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黒竜の盗伐部隊

 今回はまだお相手方は登場しません。バトル回です。

 途中から「これハイファンタジーじゃない?」と自分で思った程度には主人公たちがクエストに行ったりバトルしたりしてます。第8部辺りから恋愛じゃなくもはやハイファンタジー……それでも恋愛メインなので恋愛要素を忘れず、頑張って入れていきます!


 あと、こちらの作品は人間と竜の関係性やその変化を重視して書いています。その辺りも楽しんでいただけたら嬉しいです。

 この日、多くの魔物がうろつくこの危険な森の奥から、大勢の人間の声と地の底から響いてくるような魔物の唸り声が響き渡っていた。その声は、森の開けた場所から聞こえている。


「ギャウアァァァァ‼」


 人ならざる声の主は、怒りを剥き出しにした黒竜。大きさはゆうに100メートルを超えている。

 大きな翼を持っているけれど、その翼は傷つき、空を舞うことは不可能な状態。

 体も多くの鱗が砕け落ち、血を流しながら人間相手に腕や尾を振り回していた。





「負傷した人はいったん下がって回復魔法を受けてください! 相手もかなり疲弊しています! 動けるようになった人は戦闘に復帰を!」


 黒竜の足元では、剣や槍、弓、杖を持った人間が竜に向かってひたすら攻撃を続けていた。

 そしてその戦う人間たちの足元には、竜に引き裂かれ負傷、あるいは命を落とした者が何人も倒れている。


「後衛の回復魔法が使える魔法使いは、全員回復に回ってください!」

「はい!」


 回復魔法が使える1部の魔法使いたちは、負傷して動けなくなっている者に杖を向け、魔法を施し始めた。


「こっちで重傷者を看るから、そっちは急いで軽症者を!」

「わかった! みんな急ぐぞ!」

「はい!」


 懸命に治療を続けるけれど、全く追いつかず負傷者は増える一方。人間側の不利な状況は段々と深刻なものになっていく。

 そんな状況の中、集まった人間の指揮をとっていた男性は、負傷者の治療に回らずに黒竜と対峙し、魔法を放ち続けている1人の少女に向かって言った。


「リーシャさん、皆もう限界です! このままだと前衛が壊滅する可能性も……一旦引きましょう!」

 

 男性の視線の先にいるのは、農民が普段着として着るような服の上に黒いローブを纏い、長い黒髪を戦場の風になびかせる少女だった。まだ20もいっていないような容姿をしている。

 そのリーシャと呼ばれる少女は周りの魔法使いとは比べらものにならない速さで連続した魔法を繰り出していた。しかも彼女の魔法は、杖を介さずに発動させるというかなり珍しい魔法の使い方だ。



 本来人間が魔法を使用するには、自身が作り出した魔力を杖や魔道具などの魔法を発動させるための媒体に流し込まなければならない。

 それにもかかわらず、リーシャはそんな媒体を一切持っていなかった。ただ黒竜に向けて伸ばした自身の手の先に、炎や水、電気などの大きな球体を魔法で作り出し、それを放ち続けている。

