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ターニングポイント その7‐共闘‐

 時は少し遡りーー。


 リーシャはエリアルと別れるとすぐに臨戦体勢に入った。

 雷竜の体が突然発光したかと思うと、直後全身から勢いよく電気が放たれた。リーシャはその攻撃を、再び土の壁を作り出すことで防ぎきった。

 ただ土壁は今の攻撃を防いだだけで限界を迎え、そのままズサーっと崩れ落ちた。

 先ほどの加減されている気がした攻撃はやはりその通りで、加減された攻撃だったようだ。

 リーシャの表情が歪んだ。


「やっぱりだめか……さっきよりも結構固い壁作ったはずなのに……土よ槍の姿に!」


 リーシャが号令し手を横に振ると、言葉通りの鋭い槍の先のような土の塊が宙に現れた。土の槍はリーシャの前に1列に浮かび、その矛先は雷竜を捉えている。

 わかってはいたけれど、この竜は強い。おそらく、竜の中でも強い方に分類されるだろう。

 リーシャ1人でどこまで足止めができるかどうか。もしかしたら、この竜が本気を出せば10分も持たないかもしれない。

 となると、土の槍で狙う箇所は一気に絞られる。


 狙うべき箇所は……翼!


 翼さえ落としてしまえば距離を置いたとしても、そうそう逃げられることはないはずだ。

 他の人を待って、連合軍総出で討伐するのが最善の策。

 リーシャは槍にさらなる号令をかけた。


「槍よ貫け!」


 手を雷竜の翼へ掲げると、土でできた槍はリーシャの指示通り、竜の翼へ向かって直進した。

 竜の体は固い。

 リーシャは少しでも攻撃が通るよう土の槍に硬化魔法を付与したけれど、どこまで通用するかはわからない。

 槍は狙い通り竜の翼へ向かって突き進んでいく。

 けれど雷竜がその槍を手で薙ぎ払い、大半が粉砕されてしまった。

 運よく払われなかった数本がどうにか狙い通り、翼の付け根に突き刺さった。けれど竜の体の固さが想定以上で深くは突き刺さらず、竜が翼を動かしただけで全て落とされてしまった。


「ああ、もう!」


 リーシャは思うように攻撃が通らず、苛立った。


 もっと威力重視の魔法を使う? けど、それじゃあいつもよりちょっとだけど発動までに時間が……あの竜相手にわずかなタイムロスでも命取りになる危険だし。ああもう! 一旦落ち着いて!


 リーシャは苛立ちを払うため大きく息を吐きだした。迫りくる雷竜の攻撃をかわしながら、どうやって翼を落とす流れを作り出すかひたすらに考え続けた。


 この雷竜の攻撃の速さから考えて、威力重視で魔法を発動させた場合、そこで生じたタイムロスが命取りに繋がる可能性は十分ありえる。それに、攻撃重視ってことはその分魔力も多く使うし、狙い通り当たればいいけど、避けられたり防がれたりしたら無駄な魔力の消費になっちゃう。それなら、スピード重視でたくさんの攻撃で翼を狙った方が……負荷をかけ続けることによって、徐々にその機能を奪っていく方がいいかもしれない。


