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出会い その4‐2人だけの捜索隊‐

 2人は森の中を歩き続け、日が傾く前に開けた地へと辿り着いた。目の前に広がるのは草原で、たくさんの牛や羊などの家畜が食事をしている。

 シルバーは建物の近くで作業をしている年配の男性を見つけ、声をかけた。


「すみません。フリルゲルトさんの家はここで合ってますか?」


 男性は2人の方へ振り向いた。


「ああ、フリルゲルトは私だよ」

「スカイディーパの討伐依頼を受けて王都から来ました。俺はシルバー・ミストレストっていいます」

「思ったより早く来てもらえてよかったよ。これ以上の被害は勘弁だからね。おや? 他の方はどちらに?」


 たったの2人で来るとは思っていなかったのだろう。フリルゲルトは他の人間を探すように、周りを見渡していた。

 そんなフリルゲルトにシルバーは申し訳なさげに答えた。


「あー……訳あって、今日は2人なんですよ」

「2人⁉ 本当に⁉」


 フリルゲルトは目を丸くし、驚きの声を上げた。

 スカイディーパの討伐は、普通ならもっと大人数で挑むようなクエストだ。

 そんな反応にもなると、シルバーは困ったように笑った。


「はは、ほんとなんですよ。えっと、それでですが、状況をもう少し詳しく把握したいので少し話を伺ってもいいですか?」

「それは……かまわないけど……」


 フリルゲルトの話によると、5メートルほどある大型のスカイディーパが1ヶ月前からこの付近に住み着き、辺り一帯の農場を荒らしているとのことだった。出現場所・頻度はまちまちで、北の方の山に向かって飛び去る姿をよく目撃されているけれど、どこに居ついているのかまでは不明らしい。

 話を一通り終えると、フリルゲルトは不安げにシルバーたちを見た。


「あの、本当に2人で向かうのかい? それに……そちらのお嬢さんは、まだかなり幼いように見えるのだが」


 フリルゲルトの視線の先にいるのはもちろんリーシャだ。

 リーシャはその視線に気が付いたようだけれど何の反応も示さず、ただ地面をじっと見つめていた。

 シルバーはリーシャをフリルゲルトの視線から隠すよう、彼女の前へ立った。


「大丈夫ですよ。こう見えてもこいつの魔法の腕は一流。そこらの魔法使い2,3人分くらいの実力はありますから」

「それなら、いいのだが……」


 リーシャを疑うような視線と声音をしていた。

 正直なところ、シルバーもリーシャと2人ではスカイディーパの根城を見つけられはしても、討伐できるかどうかはやってみなければわからないと思っていた。

 シルバーは己の目で、リーシャに相当の実力があるのは確認した。

 けれどそれが、たった2人でもスカイディーパと対等に戦えるほどの実力なのかどうかまでは判断できなかった。

 そう思ってはいても依頼主の前でそんなことは言えるはずもない。

 シルバーはこれ以上何か言われる前にさっさとこの場から退散しようと思い、笑顔を作った。


「まぁ、そういう事なんで。俺たちはこのまま対象を捜索して、見つけ次第討伐してきます」

「わかりました。では、よろしく頼みます」


 話を終えるとフリルゲルトは作業へと戻っていった。

 シルバーはリーシャを見た。

 討伐の時が近づいて少しくらいは不安がっているのではと思ったけれど、どうやら余計な心配だったようだ。

 リーシャは北の山の方をじっと見ていた。見間違いではなければ、スカイディーパと出くわすことを楽しみにしているような表情をしている。

 視線に気づいたリーシャがシルバーの方を向き、目が合った。


「なんですか?」

「いや、別に。んじゃ、行くか」

「? はい」


 リーシャは首をかしげながら返事をした。

 2人は歩き始めた。


「よし、まずはヤツの根城を探さねぇとな。まあ、十中八九あの山の周辺だろうけど」

「ですね。じゃあさっそく行きましょう。早くしないと日が暮れちゃいますからね」

「お前……さっきまで大人しかったくせに。爺さんいなくなった途端、喋り出したな」

「……だって……あのおじいさん、ぜったい私のこと嫌ってた……怖い目してた」


 リーシャの表情に再び暗い影が差し、足が止まった。

 締めっぽい空気に一瞬眉をしかめたシルバーだったけれど、リーシャの頭に手を乗せると、髪が乱れるくらいに撫で始めた。


「うわっ!」

「気にし過ぎだ。つーかさ、とっとと行こうぜ。さっさと終わらせて、酒が飲みたくなってきた」


 リーシャはじとっとした目でシルバーを見つめた。


「なんだよその目は」

「……生活費がないって言ってたのに、お酒は飲むんですね」

「うっ…………まあそれは、なんだ。気にすんな」


 他愛のない会話をしながらシルバーとリーシャはスカイディーパが潜んでいるという北の山とその周辺の森へ向かって行った。





 森の中は他の生物などいないのではと思えるほど静かだった。聞こえてくるのは風のざわめきと自分たちの足音だけ。

 2人はスカイディーパの痕跡を見つけるため、森の中を広範囲にわたって探索し続けた。けれど、どれだけ探してもスカイディーパへと辿り着く手掛かりは見つからず、時間ばかりが経過していった。

