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ターニングポイント その5‐捜索‐

 雷竜の捜索を始めて4日目――。



 話によると、雷竜(いかづちりゅう)はアイズリークを滅ぼし、討伐部隊を壊滅させた後、この森の中へと身を潜めたという目撃情報が数件寄せられたらしい。その後、飛び立ったという話が出ていないため、まだこの森に住みついているのではないかとの見解から、早急に討伐クエストが発令されたとのことだ。

 連合軍は4日経つ今もまだ雷竜の足取りを掴めず、足踏みをしている状態にあった。

 この日もリーシャは雷竜の居場所を掴むため、エリアルと一緒に森の中のあちこちを捜索していた。

 隠れるのに適している洞窟や背の高い草の生えた茂みなど、いろんな場所を念入りに捜索して回った。けれど雷竜の痕跡はどこにも見当たらない。

 リーシャは手に持っている地図の、今自分たちが立っている辺りにバツ印をつけた。


「はぁ……」

「どうしたの?」


 リーシャの憂鬱そうな様子に、エリアルは地図をひょっこりと覗き込んだ。


「うわぁ。すごいね、バツがいっぱいだ」

「ほんと、こんなに探してるのにね……痕跡すら見つからないなんて……もう別の場所に移動しちゃったのかな……」


 バツ印は何の手掛かりも得られなかった場所。

 リーシャは自分たちが探した場所の情報だけでなく、集合時に他のギルドから得た情報も書き入れていた。

 どこのギルドも竜の痕跡を見つけだせずにいるため、近いうちにこの地図は真っ黒になるのではないかと思えるほど、おびただしい数のバツ印が書き込まれている。


 今までは隠れられそうな洞窟とか茂みとかを探してきたけど、見方を変えて探したほうがいいのかな。例えば……見晴らしがいい場所とか?


 リーシャは次にどの辺りを捜索しようかと地図に視線を落とし、試行錯誤を繰り返した。

 集中していると手が地図の上を横切り、ある1点を指差した。


「ねぇねぇ。ここは? ここ、誰も調べに行ってなくない?」


 エリアルの指は地図の北の方を差していた。そこは数週間前までこの国の王都、アイズリークがあった場所だ。

 アイズリーク跡地は連合軍が立ち上げられる前に生存者の救出という名目で大規模な捜索が行われたらしい。けれど、竜が住みついている様子はなかったとのことだ。それ故に今回の捜索範囲からは除外されており、誰かが捜索に向かったという話も出ていない。


「一応、私たちが来る前に他の人が探しに行ってるらしいけど。見晴らしがよくなるくらい壊され尽くされてて、何の跡形も残ってないみたい。竜が隠れられるような場所はほとんどないから、住みついてたらすぐにわかるだろうとかなんとか言ってたような……ん?」


 アイズリーク跡地の話を口に出していると、リーシャの頭にある考えが浮かんできた。


「どうしたの?」

「ちょっと待って、考えるから」

「うん?」


 リーシャは頭の中で仮定を巡らせ始めた。


 どんなに壊されたとしても、王都って呼ばれてた都市の建物は丈夫に造られているはずだから、人が隠れられる程度には瓦礫は残るんじゃないかな? 人の認識だって、かなりの間竜とのかかわりがなかったんだもん。捜索してた人の中に竜が体を小さくできるっていう事を知らない人だっていたかもしれない。知ってたとしても、捜索に来ていた人の想定より雷竜が体を小さく出来るとしたら? こんな場所に竜がいるわけないと思いながら捜索していたとしたら? もしかしたら見落としがあったかもしれない。

 

