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ピクニックへ その4‐今はまだ‐

「にしても、リーシャもシアリーもよく本気で人間以外に惚れられるよなぁ。俺にはぜってぇ無理」


 顔を上げたハンズが理解できないというような表情で言った。

 シアリーはハンズと同様リーシャと同じギルドに所属する女性で、武闘大会では同じチームの仲間として、共に戦った。

 突然出てきたそんな彼女の名前に、リーシャは首を傾げた。


「なんでシアリー?」

「ん? なんだ、知らねぇの? あいつまだルシアの事諦めてねぇんだよ」

「えっ……」

「まあ、リーシャがあいつと付き合えばさすがに諦めるとは言ってたけど」

「そっ、そっか。諦めてなかったんだ。さすがシアリーというか……」

「ああ。勝てる気はしねぇ、とは言ってたみたいだけど」


 ルシアが竜と知った今でも、一定数彼を好きだという女性はいる。

 アプローチの強い女性もいるけれど、ルシアはリーシャ一筋な上に1日のほとんどの時間傍にいるため、気がついたらルシアの好意が他に向いていた、なんて事にはそうそうならないだろう。

 しかしながら、ルシアは恋愛的な好意を向けられていたとしても、よほどの事がないかぎり彼女たちを蔑ろにするような事もない。

 そういうところがあるからだろうか。シアリーが未だルシアに好意を抱いていると聞いたリーシャの中で黒い気持ちが騒めいた。

 黙り込んだリーシャに、ハンズはそっと問いかけた。


「んで、リーシャが好きなのってさ……ルシア?」

「え?」


 リーシャは自分で気がつかないうちに不安を表に出してしまっていたらしい。ルシアの事が好きだから、シアリーがルシアに向ける思いを聞いてそんな顔をしているのだと思われたようだ。

 間違いではないのだけれど、それは正解だとも言えなかった。


「それは……わかんない……」

「は? わかんねぇって……今お前、嫌そうな顔してたじゃねぇか」


 ハンズは訝し気な顔をしていた。

 今のリーシャの感情は普通なら受け入れ難い。リーシャ自身もいかがなものかと思っているくらいだ。

 リーシャは打ち明けてもいいものか悩んだ。とはいえ既に自分の気持ちをかなり話してしまっていて、秘密にするのもどことなく今さら感があった。

 思い切った気持ちでリーシャは口を開いた。


「その……私、まだ誰が1番好きなのか、わからないの……」


 ハンズが目を見開いた。


「誰がって……さっき好きな奴がいるって言ってたよな? もしかして、3人共好きだって事?」

「たぶん? 今はそうなのかな」

「ふーん。欲張りだな」


 呆れられはしたようだけれど、思ったような嫌悪するような態度は返ってこなかったため、リーシャはほっとした。もしかすると本当はそう思ってはいるけれど、口に出していないだけかもしれない。だとしても、直接態度に出されるよりはだいぶマシだ。

 ハンズは変わらない態度で、リーシャに質問を続けた。


「あいつらはそれ、どう思ってるんだ?」

「言ってない……」

「マジか」

「うん。言わないとなぁとは思ってるんだけど……きり出せなくて……」

「あいつら独占欲強そうだし、大丈夫なのか?」

「そこは前に3人から、自分たち全員を同じように好きになって欲しい、みたいなことは言われた事はあるから喧嘩にはならないと思うよ。さすがにそれはないなぁって思ってたはずなのにな……」


