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魔法世界のセデイター 4.フィリスのセデイト研修  作者: 七瀬 ノイド
第三章 またも助手が
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3-2 やっぱり留守番

「え? だめなんですか?」

 昨日の今日で、ナユカには悪いお知らせだ。九課課長が詳細を述べる。

「うん、まぁ……実は、この近辺にセデイト対象者がいるらしいから、リンディとフィリスには、その件を担当してもらうことになったんだけど……それなら、わざわざユーカを同行させることはないということで」

 その対象者の情報は、まだ他のセデイターには流しておらず、実質的にこの二人が独占的に対処することになる。もともと同行に反対していたフィリスは満足そうだ。

「近いから、ユーカになにかあっても、すぐに戻ってこられる」

「でも……」

 こちら不満げなナユカに、サンドラが意図を説明する。

「正直、ユーカが一緒にいると、フィリスの気が散ると思うんだ。今回はフィリスの研修だから、そっちに集中させたい」

 いちおう、リンディがフォローとして付け加える。

「ユーカ自身は、特に邪魔にはならないんだけどね。魔法攻撃が効かないから」

「もしかして、わたしのほうが邪魔でしょうか? できる範囲でサポートしますけど……」

 少々気詰まりに感じる研修開始前の助手に対し、マスターとなるセデイターは……。

「まぁ、必要ないようにするけど」

 気遣っているのか、邪険にしているのか……。サンドラが諭す。

「助手がサポートをするという前提での研修なんだよね。わかる?」

 マスターが全部やったら、研修にならない。

「無理にピンチになれっての?」

「そういうわけじゃなく、サポートを受け入れる心積もりでいろってこと」

「それは承知してるよ。……ヒーリングとかいっぱい受けちゃう」

「……耐性、上がっちゃいますよ」

 などと言いつつも、多少はあてにしてくれているようなので、フィリスはほっとした。

「だから、必要ないようにするって」

 回復魔法を受けすぎると、それへの耐性が上がって、回復しにくくなる。魔法研で検査をしたときに、リンディはターシャからも注意を受けた。

「それなら……」

 自分が防御魔法を展開する……と続けたかったフィリスだが、リンディの見解はあくまでも単独行動のそれ。

「攻撃を受けなきゃいいよね。全部かわす」

「まぁ……適当に相談してやって」

 苦笑する課長と顔を見合わせる助手。

「そうですね……」

「そんなわけで……ユーカは、今回は残ってくれる?」

「わかりました……」上司の指示なら従うしかない。「次回……あればいいんですけど……」

 この調子なら、そんなのないだろうな……。ナユカから自然とため息が漏れる。

「あるよ」

 課長の一言は、当人には予想外。

「……あるんですか?」

「……あるの?」

 声がリンディとかぶった。一拍遅れて、フィリスが低い声を出す。

「……聞いてませんけど」

「わたしも同行する予定」

 にこやかなサンドラに対し、リンディは怪訝そう。

「なにそれ? どういうこと?」

 四人で行動するのだろうか? ろくでもないことじゃないだろうな……。

「まだ決まってないから、詳しくはあとのお楽しみ」サンドラ本人にとっても。「まず、今回のをクリアするのが先ね」

「それ、安全なんですか?」

 健康管理者が気にかけているのは、もちろん異世界人のこと。

「安全確保のためには、セデイターとの連携に慣れる必要がある。まぁ、わたしもユーカの護衛をするけどね」

 魔法の効かない異世界人には、物理攻撃に対する護衛がいれば事足りる。ゆえに、この武器専門家は、最良の護衛だろう。その点で、フィリスの反論する余地はない。

「まぁ……それなら……」

「ユーカがサンディに攻撃されない限りは、安心だね」

 冗談めいたリンディの言い回しに、ほっとするナユカ。そんなことはありえないという意味だ……。

「そうですね」

「なくはないけど」

 冗談への付け足しとしては面白みに欠けると、攻撃対象は思う。

「……は?」

「わたしが精神汚染されたらってこと?」

 攻撃可能性のある本人から、やばい事実がもたらされた。……つまり、冗談ではない。精神操作の魔法を喰らえば、護るべき対象を攻撃することもありうる。そこへ、暗黒魔導士でもあるセデイターが言い放つ。

