魔法学校 その4‐魔法授業の開始‐
リーシャはステファニーの魔法能力を測るため、皆を連れて練習場へと場所を移した。
そこは名前の通り、魔法の練習をするための場所だ。
周りは石の壁で囲われているため、たとえ魔法を放つ手元が狂ったとしても周囲への影響はほとんどない。
リーシャも何度もこの練習場のお世話になり、あの頑丈な壁を破壊してきた。石壁には修理した後がしっかりと残されている。
「それじゃあ、ステファニーちゃん。あの的に向かって得意な魔法を当ててください。できれば全力で」
「はい!」
ステファニーに狙うように言ったのは魔物の形をした木製の的。
魔法を使うことに不慣れな少女は胸の前で両手を組み、その手に魔力を集めるように意識を集中させ始めた。
魔道具という魔力を集中させるための媒介がない場合、体幹に手を近づけた姿勢が一番魔力をコントロールしやすい。なので、魔道具を使用せずとも魔法と使うことができる魔法使いたちの大半は、魔法を発動する直前にはこのような姿勢をとる。
対してリーシャは魔法を発動しようとした際にはそんなことはせずに、いきなり相手に向かって掌を向け標準を合わせる。これができるのは、無意識に近いレベルで魔力を操ることのできる魔法使いだけだ。
集中するステファニーの手に炎の属性を帯びた魔力が集まり始めた。リーシャの目にはその様子が見えていた。
おおっ。これは、なかなか……鍛えがいがありそうかも。
ステファニーの年齢を考えると、魔力は多い方だった。
リーシャがこれからの教師としての生活に心躍らせている間にも、ステファニーの周りにゆっくりと魔力が揺らめいている。
手に集まっていた魔力の流れがピタリと止まるとステファニーは手を前に伸ばし、的を指差した。
「炎よ!」
指の先に集められた魔力が一気に炎へと変換され始めた。
これだけの魔力を圧縮させたのだ。的に当たるだけにはとどまらず、破壊するだろうとリーシャは予想立てていた。
ステファニーの指先に炎の一端が現れた。
プスン……
予想外の音が聞こえ、練習場に複雑な空気が流れた。
「……あ、あれ?」
ステファニーの口から戸惑いの声が漏れた。
魔力は炎にうまく変換されず、音を立てて散ったのだ。
リーシャも期待していただけに、この結末には呆気に取られていた。
魔力を集める事はうまくできていたように見えた。かなりセンスがある方だと思われる。
うーん、これは属性の付与か物質への変換がうまくできてないってところかな?
リーシャはステファニーの実力を一目見て、ある程度分析していた。これは魔力を目で見ることのできる能力を持つからこそできる分析方法で、できる人間はあまりいない。
分析を踏まえどう教えるかを考え込んでいると、ハンナが心配そうな顔をしてリーシャに近づいた。
「ステファニーは安定して魔法が使えないみたいで。こんな風に失敗することもあれば、逆に力が強すぎて暴発することもあるんです。とても悔しいみたいで、実践練習の後はいつもあんな具合で……」
「あんな具合?」
ステファニーを見ると、思った通りに魔法が使えなかったのが相当悔しかったようで、既に涙目になっていた。もう少しで泣き叫びそうだ。
リーシャは慌ててステファニーに駆け寄った。
「だ、大丈夫だよ。私も小さい頃はうまく魔法を使えなかったけど、今はいろんなことができるようになったんだよ! ほら」
リーシャが地面をトントンと叩くと、その部分の土がぽこリと盛り上がった。
「?」
泣くことを忘れたステファニーは、しゃがんでその土の塊をまじまじと見つめた。
土はさらに盛り上がり、その下から生き物の形をした塊が顔を出すかのように現れた。完全に地表に現れたそれはウサギの形をした土人形。
ウサギの土人形は鼻をひくつかせながら周りをキョロキョロと、まるで様子を窺うような仕草をしている。
「せんせ! つちのウサギさんがうごいてる!」
「ふっふっふっ……実はね、このウサギさんは私が動かしてるんだよ!」
「えっ! ほんとに? すっごーい!」
ステファニーは興味津々の様子でウサギの頭を撫でた。ウサギは気持ちよさそうに、大人しく撫でられ続けている。
「ざらざらしてる。やっぱり土だ」
これはレインことシュレインが得意とする、魔力の糸を物体につないで操る技を有属性魔法と合わせて応用した魔法だ。
術者のイメージを転写して有属性魔法の動きを操る魔法。複合魔法としては一番広く知られている魔法で、使える者はちらほらといる。ただし、魔力の消費は著しい。
ステファニーはウサギを凝視した後、リーシャの方を見た。
