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魔法学校 その1‐古巣‐

 青空の下、リーシャは大きな黒竜の背の上に乗って大空を飛んで移動していた。その竜の背の上にはルシアとエリアルの姿もある。


「にしても、飛んで移動できるってホント楽だよなぁ」


 ルシアは風に髪をなびかせ、気持ちよさそうに背伸びをしながら言った。

 馬で1週間かかる目的地までの道のりも、飛行ならば回り道をせず真っすぐに進めるため、最短距離で向かう事が出来る。また竜の飛ぶ速度は馬の走る速度よりも数倍速いため約1日で到着してしまえる。

 今向かっている場所はそれ以上に遠い場所だったため、リーシャとしては非常に助かっていた。


「そうだね。今から行くところって、たくさんの山を迂回したりしないといけないから、馬だと2週間くらいかかるんだ。あ! もう見えてきた!」


 リーシャが指差す先には、大きな街があった。

 街の向こうには、地平線の向こうまで続く青く大きな水の大地が広がっていた。波打つ水面に太陽の光が輝き、池とは違う光景を描き出している。

 そんな光景にエリアルが感嘆の声を上げた。


「わぁぁ! ねぇ、あの青色のって大きい池なの? お魚いっぱいいる?」

「あれは池じゃなくて海。池にはいないお魚がいっぱいいるよ。水も池とは違って塩辛いんだよ」

「え? 誰かがお塩入れたの?」

「違う違う、逆だよ。塩は海からとれるんだよ」

「へぇ、そうなんだ! あの海の水使ったらどれだけお塩できるんだろう?」

「それはちょっとわからないかなぁ。今見えてるのは海の一部だから」

「そっかぁ。そんなに大きいんだね」


 そんな話をエリアルとしていると、前方から人間の声のような音が聞こえてきた。


「おい。俺はどこへ降りればいいんだ。指定しないのなら街中に着地するぞ」

「それはダメ‼ あっ、えーっと……向かって左の山の麓辺りに高い建物があるのわかる?」

「ああ。青い屋根の建物だな」

「そう。その真横に広場があるから、そこに降りてもらえると……」

「わかった」


 リーシャとノアの間には未だ溝があり、会話はぎこちない。

 とはいっても、どちらかというとリーシャが一方的に気まずく思っているだけで、ノアは何とも思っていない様子だ。あえて言うのなら、ノアはリーシャに合わせて距離を置いているような状態だ。

