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魔法学校 その6‐非常事態‐

 リーシャたちめがけて全力疾走して来る人物はナタリー・フローネ。

 大きな丸眼鏡をかけていて、気の弱そうな女性教員だ。リーシャは彼女の事はよく知っている。なぜなら彼女がリーシャに1から魔法を教えた人物だからだ。

 ナタリーが側までくるとリーシャは問いかけた。


「どうしたんですか、そんなに慌てて」

「ちょ、ちょっとま、て」


 ナタリーは膝に手をついてゼェゼェと息を切らしていた。

 いつも怯えたような仕草をしているけれど、今は本当に何かに怯えているようだった。そんなナタリーの様子に、皆ただ事では何かが起きているという事を察し、場に緊張が走った。

 ナタリーはある程度息を整えると体を起こし、最後に大きく息を吐いた。そして、とぎれとぎれに要件を紡ぎ始めた。


「あの、そ、それがね……えっと、演習用の魔物をギルドに依頼して捕まえてもらってたんだけど、その中にSランク級の魔物が混じってたみたいで……授業で、その、生徒の対魔物戦の魔法練習のために檻から魔物を何匹か出したの。そしたらその中にSランク級の魔物がいて、それがいきなり暴れ出してしまったの……」

「Sランクって……先生たちだけじゃ危ないじゃないですか!」

「そうなの。今、第1練習場が大変なことになってて……だから、リーシャちゃん、すぐに救援に来て欲しいの!」


 この魔法学校には練習場が2つ作られている。ここ、第2練習場から1キロほど離れた場所にあるもう1つの練習場が第1練習場だ。

 この学校の教員は魔法には長けた人物ばかりだけれど、高ランクの魔物との実践経験を持つ教員はほとんどいない。しかも魔法使いは元々主に援護中心の戦いを得意とするため、主力がいない状況でこんな危機を潜り抜けるのは困難だ。

