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ターニングポイント その4‐3兄弟の真意‐

「そんじゃあ、俺らも明日からのこと決めとくか。そうだなぁ……捜索は3つの班に分けちまうか。ノアたちを一人で行動させるのは心配だし、2人1組の方がその場その場での見落としが減るだろうからな」


 いつものようにシルバーが場を仕切り始めた。こういう場では本当に頼りになる男性なのだ。

 王都で出会う時はめんどくさがりで強引で、問題も多い。

 それでもリーシャがシルバーとパーティを組むのを嫌だと思わないのは、こういう頼りがいがあるというのが大きかった。レインやギルドの他の人間も同じように思っているだろう。

 ノアたち兄弟もシルバーにこの場を任せ、全員が大柄の男へと視線を向けた。

 

「まずはリーシャ、お前はエリアルと行け」

「うん。わかった」


 実力を考慮しての妥当な判断。それ以外の事情も含めても間違いなく最善だ。

 移動中、リーシャとあまり話すことができなかったエリアルは我慢の限界の様子なのだ。この地に着いてから妙に甘えてくるのはそのせいなのだろう。

 エリアルは飛び上がって喜び、その勢いのままリーシャへ飛びついた。


「やったぁ‼ リーシャねぇちゃん、頑張ろうね!」


 エリアルはリーシャのことをギュッと抱きしめ、キラキラと目を輝かせた。

 雷竜との戦闘を控えているのだ。気を引き締めなければと思うのに、いつもゆるっとしているエリアルといると気が抜けてしまう。

 けれどそんなエリアルの姿を見ていると、それも悪い事ではないかもしれないとふと気がついた。

 本格的に活動を始めるのは明日。ずっと気を張り続けるのもよくないかもしれないと思い直し、リーシャはエリアルに微笑みかけた。


「うん、そうだね」


 リーシャの反応に満足したエリアルは、よりいっそうギュッと力を入れて抱きしめた。

 リーシャたちが納得した様子を見たシルバーは、次にレインの方を向いた。


「レイン、お前はノアと行ってくれ」

「うん、わかった。ノアね……」


 ノアを割り振られたレインの声は、気の乗らないような声だった。

 それに気がついていたノアは目を細め、レインに問いかけた。


「何か問題でもあるのか?」

「問題はないよ。君、それなりの実力はあるし。ただ、俺、君のこと苦手なんだ」


 レインもノアと同様、言いたいことは何でも口に出す性格だ。もしかすると同族嫌悪でもしているのだろうか。

 そんなことを言われたノアの方はというと、「面白いことを言う」とでも言いたげに口元が笑っていた。


「ふん。はっきり言ってくれるじゃないか。俺はそうやってものをはっきり言うヤツは嫌いではない」

「じゃあ、さっき君の弟が言い合いをしていた彼は?」

「アレは、はっきりものをいう以前に俺たちをからかって楽しんでいる節がある。できればあまり関わりたくはない」

「へー」


 リーシャはそんな2人の会話を緊張しながら聞いていた。2人が会話をし始めた辺りは衝突するのではとハラハラしていたのだ。

 けれど互いに大人な性格をしていることもあり、言いたいことを言い合ってもさほど険悪な雰囲気になる事はなかった。それなりにうまくやっていってくれそうだ。

 リーシャ2人のやり取りに口を出さなくてもよさそうだと胸を撫で下ろした。

 シルバーもそんな2人を見て大丈夫そうだと判断したらしく、笑みを浮かべていた。

 そしてシルバーは、最後にルシアへと視線を向けた。


「そんで俺はルシア、お前とだな」

「ん。わかった」


 ルシアのあっさりとした反応に、シルバーは意外そうな表情をした。


「お前、案外素直に納得するんだな。てっきりお前はリーシャとがいいって言いだすかと思ってたんだが……」

「んー? チーム分けは、力のバランスとか考えて分けたんだろ?」

「まあ、そうだが」


 まだ意外そうにしているシルバーに、ルシアは複雑そうな顔をした。

 たしかにルシアはリーシャの事になると暴走しがちではある。

 けれど元々世話焼きな性格だ。もし本当に聞き分けが悪ければ、日ごろから的確にリーシャやエリアルの世話を焼くことはできないだろう。

 ルシアは困ったように首の後ろを書き始めた。


「えーっとさ、たしかにリーシャと同じチームがいいっていうのが本音ではある。そこは否定しねえよ? たださ、今回はそういう我儘じみた事を言っていい時じゃねぇと思ったから、不満はあるけど納得してるってだけだ」

「……お前、わりと物分かりいいやつだったんだな」

「ひっでー言い草だなぁ」


 シルバーの口から出た思った以上に低い評価に、ルシアは苦笑した。

 ルシアはリーシャにじゃれつくエリアルに視線を向け、話を続けた。


「まあ、それ以外にも俺はここに来る間ずっとリーシャと一緒だったからってのもあるんだけどな。2人を差し置いて、俺ばっかりがリーシャを独占するのはまずいだろ? そもそも、エリアルの方は限界がきてるだろうしな」