 しかもその魔法は他の人間の攻撃よりも圧倒的に黒竜に効いていた。魔法が当たった個所の鱗は次々と粉砕され、黒竜は時折苦し気な鳴き声をあげている。

 リーシャの攻撃により、初めに比べると黒竜の動きは鈍くなっている。けれど、それでも黒竜の攻撃は止まることはなかった。

 リーシャも黒竜に対抗し、攻撃の手を休めはしなかった。ここで手を止めたら、これまでの努力が無に帰す可能性があると思っていたからだ。


「だめ! それじゃあ私たちが体制を整えてる間に、あの黒竜も回復魔法を使って体力を回復しちゃうかもしれないじゃない! そんな隙を与えずに一気にたたみかけないと!」


 そう言ったリーシャは突然魔法攻撃を止めた。手を黒竜に向けて突き出したまま目を閉じ、大きく深呼吸する。

 男性はリーシャ考えていることが理解できず、倒れていく仲間の姿にただただ焦りを感じていた。


「たたみかけるって……そんな体力、誰にも残ってるわけないじゃないですか! 見てくださいよ! 彼らのあのボロボロな姿を」


 男性はいまだ戦い続けている仲間を指差した。


「だいたいそんな体力があったらこんな状況になってないんですよ! それともリーシャさんが奥の手を隠し持ってるとでもいうんですか⁉」


 リーシャは目を閉じたままニッと口角を上げた。


「もちろんあるに決まってるじゃない、奥の手!」


 リーシャの突き出された手の先に黒い球体が現れた。球体は時が経つほどに、少しずつ大きさを増していく。

 その光景に男は驚き、大声を上げた。


「ちょ、まだそんなに魔力残ってたんですか⁉ あなたもさっきまでボコスカ魔法打ってたでしょ‼ というか、そんな奥の手あるならとっとと使ってくださいよ!」

「簡単に使えるような魔法じゃないから今まで使わなかったの! 使えるならとっとと使ってたから!」


 2人が話をしている間も黒い魔法は魔力を吸い続け、リーシャの身長の半分くらいの大きさになっていた。

 魔法の形成に神経をとがらせているリーシャの額には汗がにじんでいる。


「この魔法は相手の動きを鈍らせてからじゃないと使いものにならないんだもん! 発動させたら私の意志なんか関係無しに残りの魔力を全部もってっちゃうから万が一にも外したらもう打つ手なしだし、軌道のコントロールも難しいし、ほんとに一か八かって感じの魔法なの!」


 リーシャはこれ以上の被害を出さないために、ここで決着をつけなければならないと思っていた。

 黒竜の動きが鈍ってきている今、このタイミングがこの魔法の“試し時”なのだ。

 リーシャの目の前にある球体が成長を止めると、その周りに黒い雷のような線がぱちぱちと音を立ててまとわりつき始めた。

 魔法が理想の形状に仕上がり、リーシャは満足そうな顔をした。


「よーし、いっくよぉ。一か八かの大勝負!」


 リーシャの目がカッと開かれた。


「いっけぇぇぇぇ‼」


 彼女がそう叫ぶと、巨大な黒い球体はかなりの速さで黒竜に向かって飛び出していった。

 黒竜は足元の人間に気を取られ、自身に向かって放たれた魔法に気づくのに遅れた。

 さらに幸運なことに、黒竜は蓄積されたダメージが災いして思うようには動けず、リーシャの攻撃は竜の巨大な体の中央、心臓に直撃した。




「グアァァァァァァ!」


 球体は黒竜に当たると同時に黒い線を発し始めた。

 その線が黒竜の全身にまとわりついたかと思うと、次の瞬間、今度は竜の輪郭を描くように白く強い光を放ち始めた。

 周りにいた人々は、あまりの眩しさに皆腕で顔を覆った。

 その光の元になっている魔法はかなりの高温で、黒竜の体を内側から焼き尽くしていく。

 しばらくすると眩い光は消え、人々はそっと目を開けた。

 目の前には、体から煙が上がり、立ったままこと切れている黒竜の姿が。時々黒い線がぱちぱちと後を引くように発せられている。

 黒い線が完全に消えると、それと同時に黒竜の体は大きく揺らぎ、そのまま地響きを立てて倒れた。


「お、わった、のか?」


 どこからともなく戸惑う声がぽつりと聞こえてきた。

 その光景に人々は何が起こったのかわからず、ただ立ち尽くしている。

 そんな中、リーシャは1人ガッツポーズを作った。


「よっし! 的が大きかったからバッチリ命中! けど、思ったより威力が出てなかったかも……もっと炎と電気のバランスを……」


 リーシャは当たるかどうかわからない魔法が見事命中したという興奮で、周りのことが見えなくなっていた。そのおかげで、何が起こったのかわからず呆然とリーシャを見つめている人々の視線にも気がつくこともない。

 リーシャは現状そっちのけで、自分が放った魔法の自己分析をブツブツとつぶやき続けたのだった。

読んでいただきありがとうございました。

のんびり書いていくので更新遅くなると思います。でも、なるべく早めにできるようにはしたい…

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