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出会い その5‐夜‐

 シルバーはリーシャという少女の本質の一端に触れた後も、食料を探す彼女の後をついて回った。

 途中、野ウサギを見つけたリーシャは、何の迷いもなく魔法で作った土の槍を直撃させて捕まえ、その場で夕食にするためのあらかたの処理を手際よく済ませてしまった。

 シルバーは自分よりもかなり小さな子供が当然のように狩りをする姿に違和感を持ちながらも、少し離れた場所から黙って見守っていた。

 肉を手に入れたリーシャは満足したようで、ウサギを片手に立ち上がった。


「シルバー。これだけあれば明日の朝も大丈夫だから、眠れるところ探しませんか?」

「ああ、そうだな。少し開けた場所を探すか。んで、できれば周りが草むらで囲まれた場所なら言う事ねぇかな」

「広いところの方がいいんじゃないですか? その方が魔物が現れても近づかれずに対応できると思うんですけど」


 リーシャは首を傾げた。

 シルバーもいつものパーティで行動しているのなら、気にせず広々とした場所に陣取っていただろう。

 けれど今はいつもとは状況が違っているため、野営の場を選ぶのに若干慎重になっていた。


「たしかにそうなんだが、今は夜だから見晴らしがいいとこに陣取っても何も見えねぇだろ?」

「はい。完全に見えなくなってるわけじゃないですけど……遠くの方はあんまり見えないですね」

「だろ? 今は俺とお前の2人しかいねえから、万が一どっちかが戦えなくなったってなったら、クエストを中断するしかなくなる。そうならないために、身を隠せるような場所で不要な戦いを避けたいんだ。バレちまったとしても、周りに草むらがあれば魔物の動く音が聞こえるから、すぐ反応できるだろ?」

「まあ、そういうことなら。わかりました」


 リーシャは納得したように頷いた。

 移動を開始しようとしたところで、シルバーの視線がふとリーシャの手元へ移った。

 ウサギはシルバーにとってはさほど大きくはないけれど、リーシャが抱えていると妙に大きく見えた。

 シルバーは手を差し出した。


「そのウサギ貸しな。持ってやる」

「えっ……いえ。そんなに重くないし、大丈夫です」

「いいから。こういう時は年上に甘えとけ」


 シルバーはニッと笑った。

 リーシャは渡すべきなのか、なかなか決めきれない様子だ。シルバーへ視線をやったり、外したりしている。

 そしてやっとどうするか決めたようだった。


「……それじゃあ……」


 リーシャは恐る恐るシルバーに処理の終わったウサギを差し出した。

 人の好意に甘えるという事に慣れていなさそうな姿は、無性にかまいたくなってくる。

 シルバーはウサギを受け取るとリーシャの頭を撫でた。


「? なんですか?」

「何でもねぇよ。そんじゃ、寝れそうな場所探そうぜ」

「? はい」


 不思議そうに撫でられた箇所に手を当てているリーシャを置いてシルバーは歩きだした。

 その後に続こうとしたリーシャがすぐに足を止めた。

 自身との間の距離が開いていく気配に気が付いたシルバーは問いかけた。


「どうした?」

「あれ……」


 リーシャの指さす方には巨大な洞窟があった。洞窟というより、崖にできた裂け目と言った方が似合うような形をしている。


「あの洞窟がどうかしたのか?」

「何か光った。2つ。たぶん瞳だと思う。大きい生き物みたいだったし、たぶんスカイディーパじゃないかと。違うかもしれないけど」


 辺りはすでに暗く洞窟自体も先が長く続いているようで、奥は見えない。

 2人は洞窟に近づき、近くの木陰に隠れた。

 シルバーは洞窟の少し横にある茂みに向かって石を投げ、音を立ててみた。何かいるというのならば音に反応があるはずだ。


「キュオォォォォォン‼」

「⁉」


 洞窟の中から、音を立てて大きな生き物が首を出した。

 暗くてはっきりと姿は見えない。けれど、ぼんやりと見える姿には大きな獣の背中に大きな翼が生えているのがわかった。

 その姿はほぼ間違いなくスカイディーパだ。

 スカイディーパは外に何もいないことを確認するとのそのそと後ずさりをして奥へと戻って行った。

 シルバーはリーシャの肩を突くと、行くぞと手で合図を送った。リーシャは頷き、音を立てないようにゆっくりと後を追う。

 シルバーは十分距離をとったところで口を開いた。


「あいつは夜目も利く。日が落ちてからはこっちの分が悪い。もっと離れたところで休むぞ」

「はい、そうですね」


 気配を悟られないようシルバーとリーシャは洞窟から離れ、落ち着くための場所を求めて森の中を彷徨った。





 2人は洞窟からさらに離れたところで、腰を下ろすのに丁度良い場所を見つけた。

 近くに落ちている木の枝を集めると、リーシャが魔法で火を起こした。

 シルバーが火の横で、持参していた保存食を食べていると、リーシャは野草や木の実を口に入れながら包丁で野兎の肉を切り裁き、持参していた調味料で味付けをして焚火で焼いていた。

