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出会い その2‐不愛想な少女‐

 5年前。王都クレドニアムのギルドにて。



「ちっ。割のいいやつねぇなぁ。どうする?」


 シルバーは生活費という名の酒代を稼ぐため、高ランクのクエストを受けようと自ら結成したパーティメンバーを招集していた。今はクエストの紙が貼られるボードの前に立ち並び、どれに向かうかの相談中である。

 メンバーがそれなりに集まったのは良いものの、貼られているクエストの依頼書はどれも低ランク。大人数のパーティで挑むようなクエストは貼られていなかった。

 シルバーの真横に立っていた男がシルバーに向かって言った。


「この程度のクエストなら、全員で行かずにそれぞれで行った方がよくね?」

「だよなぁ。せっかく集まってもらったってのに悪いんだが、お前らもそれでいいか?」


 シルバーが集まったメンバーにそう言うと、集団のうちの1人がシルバーの問いかけに反応した。


「いいっスよ、シルバーさん。こういうこともありますよ。それにどうせここにいるのは暇してるか、もともとここに来るつもりのやつばっかりなんスから。気にすることないっスよ」


 この場にいた全員が頷き、同意した。

 仲間たちの反応にシルバーは感極まり、胸からジーンとする何かが溢れ出してきた。


「お前らぁぁ! 俺は、こんないい連中と、パーティを組めて……」

「ということで、解散していいっスか?」


 シルバーが感動を声に出していると、その感動させるような事を言った張本人が言葉を遮った。


「お前っ! 人がせっかく……」

「はいはーい! じゃあみんなお疲れっス~」

「おい! 勝手に終わらせんじゃねぇ‼」


 集まっていたメンバーは解散し、各々自由に立ち去った。そのまま外に出て行く者、クエストの依頼書をはがしていく者。

 この場に残ったのはシルバーと、横に立っていた男だけになってしまった。


「シルバー。俺も行くわ」

「……」


 結局シルバーはその場に一人残されたのだった。



 シルバーは仲間たちのそっけない態度にしばらくその場に立ちすくんでいたけれど、頭をひと掻きすると仕方なしに適当な依頼書を掲示板からはがし取った。

 手にしたクエストの依頼書はシルバーの実力に対しては低すぎるランクのもので、報酬も大した額ではない。


「やらねぇよりはマシか」


 依頼書を持ってギルドマスターの元へ行こうとしてカウンターに視線を移すと、先客がいるのに気がついた。見たことのない少女だ。10歳前後といったところだろうか。

 少女は要件が済んだようで出口の方へ歩いて行った。


「なぁ、マスター。あの子は? 初めて見る顔だけど」


 マスターと呼ばれる老婆は心配そうな表情をしている。


「彼女はリーシャ。最近王都の近くに越して来たらしい。」

「王都の近く?」


 王都近くといえるような周辺には街や村は無い。

 マスターの言い方にシルバーは顔をしかめた。


「ああ、森の中に1人で住んでいるらしい」

「1人? 親は?」

「詳しくは知らんが、父親は物心ついたころにはすでにおらんで、母親は最近亡くなられたそうだ」


 話をした事のないシルバーでさえ、聞けば聞くほど彼女の生活状況が心配になった。少女の姿を目で追っていると、どこか悲し気な後姿をしているような気がした。


「大丈夫か? あいつ」

「生活はどうにかなっているみたいだよ。それに、それなりに腕の立つ子みたいだからCランクのクエストくらいまでは問題ないようさ……ただねぇ、今回持って行ったクエストがBランクのだから心配なんだよ」

「腕が立つなら、Bランクくらい仲間何人かいたら余裕だろ」


 シルバーの言葉にマスターの表情が曇った。

 シルバーもまさかとは思ったけれど、マスターの口から出た言葉はその“まさか”だった。


「それがあの子、いつも1人なんだよ。実力も完全に把握できているわけじゃないから、考え直すように忠告はしたんだけど、聞かなくてねぇ……」

「はぁ⁉」


 振り返ると、少女はちょうど出入り口の扉をくぐったところだった。


「馬鹿じゃねぇのか⁉ 信じらんねえ‼ マスター、この依頼書戻しといてくれ」

「わかった。悪いけど頼んだよ」

「おう」


 シルバーは少女を慌てて追いかけた。

 ギルドから走り出ると、シルバーは少女の姿を探した。

 すぐに後を追ったとはいえ、行き交う人々で特定の人物を見つけるのは一苦労だ。右へ左へと首を動かしていると、背の低い、黒い長髪の少女の後姿が見えた。おそらく先ほどの少女だ。