 ついには何の手掛かりもないまま、空は赤く色づき始めてしまった。


 だいぶ暗くなってきたな。このまま探しても危ないだけだし、今日はもう切り上げた方がいいだろうな。リーシャもいることだし。


 シルバーはリーシャの事を見た。

 いくらギルドに所属しているとはいえ、彼女はまだ子供。真っ暗で魔物が徘徊する森の中を連れ歩くのは危険すぎる。


「なぁ、日も暮れてきた今日はこのへんにしとこうぜ。暗い中で探したところで、見つかるもんも見つからねぇよ」

「そう、ですね」


 リーシャは不満げに視線を落とした。まだ捜索を続けたいというのが本音なのだろう。

 1人でスカイディーパの討伐に行こうとしていたあたり、あまり状況を理解しないで動くタイプかと思われたけれど、そうではなかったためシルバーは安心した。

 探索を切り上げるならば、これから問題になってくるのはどこで体を休めるかという事だ。

 シルバーは野営の備えをそれなりにしてきているけれど、リーシャの方はそうは見えない。


「つーかよ、リーシャ。お前何も持ってきてないみたいだけど大丈夫か? 村があるらしいし、そっちの方へ行って宿に泊まってもいいけど、どうする?」


 正確な年齢は知らないけれど、リーシャはおそらく10歳前後。

 シルバーは、こんな暗い森の中でほとんど初対面の男と2人になるより、多少歩いてでも他の人間の気配のある場所で眠っ方がリーシャにとってはいいだろうと思い、提案した。

 けれど肝心な本人はというと野営については何とも思っていない様子だった。


「大丈夫です、慣れてますから」

「慣れてる?」

「はい。クエスト中に外で寝るのは慣れてるんです。それより、寝る場所はここでいいですか? ここでいいなら、今から夕食と朝食分の食べ物を採ってきたいんですけど」


 リーシャは当然のように言った。

 それは子供の口から出てくるような言葉ではなかったため、シルバーは耳を疑った。


「は? 採ってくる?」

「はい。採ってきます。シルバーの分も取ってきましょうか?」

「いや……俺は遠征用の保存食持って来てるけど……」

「そうですか。それなら、私の分だけ取ってきたらいいですね」

「ちょ……」

「じゃあ行ってきます。なるべく早く戻ってくるので」


 リーシャは一方的に言いたいことを言うと、そのまま薄暗い森の中へと向かおうとしていた。

 そんな後先考えていない行動にシルバーは慌てた。


「ちょちょ、ちょっと待て! 暗い中歩き回ったら危ないだろ! 何のために探索切り上げたと思ってんだよ!」

「平気です。それに、採りに行かせてもらえないと私、今晩食べるものないのでこれだけは譲れません! じゃあ、今度こそ行ってきます」


 シルバーの制止など聞く耳を持たず、再びリーシャは暗い森の奥へと駆けだして行った。

 このまま1人で行かせてしまっては、変な魔物に出くわし危険な目にあうかもしれない。シルバーは咄嗟に叫んだ。


「待てって! 俺も行く‼」


 シルバーは急いでリーシャの後を追った。





 リーシャはめぼしい場所を見つけると視線を彷徨わせ始めた。

 そして食べられそうな草や実を見つけると、その場にしゃがみ込みじっと観察する。


「これは、食べられ……る!」


 そんな調子でリーシャはあれもこれもと次々に木の実や食べられる野草を見つけ、腰につけている袋の中に次々と詰め込んでいた。

 その背後をでシルバーは、リーシャが納得のいく量の食料を集め終わるのを待っていた。

 シルバーはリーシャの腰に付けられた袋の中が気になって仕方なかった。


「なあ、その袋どうなってんだ。明らかに袋に入らないような量入れてるように見えんだけど」


 袋の中には、すでに見た目の3倍ほどの量は詰め込まれているだろう。

 リーシャは野草を探す手を止めると、不思議そうにシルバーを見た。


「そんなの魔法を使ってるからに決まってるじゃないですか。袋の中に別の空間を作ってるんですよ」

「……?」


 当たり前のようにリーシャは言っているけれど、シルバーはそんな魔法があるという事は知らなかった。

 その魔法は自分が知らないだけで、もともと存在していた魔法なのだろうかとシルバーが眉間にしわを寄せて考えた。

 するとリーシャはシルバーの表情を他所に、また当たり前の事を言っているかのように話を続けた。


