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彷徨い竜 その2‐火竜‐

「けどさ、見た目は完全に人間の雄だろ? 俺」


 家への帰り道、ルシアは番として認めてくれないのは自分のどこがふさわしくないからなのかと、リーシャを質問攻めにしていた。

 リーシャはどう答えれば納得してくれるのか、困り果てていた。


「いや、だからね、見た目が人間でも本当の姿は竜だってわかっちゃってるから、普通の男の人には見れないの。それに、そもそも私、そういう……恋愛感情、みたいなのよくわからないし」


 性格や容姿がどうこう以前に、ルシアたち兄弟の正体を知ってしまっているリーシャにとって、種の違う彼らを一生添い遂げる相手として受け入れることには抵抗があった。

 そしてなにより、周りの男性から仲間や友人としてしか見られてこなかったように、リーシャ自身も男性に対して恋愛感情など抱いたことはなかった。魔法に異様なまでに没頭していたリーシャにとって無縁の感情だった。

 リーシャは初恋すら知らない、まっさらな状態だ。

 そんな感じなので、もしルシアが人間として現れ、好きだと愛を囁いてきたとしても受け入れたかどうかも怪しい。

 リーシャの回答にルシアは納得いかない様子だった。


「俺の事を人間として見れないっていうんなら、別に俺がリーシャと同じベッドで寝てもよくないか? 毎回ひっぱたかれてるけどさ。それとも、竜の姿に戻ったらまた一緒に寝てもオーケーなのか?」

「うーん、それもちょっと……男の人の姿になってるの見てるから、なんかもう普通の竜には見れないよ」

「人としてみてんのか、竜としてみてんのか、どっちなんだよ……」


 それはリーシャ自身もよくわかっていないので、何と答えていいかわからなかった。

 その後もルシアは、どうすればリーシャにふさわしいと思ってもらえる男になれるのか質問し続けた。

 けれど結論が出るはずもなく、話は平行線をたどっていた。

 そんな調子で言葉の攻防戦を続けていると、どこからか声が聞こえてきた。


「おやおや、こんなところにも人の姿になれる竜がいるとはな」


 周りを見渡すけれど、声の主らしき人影は見当たらない。

 さらに警戒して見まわしていると、木々の向こうから強い風が吹き抜けてきた。

 風がおさまってからその方向を見ると、遠くに帽子をかぶった人影が見えた。おそらく男性だろう。

 こちらに向かって歩いてきてはいるけれどまだ距離があり、彼がどんな顔をしているかまではよくわからない。

 けれどあの男性がただ者ではないことはわかった。あふれ出る魔力を隠す様子はなく、その辺の人間とは魔力量が格段に違うことは明らかだ。

 それと、あの人物が自分たちを敵視しているかどうかはわからないけれど、彼の見下すような話し方を聞く限り、好意的な印象を持たれていないような気がした。

 ルシアもそれを感じたのか、リーシャを庇うように前に立った。


「誰だよ、アンタ」

「私かい? さぁ、誰だろうね」


 男性が顔のはっきりと見える距離まで近づいてきた。

 赤い髪をした長身の男。目つきは鋭く、不敵な笑みを浮かべていた。

 ルシアは名乗らない男性にさらに警戒心を抱いたらしい。

 その男性を睨みながら言った。


「なら、俺たちになんか用かよ」

「別に、用があるわけではない。ただ、人の姿をしているけれど、竜が人間と共にいるのが珍しくてね」


 赤髪の男性の言葉にリーシャたちの緊張は頂点に達した。


 この人……なんでルシアが竜だって知ってるの?


 現状、竜が人に擬態できるという事実を知っている人間は、おそらくリーシャとシルバーだけのはずだ。

 リーシャもルシアたち兄弟もこの話を漏らしていない。シルバーもリーシャが不利になる話を吹聴するような人間ではない。

 それならばこの男性は何を根拠にルシアの事を竜だと決めつけているのか。

 ルシアは誤魔化そうと、相手を馬鹿にしたような口調で否定した。


「はぁ? 何言ってんだよ。俺は人間だ。竜が人になれるわけないだろ」


 その声は緊張からか、少し震えているような気がした。

 目の前に立つ男性は笑った。


「誰もお前の方が人の姿をした竜だとは一言も言ってないんだがね。もしかしたら、私はそこの彼女が竜だと思って言ったのかもしれないぞ?」

「しまっ……‼」


 ルシアは慌てて手で口を押えた。これでは男性の言葉を肯定しているようなものだ。

 リーシャが瞬時に話を合わせ、自分も人間だと付け加えていたら誤魔化せたかもしれない。

 けれどそれももう遅い。

 リーシャには取り繕うための言葉は思いつかなかった。

 そんな気持ちを見越したかのように、先に赤髪の男性が口を開いた。


「取り繕ったって無駄さ。堂々と竜の姿がどうだとか話しながら歩いていたしねぇ」

「……」


 リーシャは頭を抱えた。


 人が来ないからって……油断した……!


