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王都で祝祭 その4‐魔法使いと魔道具‐

 そんな2人の会話を、魔道具を見ながら黙って聞いていたルシアが口を開いた。


「なぁ、魔法使いでも魔道具を使わないと魔法って使えないんだよな?」

「うん」

「けどさ、魔法使いじゃないやつも魔道具使って生活してるし、身体強化の魔法を使ったりしたりしてる。なら、魔法使いかどうかって、どうやって分けられてんだ?」


 ルシアの言う通り、人間は皆魔力を持って生まれ、魔道具にその魔力を流すことで、個人差はあれども魔法に分類される現象を起こすことはできる。なので魔法を使えるから魔法使い、というわけではない。

 リーシャたち魔法使いがそう称されるのは、魔法使いと称されるためには条件があり、それを満たす事ができているからだ。

 魔法は人間の生活にも紐づいている。家事のための魔道具があるくらいだ。そのため、魔法とは何なのか、どんな人が魔法使いになれるのかということは誰もが知っている事だ。

 ルシアは人の姿になって以降、リーシャ以外の人間とあまり関わることはなく、学習をする機会もなかった。リーシャも魔法については詳しく教えていなかったため、ルシアは魔法使いと呼ばれるために必要な条件というものを知っているわけがない。


「君、名前はなんていうのかな?」


 フレイは先ほどまで存在を気にしていなかったルシアに対し、突然存在を思い出したかのように話しかけた。


「ルシアだ」

「では、ルシア君。まず君はどんな人たちが魔法使いと呼ばれていると考えますか?」

「そうだな……」


 フレイに問われた直後、ルシアはリーシャの事を見た。魔法使いの例としてリーシャを思い浮かべ、他の人間と何が違うのか考えているのだろう。


「魔力が多い人間、とかか? リーシャはわりと普段から魔法を使いまくってるど、他のやつは必要以上に使ってなさそうだし。それって魔力量の差が関係あんのかなって」

「そうですね。たしかに魔法使いと称される人は、それ以外の人たちに比べると魔力を多く保持しています。けれど、それは魔法使いと決定づける条件ではありません。魔法使いでなくとも魔力を多く保持している方はいますからね。他に何か思いつくことは何かありますか?」

「えーっと……」


 ルシアは再び考え始めた。

 どうにか答えをひねり出そうと唸り続けている。そして突如として唸ることを止め、フレイの事を見た。


「わかんね」

「あらら……」

 

 あっさりと答えを出すことを諦めたルシアに、フレイは苦笑いを浮かべた。けれど、フレイは子どもでもわかることを答えられないルシアを、卑下するようなことはしなかった。


「えっとですね、手短に説明すると魔法使いかどうかというのは“有属性魔法”が使えるかどうかなんですよ。どれだけ魔力を保持していても“無属性魔法”しか使えない人は魔法使いとは分類されません」


 簡単に言うとそういうことなのだ。

 ただ、おそらくこれでもまだルシアには理解はできないだろうとリーシャは思った。そもそも有属性、無属性とは何なのかすらルシアには教えていない。

 案の定、ルシアは難しい顔をし、首を傾げた。


「有属性魔法?」

「そ、そこからですか……」


 予想以上に無知な相手に、フレイは驚きと困惑で表情が再び苦笑いになった。

 フレイは基礎を全く知らない相手にどう教えたらよいのか、考えるようなそぶりを見せた。考えはすぐにまとまったようで、再びルシアに魔法について解説を始めた。


「うーんと、そうですねぇ。無属性魔法というのは物を動かしたり、物や生物の能力を向上させたりといった、もともと存在するモノに影響を与える魔法のことです。例えば、この掃除用の魔道具なのですが……」


 フレイは魔道具を手に取り、魔力を流した。魔道具は音を立てて空気を吸い込み始めた。その後次第に音は小さくなり、動きを止めた。

 

「このように魔力を加えることによって、中の部品を動かし、ゴミを吸い込みます。身体強化や回復の魔法も、もともとの人間の能力の向上と影響を与えるので無属性魔法です。対して有属性魔法ですが、リーシャさん。何か使ってみてもらっていいですか?」

