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ターニングポイント その15‐王の決断‐

 リーシャがノアたちを連れて玉座の間に戻ると、先ほどまではいなかった第2王子、フェンリルが国王の座る玉座の横に立っていた。彼はリーシャと会うのは初めてだと言わんばかりの、素知らぬ顔をしている。

 国王との謁見前に顔を合わせた際、フェンリルはリーシャの味方のような口ぶりで話していた。おそらく、リーシャが不利になるような発言はしないだろう。

 そうは思いつつも、リーシャは目の前の王族が増えた事に緊張してしまい、頭の中が真っ白になりながら先ほど自分が立っていたシルバーの横へ足を進めた。

 ノア、ルシア、エリアルもリーシャの横に一列に並んだ。

 今のノアたち3兄弟は人間姿だ。

 騒ぎに駆けつけることができず、ずっとこの場に留まっていた騎士たちは、ノアたちが本当に竜なのか静かに疑いの目を向けていた。

 その静寂を破るように、国王は声を発した。


「これで関係している者は全て集まったな。竜の子たちよ、よく来た」


 声の大きさの割に、どこか柔らかを感じる声が響き渡った。

 一瞬歓迎されているように感じたけれど、これから行われるのはリーシャたちへの判決だ。誰もが判決の行方を聞き逃すまいと気を引き締め直した。

 そんな中、ノアは周りの雰囲気など一切気にすることなく1歩踏み出し、胸に手を当てると堂々と一礼した。


「お初にお目にかかります。私、ノア・ドラゴノイド、と名乗らせていただいております」

「ほう、遠き国での竜の呼び名を使っておるのだな」

「はい、その通りです」


 リーシャは突然のノアの行動は不敬に当たるのではと思い、心臓が止まりそうな思いをしていた。

 騎士たちは突然国王へと近づいたノアを取り押さえるような事はしなかったけれど、いつでも切りかかれるよう神経をとがらせた。続けて不審な動きを見せれば、国王を守るためと剣を向けそうな雰囲気だ。

 そんな騎士たちの突き刺すような視線を向けられても、ノアは堂々とした態度を変えなかった。むしろ余裕すら感じ取れる。

 一見礼を尽くしているように見えるけれど、畏まる様子もなく堂々とした態度で話すノアの姿に、国王は興味を持ったようだ。国王の口が面白そうなものを見つけたかのように、わずかに弧を描いた。 


「では、ノア・ドラゴノイドよ。その名の通り、そなたたちが竜であるというのは本当か? 私はそなたが竜から人になる姿を見ておらんのでな。にわかには信じられぬのだ」

「はい。その通りでございます」

「この場で竜の姿になれるか?」

「可能です」


 ノアの言葉に騎士たちの顔がこわばった。

 先ほどまでは、ノアたちにいつでも剣を向けられるぞというような視線を向けていたにもかかわらず、今では恐怖という感情が騎士たちの表情に紛れ込んでいた。

 ノアはそんな周りの変化に構うことなく続けた。


「ですが、骨格が変わってしまうため、姿を変えると衣類が裂けてしまいます。私はかまわないのですが、この場で竜の姿に戻るということは後に不適切な姿をお見せすることになります」

「そうか……それは残念だな」


 国王の声は心底残念そうだった。王としてノアたちが本当に竜であるかの確認をしたかっただけではなく、自身が竜という生き物をまじかで見たかったのかもしれない。国王は好奇心が強い人物のようだ。

 国王が残念がっている事に気が付いたノアは、国王からの心証を良くするのに丁度いいと思ったのだろう。ある提案を持ち出した。


「……特定の部分だけ戻す、ということも可能です」


 国王は「ほう」と目を輝かせた。

 すると突然、剣をノアの首元へ近づける者が現れた。レイモンドだった。


「国王様に危険を及ぼすような姿をさらそうというのか?」

「望まれるのであれば……私は、御心に従うまで」

「では死ねと言われれば死んでくれるのか?」


 レイモンドの見下すような言い方と、論点の外れた問いかけにノアの眉がピクリと動いた。


「……それとこれとは別の話では? ですがその問い、お答えましょう」

「ふん。どう答えるのか楽しみだな」

「……たとえ国王様からの命令であっても、私たちに命を投げ出させるような命令ならば受け入れる事はありません。たとえどのような刺客を送ってこようと打ち払いましょう。それが誰であったとしても」


