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出会い その3‐距離感‐

 シルバーとリーシャは食事を終えると、旅支度をするために一旦別れ、翌早朝再度合流することにした。

 討伐対象が現れるという地域までは半日かからずにたどり着ける。ただ、このまま出発してしまうと、向かう途中で夜を迎えなければならない。故に翌早朝に出発することにしたのだ。



 まだ夜もあけぬ早朝、2人は王都のへの出入り口である門の前で合流した。リーシャの姿を見つけたシルバーは先に声をかけた。


「来たな」


 緊張気味な表情をしたリーシャは何も言わず、ただ首を縦に振って答えた。

 リーシャの実力を知らないシルバーは、目の前に立つ彼女の姿を見て眉をひそめた。旅支度をするために解散したはずなのに、服装が変わっただけで、そのほかは何一つ変わっていない。


「本当に、それで準備できてるん……だよな?」

「大丈夫です。できてます」

「その袋だけでか?」


 杖どころか何の武器も防具も持っておらず、持っている物と言えば腰のベルトに小さな袋を装備しているくらい。これから魔物討伐に向かうような姿にはとうてい見えなかった。

 シルバーの心配をよそに、リーシャは当然のように答えた。


「はい、問題ないです。私にはこれ以外必要ないので」


 本当に準備が出来ているのかどうか、シルバーは怪しく思った。

 けれど、リーシャがそれなりの実力は持ち合わせているのならば、自身に必要な物はわかっているだろうと、シルバーは彼女の言葉を信じるしかなかった。

 