 シルバーは走りながら大声で呼んだ。


「おーい! じょーちゃーん! 待ってくれ!」


 少女は自分が呼ばれているとは思わず、そのままスタスタと歩き続けている。


「おい、待てって」


 やっとのことで追いつき、肩に手をのせると少女は振り向いた。

 その顔はいきなり触られたことへの不快感どころか、驚きすらない、そもそも何も感じていないような顔をしている。


「……何か、用ですか?」

「あーっと、ちょっと頼みがあんだよ。俺さ、今月生活費が結構厳しくて、そのクエスト一緒に行かせてもらいたいんだけど、ダメか?」


 少女は躊躇っていた。けれど、躊躇うばかりで拒む言葉もいっこうに出てこない。

 すぐに断らないのを見るかぎり、もう少し押せばいけると確信したシルバーは、切羽詰まっているように見せながら再び願い出た。


「頼むよ! 取り分は俺のが少なくてもかまわねぇからさ! 人助けだと思って!」


 シルバーは手を合わせ、頭を下げた。少女は大柄の男に頭を下げられ狼狽えながら答えた。


「えっと……わかりました。けど、報酬は半々でいいです」


 シルバーは「助かる」と申し訳なさそうにしていたけれど、内心ではラッキーと喜んだ。


「ありがとな。俺は、シルバー・ミストレスト。シルバーでいい。お前は?」

「リーシャ」

「ラストネームは?」

「……ただのリーシャ」


 教えたくはないという事なのだろうとシルバーは思った。それならば無理に聞き出す必要はない。


「わかった。よろしくな、リーシャ」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 リーシャは深々と頭を下げた。

 と、同時に彼女の腹の虫が盛大に鳴った。


「まずは腹ごしらえするか」

「……はい」


 2人は近くの店へと足を運ぶことにした。





 店に入って席に着くと、シルバーは早々にメニュー表を広げた。

 目の前の少女、リーシャがどのような人間かがよくわからない。というより、彼女自身が何故か必要以上の壁を作っているように感じていた。

 シルバーは少し探りを入れてみようと思った。


「そういやぁ、さっきマスターの婆さんから聞いたんだけど、最近越して来たんだってな。どこから来たんだよ」

「……教えたくありません」

「なんだよ。いろいろ訳アリってことか?」

「そう思っていただいて結構です」


 詮索不要という意思表示をされたようだ。態度がそっけない。

 リーシャの口から語らせるのを諦めたシルバーはあれこれと注文し始めた。その姿を不審そうに眺めていたリーシャも、1品ほど注文した。

 何を話していいかわからない2人の間には沈黙が流れた。

 数分後、テーブルの上には大量の料理が並んだ。それを見たリーシャは訝し気にシルバーの方を向いた。


「あの、さっきも思ったんですけど、そんなに注文して大丈夫なんですか? 生活費がないとか言ってましたけど……」


 シルバーはしまったと心の内で焦った。生活費はどうにかやっていける程度にはあるけれど、酒代がないという点では困っていたのだ。あながち嘘ではないと開き直ることにした。