 ノアは大きく旋回すると、指定された場所へ向かった。

 向かう先にある大きな建物。あの場所が今回の目的地、セントノーグ魔法学校だ。

 今回リーシャはこの学校に通うある生徒の魔法指導の依頼をされたため、遠いこの地へとやって来たのだった。





 指定された建物の上空へと辿り着いたノアは少しの間旋回した後、近くにある砂がむき出しになっている広場に土を舞い上げながら着地した。

 着地と同時にノアの背から1番に飛び降りたルシアは、背に残るリーシャの方へ手を差し出した。


「リーシャ、足元気をつけろよ」

「うん」


 ルシアの手を借りながら、リーシャはゆっくりと地面へ降りた。

 背に乗っていた3人が降りると黒竜は徐々に小さくなり、人間のノアの姿が現れた。

 何も羽織っていないノアの姿を見たリーシャは慌ててカバンの中から服を取り出した。ノアを直視できないリーシャは、気まずそうに目を背けながら手渡した。


「ごめん……出すの忘れてた……」

「別に。かまわない」


 ノアは服を受けとると、慌てる様子もなくモソモソと着始めた。

 この瞬間に教員や生徒が集まってくる様子がないのは救いだった。

 丁度服を着終えた頃になると、建物の中から1人の女性が現れた。


「リーシャちゃん!」


 その人物はリーシャにとって、よく見知った人物だ。


「ホ―リンス先生! お久しぶりです!」

「今年も来てくれて助かるわ」


 彼女はシーラ・ホーリンス。昔リーシャがお世話になった、この魔法学校の教師の1人だ。

 現れたタイミング的にシーラはノアが服を着るのを待ってくれていたのだろう。

 それにシーラが仕事をしている部屋はこの広場のすぐ近く。リーシャたちの到着に気付き、ノアの竜の姿から人間の姿へ変わるところも見ていたはずだ。

 それにもかかわらずシーラは普通の人間の客人を迎える時のようにノアたち兄弟に微笑み、軽く会釈をした。

 ノアたちもすぐさま同じように頭を下げた。


「それにしてもリーシャちゃん。事情は聞いてたけど、本当に竜に乗ってくるなんて。驚いたわよ」

「私もこんな日が来るなんて、数か月前までは思ってませんでした」


 リーシャは笑いながら、久しぶりに会ったシーラとの会話を楽しんだ。去年も手伝いに来てはいたため、今日会うのは1年ぶりだ。

 会話に満足し落ち着きが見えてきた頃、ルシアがタイミングを見計らったように話に入ってきた。


「なあ、リーシャ。この人がリーシャに魔法を教えた先生か?」


 リーシャはクレドニアムへ移住する前、この魔法学校で魔法について学んでいた。このことは、事前に3兄弟たちにも話はしている。


「違うよ。ホーリンス先生はここの先生たちを取りまとめてる先生。私に魔法教えてくれたのはフローネ先生だよ。とことでホーリンス先生、フローネ先生は?」

「今は授業中よ。まだしばらくここには戻ってこないわ」

「そうですか」


 リーシャに魔法を教えた人物、ナタリー・フローネという女性教員だ。

 ナタリーにも早く会いたかったリーシャは残念そうな顔をした。

 けれど、会えないのはあと数時間のこと。夕方には授業が終わるため、それ以降ならば顔を合わせることができる。

 そう思い気を取り直したリーシャは、シーラに自分が呼ばれた理由を確認することにした。


「それより、先生。私が教える立場として呼ばれたってことは、また見つかったんですか?」

「ええ、今年も1人。その子は生まれて数日で別の魔法学校の前に置き去りにされていたそうよ。親は不明。今は6歳で、最近ここへ転校してきたの」

「ってことは、今この学校にいるのは3人ってことですよね?」

「いいえ。去年の暮れにトールが巣立っていったから、今この学校にいるのは2人よ」

「そっか……トール、もういないんだ」


 リーシャはトール・カザリアスという青年とも面識がある。

 彼はムードメーカ的存在で、リーシャとは同年代の男の子だ。

 誰とでもすぐに距離を詰めてくるタイプではあったけれど、リーシャが初対面の相手に馴れ馴れしくされるのが苦手だとわかると、適度な距離間で接してくれた。

 そういうところにリーシャは好感が持てた。それに、彼が楽しそうにたくさんの人とはしゃいでいる姿は、なんとなく羨ましくも思えた。

 そんな彼が、これからは普通に生活していけるというのならば喜ばしいことだ。


「ちゃんと卒業できたのならよかった。けどやっぱり、騒がしかった彼がもうこの学校にいないっていうのは、ちょっと寂しいですね」

「そうねぇ。いつも駆け回ってるような子で、教員室にも頻繁に顔を見せてくれていたから。ほんとに寂しいわ」

 