「最近やっと使えるようになったんです。森に食料を取りに行ったとき、こういう魔法があれば持ち運びが便利でしょ?」

「便利だとは思うが、そんな魔法があるなんて聞いたことねぇぞ」

「えっ? そうなんですか?」


 リーシャは意外そうな声を出した。

 うすうすは感じていたけれど、リーシャは異様に魔法に特化し、それ以外の事が異様に鈍いという事だけはこの瞬間にはっきりとした。


「私も教えてもらって使えるようになったわけじゃないので、似た魔法があるのかは知らないんですけど」

「お前、指南書かなんかを使って覚えたんじゃねぇのか?」


 リーシャは首を横に振った。


「本に書いてある魔法はよくわからないからほとんど使わないです。わかるようになったらもっといろんな魔法が使えるようになるとは思うんですけど、私の勉強不足なのか全然わからなくて」

「じゃあ、本使ってないならどうやって魔法覚えてるんだ?」

「! 実験です!」


 リーシャが嬉々とした表情になった。シルバーが一歩引きたくなるほどに詰め寄ってきた。

 これほどの熱量を持って魔法について学んでいるのならば、もしかしたら本当に発見されていなかった魔法をこの子供が作り出してしまったのかもしれない。そして、新しく作り出された魔法はこの異空間を作り出すという魔法以外にもあるのかもしれない。

 シルバーはとんでもない相手と知り合ってしまったのかもしれないと、歓喜に震えた。


「お前、ほんと子供らしくねぇな。というか変わってる。俺がガキの頃はベンキョーとか難しいことが嫌で、ダチと一緒に逃げ回ってたっていうのによぉ」

「私にはそういう逃げ回れるような友達はずっといないので。魔法の使い方を勉強してからは、魔法をいろいろ試してる時が一番気持ちが落ち着くんです。それに、あんまり人と一緒にいられないから……」


 シルバーはリーシャの言葉に違和感を持った。


「いたくないじゃなくて、いられない?」

「あっ……いえ。言い間違えました。いたくないだけです」


 突然リーシャの表情に影が落ちた。名前のことといい、他人に言いたくない何かがあるのは明らかだ。

 リーシャのひどく曇った瞳を見ていると、見ている方まで胸が痛んでくる。シルバーは「そうか」と一言だけ返した。

 そして話題を変えることにした。


「というかお前、そんな頻繁にあの森、王都周りの森の中をうろついてんのか? 食べれる植物探すのとか、手慣れてるみたいだけど」

「はい。王都にはあんまり行きたくはないので、家の周りでどうにかなるものは自分で採ってるんですよ。木の実や山菜、あとお肉のためにイノシシとかウサギとか捕まえたりしています」


 リーシャは自信満々の表情に変わっていた。狩りが上手いことを誇れて嬉しいようだ。

 ただシルバーにとっては、異空間を作り出す魔法という便利な魔法を使えながら、何故狩りという大変な手段をとっているのかが疑問だった。


「そんな苦労しなくても、行きたくないっつーんなら、行ったときに買いだめすればいいじゃねぇか。その魔法使えば大量に買って帰れるだろう」

「日が経ったら腐るじゃないですか。さすがに腐らせずにすむ魔法は知らないですもん。だから、王都で買うのは腐りにくい物しか買いません」


 シルバーがああいえば、こう言ってリーシャは何が何でも今の生活スタイルを変えようとはしなかった。

 けれど、これがこの子供の生き方で、何の苦も感じていないのならばこれ以上他人がとやかく言う必要はない。


「それもそうだな」

「でしょ?」


 リーシャは認めてもらえて嬉しそうな笑顔をシルバーに向けた。


 やっぱ変わった子供だな、こいつ。


 シルバーはそう思いながらも、同時にそんなリーシャのことを好ましいとも思っていた。


「面白れ」


 リーシャに聞こえないように呟いた。

 お読みいただきありがとうございます。

 いつものごとく予定していた話が長くなったので分けました。なのであんまり物語が進行しませんでした。できれば今週中にもう1話更新出来たらなぁと思います。ただ、今週は本日含め忙しいので厳しいかもです……

 でわ、また次回!

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