「そうなったら、ユーカは地獄を見るね……ヘタすると天国行き」

「ちょ、ちょ……ちょっと!」

 どちらも当人は願い下げ。

「……ふざけてます?」

 重低音を出したフィリスがぶちぎれる前に、サンドラがなだめにかかる。

「精神系魔法は効かないようにしておくから、問題ない」


 やり方は、ヒーラーを含め、魔法使いなら常識的に知っている。すなわち、一時的に魔法耐性を激しく上げることで、魔法をほぼ効かなくすることが可能になるというもの。具体的には、事前に耐性を上げるべき当該魔法を何度も受ければよい。精神系魔法は、その性質上、身体的ダメージを受けないので、体に負担をかけずに耐性を上げられる――同じことをエレメント系魔法でやると、虐待になってしまうが。加えて、回復魔法も基本的に使わないことから、それへの耐性まで上げてしまうこともない。

 こういった手法は、戦闘が必要な場所へ出向く前に、物理攻撃系の者に施されることがよくある。一般的に、彼らが魔導士たちよりも魔法耐性が低いことに加えて、精神攻撃を受けると魔法イメージの形成が困難になって、発動に支障を来す魔法と違い、物理攻撃の基本的な威力はさほど変わらないので、味方に被害を及ぼす可能性がより高いからだ。なお、このような措置は、管理された環境で信頼できる人物に施してもらう必要がある。


「あたしがやるわけね」

 リンディは以前、サンドラにこの措置を施したことがある。

「そのときは頼める?」

「いいよ。ユーカを天国送りにしたくないし」

「それで大丈夫とは思えません。そこまで耐性は上がらないでしょう?」

 物理攻撃系の筋肉課長は、魔導士のように、最初から魔法耐性が高くはないはず。それならば、一時的にでも上がる限界は知れている。

「サンディの場合は、十分なところまで上がるんだよ。もともと魔法耐性が高いから」

 よく知る者の説明にうなずく当人。

「まぁ、そういうこと」

「……珍しいですね、魔導士ではないのに」

 フィリスは興味深げ。

「サンディは……」昔馴染みは言いかけて止める。「まぁ、いろいろあるんだよ」

「魔導士のなり損ねだからね」

 子供の頃から魔導士となる訓練を受けていると、基本魔法耐性が高くなる。

「自分で言った。……気を遣ったのに」

「別に隠してない。隠す必要もない」

 別分野、すなわち武器攻撃に絶対の自信がある。

「あ、そう。じゃ……」顔の横で両手をサンドラに向かって振る。「なり損ね、なり損ね、なり損ねーぇ」

「怒らないと言った覚えはないよ」

 武器専門家は、必要以上に微笑んでいる。

「……気にしてるじゃないの」

 そんなリンディに、ナユカは呆れ気味。

「誰だって怒りますよ、あれは」

「ほめたんだけど」

「え? そうなんですか? ここではあんなほめ方を……」

 異世界人の誤解は、課長が解く。

「しないね」

「仮にほめ言葉だったとしても、絶対怒られます」

 フィリスの言うように、どんな言葉でも言い方によっては侮辱になるものだ。

「わたしは大人だから、怒らないけどね……」サンドラは、リンディをあごで指す。「このガキと違って」

「怒ってますよね……」

 つぶやいたナユカに、「ガキ」が答える。

「ほんとは気にしてるから」

「あのさ……話を元に戻すよ」自称「魔導士のなり損ね」は、さすがに面倒くさくなった。「とにかく、この件はまだ決まってないから、詳細は後日。リンディとフィリスは研修に集中。以上」

「終わり?」

「終わ……あ、そうだ」リンディが聞いたせいで、終わりたかったのに思い出してしまった……。忘れるよりはいいけど……疲れた。「ルルーのことなんだけど、ユーカには魔法が効かないってことは、教えておこうと思うんだよね。もちろん、内密ということで」

