5-6 向かう場所は?
「さてと……ここから一番近いのは……」セデイター用の小型端末を見たリンディは、顔を上げる。「そこかよ」
「『そこ』って……」助手が、マスターの視線の先に目をやる。「ギルドですか?」
今、その覗き頻発地点のデータを取得したばかりの場所。簡易シャワー室がある──そして、もちろん化粧室も。
「やるもんですねぇ。わざわざこんなところで」
傍らに寄ってきたカラムゥに、自動的に一同のリーダーとなったセデイターが突っ込む。
「感心してどうすんのさ」
「そこで捕まったら、つわものたちからボッコボコですよ。それでもやるわけですから」
ほぼ間違いなく、この魔導士の表現どおりになるだろう。
「まぁ……ねぇ」
苦笑するリンディには、そんな奴らがどういう神経をしているのか、さっぱりわからない……。スリルを求めているとか? あるいは……もしかして、ボッコボコに対抗できるほどの猛者たちなのだろうか?
「怖いですね……」
ナユカが言及しているのは、ボッコボコにされる側とする側の、どちらも。一方、フィリスには、さきほど繰り返された特定の表現が気になる。
「ボッコボコ……」
この擬音は、過去の過ちを思い出させるトリガーのよう。気分が沈む……。それを目にしたカラムゥ。
「表現がよくなかったですね……すみません」
謝罪を受け……顔を上げるフィリス。
「え?」
「フィリスさんはヒーラーですよね?」
能力値はいざ知らず、治療したときの反応で、カラムゥは気づいた。
「……ええ」
「ヒーラーの方には、暴力表現を嫌う方がよくいらっしゃるので……」
ヒーラーをヒーラー足らしめる性格的傾向の一つ。
「あ、はい……そうですね」あの程度の表現は、どうってことはないけど……。フィリスは、カラムゥを見つめる。こいつ……紳士だ。「……お気遣いありがとうございます」
それに、よく見れば、そこそこ美男子。加えて……全身をさっと見ると……スリムでも、貧弱ではなさそう。さっき、魔法なしでも俊足だったことから、引き締まっていることが予想される……やばい。そう思ったのは、フィリスだけではない。
「あ、あの……リンディさん、それで……」
例の「ご病気」を危惧したナユカから水を向けられたこの場のリーダーも、同じ思い。
「あー、そうだね……それじゃ、移動しようか。行くよ、フィリス!」
強めの声で呼ばれ、意識が戻ってくる。
「あ、はい」
そのイケメン中毒の元凶となりそうなカラムゥは、ギルドの建物に目を向けている。
「そこはやめますか、やっぱり」
「うん。まずは、ここから近い……」リンディは端末を見つめる。オペレーション中に公道で「覗き覗き」と連呼したくないので、その単語は避けたほうがよさそう。「地点へ行ってみよう」
歩き出したセデイターを先頭に、フィリスとナユカが続き、その後ろからカラムゥとアマミエルがついてゆく。
「あれかよ」
すぐに、リーダーが立ち止まった。まだ少ししか移動していない。
「あそこは?」
隣によってきた助手に、マスターが答える。
「訓練場」
ギルド併設のもの。大きめの更衣室やシャワー室が設置されている。
「それだとやっぱり……」
一歩下がったままのナユカ同様、誰でも予想がつく。
「ボッコボコですね」その後ろから口を挟んだカラムゥは、さらに後方のアマミエルから肩を小突かれる。「あ、失礼」
「お気になさらずに」振り返ったフィリスは、首を元に戻す。「でも、まぁ……ここだとギルドと同じことになりますね」
むしろ、もっとひどいことに……。
「それでもやるわけだね……」リンディが思うに、こうなると覗きではなく別の性癖の持ち主なのではないだろうか? すなわち、ドM。「まぁ、うちらのターゲットは来ないと思うけど」
セデイターに、ナユカが尋ねる。
「え? どうして?」
「だって、この街は初めてでしょ? それなら、もっとやりやすいところに行くんじゃない? そして、もっと一般的なところ……」
ほのめかされているのは……異世界人でもわかる。
「それなら……やっぱりお風呂ですかねぇ」
もちろん、大きなもの。覗ける人数が違う。
「……だと思うよ」
公衆浴場……それは、この完璧ボディの苦手とする場所だ。
「初めて訪れた街の浴場をスルーすることはないでしょうね」
自分が覗き魔でもそうする……などと、フィリスは思っても言わない。
「巡礼でもされているのですか? その方は」
カラムゥは一歩前へ。
「おもしろいこと言うね」にやっと笑い、リンディは肩越しに振り向く。覗きの聖地巡礼とでも? 「そんな有名な『聖地』でもあるわけ?」
微笑み返す冗談の主。
「あれば楽なんですが」
そこで見張っていればいい。ただ、少し解釈を変えるなら……。
「常習者だけが知ってる場所とかでしょうか……」
提示した助手に、マスターが同意。
「あるんだろうね」
そんなところで、ばれずに覗いてるかと思うと……。
「やっぱり、ボコボコに……」
危険な願望をつぶやいたナユカの後方から、アマミエルが突然、声を上げる。
「聖地、ある!」
前の四人が一斉に後ろを振り向き、声の主に視線が集中。代表してリンディが尋ねる。
「……あるの?」
「……え?」見つめられて、はにかむアマミエル。「あ……うん」
「どこ?」
「あ、あの……」ドギマギする発言者。「この街の……近くの……神殿……」
「姉さん、これはそういう話ではなく……」
弟がさえぎった。その聖地は文字通りの聖地であり、この副首都から少し離れたところにある。単語を伏せて会話していた「覗き」とは何の関係もない。
「ち……違う?」
まずったという顔の姉。リンディもフォローのしようがない。
「まぁ……ちょっとね」
「ご、ごめ……」
アマミエルの表情が泣きへと向かっている……。
「あー、いい、いい。気にしないで」面倒になる前に、リーダーは早期対応。「ボケとしては、まぁ……意外性があった……ストレートで……いいんじゃない?」
何とか、フォローした。最近、こんなのばっかで慣れてきており、妙な反射神経が身についたのかも……。
「そう? えへへ……」
なぜだかわからずにほめられ、照れているアマミエル……。リンディはどうにか面倒事を回避し、再度の追いかけっこをせずに済んだ。何事もなかったことにして、話を戻す。
「……とにかく、公衆浴場を一つずつ見回ることにする」
にわかパーティのリーダーに対し、特に異論はなく、その方針で進めることとなった。




