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ピクニックへ その2‐挙動不審な人‐

「2人ともーお昼ご飯食べよー」

「はーい!」


 芝生の上にシートを敷き、お弁当を広げたところでリーシャは、ノアとエリアルに声をかけた。エリアルはズボンを穿くと急いでリーシャの元まで走ってきた。ノアもその後を自分のペースで追って来ている。

 地面に広げられたお弁当はサンドイッチ。野菜やハム、卵に甘辛く煮た鶏肉などなどいろいろな種類のサンドイッチが並んでいる。

 エリアルはシートの上に座ると、間髪入れず卵のサンドイッチを掴み取った。


「いっただっきまーーす!」

「あっ、こら! 食べる前に手を拭きなさい! 汚いでしょ!」

「川の水で洗ったもん」

「ダメ! 何が流れてるかわからないんだから」


 リーシャは家で濡らしてきたタオルを差し出した。

 エリアルはそれを渋々受け取ると、手をきれいに拭き上げ、リーシャにタオルを返した。


「これでいい?」

「うん」

「じゃあ、今度こそ。いっただっきまーーす!」


 いつもの昼食時間を過ぎているうえに、川遊びもしていたのだ。よほどお腹がすいていたのだろう。エリアルは忙しそうにサンドイッチを口へと運んでいた。

 ノアとルシアも手を拭くとサンドイッチを食べ始めた。


「ねぇちゃん、食べないの?」

「食べるよ。いただきます」


 エリアルの食べっぷりを眺めていたリーシャも、声をかけられ手を伸ばした。

 こうして外でのんびり食べるのは新鮮だった。3人もそう思っているのか、生き生きとした顔をしている。


「ねぇ、食べ終わったら何するの?」

「僕お魚取る!」


 リーシャの問いにエリアルが満面の笑みで答えた。

 魚を捕ると言っても、今日はそんな用意をしてきていない。


「今日釣り竿持って来てないけど、どうするの?」

「手で取る! にぃちゃんたちも手伝って!」


 エリアルはルシアの方を向いた。断られないと確信しているようで、目をキラキラさせている。


「いいけど、魚って手で取れるのか?」

「うーん、わかんない! けど頑張る」


 ルシアを仲間に加えられてエリアルは満足げだ。おそらくノアも返事こそしていないけれど、エリアルが川の方へ向かったらついて行くのだろう。

 エリアルはリーシャの方を向いた。


「リーシャねぇちゃんも、お魚取る?」

「私は……」


 実のところリーシャは魔法を使えば釣り竿がなくても魚は簡単に取れる。

 けれど今日は魚を捕る事が重要なわけではなく、その過程が大事なのだ。エリアルに合わせて動き回らないといけないかもしれない。

 帰りにまた1時間ほど歩かなければならないことを考慮したリーシャは、一緒に川遊びをするよりも3人の様子を眺めていたいという結論を出した。

 それにリーシャは3人が仲良く何かをしている姿を見るのが大好きだ。やんちゃに2人を振り回すエリアルも、楽し気にエリアルの世話を焼くルシアも、仕方なさげに見えて内心楽しんでいるノアも、見ていて全てが楽しい。


「私は、しばらくここでエリアルたちが遊んでるところを見てたいんだけど、いい?」

「うん、いいよ!」


 いつの間にか完食してしまっていたエリアルが立ち上がった。


「じゃあ、僕先行くね。にぃちゃんたちも早く来てね」

「滑って転ぶなよー」

「はーい」


 エリアルは川に向かって走って行った。

 リーシャはサンドイッチを口へと運びながら川に手を突っ込むエリアルを見ていたけれど、魚を取れる様子はなく、ただ水遊びをしているようにしか見えなかった。あれでも本人は真剣なのだろう。