 言葉遣いは丁寧なままではあるけれど、ノアの瞳は怒気を孕んだ鋭い竜の瞳に変わっていた。2人を取り巻く空気も重く、今にもこの場で血が流れるような戦いが始まるのではないかと、騎士たちが緊張で息を呑むほどだった。


「その答え、やはり竜とは野蛮な生き物だな」

「竜でなくとも、人間であっても自分の命は可愛いものでしょう?あなたにはわからないのかもしれませんけど。私としてはたいした仲でもない相手に、好き好んで自分の命を差し出せるほうがどうかしていると思いますよ」

「貴様……!」


 ノアの蔑むような笑みにレイモンドの額に青筋が立った。

 誰もがこの2人を止めてくれと心の内で願わずにはいられなかった。そこへ国王の座る玉座の辺りから若い男性の大きな声が上がった。


「おい、テメェら! 勝手に話進めてんじゃねぇぞ!」


 ノアとレイモンドを止めに入ったのはフェンリルだった。

 フェンリルは目を見開いてレイモンドを見た。

 威圧感のあるフェンリルの視線にレイモンドは一瞬たじろいだ。彼以外の者も恐怖を感じたようで表情が強張り、リーシャも背筋にゾクリと震えが走った。


「レイモンド。お前が竜を良く思ってねぇのは知っている。が、さっきの話の流れで何故お前はそいつに剣を向けた? お前が剣を向ける直前、そいつの行動でこの場を乱そうとする動きがあったとでもいうのか?」