 赤髪の男性は、そんなリーシャの様子を見て口角を上げた。


「まあ、それがなくともわかってはいたけれど」


 男の周りに風が吹いた。

 突然の強風。あまりの風の強さに2人は手で顔を覆った

 リーシャには、この風の吹き方に覚えがあった。


「なんたって私も竜だからね」


 その声を境に風の勢いは弱まった。

 風が止み、顔から手を離すと、先ほどまでいた人間の姿は消えていた。

 代わりに、男性がいた場所には2メートルほどの大きさの赤い竜がそこに立っていた。

 竜の姿を見たリーシャは目を見開いた。


「! ルシア、この竜、火竜だ! たぶん、さっきシルバーが言ってた村を襲った竜ってこの竜の事だよ!」


 赤い体を持つ竜は炎を操る魔法を得意としている。炎の息吹で村を焼き払ったに違いない。

 火竜は冷静な声で言った。


「向こうにある焼け落ちた村の話をしているのなら、その通りだ」


 火竜は顎で山の向こうを指した。その先では煙が天まで立ち上っている。シルバーたちが向かって行った方角と同じ方角だ。


「やっぱり」


 リーシャは身構えた。

 相手は村1つ消し去った竜だ。襲われてもおかしくはない。

 けれど火竜はリーシャへ攻撃を仕掛ける様子はなく、独り言のように話を続けた。


「それよりも、まさか私とあの方以外にも人間の姿になり、人間の言葉を話すモノがいるとはな」


 火竜はちらりとリーシャの方を見た。

 ルシアの事を言っていたのに突然視線を向けられ、リーシャはドキリとした。

 ジーっと見つめた末、火竜は何かに納得したようだ。


「なるほど、その可能性は考えられるか」


 1人で勝手に納得すると、今度はルシアの方を見て話を続けた。


「おい、お前。そこの人間の雌に惚れているんだよな?」


 ルシアは一瞬思考を停止した。

 けれど、何を言われたか理解すると突然慌て始め、赤面した。


「なっ、ばっ、なっ何で分かった‼」


 ルシアの取り乱す姿に、リーシャは不思議に思った。


 日頃もっと恥ずかしいセリフが口から出てくるくせに。何こんなことで顔を赤くしてんのよ……


 そんな状態のルシアを見て、火竜は面白がるでもなく淡々と話を続けた。


「先ほども言っただろ。あんな話を堂々としていたんだ。よほどの鈍いモノ以外はわかる」

「……! そうだよ! 俺はリーシャに惚れてるよ! 悪いか‼」

「誰も悪いとは一言も言っていない」


 開き直ったルシアに、火竜は憐みの目を向けた。

 火竜はリーシャたちの事を見下してはいるようだけれど、今ここでリーシャたちと戦う気は無いようだ。リーシャは胸を撫で下ろした。


「やはり、この説は有力と考えるべきか」


 また火竜は1人で何かを考えているようだ。


「何の話?」

「人間に教える義理はないな」


 火竜は抑揚のない声で言った。本当に教えてくれる気はないらしい。


 それなら。


 教えてくれるかはわからないけれど、一か八かでリーシャはもう1つの知りたい事を聞いてみることにした。


「ねぇ、なぜ村を襲ったの?」


 火竜はリーシャの事を何かを探っているかのようにじっと見つめた。


「……教えないと言ったら?」

「あなたを倒すだけ。ほんとは村を襲ったんだから、問答無用で殺すべきなんだけど……」


 リーシャは、はったりをかました。

 ここで戦って勝てる可能性は極めて低い。相手は強力な竜だ。すぐに負けることはないだろうけれど、リーシャ1人で勝てるような相手ではない。

 それに戦いの激しさが増してしまえばノアやエリアルにも被害が及ぶおそれがある。とくに自分の身を守れないエリアルを巻き込むわけにはいかない。

 ただ、村を襲った理由次第では、手を下す必要があるのも事実。

 放っておけば今後も同様の被害が起こる恐れがあるからだ。

 最悪ルシアに王都まで応援を呼んできてもらえばいいと思っていた。勝つのは無理でも持ち堪えられる自信がリーシャにはあった。

 火竜は何か考えているようで、ルシアを見ながら口を閉じていた。

 そして、考えがまとまったのか、いったん目を閉じてから口を開いた。


「……弔いだ」

「弔い?」

「惚れた相手を、あの村の人間に殺されたのだ」

「村人に? 殺された??」


 リーシャには意味がわからなかった。

 竜を討伐するには、戦い慣れた人間をかなりの数集めなければならない。

 戦いとは無縁で、普通に生活している人間が竜を倒せるはずがないのだ。

 火竜は懐かしむように目を細めた。


「彼女は傷ついて身を隠していた私の看病を長いことしてくれた。おかげで完治とまではいかないが動けるまでに回復した」


 火竜の体をよく見ると鱗が欠けたり、剥がれたりしているところが多数あった。見ていて痛々しい。


「その怪我って……?」

「同胞につけられたものだ。少しやらかしてしまってな。住む場所を追いやられてしまった」

「何をしたの?」

「……そこまで教える義理はないだろう?」


 教えてくれたり、くれなかったり。

 リーシャはどことなくノアと話をしているような気がしていた。

 それはさておき、リーシャは焼き払われた村の事を考えた。


 弔いってことは、仲間の竜が殺されたってことだよね。けど、シルバーは小さい村って言ってたから竜を倒せるほどの何かがあったとは思えないし……やっぱりこの竜が嘘をついてる?


 リーシャの理解が追い付かずにいると、先にルシアが感づいたようでハッとしていた。


「もしかしてあんたが愛したってやつも、竜じゃなくて……」

「今度は察しが良いようだな。そうだ、私の愛した相手も人間だ」


 火竜から出た言葉にリーシャは耳を疑った。

案の定、文を加えていたら長くなったのでいったん切ります。


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