「賛成です。そのほうが、ユーカになにかがあったときに、迅速に対処できます」

 医師は賛同。そして、本人も……。

「わたしも、なにもかも秘密にしてるのは、気まずくって……」

 内勤となったルルーとはよく顔を合わせるのに、今のままでは会話がしにくい。それに、なんとなく仲間はずれにしているような気がする。

「あたしも賛成だけど……異世界人ってことは隠しておくわけ?」

 リンディの指摘に、課長が答える。

「ルルーも復帰してまだ日が浅いんで、それを暴露するのは、もう少し慣れてからがいいんじゃないかな?」

「同意します。突然、重大な秘密を抱えるのは、また心労の原因となります」

 健康管理責任者の聞いたところ、ルルーが外回りの情報収集から内勤に移ったのは、心労が理由。見るからに、当初よりも状態がいいとはいえ、まだ配慮する必要がある。

「じゃ、それでいいんじゃない」

「専門家に従います」

 リンディとナユカもそれぞれ、口を挟むことはないと考える。そして、課長はすんなり決定。

「それじゃ、そういうことで、わたしから話しておく」

「はい」

「わかりました」

「OK」

 ナユカ、フィリス、リンディの三人が順にうなずいた。それを目にしたサンドラから、感嘆の声が漏れる。

「おー」

「……なに?」

 訝しげなリンディに、課長が答える。

「いやー、簡単に結論が出たな、と。いつも長話になるのに……脱線を含めて」

「脱線が多いですもんね」

 フィリスにナユカも同意。

「そうだよね」

「なんか、話が進まなくて疲れちゃって」

 そんなリンディには、それはこっちのセリフだと言いたいサンドラだが、絡むとまた長くなるので、ぐぐっとこらえる。

「まーね」

「ミレットがいればささっと終わるんだけど、サンディは進行が下手だよね」

 いらないことを付け加える奴を、サンドラは受け流しにかかる。

「あー、そうですか……はいはい」

「それに、管理職なのに説明が苦手ってどうなのさ」

 こっちから絡んでないのに、しつこい。

「申し訳ございませんね、至らなくって」

「向上するには、不得意なことも克服しなくっちゃ」

 イラついてきた。すると、この課長の場合、言葉使いが丁寧になることがある。

「ご貴重なご意見ありがとうございます」

「だいたい、サンディは説明不足のごり押しが多いから……」

 ここは、ナユカが止める。

「あ、リンディさん、もうその辺で……」

「もう勘弁していただけませんかねぇ……でないと、あなたの苦手なものを思いっきり叫びたくなりますねぇ」

 サンドラの眼光がきらっと光る。

「あ」

 リンディが固まる。

「なんですか、それ?」課長に聞いてから、フィリスはリンディに向き直る。「続きをお願いします」

 ……そうすれば、叫んでくれる。

「や、やだなぁ……サンディったら、大人気ない……もう十分すぎるほど大人なのに……」

 なんだか、しぶとく攻撃してくるので、サンドラは咳払い。

「喉の調子はいいみたい。いつでもいける」

 フィリスが背中を押す。

「いっちゃってください」

「サンディは最高」

 リンディのいい加減なヨイショに、突っ込む本人。

「へぇ。どんなふうに」

「最高の……えーと……課長」

「あ、その程度ね」

「あー、史上最高の管理職。いつかは大臣になれる……いや、なる、なります」

 この課長が昇進するのを恐れるミレットが聞いたら、卒倒しそうだ。

「そぉ? それはどうも。お褒めに預かり、光栄ですわ」すぐ切り替えるサンドラ。「では、話は終わり。外に出よう」

 口にはしないが、疲れた……。リンディも同様。

「疲れた……」

 こちらは言葉にした。

「最後も結局脱線しましたね」

 フィリスはため息。

「……わたしは好きですよ、そういうの」

 ナユカは微笑む。通告を受けた直後は留守番に不満だったが、雑談しているうちに気分転換し、気持ちの整理がついた。密談なのに、毎度脱線して長くなるのも、それなりに効用があるのかもしれない。




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