 レイモンドを問い詰める姿は、別室で会話をしたフェンリルとは別人のようだった。

 あの時のフェンリルは軟派で、噂通り王となれるような威厳は微塵も感じられなかった。

 けれど今の彼は違う。全てを従えてしまうような威圧と威厳が彼から溢れていた。

 そんなフェンリルの姿にレイモンドも自分の行動の愚かさに気が付いたのか委縮していた。


「……いえ」

「なら、でしゃばるな。また私欲で動くようなら今のお前の地位は返してもらう」

「はい、申し訳ございません」


 フェンリルは、言う事を言ってしまうと再び口を閉ざし、玉座の間は静まり返った。


「話は終わったかな?」


 国王はまるで今のやりとりは幻だったのだろうかと言いたくなるくらい、穏やかな口調で言った。

 ノアも先ほどまで纏っていた雰囲気など感じさせないくらいの平常心に戻っていた。


「大変お見苦しい姿をお見せしました」


 ノアは頭を下げた。不本意である事この上なかっただろう。

 そんなノアにむかって国王は優しげな声を出した。


「うむ、頭を上げなさい」


 ノアは言葉を発せず頭を上げた。


「ノア・ドラゴノイド。一部分だけでも竜の姿に変えられるというのならば、是非見せて欲しい」

「それでは、竜の腕をお見せいたしましょう」


 ノアは袖をまくり上げた。

 そこにあった人間の腕は、ノアが力を込めた途端に風を纏い、あっという間に竜のうろこと爪を纏った腕へと変わった。

 その姿にリーシャも目を丸くした。

 思えば、庭園にいたときルシアも人間の姿で竜の羽だけを出していた。いつの間にこんなに器用な擬態能力を身につけたのだろうと驚かずにはいられなかった。

 人間の姿で腕の先だけ竜という不可思議な姿を見た国王は、まるで好奇心旺盛な少年のように目を輝かせた。


「ほう、これは素晴らしい! これまで知られていなかった竜の生態をまた1つ知る事が出来た」


 喜んでいた国王の表情が突然憂いの表情へと変わった。そして、言葉を続けた。


「……しかし、これは困ったことにもなったな」

「それは、どういう事でしょう?」


 疑問を口にしたのはシルバーだった。

 リーシャには、なんとなく国王が危惧していることが何なのかわかったような気がした。


「竜が人の姿になれるということは、今この王都にも姿を変えた竜が潜伏している可能性が出てきたという事だ。王都を滅ぼす機会を狙っておるやもしれん」


 その可能性に気付く事は予測出来ていた。

 けれどリーシャはその可能性を打ち消す事ができる、ほんの少しの可能性を持ち合わせている。

 ノアたち3人と人の姿をしていた火竜が擬態できるようになった時の状況とその共通点。答えてはくれなかったけれど、おそらくあの火竜も同じ仮説にたどり着いていたはずだ。


「あ、あの。発言いいでしょうか?」

「なんだね?」


 国王だけでなく、この場にいたすべての人間がリーシャの方を向いた。

 心臓が壊れそうなほど脈打つ中、リーシャは震える唇で必死に言葉を紡いだ。


「えっと……おそらくで確証は無いのですが、竜が人に擬態するには条件があるように思います」

「ほう。して、その条件とは?」


 国王は興味深そうに尋ねた。

 リーシャは周りに視線を向けられ、発言しようとしたことを後悔し始めていた。けれど、これは伝えておくべき見解だ。

 リーシャは緊張を和らげるため深呼吸した。


「人に好意を抱くという事です。以前、私はもう1匹人間に擬態できる竜と出会いました。彼は人間の女性を愛していて、それを自覚したころに擬態が可能になったようでした」

「ほう。という事は、そなたの言う好意とは恋愛感情という事かね? そこの者たちも人間を愛していると?」

「えっと、その……」


 言いだしたのはいいけれど、自分から「彼らは私のことを愛しています!」などとは言えない。

 リーシャが言い淀んでいると横からエリアルが話に入ってきた。


「そうだよ! 僕たち、リーシャねぇちゃんのこと、だぁい好きなんだ……うぐっ!」


 突然始まった大勢の前での公開告白に慌ててエリアルの口を押さえた。

 赤面しながらこれ以上余計なことをしゃべらせまいとする姿に、この場の全員がリーシャは本当に竜の兄弟に迫られているのだという事を悟ったらしい。

 国王もそれを理解したはずなのに、わざと疑わしそうに言った。


「なるほど。だが、異種族の姿の者に恋心を抱くなどとはにわかに信じられんな」


 国王が意地悪を仕掛けている事に気付いたリーシャは、シルバーに助けを求める視線を送った。

 シルバーは「しかたねぇな」と言わんばかりの顔をして口を開いた。


「エリアルの言っていることは間違いありません。そう感じているのはおそらく俺だけじゃない。ギルドの人間に話を聞けばわかるはずです」

「そうか。今後はそのあたりの調査も進めさせねばならんようだな」


 国王は悪戯に失敗はしたものの、納得した態度を示した。

 竜の調査をどうするか国王が悩んでいると、フェンリルが耳打ちをした。


「そうだな。そろそろこの者たちの処遇を言い渡さないとならんな」


 突然の本題に、リーシャの背筋は伸びた。

 フェンリルは咎めはないだろうとは言ってはいたけれど、前例を作ってしまえば愚かな人間が真似をし始めるかもしれない。そのため、重い処罰を受ける可能性は十分にあり得る。

 リーシャもシルバーも緊張で息を呑んだ。

 反対にノアたち兄弟はケロッとした顔をしている。どんな決断が下っても問題ないと思っているようだ。都合の悪い処遇が言い渡されれば、この場で暴れ出しかねない。

 国王は始めにシルバーに視線を向けた。


「まずは、シルバー・ミストレスト。今回そなたは報告を怠り、人ならざるものをこの王都へ招き込んだ。それは処罰すべき事である。だが、国に被害は出ることはなく、彼らとの繋がりのおかげで先日の雷竜の討伐は成功した。これを踏まえて、今回の事は不問としよう」

「え? あ、はっ! ありがとうございます!」


 シルバーは想定外の言葉に驚き一瞬戸惑っていたけれど、すぐに凛々しい返事をした。その後、肩の荷が下りたように安堵の息を漏らしていた。

 リーシャもシルバーを巻き込んでしまったという罪悪感を抱えていたため、その判決に胸を撫で下ろした。

 続いて国王はリーシャの方を見た。


「リーシャよ」

「は、はい!」


 いったいどんな処罰になるのだろうと、リーシャは緊張で固くなった。


「そなたは禁じられていると承知の上で、隠れて竜を飼育した。が、そなたも結果を踏まえ減刑としようと思う。当面の間第2王子の指示に従い、可能な限り騎士たちと共に任務へ出動すること処罰とする。処罰のため、報酬は騎士の通常手当の半分の額だ。よいな?」