「ちなみにその中には何が入ってんだ?」

「あ……えっと、傷薬と調味料。回復魔法が苦手なので薬が必需品なんです。調味料は、焼いただけとか茹でただけのご飯は嫌なので」

「そっ、そうか」


 何を持参するかは人それぞれだけれど、リーシャの持ち物は予想の斜め上をいっていた。シルバーはやや不安を感じながらも、口角を上げてみせた。


「お前がそれで大丈夫ってんならいいか。それじゃあ行くか。途中魔物が出たら、お互いの実力見るために倒しながら行こうぜ」

「はい。けど私、人と一緒に魔物討伐したことないので、どうしたらいいか、よくわからなくて……」

「そういうのも含めて、本番前に雑魚を倒すんだよ。お互いどう戦うかわからねぇと、作戦も立てられないし、援護とかの合図も出せないだろ?」

「はい……そうですね」


 シルバーには、何故かリーシャの表情が昨日より曇っているように見えた。

 落ち込むような話をしたわけではないはずだ。このクエスト自体はもともとリーシャが1人で行こうとしていたもの。行きたくないわけではないはずだ。


 となると、原因は俺か……


 たとえ嫌われていたとしても、こんな子供を1人で危険なクエストに行かせるわけにはいかない。

 シルバーは何も気が付いていないふりをし、声を出した。


「行くか」

「はい」


 薄暗く周りもよく見えない中、2人は目的地に向かって旅立った。





 あまり整備されていない森の中の道を歩いていると、2人は早々に魔物と遭遇した。

 魔物の気配を感じ取ったシルバーは即座に剣を構え、敵が飛び出してきたのと同時に素早く切りかかっていった。


「おらぁぁぁぁぁぁぁ‼」


 2人の目の前に現れたのは1匹のオオカミのような姿の魔物、ヘンダーウルフ。それほど強くはない魔物だったため、シルバーの出会いがしらの一振りで両断してしまった。


「弱すぎたな。一撃で倒しちまった。けど、気をつけろよ。こいつら群れで移動してることが多いからな」


 シルバーは剣に付いた血を、振って払い落とした。

 そんなシルバーの力強い一瞬の攻撃を間近で見る事になったリーシャは、出発前の様子とは打って変わって尊敬のまなざしを向けていた。


「強いですね。ミストレストさんって」

「コイツが弱すぎただけだって。あと、シルバーでいい」

「シルバー……さん?」

「さん付けでもいいけど、なぁんかむず痒いんだよなぁ」

「じゃあ……シルバー……」

「おう」


 リーシャはそわそわしながら、嬉しそうな表情をしていた。

 どうやらシルバーは嫌われているわけではないようだ。

 ならば何がリーシャに暗い顔をさせているのか。それが今一番の謎だった。

 なにはともあれ、シルバーは少し打ち解けられたと安心し、ニッと笑いかけた。


「じゃあ、次に魔物が現れたらリーシャ、お前が倒せよ」

「はい!」


 リーシャはまだ少し緊張しているようだけれど、これまでよりもずっと明るい表情で答えた。

 その次の瞬間、シルバーの背後の草むらが揺れ、3頭のヘンダーウルフが2人に襲いかかってきた。

 シルバーに近かった1頭はシルバーの剣によって瞬時に切り裂かれ、絶命した。

 攻撃が届かなかった残り2頭がシルバーへ襲いかかる。


「ちっ!」


 シルバーは一振りですべてを仕留められなかったことに少しの苛立ちを覚え思考が遅れたけれど、戦いを知る体が無意識に動き、すぐさま剣を構え直した。

 次の瞬間、後方から早い物体がシルバーの顔の横を通り越し、ヘンダーウルフへと衝突した。

 2頭が後方へ飛ばされたかと思うと、鳴き声を上げる間もなく木にはりつけにされていた。見ると、ヘンダーウルフに土色の槍先のような形をしたものが突き刺さっている。

 攻撃が放たれたであろう方を向くと、シルバーに向かって手を突き出すリーシャの姿があった。

 驚いたシルバーはぽつりと言った。


「今の、お前か?」


 リーシャは、はっと我に返ったような表情をするとすぐに怯えたような様子で頷いた。

 けれどシルバーはこの子供があんな短時間で魔法を発動させることができたとは、にわかには信じられなかった。


「わるいけどさ、もう一回今のできるか? そうだな、あの大きな木に向かってやってみてくれよ」


 リーシャは再び頷き、シルバーが指差す木に向かって手を突き出した。


「土よ」


 何もなかった手の前の空間に、土の槍先が現れた。

 リーシャが手をいったん自分の方へ引き、もう一度木の方へ向かって振り出すと、土の槍は手の指し示す方へと猛スピードで飛び出していった。木に衝突すると、槍は的である木を貫通し、その背後にあった木に突き刺さって止まった。


「おい、リーシャ。今の全力でやったのか?」


 リーシャは全力で首を左右に振った。


「かなり魔力は込めたけど、全力というほどでは……」


 シルバーは目を見開き、言葉を失っていた。

 これで本気ではないというのならば、彼女が本気を出せばどれほど強力な攻撃が繰り出されるのか。

 シルバーが黙り込んでしばらくすると、リーシャは何かを思い出したかのように挙動不審になった。


「あの、シ、シルバー? きっ、きっと、これは、その、木が柔らかかったから……穴が開いたんだと……」


 リーシャが目を泳がせながら言葉を紡いでいた。

 シルバーはそんなリーシャの肩を勢いよく掴んだ。


「すっげーな、お前! やるじゃねぇか!」

「え?」


 シルバーの言葉に、リーシャの口が止まった。

 シルバーは自身の興奮を抑えきれず、リーシャが呆然としているのに気がつきながらも話すのを止められなかった。


「魔道具なしで魔法使えるってだけでもすげぇのに、その歳でこの威力。なぁ、リーシャ。お前、俺んとこのパーティに入んねぇか?」

「えっと……あ、あの……その……」


 シルバーは真剣だった。

 このクエストに同行する事にしたのは1人で行かせるのが心配だったからだけれど、今はそんな心配をする必要がないほどリーシャには実力がある事がわかった。そんな彼女がパーティに入ってくれればより強いクエストに挑め、万が一危機的状況に陥った際にも突破する活路が見い出せる。