 リーシャが言いにくそうに話し続けていると、ハンズが大きく溜息をついた。さらに呆れられたのだろうかと、リーシャの胸がズキリと痛んだ。


「あいつらの思う通りになっちまってるって事か。まあ人間じゃないし、アイツらがいいならそれはそれでいいんじゃないか?」

「私としてはちょっと……なんだけど。気持ちとしては3人のこと好きだけど……そういうのは良くないって思ってきたから」

「だよなぁ。俺もそう思う」


 やはり内心では思っていたようで、リーシャの心にグサリと突き刺さった。

 けれど言葉を続けるハンズは明るく笑っていた。少なくとも嫌悪感を持たれたわけではないらしい。

 ハンズはそのままの表情で続けた。


「まぁ、周りなんか気にしねぇでリーシャとあいつらがいいって思えるようにすればいいんじゃね? どうせ既に竜に惚れてるっていう普通じゃないことになってんだし」

「たっ、たしかに?」


 フォローがフォローになっていないような気がしたけれど、ハンズの不器用な優しさという事で触れずにおいた。

 ハンズは切なげにリーシャを見つめ、腰を上げた。


「じゃあ俺行くわ。サンドイッチありがとな」

「うん。あの……ハンズ、ありがとう。ごめんね」

「……いや、俺も悪かったよ。いきなりあんなこと言われても困るだろうなってわかってたんだけどさ……けど、言えてよかった。じゃあ、またな」


 ハンズはすっきりとした顔で笑っていた。

 諦めるまではいかなくとも、心の整理はついたのかもしれない。


「うん。また」


 ハンズは手を上げて別れを告げると、王都がある方角へと去って行った。

 それを見計らったかのように、ノアたちが戻って来た。


「リーシャねぇちゃん、お魚捕れたよ!」


 エリアルが大きめの魚を鷲掴みにして駆けて来た。


「結構大きいの捕まえたね」

「うん。ノアにぃちゃんの言った通りに動いたら捕れたよ」


 エリアルは上機嫌だ。

 ただこのままずっと掴んでいては魚が死んでしまうし、持ち帰って食べるにしても身が痛んでしまう。


「エリアルちょっと貸して」

「? いいよ?」


 リーシャは魔法で魚の周りに水の膜を作った。魚は元気を取り戻し、膜の中で動き始めた。


「! ありがと! ねぇちゃん」


 さらにエリアルは上機嫌になり、水の中の魚をじっと見始めた。

 リーシャはそんなエリアルの様子を楽しげに見つめた。


「なあ、さっきまでここに誰かいただろ? あれ、ハンズだったよな?」


 ルシアが訊ねてきた。気づいていてわざと知らないふりをしていたようだ。


「うん」

「なんでこんなとこにいたんだ?」

「クエスト帰りだって。近くを歩いてたら私たちの声がしたから様子見に来たらしいよ」

「ふーん。アイツになにか言われたのか?」

「え?」

「リーシャ、顔赤くしてたろ」


 ルシアの眉間には皺が寄り、面白くなさそうな顔をしている。嫉妬しているようだ。

 これまでなら、今のルシアの態度に対して何を言っているのやらと思っていただろう。今は悪い気などしなかった。

 正直に話してしまってもいいけれど、そうするとルシアの眉間の皺はさらに刻まれることになるはずだ。ただ、ここまで気がつかれているのなら、ごまかしもきかない。

 リーシャは仕方なく、正直に話す事にした。


「なんか……好きだって言われた」

「はぁ⁉」


 ルシアは慌てていた。エリアルも戸惑い、持っていた魚入りの水魔法が弾け飛び散りそうなほどに抱きしめた。


「ねぇちゃん、なんて答えたの⁉」

「えっと、普通にごめんなさいって言ったけど」


 リーシャの答えにルシアとエリアルはあからさまにほっとした様子だった。

 ルシアが今度は心配そうな表情をしてリーシャに尋ねた。


「それであいつはなんて? 無理やり押し切ろうとしたりしなかったか?」

「あなたたちじゃないんだから、そんなことしないよ! お断りしたら、ちゃんと納得してくれたから」

「ならよかった。ハンズと番うとか言いだしたらどうしようかと思った」

「それは無いよ。だって私……ハンズの事はいい友達だとは思うけど、恋愛とかそういうのはなんか違う気がして。それに、今はあなたたち3人といるのが忙しすぎてそれどころじゃないからね」


 リーシャはニッと笑った。

 本当はここで3人に対する思いを言ってしまえばよかったのだろう。けれどやはり、照れくさくなって口に出すことができなかった。

 そんなことなど知らないルシアはリーシャの答えに満足し、優しい笑みを浮かべた。


「ならいいんだ。リーシャの事諦めるって言うなら、何も問題ないな。ハンズの事は嫌いじゃないから、敵にならなくてよかった」

「敵って……」

「リーシャにちょっかいかけるやつは皆敵だ。とくにラディウスのヤローとか」


 ルシアはとても嫌な顔をした。

 リーシャは、それだけの事で相手を敵だと言っているのにも驚いたけれど、なにより話題にも上がっていないのに瞬時にラディウスの名前が出てきた事に唖然としていた。


「えーっと……ほんと、ルシアはラディウスの事嫌いだよね」

「嫌いっつーか、油断ならねぇやつだし、睨みきかせとかねぇと何してくるかわかんねぇだろ、アイツ」

「そっ、そっかぁ……」


 もはやリーシャは苦笑するしかなかった。

 ルシアとそんな話をしていると、不意に横から服が軽く引っ張られた。気のせいかと思いつつ顔を向けると、エリアルがリーシャの服を握っていた。


「ねぇねぇ、寒くなってきたしもう帰ろ」


 日が傾き始め、空気が冷たくなってきている。

 それにエリアルはさっきまで川遊びをしていて、体を冷やしてしまっているようだ。よく見ると寒そうにわずかに体を震わせていた。風邪をひかせては大変だ。


「そうだね。帰って夕飯にしよ。その魚……夕飯にする?」

「うん!」

「じゃあ荷物片づけないとね」


 リーシャが芝生に広げていたシートや弁当箱をカバンの中へ詰め込み始めると、ノアとルシアもリーシャの手伝いを始めた。エリアルは魚を抱えたまま片付けが終わるのを待っている。

 結局リーシャは、ハンズには自分の思いを伝えられたけれど、肝心なノアたち兄弟には伝えることはできなかった。何のきっかけもなしに伝えるのは余計に勇気がいる。


 次こそは……ちゃんと言わないと


 思い切れなかったリーシャは、次にきっかけが出来た時こそは言おうと密かに心に決めた。

 考え事をしながらも、荷物をまとめ終わったリーシャは、カバンを肩に下げた。


「これでよし。忘れ物ないよね?」

「大丈夫だ。リーシャ、その荷物俺が持つよ」

「ありがと、ルシア。じゃあ、お願いね」

「おう」


 リーシャが素直にカバンを差し出すと、ルシアは満足そうな顔をした。

 そして4人は元来た森の中の道を歩き、家へと帰って行った。

 お読みいただきありがとうございます。

 ”ピクニックへ”編は今回で終わります。なんか終わりが無理やり感が漂っているのでいずれ修正をしようと思います。次回からメインの話に戻ります。

 次回更新は次の日曜を予定していますが、ちょっと設定がごちゃごちゃになりかけて始まりがうまくまとまらないので、ちょっと遅れるかもしれません。でもいつも通り更新できるよう頑張ります。

 でわ、また次回!

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