 リーシャは何の手掛かりも得られず、捜索に()きが生じ始めていた。このまま探し続けても見つけられる気がしなくなっていた。

 そんな気持ちをリセットするためにも、引っ掛かりを解消しに跡地へ行ってみるのもいいかもしれない、リーシャはそう結論を出した。


「この場所に行ってみよっか。もしかしたらってこともあるかもだし」

「うん!」


 拾った木の枝で近くの草むらをごそごそとかきわけていたエリアルは立ち上がった。

 そして、リーシャとエリアルは捜索範囲外のアイズリーク跡地へ向かって歩き出した。





 アイズリークはこの森抜け、少し行ったところに存在していた。

 ほんの数週間前までなら、すぐに城壁が見えていたはず。なのに、今ではいつまで歩いても城壁は現れない。

 代わりに見えてきたのは、見るも無残なアイズリークの姿だった。


「これは……ひどいね」

「うわぁ。なぁんにもないや」


 それしか言葉が出なかった。

 跡地となったアイズリークは想像通り、崩れた建物の瓦礫ばかり。

 よほど雷竜が暴れたようで、驚くほどに見渡しが良かった。これほど何もないなら、雷竜は住みついていないと判断し、今回の捜索地域から除外されるのも当然だ。

 しばらくの間、リーシャたちは足元に気を付けながら、跡地を歩き回った。

 さすがにいないだろうと思えるような、ウサギが通り抜けられるくらいの隙間も覗き込み、念入りに調べていく。


「いないねぇ」

「そうだね。私たちの歩く音くらいしか物音しないし……やっぱり、ここにはいないのかもね」

「うーん、見つからないならそろそろ戻る? 森の中も探してないところがまだある……あっ!」


 途中で言葉を止めたエリアルの視線の先には、この荒れ果てた地で数少ない、大きな瓦礫の山があった。エリアルはそこへ走って行き、山によじ登り始めた。


「この上からなら遠くまで見えるんじゃないかな? 何か動いたらきっとすぐにわかるよ!」


 頂上に着くとエリアルは瓦礫の上に立ち、じっと周りを見渡した。足場の悪さに、エリアルの足はかすかにプルプルと震えている。


「エリアル! 落ちて怪我しないでよ!」

「わかってるよー……あれ?」


 エリアルが足元の瓦礫のすぐ下を覗き込んだ。リーシャがいる側とは反対側に何かがあったようだ。

 どうやらこの瓦礫の山は、小さな要塞のようになっているらしい。

 エリアルがのぞき込んでいるのは瓦礫の要塞の中央だ。

 何を見つけたのかわからないリーシャは、大きな声でエリアルに呼びかけた。


「どうしたの?」

「あのね、今この下からなんか聞こえた気がしたの。でも、暗くてよく見えない」

「何が落ちてるかわかんないから、中に入っちゃだめだよ」

「わかってるー」


 さすがに、ここまであからさまに隠れやすそうな場所なら、前に捜索した人たちが探しているだろう。

 けれど森を捜索しても見つからないという事実もある。もしかしたら捜索後にここに住みついた可能性がなくもない。

 エリアルは目を細め、だんだん前のめりになっていった。


「うーん? ……あぁぁぁぁぁぁぁ‼」


 エリアルは声を上げたかと思うと、突然リーシャの方へ振り返った。


「ねぇちゃん! いた!」

「え?」

「ちっちゃい金色のやついたよ! 僕よりちっちゃいの!」


 エリアルが叫んでいる間に、リーシャは小さな要塞の辺りに妙な魔力が流れ始めたのを感じとった。

 魔力は瓦礫の向こうの、ある1点に集中している。


 まずい‼


 リーシャは、大きな魔法がエリアルに向けて発動されそうになっている事に気がついた。


「エリアル‼ そこから離れて‼」

「なんで?」

「いいから! 急いで‼」


 リーシャの慌て方につられ、エリアルは急いで瓦礫の山から飛び降りた。

 次の瞬間、瓦礫の向こう側がバチバチと音を立てて光ったかと思うと、大きな光線が先ほどまでエリアルが乗っていた瓦礫を吹き飛ばした。


「わわっ!」

 

 慌てていたエリアルは着地に失敗し、前のめりに転んでしまった。

 けれど、それが幸いして間一髪で突然の攻撃から逃れることができた。普通に着地していたら上半身が吹き飛んでいたかもしれない。

 リーシャは慌てて駆け出した。

 早くエリアルを連れてこの場を離れなければただでは済まない。今の攻撃の威力からして、エリアルをかばいつつ、リーシャ一人で戦うには相手が悪すぎる。

 リーシャが必死に足を動かしていると、先ほど光が発せられた場所で巨大化する、金色の何かが視界に入った。それが何なのか、確認している暇など今はない。

 リーシャはエリアルの側まで行くと、しゃがんで顔を覗き込んだ。


「エリアル! 大丈夫⁉」

「うん、へーき。でも顎が痛いや」


 倒れた拍子に擦りむいたようで、エリアルの顎にはうっすらと血が滲んでいた。

 

「後で治してあげるから、急いでここから逃げるよ」

「う、うん」


 リーシャはエリアルに手を貸し、立ち上がらせた。

 ふと、自分たちの足元に影が落ちている事に気がついた。まるでそこに木陰でもあるかのように異様に大きい影。

 見上げると、以前戦った黒竜よりもさらに大きな竜がリーシャたちを見下ろしながら佇んでいた。

 竜の体の色は、竜の種類を表している。

 目の前にいる竜は黄色とも金色ともいえるような鱗を纏っていた。その色は、その竜が電気の魔法を得意とする竜であることを意味する。

 リーシャの頭の中に、誰でもわかる1つの答えが導き出された。


 間違いない。この王都を滅ぼしたのは、この竜だ……


 まさかこんな風に遭遇するとは思っていなかったリーシャは、思わず後ずさった。


「グオオ! グアオオォォォォォォォォ‼」


 雷竜がリーシャたちに向けて放った咆哮が、あたり一帯に響き渡った。

 お読みいただきありがとうございます。

 ちょっと、冒険っぽい話でワクワクしていたせいか、今回はスラスラ書けました! なので、この1週間調子こいて新作のほうをダダっと書いてました。こちらの作品もちゃんと先を少し進めてはいるので大丈夫ですよ!(何がだよ)

 というわけで、では、また次回!

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