 話題を探していたシルバーは、リーシャの側に置いてある包丁に目がいった。


「その黒い包丁も袋の中に入れてたのか?」

「さすがに危ないものは入れないですよ。取り出すときに怪我をするかもしれませんから。これはさっき砂鉄で作ったんです」


 リーシャが黒い包丁を持つと、魔法を解いたのか包丁は元の黒い粉へと姿を変えた。


「はーん。お前の魔法ってホント万能だな。何も持たずに旅に出ようとするのも頷けたわ」

「万能とまではいかないと思いますけど……まあ、必要な物はだいたい魔法で作れますね」

「いや、それを万能っていうんだろーが……」


 シルバーは呆れ気味に言った。リーシャが規格外という事がわかり、これくらいではもう驚きはしなかった。

 話しを止め黙々と食事をしていると、シルバーはふと夜中の警戒をどうするか考えてなかったことを思い出した。


「そういや、見張りはどうする?」

「見張り?」


 リーシャのその反応で、これまでも夜に見張りを立てるという発想がなかったという事はすぐにわかった。


「寝てる間に襲われたらまずいだろ。つーかお前、今までずっと1人だったんだよな? 数日かかるクエストとかはやったことないのか?」

「いえ、普通にありますけど」

「なら、どうしてたんだよ。まさか普通に地面に横になって寝てたってことはないよな?」

「普通? ではないんじゃないでしょうか。寝るのは基本木の上ですね。その方が魔物にバレにくそうなので。まあ、ちょっと寝にくいんですけど」


 当然のように言うリーシャにシルバーは片手で頭を抱えた。


 ったく。こんなに危なっかしくて、今までよく無事でいられたな、こいつ……


 シルバーは呆れずにはいられなかった。


「わかった。お前が変わってるってことはよくわかった」

「それ、誉め言葉じゃないですよね?」


 リーシャは眉間に皺を寄せた。


「褒めてんだよ。まあそれはいいとして、俺が先に見張りするから、しばらくしたら交代してくれ。んで交代して俺が寝てる間、回りに襲ってくる奴がいないか見ててくれるか」

「……はあ、わかりました」


 そう返事はしたものの、話題を逸らされたリーシャは納得いかないという顔をしていた。



 食事を終えた2人は思い思いに過ごし始めた。

 シルバーは剣の手入れをし、リーシャは魔法で土人形を作って動かして遊んでいた。

 時々思い出したかのように話し、終えるとまた思うままに過ごす。

 そんな時間を過ごしていると、だんだんとリーシャの瞬きの頻度が増えていった。眠くなってきたようだ。


「眠いなら寝ていいんだぞ。俺が見とくって言ってるだろ?」

「うん。おねがい……し、ます……」


 リーシャは地面に躊躇なく寝そべった。

 日があるうちはさほど寒くはなかったけれど、日が落ちた今は焚火があるとはいえ少し冷える。

 ろくに荷物を持ち運んではいなかったリーシャは、何も掛けずに冷たい地面に転がっていた。


「ほら、もう少しこっちこい」

「うん」


 人の温もりが冷えた体に心地よかったのか、リーシャは警戒することなく密着するほどシルバーに近づいた。

 そんな無防備なリーシャに、シルバーは自分の膝に掛けている布を半分掛けた。


 昨日まで警戒心の塊だったくせに。たった1日でよくこんなにも懐いたもんだよなぁ。


 シルバーは苦笑した。

 この少女は何故か1人でいるように努めているようだけれど、それは1人がいいからという理由ではないのは確かだろう。

 すぐに懐いてきたのは、母親が亡くなってから寂しい思いをしていたのかもしれない。

 シルバーはリーシャの頭を撫でた。


「寒くねぇか?」

「うん……」


 安心しきっているリーシャは、そのまますぐに夢の中へと落ちていった。

 シルバーはその横でリーシャが起きるまでの間、1人火の番をしながら周りを警戒した。

 お読みいただきありがとうございます。

 どうにか前回更新予定だった話の片割れを更新できました!(頑張った!)次回分もあらかた仕上がってきているので、いつも通り日曜更新を予定しています。

 でわ、また次回!

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