「は、はいっ! ありがとうございます!」


 フェンリルの方を見ると、口元が笑っていた。お咎め無しになると言いつつも、この判決こそがフェンリルの思惑通りの結果だったのかもしれない。

 リーシャは処罰を受けることにはなったけれど、内容的にあまり日常に影響しない処罰だったことに安堵した。

 出動の報酬を少なくされるとはいえ、お金に困っていないリーシャにとっては全く問題ない。問題があるとすれば、しばらくの間多少自由が利きにくくなったという事くらいだ。

 国王はリーシャの返事を聞いた後、1つだけ付け加えた。


「それと、この者たちの手綱はしっかりと握っておくようにな。この者たちが反旗を翻すようなことがあれば……わかっておるな?」


 リーシャの命はない、という事だろう。

 言われなくともノアたちを手放す選択肢などとうの昔に消え去っている。そもそも彼らの方がその選択肢を選ぶことを良しとはしないのだ。

 兄弟たちも人間と敵対するつもりは無いと言っているため、よほどのことがない限りは問題ないだろう。


「心得てます」

「ならよい」


 国王は満足そうに言った。

 残された問題は、ノアたち兄弟がどうなるかだ。

 誰もが緊張の糸を張り詰め、国王の決断を待った。

 国王は目を閉じ、考え、数秒後に瞼を開いた。


「では最後に、竜の兄弟よ」

「はい」


 ノア、ルシア、エリアルは国王の呼びかけに声を揃えて答えた。

 そんな素直な返事に国王は表情を和らげた。


「そなたたちも先日の功績を称え、この王都への出入りを許可する。ただし、時折研究所の手伝いをしてもらいたい」

「研究所の?」


 ノアの口から疑問がこぼれた。

 研究や実験という言葉は、リーシャがよく使う言葉のため意味自体は理解している。

 けれど、ノアたちは実際に研究も実験もしたことはない。自分たちに手伝えるような事があるのかどうか、ノアにはイメージが湧かず、眉間に皺を寄せていた。


「この王都には魔物に関する研究所がある。日々、様々な魔物の生態を探り、討伐に役立て、被害の最小化を図るための研究を行っておるのだ。だが、竜の生態は未だ手つかずのままなのだ」

「……つまり、私たちにデータの収集の手伝いをするように、と?」

「左様。可能な限り協力をしてほしいのだ」

「そういう事でしたら、お受けいたしましょう」


 ノアのはっきりとした返答に国王は満足そうだった。

 けれど少し間を置いた後、国王はやや困った表情をした。


「ただな、あそこは変わり者が多い。無茶苦茶な要求は無視してくれて構わんからな。何かあれば第3王子のアルベルトに言いなさい。アルベルトは研究所の監察官をしておるのでな」

「承知いたしました。寛大なご配慮、感謝いたします」


 第3王子のアルベルト・ジュレル・ヒュージニア・クレドニアム。

 彼について、リーシャはフェンリルの腹違いの弟という事しか知らない。もちろんノアもアルベルトという人物を一切知らない。ただ、国王の言いぶりから国王もアルベルトという王子も自分たちををないがしろにすることはないと悟ったようで、ノアの表情は満足げだった。

 反対に、この国王の決断に納得できない様子の者も何人もいた。とくにレイモンドは奥歯を噛みしめ、苦い表情をしている。


「親父、話は終わりでいいのか?」


 重さの混じる空気の中、フェンリルが玉座に座る国王に向かって平然とした態度で言った。


「フェンリル! このような場で親父と呼ぶんじゃないといつも言っておろうが」

「はいはい、んで? 終わりでいいのか?」


 早くこの場を終わらせたかったのか、フェンリルは王子の仮面を脱ぎ捨てたかのように、噂になっている通りの態度で国王に尋ねた。

 反省の色を見せないフェンリルに、国王は呆れ気味だ。


「まったく、お前というやつは……以上だ! これにて解散。それぞれ持ち場へ戻るのだ!」


 国王の言葉で、玉座付近以外の騎士たちが列をなしたまま玉座の間をはなれ始めた。

 リーシャたちはどうすればよいかわからず立ち尽くしていた。

 するとリーシャをこの部屋まで案内してくれた眼鏡の使用人がやって来て、手を扉の方へ向け退出を促した。


「では皆様こちらへ」

「あっ、はい」


 使用人からかけられた言葉で、リーシャたちは何事もなく謁見を終える事ができたのだと実感し、心から安堵した。そして国王に頭を下げると、促されるまま玉座の間を後にした。

 お読みいただきありがとうございます。

 今回ちょっと長くなりました。分けたかったのですが、丁度よい箇所が無かったので長めの話になりました。

 はじめはこの話で、ノアたちに王宮で暴れてもらおうと思っていたのですが、予定外にも何故か穏便(?)にすんでしまいました。でも、今後の話を考えるとこれでよかったのかもしれないです。

 でわ、また次回!

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