 リーシャはシルバーが本気で言っている事をすぐに理解した。だからこそ、シルバーの望む答えを口にはできなかった。


「ごめんなさい。私、人と過ごすのが苦手、で。パーティに入ったらいっぱいの人といる時間、長くなるから、嫌、なんです。ごめんなさい」


 リーシャは何かを隠すようにシルバーから視線を外し、伝えたい言葉をどうにかつなぎ合わせたような話し方だった。

 その様子からシルバーもなんとなく、彼女には言いたくないことがあるんじゃないかと察し、“何故か”を追及する事はしなかった。


「そうか。じゃあ、たまに俺と組むのはどうだ?」

「……正直に言っていいですか?」

「おう」


 リーシャは躊躇いがちに言った。


「……シルバーはよくしゃべるから、ちょっと遠慮したいです」

「なっ! おまっ! ほんとにそんな正直に言うなよなぁ」

「だって、シルバーがいいって言った……」


 困りがちに言うリーシャに少し悪戯をしてやろうと、シルバーは冗談交じりに落ち込んで見せた。


「そこはもう少し言いようがあるだろ。その断り方はしょげるぞ」

「あの、ご、ごめんなさい!」


 リーシャは深々と頭を下げた。リーシャのその思いのほか焦る姿に、シルバーは「ぷっ」っと噴き出した。


「……なーんてな。冗談だ」

「ひ、ひどい!」


 このことでリーシャは完全にシルバーに気を許せたようで、明らかに態度が柔らかくなっていた。


 しかしなぁ。いくらこいつがつえぇっつってもなぁ。やっぱ、1人じゃヤバいクエストってのもあるわけだし……放っとくわけにもいかねぇよなぁ。


 本人が嫌がるのであれば無理強いするのはよくない。それこそ本当にリーシャに嫌われてしまう原因になる。

 シルバーがどうしたものかと悩んでいると、少し間をおいてリーシャがそわそわし始めた。


「……でも、私の気が向いた時でよければいいですよ……1人じゃ自信ない時とか……」

「! それでいい!」


 むしろそういうときにこそ呼んで欲しかったのだと、シルバーは迫る勢いで言った。そして、ほっとした声音に変えて続けた。


「リーシャにも自信がない事ってあるんだな。こんなランクのクエストに1人で行こうとしてっから、自信満々の怖いもの知らずかなんかかと思っちまったぜ。パーティ組むのも嫌がるしさ」

「そういうわけじゃ……ただ、知ってる人いないし。それに、危ない目に巻き込んじゃうかもしれないから……」


 この時のシルバーはまだ、リーシャの思う“危ない目”の本質を理解してはいなかった。ただ危険なクエストに見合う実力を持った相手がわからないから誘えないだけなのだと捉えていた。

 故にシルバーは、リーシャがそんなことを気にせず周りに頼るように、少しきつめに言い聞かせた。


「こんな生業を職にしてんだ。たとえ、お前が協力を頼んでそいつが命を落としたとしても、それは判断を誤って不相応なクエストについて行ったそいつが悪い。そもそもそんなヘマするヤツなんてそうそういねぇから、心配すんな。1人じゃ無理だと思ったら絶対に誰かに頼れ! いいな!」

「……はい……」


 リーシャはしょぼくれた。

 けれど何故かシルバーには、リーシャの様子の原因が自分の説教じみた話が理由ではないように思えた。


「なんだよ、まだなんか心配事あんのかよ」


 リーシャは一瞬シルバーの方を向き、口を開き何かを言おうとしたけれど、何も言わずにすぐ視線を落とした。


「どうした?」

「なんでもない、です。ただ、これからはシルバーに頼むので、そんな心配いりませんねって思っただけです」


 顔を上げたリーシャは口をとがらせ。照れたように言った。

 その想定外の可愛らしい仕草と発言に、シルバーは目を丸くした。


「急に素直になったな。どうした?」

「と、特に理由は無いです! なんとなくそう思っただけなので。それより早く進みましょう。このままだと、予定より目的地に着くのかなり遅れちゃいますよ?」


 リーシャは急に自身の言葉が恥ずかしくなったようで顔を真っ赤にし、ごまかすようにシルバーをせかした。

 そんな彼女の無邪気で明るい姿に、シルバーは笑った。


「ハハッ、そうだな。リーシャが本当に強い魔法使いってのもわかったし、ここからは倒す必要のなさそうなヤツらは無視していくぞ」

「はい!」


 シルバーが歩き始めると、リーシャは出会ってから今に至るまでの暗い様子は見間違いだったのではないかと思えるほどの明るい様子で、その横を並んで歩いていた。

 お読みいただきありがとうございます!

 とある理由から人と距離を置いていたリーシャにとって、グイグイと距離を縮めようとしてくるシルバーはある意味救世主でした。(ただ、ちょっと迷惑に思う部分もあったもよう。)たぶんシルバーと会わなければ、暗い性格がしみ込んでしまって、いまだにこんな感じだったかもしれません。

 でわ、また次回!

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