魔法学校 その3‐新しい生徒‐
「あれ?」
誰かが何かに気が付いたような声を出した。その声がしたのはリーシャの背後からだった。
「どうしたの、エリアル?」
エリアルは不思議そうにリーシャとハンナの顔を交互に見比べていた。そして両腕を体の前で組み、眉間に皺を寄せた。
「うーん? リーシャねぇちゃんとハンナのねぇちゃん、なんか……似てる?」
「え?」
エリアルの言葉にリーシャはハンナと顔を見合わせた。
誰がどう見ても2人は顔も似てないし、性格も似ていない。少なくともリーシャはそう思っているし、ハンナも同じように思っているようだ。
顔立ちは性格をそのまま表していて、黙って立っていたとしてもリーシャは元気な女の子、ハンナはおしとやかな女性という印象。
何故エリアルは似ていると思えたのかがわからなかった。
そして、2人は似ていないと思ったのはリーシャとハンナだけではなかった。
「いや、似てねぇだろ。2人が似てるっつったら髪が黒いことぐらいじゃねぇか?」
エリアルはルシアの言葉に首を大きく振って答えた。
「顔とかそういうのじゃなくて、なんか、こう……なんとなくそんな気がするってだけで……なにがってわけじゃなくて……」
「直感的にそう思っただけってことか?」
「うーん、よくわかんないからそうなのかも。ほんとに、似てるなぁって突然思っただけだから……」
顔や雰囲気以外となると、他にリーシャとハンナが似ている点と言えば、1つしかない。その特徴から、2人が似てると思わせる何かを感じ取ったのかもしれない。
リーシャはエリアルに尋ねてみることにした。
「もしかしたら、私たちは魔道具がなくても魔法使えるって共通点があるからかもしれないね。魔法を具現化するための器官に似てるって思える何かがあるのかも。ねぇ、エリアル。そこに隠れてる子も似てるって思うんじゃないの?」
リーシャが視線を向けた先にいるのは、ハンナの後ろに隠れている少女。様子を窺うようにリーシャたちを見ていた。
けれど少女はいきなり話題を振られると、すぐにハンナの後ろに消えた。そして恐る恐る再び顔を半分だけ覗かせた。
エリアルはそんな少女をじっと見つめた。
「たしかにそんな感じはするけど、ねぇちゃんたちほどじゃないような……うーん……よくわかんないから、やっぱり気のせいなのかな?」
エリアルは自分の感覚をうまく表現できる言葉を見つけることができず、考えることを諦めたようだ。
本人がそれで納得するのなら、それはそれで問題ない。無理に話を終わらせようとすると不機嫌まっしぐらになってしまうのだから。
「私も気のせいだと思うけど……もしわかったら教えてね」
「うん! また何か気がついたら教えてあげる!」
答えにはたどり着けなかったけれど、エリアルは満足げだった。リーシャに頼られているようで嬉しかったのだろう。
エリアルの無邪気な笑顔にリーシャの顔も綻んだ。
「おねがいね。で、本題に入りたいんだけどいいかな?」
「本題?」
リーシャの問いかけにルシアが疑問形で返してきた。きちんと目的を伝えていたのに、完全に抜け落ちていたようだ。ルシアらしいと言えばルシアらしい。
「何しにここに来たと思ってるわけ……」
「んん? ああ! そういうことか。そういえばリーシャは先生をしにこの学校に来たんだったな」
「そういうこと」
リーシャはしゃがみこむと、今回ここへ来た目的の相手、今まで放置状態にされていた少女に目線の高さを合わせた。
「こんにちは。あなた、お名前は?」
少女は体をピクリと震わせ、またハンナの後ろに隠れてしまった。
「あらら……」
「人見知りが激しいみたいで。ステファニー、この人は私の魔法の先生なの。怖い人じゃないわ」
ハンナの言葉に、隠れていた少女が顔半分をのぞかせた。
人見知り以前に、やはり初対面の登場の仕方がよくなかったのだろう。ステファニーは不安そうにリーシャを見ている。
リーシャは困って苦笑した。
完全に警戒されちゃってるなぁ。
この警戒を解くことがリーシャの最初の一仕事となるようだ。
何か面白い魔法で興味を惹くとか? 何かあったかなぁ、そんな感じの魔法。
思考を巡らせていると、突然ステファニーの周りにパチパチと光る粉のようなものが舞った。
リーシャは火の属性の魔力が辺りに流れている気配を感じ取った。
⁉ これ、魔法使おうとしてるんじゃ⁉
リーシャは少女が何をしようとしているのか気がつくと、すぐに対抗策を講じた。
ハンナも少し遅れてステファニーの異変に気が付いようだ。
「ステファニー⁉」
ハンナは止めようと声を上げた。
けれど時すでに遅く、炎の球は姿を現し、リーシャに向かって放たれてしまった。
これは、なかなかの発動速度と威力。
