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ピクニックへ その3‐突然の告白‐

「どうしたの?」


 突然のハンズの落胆を不思議の思ったリーシャは、彼の顔を覗き込んだ。ハンズは複雑そうな表情をリーシャに向けた。


「まだってことは、あの兄弟のうちのどいつかの事が好きなのは確定なんだな」

「まあ、ね」


 リーシャは、ノアたち3人の事が、他の人間の誰よりも特別であることは間違いないと思っている。それぞれがリーシャの事を思って尽くそうとしてくれる事は嬉しく思うし、直してほしいと思う事もそれぞれにある。ただ、現状まだ誰が1番好きだと言えるほどリーシャの中では3人に対する好感度に差は出来ていなかった。

 しかしながら今はそんな事よりも、リーシャには気になる事があった。

 ハンズがずっと肩を落としているのだ。こんな話を持ち出してきたのにも驚いたけれど、リーシャは何故ハンズがこんなにも落ち込んでいるのかが気になって仕方なかった。


「ねぇ、ほんとどうしたの? なんか変だよ」


 ハンズは言いにくいことを言おうか迷っているかのように頬を掻いた。

 そして覚悟を決めたのか、悲し気な瞳をリーシャに向けた。


「あのさ、この際だから言ってもいいか?」

「え? うん」


 改まって切り出され、リーシャは何を言われるのだろうと思わず身構えてしまった。

 ハンズは小さく笑い、そして大きく呼吸をすると重くなっていた口を開いた。


「俺さ、リーシャの事が好きなんだ」

「……え?」


 ハンズの瞳は熱を帯びていて、嘘を言っているようには見えなかった。それに震えるような声で、とても緊張しているのがすぐにわかるほどだ。

 突然の本気の告白にリーシャは言葉を失った。


「だから、俺はリーシャの事が……」

「きっ、聞こえてるよ! ただ、そうやって言ってくれるの、あの子たちとラディウスくらいだと思ってて……他の人からはそういうふうに見てもらえてると思ってたから、驚いて……」

「ほんとお前、わりと勘は鋭いはずなのに自分の事となると途端に鈍くなるよな。俺がリーシャの事好きなの、ギルドの連中ほぼ全員知ってんだけど。レインなんか、お前が目の前にいんのに、からかってくるしさ」


 ハンズは困ったような笑顔をリーシャに向けた。

 長年の付き合いのある相手からの突然の告白に驚いたリーシャは何と言って答えていいのかわからず、すぐには言葉が出せなかった。

 とはいえ、率直な答えは初めからリーシャの中で出来上がっている。言葉を着飾らせはせず、そのままの言葉で返した。


「ごめん……」


 リーシャは申し訳なさそうに、伏し目がちに言った。

 するとハンズは何故か吹き出した。


「どっちの事に対する謝罪だよ。気づかなかった事? それとも告白への答え?」


 その声があまりにも優しすぎて、たった一言の答えを言いたいだけなのに、リーシャの口からはなかなか言葉が出てこない。

 ハンズはどちらに対する答えかなどわかりきっているはずだ。きっとハンズはもっと聞き返しにくかったに違いない。

 リーシャは思い切ってハンズの問いに答えた。


「……どっちも、かな」

「……いーよ、そんな思いつめたような顔しなくても。リーシャが悪いわけじゃねぇし。そもそも言わないと気付いてもらえないってわかってたのに、言わずにいた俺が悪かったんだって、わかってるから。それにどういう答えが返ってくるか、わかった上で言ったんだ。玉砕覚悟ってやつ?」


