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ターニングポイント その14‐降り立つ者‐

 リーシャはレイモンドと共に、竜が降り立てる広さの庭園へ急いで向かった。互いに不信感を持つ2人の間には、ピリピリとした空気が流れている。

 先を走るレイモンドは振り返ることなくリーシャに言った。


「俺はあんたのこと信用しちゃいないからな」


 突然の宣言に、リーシャは目を丸くした。

 信用していない相手に対してかける気づかいなどないと言わんばかりに、レイモンドは自分のペースで走り続けていた。

 リーシャは遅れないよう、必死にレイモンドの後を追っていた。

 この男性から嫌われようが信用されなかろうがかまわない。リーシャは仏頂面でレイモンドの宣言に応えた。


「別に、信用、していただかなくても、結構です」


 リーシャは息が乱れる中、苦し気にとぎれとぎれに言った。走り続けながら流暢にに話ができるほどリーシャの体は鍛え上げられてはいない。


「それなら結構」


 リーシャとは対照的に、レイモンドは平然とした態度だった。

 別に良好な関係を築こうとは思っていない。

 ただ初対面でここまで敵意を向けられると心臓がチクリと刺されたように痛むし、直接レイモンドに害を与えたわけではないのに、なぜここまで露骨に嫌悪感を向けられるのだろうと不思議に感じた。

 もしかしたら過去に竜に関する嫌な出来事があって、竜と暮らしていたリーシャに嫌悪感を向けているのだろうか。そういうことならばこの態度ならばわからなくもなかった。

 だからと言って、リーシャは話しかければ自分が嫌な思いをするかもしれない相手に対して理解を求めようとは思わず、レイモンドもそれ以降は口を開くことはなかった。





 庭園へ出るとリーシャは空を見上げた。視線の先、王宮の遥か上空で1匹の黒竜が何かを探しているかのように旋回し続けている。

 確信はない。けれど、リーシャはあの黒竜はノアだと何故か感じた。


「ノア――‼」


 リーシャの大声が一帯に響き渡った。

 空高く飛行しているあの竜に声は届いたのかはわからなかった。

 けれど、どうやらリーシャの声は届いていたようで黒竜は何回か旋回を続けていた後、庭園の上空で動きを止めた。そしてすぐに下降し始めた。

 地面に近づくほどに明らかになっていく黒竜の巨大さに皆呆然とした。リーシャもこの黒竜が以前に見たノアの竜の姿よりも明らかに大きかったことに息を呑んだ。もしかするとノアではないのかもしれないと焦りが生じた。

 ある地点を境に、まるで巨大化しているように見えていた黒竜の姿が一定の大きさを保ち始めた。どうやら体を縮めながら降り始めたようだ。

 庭園に出ていた人間はリーシャとレイモンドを除いて、皆迫りくる恐ろしい物体から少しでも遠ざかろうと、慌てて建物の壁近くまで下がった。

 黒竜が王宮の見張り塔の高さ程まで降下すると、竜の上から飛び降りてくる人影が見えた。背中には黒い翼が生えている。


「リーシャ!」


 ルシアの声だった。

 ルシアは腕にエリアルと布を抱え、ゆっくりと地上に降り立った。どうやらあの竜は本当にノアで、弟2人もその背に乗って来たようだ。

 ルシアはエリアルを地面に下ろすとすぐにリーシャに駆け寄り、体をくまなく確認し始めた。


「大丈夫か? 痛いことされたりしてないか? 怪我は?」


 人前で子供のように心配され、居たたまれなくなったリーシャはそっとルシアの動きを制止した。


「大丈夫。なにもされてないし、怪我もないよ……恥かしいから、そろそろやめてくれるかな?」

「ああ、わりい。けど、無事でよかった」


 ルシアは安堵したように微笑んだ。

 ノアと思しき黒竜も、2人に遅れて地面へ足を着けた。

 その大きさは飛行していた時よりもかなり小さくなったといえ、まだ人間の3倍ほどの大きさはある。

 ノアが周りにいる人間をギロリと睨みつけて威嚇すると、壁際で固まっていた騎士たちは慌てて剣を抜き、ノアへと剣先を向けた。


「ノア、やめて!」

「お前たちもだ。剣を収めろ」


 一触即発のような雰囲気の中、リーシャとレイモンドが声を上げた。


「しかし、隊長! この庭園に竜をとどまらせるなど、すぐに討伐しなければ!」

「国王様の御前へ連れて行くよう、国王様直々の御命令がある」

「そ、そんな国王様の……?」


 国王の命令だと聞いた騎士たちは、ひどく狼狽えたけれどそれ以上は何も言わなかった。

 ノアも自分たちに危険が及ばないがわかると、人ほどの大きさまで小さくなった。体を覆う鱗は体の中へと吸い込まれ、人間の肌へと変化し、最終的には全裸の人間の姿が現れた。