「限界?」


 ルシアはエリアルの視線が自分に向いていないことを確認すると、シルバーに近づき、口元が見えないように手で隠しながら話した。


「たぶん、リーシャと別行動にさせようとしたら間違いなく喚き散らす。あいつ中身が完全に子供だから」

「ああ、そういうことか」


 さすがは世話焼きな兄だった。

 幼い性格の弟の感情の起伏を予測し、自分の感情をうまく押し込めているようだ。ノアに対する折り合いもわかっているのだろう。

 そして、おそらくそれはノアも同じ。

 兄弟それぞれが互いに大事な存在だと認め合い、上2人がそれぞれの事を理解し、動ける。それがこの3兄弟が仲の良い秘訣なのだろう。

 ただシルバーとしては、そんな仲の良い兄弟だからこそこれからどうするのだろうという疑問点もあった。


「なぁ、お前ら3人は揃ってリーシャに惚れてるんだよな?」

「ん? ああ、そうだけど?」

「もし、リーシャが3人のうちの誰かに惚れて、そいつとくっついちまったらどうすんだ?」

「それはだなぁ……」


 ルシアはさりげなく周りの様子を確認した。

 リーシャはエリアルにまとわりつかれ、ルシアの話に耳を傾けるどころではない様子だ。

 レインもノアとの会話で気が逸れているし、他のギルドの人間たちもそれぞれ明日の事の話し合いをしているため、ルシアの方に意識を向けている者は誰もいない。

 ルシアの口が弧を描いた。


「そんなことはさせねぇよ? 俺ら兄弟、3人一緒にリーシャと番になるんだ」

「……は?」


 シルバーは眉をしかめた。

 ルシアの目は本気で、冗談を言っているようには見えない。普通のはずの笑顔が、その異質な言葉と相まってゾッとするような怪しげな笑みに見えてきた。


「どうかしたか?」

「い、いや……」


 ルシアは不思議そうな表情をしていた。シルバーが言いにくそうに言葉を詰まらせた理由がわからなったのだろう。

 異質な愛情を指摘すべきなのかシルバーが悩んでいると、ルシアは遠いものを見つめるかのような瞳をして話を続けた。


「決めてんだ。俺ら兄弟のうち、誰か1人にリーシャの気を向けさせるようなことは絶対にしないって。もし、リーシャが誰か1人を番に選んだら、俺らは殺し合いをするかもしんねぇ……それは考えるだけでも嫌なんだ。俺が番になれなかったのに、兄貴かエリアルのどっちかがリーシャに番って認められるのも、俺が認められて2人に疎まれるのも。それは兄貴もエリアルも同じだって言ってた。だから、俺ら3人揃ってリーシャを惚れさせて、番って認めさせるんだって約束してんだ」


 シルバーは真剣にルシアたち兄弟に考えを受け止めた。

 ルシアたちが本気でそう思っていることはわかった。けれど、何故そんな考えに至れたのかまではシルバーには理解できなかった。

 シルバ―は首を軽く左右に揺らした。


「わっかんねぇなぁ。普通、好きなやつには自分だけを見てほしいって思うだろ。俺だったら惚れた女が他の男とイチャつくとこなんて見たくねぇぜ。多分、相手の男が兄弟でも耐えらんねぇ。お前はそう思わねぇのか?」

「うーん、どうだろ。たしかに、リーシャに俺だけを見てほしいって思いはするけど……それでもやっぱり、兄貴やエリアルと対立するようなことになるのは嫌なんだよなぁ……うん、やっぱり4人で暮らせるなら、俺はそれがいい」


 ルシアはニカッと笑った。先ほどまでとは違うさっぱりとした笑顔だ。

 先ほどまで笑みが怪しげに見えていたのは、もしかするとシルバー自身が理解できない考え方を言っていたからかもしれない。

 彼らの本性は竜なのだ。竜の生態など知るわけもないシルバーは、竜とはそんな生き物なのだろうと割り切ることにした。

 けれど、どれだけ3人がリーシャを思っていても気持ちが必ず彼らに傾くとは限らない。


「ふーん。じゃあもし、リーシャが他の奴に惚れちまったら?」


 ルシアの顔からスッと笑顔が剥がれ落ちた。

 それは彼にとっての地雷。もしかしたら彼だけではなく彼らというべきなのかもしれない。

 怒った表情をしているわけではない。それなのに、見てたシルバーの背筋に悪寒が走った。


「そんなの簡単な話だ。そいつを消しちまえばいいだけのことだろ?」


 シルバーは気づいてしまった。自分が思っていた以上に、ルシアがリーシャに執着していることに。いや、おそらくルシアだけではない。ノアとエリアルもだろう。

 先ほどまで感じていた笑みの怪しさも、理解できない言葉のせいではなく、ルシアの中にあるリーシャへの異常な執着心からそう感じてしまったのかもしれない。ルシアの目が、彼の執着心を物語っている。

 シルバーは目を閉じたまま空を仰いだ。


「……聞かなかったことにしていいか?」

「別にかまわねぇけど。あ、けど、リーシャに今の話はするなよ?番にするとは宣言してっけど、余計なことは一切言わないことにしてんだから」

「ああ、わかった。それは約束する」


 ルシアはいつもの軽い雰囲気に戻っていた。

 シルバーは直感で、触らぬ神に祟りなしだと感じ取った。

 あとは、リーシャが他の人間に思いを寄せないことを祈るばかりだ。





 シルバーとルシアが何か話をしているようだったけれど、リーシャはエリアルにいろいろと話しかけられていたせいで、2人のやり取りを聞き取ることができなかった。


 何を話してるんだろう。なんかこっちを気にしてたように見えたけど、私に聞かれたくない話なのかな?


 リーシャが悶々としているうちにシルバーとルシアは話を終えたようだ。シルバーがリーシャたちに再び声をかけた。


「よっし。問題ねぇなら、明日からはこれで捜索するからな」


 全員が頷いた。

 リーシャも邪念を払い、頭を縦に振った。


 ルシアたちが何を話していたのかは気にはなるけど……今は明日に疲れを残さないようにするのが優先。今日はしっかり休んで、明日から頑張ろう!

お読みいただきありがとうございます!

次回からはハイファンタジー寄りの話になっていきます。たぶんっ‼

でわ、また次回!

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