、感情が乗ったような声にリーシャの胸がざわついた。


 ずるいよ! こんな、甘えるような言い方されたら譲ってあげるしかないじゃない‼


 リーシャは残念そうに溜め息をついた。


「わかった、いいよ」

「すまないな」


 思い通りになった途端、ノアの声はいつものようなけだるげな声音に戻った。

 ノアの策略に見事にはまってしまった事に気がつき悔しかったけれど、今更覆そうとするのも格好が悪い。


「効果があるかわからないけど、身体強化の魔法をかけるよ。それでノアはあの魔物の足を狙って攻撃して。巨体の割にかなり早いから、まずは動きを止めるの」

「わかった」


 ノアはメガレットロンバーに鋭い視線を向けた。リーシャを落とせたノアは、早くも戦闘モードへと気持ちを切りかえている。

 リーシャは腰の袋から、入るはずのない質量の剣を取り出し、ノアに差し出した。ノアが普段使用している剣だ。


「持ってくるんじゃなかったかな。ノア、これがあるの知ってたでしょ」

「ああ。出る前に常時置いているところから消えているのを確認したからな。まあ、持って来ていなかったとしても他に戦いようはある」


 ノアが剣を受け取ると、リーシャはすぐに身体強化の魔法を施した。


「よし、行っていいよ」


 その言葉を聞いたノアは無言ですぐに飛び出し、一直線でメガレットロンバーに向かって駆けて行った。

 メガレットロンバーへと近づくその人影が見えた教員たちは何事かと、魔法を放つ手を止めた。


「なんだ⁉」


 人並見外れた速さに、全員がノアへ視線を向けた。


 お願い、効いて!


 リーシャは願うように見守った。

 ノアの剣がメガレットロンバーの足にめがけて振り抜かれ、鈍い音が響いた。普通のシャレットロンバーだったなら、間違いなくこの一撃で倒せている威力だ。


「……っ‼」


 ノアの表情が痛みをこらえるように歪んだ。剣は力が抜けた手から地面へと落ちた。

 剣が触れたメガレットロンバーの足からは、血の一滴も流れてはいなかった。想像以上の硬度だったのだ。

 メガレットロンバーは剣を拾わせる暇も与えず、ノアへ襲い掛かった。ノアも落とした剣を見向きもせず、大きく飛んで後方へと下がる。

 その結果、運悪く落とした剣はメガレットロンバーの真下に転がることとなった。

 ノアは一旦リーシャの横まで下がった。


「あの時の毛皮の魔物と比べると、比ではないほどに硬いな……」

「だから言ったでしょ。厄介だって。でも、今ので足の毛を切り落としてくれたから、私の攻撃が効きやすくなった」


 メガレットロンバーに魔法が効きにくいのはあの毛のせいなのだ。そしてその毛は、厚い皮膚ほどではないけれど切れにくく、並大抵の人間ではその毛を狩ることはできない。

 そんな毛をノアは両断することに成功した。

 あの魔物を知らない人間にとってはたかだかその程度と思うかもしれないけれど、十分にノアは活躍してくれた。


 小さいけど攻撃魔法が通る隙間ができた。これなら確実に勝てる!


 リーシャはメガレットロンバーへ手を向けた。


「待ってくれ」


 ノアがリーシャの手を再び掴んだ。


「どうしたの、ノア?」

「まだやれる」

「え? いやでも、ノアの攻撃全然効いてなかったじゃない。剣もあの魔物の下だし」


 突然ノアから不穏な気配が漂い始めた。

 リーシャは自分が余計なことを言った事にすぐに気がついた。


 しまった! 攻撃が効いてないっていうのは地雷だった、かも……


 怒りの矛先が向けられると一瞬覚悟したけれど、その気配はすうっと引いていった。


「リーシャ」

「なっ、なんでしょう?」

「手足だけでいい。竜の力を使ってもいいか?」

「手足だけ? 全身じゃなくて?」


 完全な竜体に戻ったほうが力をフルに発揮できるのではないかと思ったリーシャは不思議そうな顔をした。


「完全に戻れば攻撃の力と守りはより上がるだろうが、鱗の重さで速さだけは下がる。お前も言っていただろう。あれは素早いと」

「そうかもしれないけど」


 リーシャにはあの小さな急所さえあれば確実に倒せる自信がある。それなのに他人の命の危機があるこの状況下で、勝てるかどうか不確かなノアにこのまま戦いを任せ続けてよいものか頭を悩ませた。

 それと、ここは教員たちの目がある。彼らがノアたちのことを知っていいたとしても、竜の姿を見せてもいいのかも悩ましい。

 リーシャは、できれば不用意にノアの竜の力を不用意に見せびらかすようなことはしたくはなかった。

 けれど、ノアの目は語っていた。その目の意味をリーシャは理解した。


 何を言われても引く気は無いって思ってるなぁ、これは。


 リーシャはとことん彼らのお願いには弱いなと、苦笑の笑みを浮かべた。


「わかった。危ないと思った魔法攻撃に対しては私が相殺して援護するから、ノアは好きなように動いていいよ」

「ああ、頼む」


 ノアはメガレットロンバーの方へ向き直った。

 お読みいただきありがとうございます。

 しれっと本日2回目の更新です。本当は前の話でここまで書きたかった。

 次回更新は来週の日曜予定です。

 でわ、また次回!

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