 リーシャは考えを実行へ移すため、自身に身体強化の魔法をかけようとした。

 そんな時、後方から人の声のようなものが聞こえたような気がした。


「リーシャちゃん‼」


 リーシャは慌てて振り返った。

 ラディウスが走ってリーシャの元へ向かって来ている。リーシャは1人ではなくなったことに、わずかに安堵した。

 リーシャが雷竜からの攻撃に備えて防御壁を作り上げると、ラディウスはその壁の影に駆け込んだ。周囲に他の連合軍のメンバーの姿は見当たらない。


「他の人は?」

「まだ俺だけだよ。さっき君のところの男の子に会って、ここにくるように言われたんだ。一番背が低い子。たぶん今も他の人を探し回ってると思う」

「そっか」


 エリアルは頼んだ通りに助けを呼んで回ってくれているらしい。リーシャは素直にお願いを聞いてくれるエリアルがいてくれてよかったと心から思った。

 2人が話をしている間も雷竜の攻撃が止むことはなかった。リーシャは防御を崩されまいと、さらに強度を上げた土壁を作り上げた。

 本当は守りにあまり魔力を使いたくはないのだけれど、ラディウスと話し合うにはこうするしかない。


「リーシャちゃん、これからからどうする?」

「逃げられないように翼を落としたいと思う。そう思ってさっきから翼狙って魔法を使ってるんだけど、うまくいかなくて」

「そっか。それじゃあ、俺が翼を狙うよ。リーシャちゃんはサポートに回ってくれる?」

「うん、わかった」


 ラディウスが雷竜に向けて飛び出そうとした。


「待って!」

「どうしたの?」


 リーシャはラディウスに手を掲げ、身体強化の魔法を発動させた。いくらラディウスとはいえ、何の強化もしないままでは勝ち目はないだろう。


「身体強化魔法かけたから」


 いきなり魔法をかけられたことにラディウスは驚いていた。

 けれど体が軽く、力が溢れてくるのを感じると口元に笑みを浮かべた。


「ありがとう」


 そう言うとすぐにラディウスは土壁の横をすり抜け、雷竜へ向かって走り出した。

 リーシャは土の槍を雷竜の攻撃にぶつけ、ラディウスに攻撃が当たらないように、軌道を変化させていく。

 ラディウスが翼めがけて飛び上がると、雷竜は彼を打ち落とそうと手を伸ばした。

 雷竜の攻撃に気が付いたリーシャは、その攻撃をかわさせるため瞬時にラディウスに向かって風魔法を放った。そしてそのまま、彼をさらに上空へと押し上げる。

 雷竜は2人の狙いに気づいたように目を見開いた。すると大きく翼をはばたかせ、体は宙に浮き始めた。

 辺り一帯に強烈な風が吹き荒れる。

 ラディウスは落下の勢いを使って翼を落とそうとしていたのだけれど、強風のせいで狙いがぶれ、勢いも殺されてしまった。

 

「くそっ!」


 ラディウスはいったん雷竜の手の甲に着地し、再びがむしゃらに飛び上がった。

 翼を落とそうと剣を振るうけれど、その攻撃は狙った個所には届かず、虚しく宙を斬った。ラディウスの体は何もできないまま地面へと落ちていく。


「ラディウス! すぐに離れて!」


 リーシャの声を聞いたラディウスは、地面に着地すると同時に急いでその場から飛びのいた。


「風よ! 彼のモノを大地へ!」


 リーシャが叫んだとたん、上空から強烈な暴風が吹き降り、雷竜の体を地に叩きつけた。

 雷竜は開くことのできない口でうなり声をあげ、体は大地へとめり込んでいく。

 思い描いた通りの状況に持ち込めた。

 けれど1つ、思った通りではない事態が起こっていた。リーシャは自身の魔力の流れに違和感を覚えた。

 

 まただ!


 風を止めようと思うのに、魔法が止まらない。

 雷竜の全身を風魔法で押さえつけようとして、広範囲にわたる巨大な魔法を発動したせいなのだろう。リーシャは再び魔力をコントロールできなくなっていた。

 吹き下ろされる風の範囲がどんどん広が始めた。抉られていく地面の範囲が広がっていく。


 まずい! このままだと私たちまで巻き込まれる!


 リーシャが危機を感じ取った瞬間、手首につけていたブレスレッドが光を放った。

 フレイから貰ったブレスレッドが効果を発動したのだ。

 強烈な下降流は徐々に威力を失い、数秒後には収まった。

 リーシャはその場に崩れるように座り込んだ。魔力の使い過ぎと風魔法に巻き込まれずにすんだ安堵感で、立っていられなくなっていたのだ。

 このまま、ただ茫然と座っていたかったけれどそういうわけにもいかない。


「ラディウス!」


 リーシャはラディウスに向かって2つの魔法を同時に放った。

 1つ目の魔法はラディウスに対する2回目の身体強化魔法。もう1つは剣に対する硬化魔法。


「今のうちに翼を!」

「オーケー!」


 竜がひるんでいる今がチャンス。これだけ補助魔法を使ったのだ。倒せないまでも翼を落とすことはできるはず。

 地面にめり込んでいる雷竜は、まだ身動きが取れそうもない状態。

 ラディウスは飛び上がり、重力をふんだんに使った一撃を翼に叩きつけた。


「グアァァァァァァァ‼」


 雷竜の片翼が血しぶきを上げ、地面へと落ちた。

 これで簡単に逃げられることはない。


「やった!」


 リーシャの口から思わず喜びの言葉が漏れた。

 とはいえ、まだ翼を落としただけ。この雷竜相手ではいまだ苦しい状態なのに変わりはない。

 リーシャは両頬をパシンと他叩き、すぐに気を引き締めた。


 救援が来るまで頑張らないと!

 お読みいただきありがとうございます。

 やっと戦いが始まりました。土壁を多用しすぎかなぁと思いつつも、使い勝手がいいので多用してしまいました。もしかしたらリーシャの得意技なのかもしれませんね。(ということにしておきましょう)

 では、また次回!

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