「いーんだよ。一応手持ちはあるし、どうせこれから稼ぐんだしな。無理言ったし、嬢ちゃんの分も払っとくな」


 リーシャは首を振った。


「結構です。自分の分は自分で払います」


 そう言うと、リーシャは出てきた料理を黙々と口へ運び始めた。

 シルバーはきれいに食べ進める姿を見て、この子は親に大切に育てられたんだろうなぁと思った。けれどその親はもうこの世にはいない。

 そう思うとシルバーは可哀想で放っておけないような気持になってきた。


「嬢ちゃんはいい子だなぁ。おごるって言ってんだから、おごってもらったってだぁれも何にも言わねぇだろ」

「お金がない人に払わせたりできませんから」

「ふはっ、律儀な嬢ちゃんだなぁ」


 リーシャの食べる姿を少し眺めた後、シルバーも料理に手を伸ばし始めた。


「そういや、嬢ちゃんはどう戦うんだ? ちなみに俺はこの剣でぶった切っていくんだけどよ」


 お互いの戦い方を知らない事に気が付いたシルバーが突然質問を投げかけた。

 リーシャはちらっと視線だけ送り、また手元に視線を落とすと答えた。


「……魔法です」

「魔法? 杖は? いつもギルドには持って来てないのか?」


 よく見ると、このまますぐに発てるような姿ではない。わざわざ家まで戻るのかと不思議に思っていると、リーシャが口を開いた。


「必要ありません」

「必要ありませんって……て、嬢ちゃんは杖なしで魔法使えんのか⁉」


 予想外の回答にシルバーは周りの目を忘れて大声で叫び、立ち上がった。

 周りの視線が集まり、リーシャからは怒りの視線を向けられているような気配があった。

 シルバーは咳ばらいをすると、何事もなかったかのように席に座った。


「わるい……いや、杖なしで魔法使えるやつに会うのが初めてで驚いて。あれ? でも、杖なしだと発動に時間かかんじゃねぇのか? いつも一人って聞いたけど大丈夫だったのかよ」

「……1人で戦っても問題ない程度には……」

「ふーん。んで、今回の相手も1人で勝てる自信があったのか?」


 リーシャは俯いて黙り込んだ。視線もあらぬ方向へ向いているようだ。その行動が自信などなかったという事を示していることは明確だった。


「なんでそんな無茶しようと思ったんだ? 自分は強いって世の中に知らしめようとでも思ったのか?」

「違う‼ そんなこと考えてない‼」


 今まで大人しかった少女がいきなり机を叩いて立ち上がる様子に、シルバーは驚いて仰け反った。


「いきなりなんだよ。そんな怒ることか?」

「別に、怒ってない……です……」


 リーシャは椅子に座り直し、小さくなって再び料理に手を付け始めた。

 縮こまるように食べる姿を見て、シルバーはこれ以上この話も追及すべきではないと思い、自身も黙々と注文した物を食べ始めた。


「そうだ。もう1つ肝心な事を聞くの忘れてた。お前がBランクのクエスト受けたとは聞いたけど、内容は?」

「スカイディーパの討伐です」


 リーシャはクエストの依頼書をシルバーへ手渡した。

 スカイディーパ。空を翔ける4本足の獣のような姿をした魔物だ。

 空を翔けるため剣や槍だけの部隊では手を出すことができず、弓では硬い毛皮を貫くことができない。高度な魔法が使える魔法使いが数人必須のクエストだ。

 依頼書に目を通したシルバーは苦い顔をした。


「お前やっぱり馬鹿だろ。お前がどれだけすごい魔法使いかは知らねぇけど、こいつを1人でなんて無茶だ。俺ら2人でも厳しいぞ。俺のパーティのヤツに何人か声かけた方が……」

「ダメです!」


 リーシャはシルバーの言葉を遮りながら、勢いよく言った。


「んだよ。何がダメなんだよ」

「あんまり人が多いと巻き込んだときが……」

「巻き込む? 何に?」

「……」


 リーシャは固く口を閉ざした。

 ここまでの会話でリーシャには何か、どうしても触れられたくない過去があるという事だけはわかった。

 シルバーは、これ以上その過去には触れないようにしようと思い、溜め息をついた。


「まぁいいや。2人で行くってんならそれで。けど、いざというときは、ヤバいことになる前に逃げるからな」

「……はい」


 シルバーはその後も話しかけ続けるけれど、リーシャは簡単に返事を返すだけ。つかみどころのないリーシャとうまくやっていけるか心配になる一方だった。

 お読みいただきありがとうございます!

 かなり筆が乗った? 指が乗った? ので唐突に更新しました。次の更新分もあらかた出来上がってるので次回はいつも通り日曜に更新できると思います!

 でわ、また次回!

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