「はい」


 リーシャは右手を銃の形にして、ルシアの方へ向けた。


「?」


 ルシアは不思議そうにリーシャの行動を見た。

 ほんの1秒ほどで、その指先に突如として水の塊が現れ、そのまま弾かれたように放たれると、ルシアの顔に直撃した。


「ぶふっ!」

「このように、その場にない水や火、雷などの属性を持つ物質を作り出す魔法が有属性魔法です。例外的に土属性の魔法があげられます。土に関しては魔法使い以外の人でも使えますが、ただ土の魔力を使うよりも、圧倒的に魔力量が必要になるなど……追及していけばキリがなくなるので、置いておきましょう。まあそんな感じなのですよ」


 ルシアは濡れた顔を服の袖で拭った。


「うーん。よくはわからないけど、無いモノを作れるのが魔法使いなんだな」

「まあ、ざっくりと言うとそういうことです」

「へぇ……」

 

 ルシアは近くに置いてあった、商品の杖を手に取った。

 杖の先端には大きな鉱石、魔法石が施されている。窓から差し込む光に魔法石を翳すと刻まれた魔力刻印がはっきりと浮き上がり、ルシアの顔に影を落とした。とても複雑な模様をしている。


「なあ、俺でも魔道具って作れるようになるか?」

「おや。魔道具技師に興味がおありで?」

「ああ」


 ルシアは杖を持った手を下ろすと、フレイの方に向き直った。

 真剣な顔に、いつもの優しい声色とは違った、落ち着いた低い声。これまで悩んでいたことに、やっと覚悟を決めたかのようだった。


「なあ、あんたはまたあの国に帰るのか?」

「そうですね。こちらでの滞在は長くて3日ほどの予定です」


 先ほどまでの様子とは一変、ルシアはガックリと肩を落とした。


「だよなぁ……いろいろ教えてもらいたいんだけど、リーシャと離れての長旅は、ちょっとなぁ……」


 ルシアは腕を組み、考え始めた。

 フレイの工房があるファルニッタ共和国は馬車で数日はかかる。もし教えを乞おうと思うのならば、活動拠点がクレドニアムのリーシャとは別れて暮らさなければならないし、そうそう帰ってくることもできない。今のルシアはどうすればリーシャの元に残りつつ、魔道具作りを学べるかという事を必死で考えているのだろう。

 何よりもリーシャを優先しようとするのはルシアらしい。

 けれどリーシャとしては、本気で学びたいと思うなら、即答でついて行かせてほしいというべき、というのが本音だ。

 リーシャは悩み続けるルシアの事を、黙って見ていた。

 するとフレイが救いの手を差し伸べた。


「でしたら、まずは王都の工房でお世話になるといいんじゃないでしょうか。まあ、当面の間はご自宅で勉強をしていただかなければならないと思いますけど。こういった工房はある程度知識を持っていなければ招き入れてはくれませんから」


 ルシアはなるほど、と手を叩いた。

 

「そうか。それもそうだな。なら、勉強はリーシャに頼むか」

「え?」


 油断していたところに突然話をふられ、リーシャは驚いた。

 魔道具を学ぶなら魔法についても教える必要があるため、多少は役に立つかもしれない。けれど、ルシアの興味が魔道具に向いているのであればあまり役には立そうにない。


「私、魔道具についてはあんまりわかんないよ?」

「ああ、魔道具については、わかる範囲でいいんだ。それよりも俺に魔法の基礎とか、あとリーシャが研究してる魔法についても教えてくれると嬉しいんだけど?」

「! そういうことなら、もちろん‼」


 リーシャは胸を弾ませ、目を輝かせた。

 仲の良いギルドメンバーに、魔法について意見交換できる相手がいなかったため、身内ともいえるルシアに魔法について語れるのは嬉しかった。

 ルシアはリーシャの研究に基づいた魔道具を作ろうとしているのかもしれない。そう思うとより一層やる気が湧いてくる。


「うまく教えられるかはわからないけど、がんばる!」

「おう! 頼むぜ!」


 ルシアはいい笑顔でニカッと笑った。

 そんなルシアに、リーシャの胸は一瞬高鳴った。けれどこれはリーシャだけの秘密だ。

 今週は漫画読みすぎてなかなか進みませんでした。けど、無事4月中に書き上げられてよかったです。一応、王都で祝祭編は終わりです。地味に中途半端な気もしますが……次回も短めのお話です。

 いつも通り、日曜に更新できるか少し怪しいですが、でわまた!

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