 ノアとルシアは食べ終わった後、少し休憩を挟んだ。


「さーてと、そろそろ援護しに行ってやるかな。兄貴も行くだろ?」

「ああ」

「ん。んじゃ、行ってくるな」


 2人も川の方へ行ってしまった。

 リーシャは1人サンドイッチに食いつきながら、3人が魚を捕まえようとする様子を眺めた。

 楽しそうなので何よりだ。ただ、川の中で転ばないかだけが心配だった。





 3人が離れて行って30分は経過しただろう。

 リーシャは食べる手を止め、川の方を眺めていた。そこにいるエリアル、ルシア、ノアの3人は飽きることなくまだ魚を追いかけ続けている。

 3人というのは語弊だったかもしれない。ノアは岩に腰を下ろしてし、何か2人に指示を出しているようだ。

 残念なことにリーシャが見ている限りでは、まだ1匹も魚を捕まえることはできていない。

 そんな3人を心地よい暖かさの中で眺めていたリーシャの瞼は重たくなってきていた。


「ふあーっ」


 リーシャは大きなあくびをし、大きく伸びをしながらシートの上に横になって空を仰いだ。

 窓から見上げた空とは違い、遮るもののない空は大きく広がっている。朝と変わりのない晴れ渡った空だ。


 ここで寝ちゃおうかな……


 リーシャは目を閉じた。次第に意識が遠のいていく。


「あっ、やっぱリーシャだ」


 突然の近くで自分を呼ぶ声に意識が引き戻された。目を開けると1人の青年がリーシャの顔を覗き込んでいた。


「ハンズ?」

「よっ。こんなとこで何してんだ?」


 青年は同じギルドの、ハンズ・マーフィンだった。

 武闘大会で相手に槍で貫かれるという負け方をし、しばらく床に伏していたけれど、それも数日の事。

 ハンズあんな負け方に屈することはなく、1週間後には通常運転に戻り、その後はクエストで見事な結果を叩きだし続けていた。

 リーシャは体を起こし、ハンズの方を見た。


「今日はピクニックに来てるんだ。そういうハンズは?」

「俺はクエスト帰り」


 ハンズは背に大きな槍を背負い、装備している防具もボロボロ。明るい表情をしているため、クエストはうまくいったのだろうと推測できた。


「1人で行ってきたの?」

「んなわけねぇだろ。リーシャやシルバーじゃねぇんだから。そんな無謀なことできるかよ。即席でパーティ作って行って来たんだ。んで、戻る途中に人の声が聞こえてきたから、迷子だったらまずいだろうってことになって様子見に来たんだよ。そしたら、迷子って感じじゃねぇし、寝転がってんのがリーシャに見えたから、声をかけに来た」


 地味にムッとすることも言われたような気がするけれど、ハンズの事なので悪気があるわけではないのはわかっている。リーシャは指摘しない事にした。


「そっか。お疲れ様。よかったらこれ、食べる?」


 リーシャは余っていたサンドイッチを差し出した。

 ハンズは何故か戸惑っているような様子で、すぐに手を伸ばしはしなかった。


「いいのか?」

「? うん。いいよ」


 ハンズは躊躇うように手を伸ばした。


「サンキュ」


 サンドイッチを受け取ると、ハンズは芝生の上に座って食べ始めた。


「ここ据われば?」

「いーよ。ここで」

「ハンズがいいならいいんだけど。まだあるけど、食べる?」

「くれるなら貰う」


 1つ目のサンドイッチを食べきると、ハンズは2つ目に手を伸ばした。

 とくに何の話をするわけでもなく、2人は川遊びを続ける3人を見つめていた。

 しばらくすると、ハンズの方が突然口を開いた。


「なあ、リーシャ」

「何?」

「あのさ、その……」


 聞きにくい事でも聞こうとしているのか、ハンズはなかなかきり出そうとしない。

 早く聞けばいいのにと思いつつも、リーシャはハンズが話し始めるのをじっと待った。

 数分して、ようやく決心がついたらしい。


「あのな、王都で噂になってるけどさ、リーシャ、あの竜の兄弟の中に恋人がいるって、マジ?」


 リーシャは思わず、勢いよくハンズの方を見た。ハンズもいきなり顔を向けられ、少し驚いていた。

 ようやくハンズが口に出した話は、聞くことを躊躇うような話ではなかった。しかしながら、その内容はリーシャとしては軽く流せるような話ではない。

 ノアたちとの関係は、周りにはどう見えているのか。どう思われているのか。

 聞くのが怖いと思いつつも、ずっと気になっている部分の事だった。


「……そんなに噂になってるの?」

「ああ。王都来るとき大体あいつらのうちの誰か連れてるからさ。しかも距離ちけぇし」

「そっか……」


 最近ではリーシャも3人の距離感が近いことを受け入れ、放置していた。それがまさか、周りにそういうふうに思われる原因になるとは全く考えていなかった。


 もしかして3人が来る前はシルバーと、とか思われてたんじゃ……


 そう思うとゾワッとして無性に叫び、走りたくなった。シルバーは兄的存在であって、そういう感情を抱いた事は一度もない。


「で? どうなんだよ」


 1人悶々としていると、ハンズはじれったく思ったのか少し不機嫌そうに聞いてきた。

 リーシャは正直に答える事にした。


「まだ、誰ともそういう仲ではないかな」


 口に出して言うと急激に恥ずかしくなり、リーシャは俯いた。

 恋愛話とはこんなに恥ずかしくなる事なのかと、これまで恋愛に無縁だったリーシャは初めて知る事になった。


「……まだ、か……」


 リーシャの答えを聞いたハンズは項垂れた。

 お読みいただきありがとうございます。

 今回は武闘大会以降姿を見せていなかったハンズの登場です。大怪我してそのまま退場。は少し可哀想にも思っていたので。

 次回更新は次の日曜予定です。できればそろそろ1週間置かずの更新をしたいのですが、なかなかストックが貯まらないです。

 でわ、また次回!

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