普通ならそう簡単に止められるような魔法ではなかった。ステファニーも魔法の才に恵まれているようだ。
けれど、それでもリーシャほどではなかった。
「水よ!」
ハンナがステファニーを止めようとするのとほぼ同時に魔法を発動し始めていたリーシャは、自身に火の球が直撃する寸前に強力な水魔法の障壁を完成させ、炎を消し去った。
間一髪だとはこの事だった。
「はぁ……びっくりしたぁ……」
リーシャの肩から力が抜けた。
防ぎ切る自信はあった。けれどステファニーの予想外の魔法センスに驚き、緊張で体に力が入ってしまっていたのだ。
少女が使った今の魔法は、相手がリーシャでなければ黒焦げだったかもしれない。
ハンナも、ほっと胸を撫で下ろした。そして、しゃがんでステファニーと目線を合わせると、少しきつい口調で言った。
「ステファニー、いきなりどうしたの? 人に向けてあんな魔法は使っちゃダメだって言ってるでしょ?」
「ちがっ……」
「何が違うの? 今のは先生じゃなかったら、すごく痛いおもいをしていたのよ」
「……うう……」
ステファニーは何か言いたそうだった。
けれどハンナが冷静さを欠いていたため、その言葉を聞こうとはしていなかった。これではステファニーが可哀想だ。
話しかけにくい雰囲気の中、リーシャはためらいがちにハンナに話しかけた。
「あの、大丈夫だよ、ハンナ。私、平気だったんだし。ちょっと落ち着こうよ」
「こういうことはちゃんと言わないと、また同じことになるかもしれません。今度は相手が先生じゃなかったらどうするんですか?」
「はい、すみません……」
リーシャはハンナの迫力にそれしか言えず、ステファニーと一緒に小さくなった。どうやら止めることは難しそうだ。
ハンナはステファニーの方へ向き直った。
「ステファニー、なんで魔法を使ったの?」
「……」
「黙ってちゃわからないわよ?」
ステファニーの目元には涙が溜まっている。彼女自身、何故魔法を使ってしまったのか説明できず混乱しているようだ。おそらく暴走させてしまったのだろう。
するとエリアルがこの場の今の雰囲気をものともせずに、今にも泣きだしそうなステファニーに話しかけた。
「知らない人がいっぱい来て怖かったんだよね? それで、いきなり話しかけられてびっくりしちゃって、魔法使っちゃったんでしょ?」
ステファニーは小さくコクリと頷いた。
エリアルはこういう時どうすれば相手が落ち着くかわかっていた。いつも兄たちがリーシャにするよう、ステファニーの頭を撫でた。
「わざとじゃないけど、ねぇちゃんには謝ろうね? ステファニーちゃんもいきなり火が飛んできたらびっくりしちゃうでしょ?」
ステファニーは再びコクリと頷くと、おずおずとリーシャの方を向いた。
「あの、せんせ。ご、ごめんなさい」
「大丈夫だよ。私もびっくりさせちゃってごめんね。私はリーシャっていうの。あなたはお名前ちゃんと言えるかな?」
リーシャがニコッと笑うと、ステファニーもつられて恥ずかしそうに笑った。
「ステファニー。ステファニー・メイスンです」
「ステファニーちゃんね。よろしく」
「よ、よろしくおねがいします。リーシャせんせ」
ステファニーはもじもじしながら言った。
続けてステファニーはエリアルの方を向いた。
「おにいちゃんは?」
名前を聞かれたエリアルは自身を指差し、首を傾げた。
「僕?」
「うん」
「僕ね、エリアルだよ。よろしくね?」
エリアルの屈託のない笑顔にステファニーの気が緩んだようだった。
ステファニーは他2人のエリアルの兄弟たちには見向きもせず、ハンナの陰から手てくるとエリアルの腰に抱き着いた。
「わわっ!」
「エリアルおにいちゃん!」
エリアルも自分より小さい子に懐かれ、初めて兄として振る舞えてまんざらでもなさそうだった。
リーシャはその様子を微笑ましく思いながら見ていた。
一方、なんとなく面白くないとも感じていた。もやもやして、なんだかエリアルをとられたような。そんな気分だ。
リーシャは、その考えを払拭するかのように首を大きく振った。
窓の外を見るとまだ日は高く、落ちる気配はない。
今日のうちにできることはやっておこうかな。
リーシャはステファニーの事を見た。
「それじゃあさっそくだけど、ステファニーちゃんの魔法を見せてもらおうかな?」
お読みいただきありがとうございます。
結局、いろいろあって更新できずに日曜を迎えました…(心待ちにしていた人はいないと思いますが、いたら申し訳ありませんでした)
小さい子の言動に違和感が出ないようにするにはどうしたらいいか、周りに小さい子がいないので難しかったです。これで大丈夫なであってほしい。
次回更新は今のところ日曜予定です。
でわ、また次回!