 黒い長髪でけだるげな表情をした人間。やはり黒竜の正体はノアだった。

 リーシャは顔を赤らめ、スッとノアから視線を逸らした。

 ノアたちの裸を目にする機会はこれまでにも何度かあった。けれどそれでも男性の裸体を見慣れる事はなく、リーシャは今のノアの姿を直視できなかった。


「ほら、兄貴」

「ああ」


 ノアはルシアから差し出された服を受け取ると、すぐに身に着けた。もともと竜は服を着ていないせいなのか、人前で裸体をさらすことにほとんど抵抗は無い様子だ。

 けれど、ノアが良くとも王宮でそんな姿をさらそうものなら、普通はすぐに取り押さえられる。国王の命令は絶大だった。

 それにノアが竜の姿で現れたのもよほど効いているようで、顔があからさまに恐怖で強張っている騎士が何人かいた。

 いつの間にか王宮の窓には、庭園を覗き込んでいる多くの人影があった。騒ぎを聞きつけた王宮で働く人間がぞろぞろと集まってきてしまったようだ。どの人も「ありえない」とひそひそと話している。

 視線が集まるこの庭園はリーシャにとって居心地が悪く、早くこの場を立ち去りたかった。


「3人とも。今から国王様のところへ連れて行くけど、失礼のないようにしてよね」

「こくおうさま? だれだそれ?」


 ルシアが首を傾けた。

 思い返してみると王都からの使者を警戒していた間、使者の話をすることはあっても国王という言葉が出ることはなかったような気がした。ルシアたち3人がわかっていないのも無理はない。


「この王都、というか国で一番偉い人だよ」

「ふーん、偉い人なのか。とりあえず大人しくとけばいいんだよな?」

「そう。エリアルもいい? 大人しくいい子にしててね」


 リーシャが問いかけると、エリアルは胸を張って答えた。


「大丈夫! 僕はいつもいい子だから!」

「あ、えっと。そうだね」


 確かにエリアルは悪い子ではない。けれど、リーシャが言いたかった“いい子”とは少し意味合いが違っているのは間違いないだろう。

 きっと国王はこの3兄弟に話を聞こうとするだろう。

 リーシャの脳裏に日頃のエリアルの幼い言動で受け答えをする姿がよぎり、不安から苦笑した。


「けどまあ、大抵のことは兄貴に任せとけばどうにかなるだろ。そういうのは兄貴が上手いし」


 不意に発せられたルシアのその言葉で、リーシャはふと思い出した。ノアがこれまで初対面の相手にどのような態度で接してきたのかを。


「それだ!」


 リーシャは勢いよくノアへ振り向き、詰め寄った。

 ノアは猫を被るのがうまい。リーシャがかかわるとボロは出やすいけれど、弟2人よりは礼儀正しい人を演じることができる。


「ノア、国王様に質問されたら失礼のないようにうまいこと答えて! ルシアとエリアルが質問されたらどうにかフォローしてあげて! お願い!」


 その勢いに、ノアは若干引き気味で嫌そうな顔をした。けれど、弟の後押しもあったためか、仕方ないなと言いたげに溜め息をついた。


「最善は尽くすが、俺のアレはきちんと学んだものではない。しくじっても文句は言うなよ」

「大丈夫! ノアの猫被りは、私より礼儀正しいから!」

「……それはそれでどうかと思うぞ……」


 危機は去ったと安堵していたリーシャにノアの囁きは聞こえてはいなかった。

 そんな様子を黙って観察していたレイモンドがリーシャたちの方へ歩いて来た。


「無駄話は終わりだ。国王様が待っていらっしゃる。行くぞ」

「あ、はい!」


 リーシャとノアたち兄弟は、急ぐレイモンドの後姿を追いかけ、建物の扉をくぐった。

 3兄弟はレイモンドのリーシャを邪険にするような態度に不満そうな表情をした。

 けれど、王宮内に入った途端、ルシアとエリアルは表情を変え、きょろきょろと首を動かしはじめた。王宮に来たばかりのリーシャと同じように、建物の豪華なつくりに驚いているようだ。


「それにしてもよく抜け出して来られたね。向こうに残ってた騎士の人たちに怪我させたりしてない? 3人も怪我は無い?」


 リーシャの問いに、ルシアは周りを見渡す首の動きを止めた。


「家に来た連中とは顔合わせてねぇから平気だ。家の中にいた人間の気配が消えたから、地下から顔出して覗いてみたんだ。そしたら誰もいないし、窓から外のぞいても家の周辺にはなんの気配も無かったから、楽勝で外出られたぞ」

「えっ……?」


 リーシャは耳を疑った。

 3人はもともとあの家に住みついていたのだ。戻ってくる可能性も十分に考えられるはずだ。


 残った騎士の人たちは何を考えて、全員で森に入ったんだろう……1人くらい周辺で待機してた方がよかったんじゃ……


 リーシャたちの会話に黙って耳を傾けて板であろうレイモンドが頭を押さえているのを見る限り、やはり本来ならばありえない行動だったようだ。もしかしたら、きちんと指示を出していたのにこのありさま、という事なのかもしれない。


「? どうかしたのか?」

「ううん。何でもない。何事もなかったならよかった」


 そのおかげで、3人が無事でいられたのだ。

 ルシアは聞きたそうにしてはいたけれど、リーシャはこの事を深く追求したくはなかったので、話を逸らした。

 下手に追及しなければ、部下の失態に頭を抱えるレイモンドと衝突することもない。

 お読みいただきありがとうございます!

 やっとターニングポイント編の終わりが見えてきました。一応次の話はどんな話にするかは決まっているので終わり次第、次の編を進めます!あ、もしかしたら次の更新は日曜待たずにするかもしれません(未定ですが)。

 でわ、また次回!

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