 傷ついた顔をするのではないかと思っていたけれど、ハンズの表情は明るかった。むしろ言えてすっきりしたと言わんばかりの顔をしていた。

 ハンズは遠い空を見つめた。


「まぁ、けど。こうなる前に言ったとしても、リーシャの答えは変わらなかったんだろうなぁとは思ってんだ」

「そんな事は……」


 リーシャは、ないとは言えないと思ってしまった。

 ハンズはそんな考えなどお見通しだったようで、苦笑いを浮かべた。


「あるよ。俺、リーシャの事ずっと見てたんだ。お前さ、恋愛とか全く興味なさそうだったし、言ったとしても魔法の研究優先したいとかなんとか言って断られるだろうなぁ、って思ってた」

「ごめん……」

「はははっ。今日はまためっちゃ謝るな」

「うん」


 ハンズは川で魚を捕まえようとしているノアたち3人へと視線を向けた。

 あまり気にしていないような言い方をしていたけれど、リーシャはこういう感情はすぐに消し去ることができるものではないとわかっていた。ハンズの心の奥底には嫉妬の炎がくすぶっているのかもしれない。

 ハンズは視線を川の方へ向けたままリーシャに尋ねた。


「俺さ、あいつらが黒竜だって聞いてからずっと気になってんだけど、リーシャは嫌とか思わねぇの?」

「嫌? 別に竜が嫌いとかはないけど……」


 リーシャは首を傾げた。

 リーシャが竜の討伐クエストに参加しているのは、その個体が人間に害を及ぼす存在だからというだけであって、別に竜自体に嫌悪感を持っているわけではない。むしろ好奇心の強いリーシャにとってはわからないことが多い生物として関わってみたい対象という認識の方が強い。

 だからノアたち兄弟に対して、謎の多い興味深い存在だと思う事はあっても、嫌悪感を抱いた事などなかった。

 ハンズは自身が訊いている意味が理解されそうにないと気付いたようで、改めて問い直した。


「見た目は人間でもさ、アイツらって竜だろ? 百歩譲って友達になれたとしても恋人とか無理だとか思わね? 普通」

「ああ、そういう意味。うーんと……番にするって言われ始めた頃は、たしかに私も無理って思ってたよ。けど、一緒にいるうちに人間だとか竜だとかあんまり関係なくなってきたのかなぁ。今は嫌だとか思ってないよ」

「ふーん、すげぇな。俺もさ、あいつらの事を仲間だとは一応思えるけど。ただ、もし人間に似た竜とか魔物の雌がいたとして、告られたとしてもそいつと恋人になるのは、いくらかかっても無理な気がする」

「なんで?」


 ハンズは眉間に皺を寄せた。


「なんでって……そりゃ、恋人になったらそういう事もするもんだろ? 本当の姿が自分とは違う相手とって考えると抵抗感がさ」

「そういう……?」


 ハンズが何について言っているのかがわからずリーシャは難しい顔をした。

 けれどハンズの頬が段々と染まり、恥ずかしそうに顔を逸らしているのを見て、彼が何を言いたいのかを理解した。

 そう気づいた途端、リーシャも顔を赤く染めた。


「そこまでは、考えてなかった……ただ、いなくなったら嫌だなとか、他の女の人と仲良くしてるの見ると嫌だなとか。あと一緒にいると嬉しいし、ドキドキするとか。そんな感じで……」


 人間と竜との間に子供は生まれないと教えられる以前、彼らは子育てについての話もしていた。つまりハンズの言う“そういう事“込みで、リーシャに番になるように求めているのは間違いない。

 このまま放置できるような問題ではなさそうだったため、リーシャはハンズに言われた事を真剣に考えた。自分が不快に思うのかそうでないのかを。

 答えはあっさりと出てきた。


「嫌……ではないのかも」

「ハァ……マジか……」


 ハンズはリーシャが思い直すのではという望みをわずかに残していたのだろう。その望みが潰え、がっくりと項垂れたのだった。

 お読みいただきありがとうございます。

 ハンズの片思いを放置するのもかわいそうだと思ったので玉砕覚悟で思いを告げてもらいました。そして残念な結果に……強く生きるんだ、ハンズよ!

 次回更新は次の日曜を予定しています。

 でわ、また次回!

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