 これが授業をしていた練習場での出来事だというのなら、その場には多くの生徒たちがいたはず。

 相手はSランク級。もしかしたらという想像に、リーシャの背中にひやっとした感覚が走った。


「怪我をした子は? 大丈夫なんですか?」

「い、いない。みんなすぐに避難させたから。今は他の先生たちがその魔物が外に出ないように戦って抑えてる」


 怪我をした子供がいなかったことに、リーシャは安堵した。

 けれど戦いに不慣れな教員たちがまだその場に残っているのだ。すぐに対策を練り、助けに向かわなければならない。


「フローネ先生、その魔物はどんな魔物ですか?」

「えっと、なんていったかな……何かの変異体だったと思うけど……毛むくじゃらで大きかった」


 それだけの情報では特定は不可能だ。どう戦うかは直感で動くしかなさそうだった。


「わかりました。すぐに行きます」


 ナタリーに向かって力強く答えると、ステファニーの方へ向き直った。そして彼女の視線の高さに合わせて腰を屈めた。

 ステファニーは体を縮こまらせ、不安そうにリーシャを見つめている。


「せんせ? なにがおこってるの? ほかのせんせーはだいじょうぶなの?」


 話の内容は理解できないものの、危険なことが起きているという事はちゃんとわかったようだ。

 リーシャは申し訳なさげに、にこりと笑った。


「今ね、他の先生たちが一生懸命、とっても危ない魔物と戦いながら私を待ってくれてるの。だから早く行ってあげないといけないんだ」

「……ほんとにいっちゃうの?」


 ステファニーは眉尻を下げてとても不安そうな表情をしていた。

 リーシャは余計な不安を与えないように、優しく微笑んだ。


「うん。だからごめんね。ステファニーちゃん。今日の魔法練習は終わり。続きはまた明日しようね」

「……リーシャせんせもあぶないんじゃないの?」


 ここにいてほしいと言いたげに、ステファニーはリーシャの袖を強く握った。

 リーシャは行かないでと行動で訴えてくるステファニーに困りつつも、心配してくれるが嬉しくて彼女を抱きしめた。


「大丈夫。先生、もっとすごい魔物と戦ったことだってあるけど、こうして元気でいられてるんだから、ね?」

「ほんとに? せんせ、かてるの?」

「うん」


 リーシャがそう答えるとステファニーは抱きしめる腕の中から抜け出し、思いもよらぬ言葉を口にした。


「じゃあ、せんせ。わたしもせんせといっしょにいく! わたしもおてつだいするから! つれてって!」

「えぇ⁉ そ、それはダメ! 危ないからダメ!」

「ぜったいにちかづいたりしないから! とおくからまほーあてるから!」


 ステファニーの手伝おうとしてくれる気持ちはとても嬉しいけれど、相手が相手だ。

 相手がSランク級の魔物である以上、演習場のどこにいても危険が及ぶ可能性は極めて高い。

 そんな場所に小さなステファニーを連れて行くわけにはいかないのだ。

 リーシャはステファニーと目線の高さを合わせ、怖がらせる覚悟で言い聞かせた。


「ステファニーちゃん。今暴れてる魔物はね、いつもお勉強を教えてくれてる先生たちでも勝てないくらい怖い魔物なんだよ。練習場の固い壁を簡単にバラバラにできるし、魔物によってはずっと遠くまで攻撃が届く魔物だっている……だから今こうしているうちにも、頑張って戦ってくれてる先生が死んじゃうかもしれないの……」

「しんじゃう……?」

「うん。死んじゃったら、その先生とは二度と会えなくなっちゃうし、もしステファニーちゃんが死んじゃったら、もう先生にも友達にも会えなくなっちゃう。Sランクって言われる魔物と戦うと、そうなる可能性がとっても高いんだよ」


 ステファニーの顔は青ざめ、固まってしまった。よくみると手足はわずかに震えている。

 魔物と戦うという事の意味を理解できたようだ。


「フローネ先生。私、今からすぐ向かうので、ステファニーちゃんを安全なところへお願いします」


 リーシャのお願いに、ナタリーは頷いた。


「わ、わかったわ。ステファニーちゃん、おいで」

「……はい」


 ステファニーはそれ以外何も言わず、ナタリーの指示に従っていた。


 事実とは言え、少し脅かしすぎたかな。可哀そうなことしちゃったかも。


 思った以上に怯えるステファニーの姿を見て、リーシャは後悔していた。

 そんなことを考えていると、ナタリーがおずおずと話しかけてきた。


「あの、彼らは……」

「彼ら?」


 ナタリーの視線の先にはノアたちの姿があった。

 ノアたちの正体を知っていたナタリーは、少しでも距離を取ろうとしているのか、体が斜めに傾いている。

 リーシャとしてはナタリーについて行ってほしいところだけれど、彼らがそれを素直に聞くとは思えない。


「……ねえ、ノア」

「なんだ」

「ノアたちも安全な場所へ行っててって言ったら……」

「行くと思うか?」

「ですよねー」


 ステファニーと違って聞き分けが悪い3人を説得するのは、いつものごとく時間の無駄だ。

 それにこれ以上のタイムロスは、本当に教員の中から死人が出てしまう可能性がとても高い。


「フローネ先生、ノアたちは自分で何とかできる力があるので連れて行きます」

「え、ええ。わかったわ」


 気付きにくいほど小さな仕草だったけれど、ナタリーはほっと肩を撫で下ろしていた。よほどノアたちと行動するのが怖いのだろう。

 ふと、リーシャはナタリーが心配そうな目でじっと見つめてきている事に気がついた。


「なんですか、先生?」

「その……場所は大丈夫かなと思って……」


 本当に言いたかった事はそうではないのだろう。

 リーシャはナタリーの表情に答え、心配無用と笑顔を見せた。


「はい、大丈夫ですよ。それじゃあ先生、私たちは先に行きますね。またあとで」

「えっ、ええ。気を付けてね」

「はい! 行くよ3人とも」

 

 ノアたちは頷くと、走りだしたリーシャの後を追った。

 リーシャたちは急いでもう1つの練習場へと向かったのだった。

 お読みいただきありがとうございます。

 今回盛り上がりどころがなさすぎ&短すぎて申し訳ないです。予定が詰まっててここまでしか更新予定時間内に仕上げられませんでした。(この後も予定あって……)

 一応この話と一緒に載せるつもりだった部分があるので文字数増やして、次回更新は近いうちにします。(早ければ今日の夜)

 でわ、また次回!

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