「ねぇねぇせんせ。リーシャせんせーって、すごいまほーつかいさんいなの?」
「えーっと、そうでもないとは思うけど……」
この質問にどう答えるべきか、リーシャは戸惑った。
自分ではまだまだだと思っているけれど、周りからの評価はわりと高めなのだ。
現にちらりと視界に入ったハンナは「自信を持ってください」とでも言いたげな顔で頷いていた。それに「ステファニーの背中を押してあげてください」という意味も込められているような気がした。
けれど、それを自身で言うのは憚られる。
リーシャが言い淀んでいると、足元にエリアルがしゃがみ、代わりに答えてくれた。
「リーシャねぇちゃんはすごいよ! ラディウスのにぃちゃんを倒しちゃうくらい強いんだから」
「らでぃうす? だぁれ? わかんない」
ステファニーは首を傾げた。
「すっごく強いにぃちゃんなんだ! きっと世界で一番強い剣士なんだよ。ねぇちゃんはその人に魔法で勝ったんだ。なんかね、魔法って使うのに時間かかるから、1対1じゃ剣士の人に勝つのは難しいんだって! それなのに勝ったんだよ! すごいでしょ!」
そこからはエリアルによるリーシャの自慢話大会だった。ステファニーはそれを興味津々で聞いている。
目の前で自身の武勇伝を聞かされ続けるリーシャの方は、だんだん恥ずかしくなって顔を赤く染め始めた。
「エリアル……もうそういう話はやめてくれないかな? というか勘弁して……」
「えー。まだまだいっぱいあるのに」
エリアルは口を尖らせた。まだ話し足りないようだ。
リーシャの話を聞かされたステファニーはというと、期待の眼差しでリーシャのことを見ていた。
「せんせ。わたし、せんせーのまほーもっとみたい!」
ステファニーは目を輝かせた。エリアルも同じような瞳でリーシャのことを見ている。
そしてステファニーは甘えるような声で切望した。
「ダメですか? せんせー?」
「ダメじゃないけど……」
こんな可愛いお願いを無下にすることは、リーシャにはできそうになかった。さらにはエリアルも追い打ちをかけてくる。
「リーシャねぇちゃん。僕もねぇちゃんのすごい魔法見たいなぁ」
「……わかった、いいよ。あんまり大きいのは使えないけど」
「やったぁ!」
ステファニーとエリアルは揃って喜んだ。
とは言ってみたものの、どんな魔法を見せたらいいかなぁ。
考えながら見上げた先には、良く晴れた青空が広がっている。
ただ炎や土を使った魔法を見せても、ステファニーちゃんのやる気に繋がるかわからないし。もっと大きな土人形……は面白みに欠けるかな。威力とか大きな魔法じゃなくて、できればやる気に繋がってくれるような……
雲で隠れていた太陽が顔を出し光が降り注ぐ。リーシャはまぶしくて目を細めた。
「そうだ!」
リーシャは両手を空に掲げ、魔力を集めた。
手の数センチメートル上空に、無理やり形をとどめさせられて安定しない、透明で大きな物体が大きさを増しながら揺蕩い始めた。
どんどん大きくなり、大きさが2メートルを超えたくらいで止まった。
そしてリーシャは大きな声で言った。
「はじけろ!」
透明な球体は、空へ降り注ぐ激しい雨のようにはじけた。ほんの数秒の間の出来事だ。
「うわぁ‼」
ステファニーとエリアル2人の驚く声が重なる。
視線の先、空には虹がかかっていた。
「せんせーすごーい‼」
気持ちの高ぶったステファニーは跳ね回った。
「せんせ、せんせ! 私もせんせーみたいにすごいまほーつかえるようになるかなぁ?」
「うん。ちゃんと練習すれば上手になれると思うよ」
ステファニーはこの上ないほど顔をほころばせながら、リーシャに輝くような視線を向けていた。
この短い時間の間に、リーシャはステファニーの憧れの存在になれたようだ。
「せんせー! わたし、がんばる‼」
「うん。じゃあ、私も頑張ってステファニーちゃんに魔法を教えてあげなきゃだね!」
「リーシャせんせ、よろしくおねがいします!」
「こちらこそ、よろしくね」
ステファニーはとても嬉しそうだった。
やる気になってくれてよかった。
リーシャの口元も嬉しそうに弧を描いていた。
お読みいただきありがとうございます。
今回は、魔法の仕組みを復習しながら、土人形はどう動いているのかという事にものすごく頭を悩ませました。はじめはマリオネットみたいに動かしているように考えていたのですが、それだと次に出てくる魔法のイメージと合わなかったのでほんとに悩みました……
次の更新は日曜予定です。
でわ、また次回!