 卒業生の話をしていただけなのだけれど、その中に含まれていた“彼”という言葉にノアは不満の色を見せた。


「誰の話をしている」


 ノアの眉間に皺が寄った。この学校から去った自分の知らない男性に対してリーシャが寂しいという感情を抱いている事が不満のようだ。

 珍しくリーシャは、ノアの苛立ちの原因をなんとなく察することができてしまい戸惑っていた。


「えっ、えっと、この学校で私が前から魔法を教えてた魔道具なしで魔法が使える人の話」

「……そうか」


 リーシャが気まずそうに答えたためか、ノアはそれ以上トールの事を尋ねはせず口を閉ざしてしまった。

 そんな2人の様子を見ていたルシアは、いい加減仲直りしろよとうんざりしたように溜め息をついた。


「ったく……てゆーか、リーシャ。これからリーシャが教える生徒っていうのは、やっぱ魔道具無しで魔法使えるやつらなのか?」

「うん、そうだよ」

「つーことは、リーシャと同じように魔法が使える魔法使いは他にも3人いるってことなんだよな?」

「最近この学校にいたのは3人だね。今まで卒業していった人を合わせると私入れて9人、今年来た子入れたら10人か」

「ふーん。そいつらもリーシャみたいにすごい魔法使いなんだな」


 シーラはいたずらっぽく微笑んだ。


「魔道具なしで魔法が使えるって意味ならその通りね。魔力がって意味なら、この子と同等の子とは会ったことが無いわ。それどころか、魔道具無しで魔法を使える子のほとんどは魔力自体が少ないのよ。だからこの子は規格外。ね、リーシャちゃん?」

「え、えへっ」


 嫌な予感がして、リーシャは目を逸らした。余計なことを言われそうな気がしたのだ。

 その感は正しく、シーラは困り話をするように頬に手を当てて続けた。


「魔法を教えるのもどれだけ苦労したことか。今じゃこんな感じだけど、この学校にいた頃は口数が少ないから、教えたことがわかったのかこっちもわからないし、実践させるたびに物を壊すしで……」

「わあぁぁぁぁぁぁぁぁ‼ もう昔話はいいじゃないですか! あの頃はある意味私の黒歴史なんですから! これ以上掘り起こさないでください!」


 リーシャは大声で自身の過去話を遮った。

 するとルシアが、リーシャ的には1番触れられたくない単語に反応してしまった。


「黒歴史?」

「人に教えたくもないし、私も思い出したくない昔のこと! だから聞かないで‼」


 あの頃のことを思い出すと、のたうち回りたくなる。

 あの頃のリーシャは、幼いながらに全てに嫌気がさし、どうにでもなれとまで思っていた。

 けれど、自分の力で周りを傷つけることはしたくはなかったため、人と距離を置くことが1番いいのだと自分の内だけで結論付けていた。

 話しかけられても無視し、周りの人に影響が出ないように気を付けながら強い魔法を発動させ、距離を置かれるように行動していた。

 今思えば、周りの学生たちからは、自分の強さを誇示したいだけの偉そうなヤツと思われていたに違いない。

 実際あの頃のリーシャの評判はあまり良くなかったようだ。

 これ以上自分の過去を蒸し返されたくなかったリーシャは、話を元に戻そうと切り出した。


「そっ、そんな事より、ハンナたちも今は授業中?」


 慌てるリーシャを見たシーラは笑いながら答えた。


「いいえ。今はルーン棟でリーシャちゃんが来るのを待っているはずよ」

「え⁉ それじゃあ早く行ってあげないと! さっそく2人に会いに行ってきます! 3人とも行くよ!」


 リーシャは1人走り出した。というより逃げ出した。このままここで話を続けるのはリーシャの心の衛生上、得策ではないと判断したからだった。

 リーシャに続いて走り出したルシアが聞いた。


「待てよ! 俺達も行って大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ! たぶん!」


 ルシアの疑問に答えると、リーシャは振り向いてシーラに向かって手を振った。


「じゃあまたあとで、ホーリンス先生!」


 走り去るリーシャたちを見送るシーラは、手を振り返しながら微笑んでいた。


「ほんと、元の元気な子に戻ってくれてよかったですね」


 シーラは空を見上げ、呟いた。

 お読みいただきありがとうございます。

 今回から、リーシャと同じように魔道具なしで魔法を発動できる子たちがメインの話です。正直書かないといけないことは決まってますが、どんな話になるかはまだ決まってないです。来週分はきちんと来週に更新できるようにします……

 でわ、また次回!

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