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魔法世界のセデイター 4.フィリスのセデイト研修  作者: 七瀬 ノイド
第五章 覗き許すまじ
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5-6 向かう場所は?

「さてと……ここから一番近いのは……」セデイター用の小型端末を見たリンディは、顔を上げる。「そこかよ」

「『そこ』って……」助手が、マスターの視線の先に目をやる。「ギルドですか?」

 今、その覗き頻発地点のデータを取得したばかりの場所。簡易シャワー室がある──そして、もちろん化粧室も。

「やるもんですねぇ。わざわざこんなところで」

 傍らに寄ってきたカラムゥに、自動的に一同のリーダーとなったセデイターが突っ込む。

「感心してどうすんのさ」

「そこで捕まったら、つわものたちからボッコボコですよ。それでもやるわけですから」

 ほぼ間違いなく、この魔導士の表現どおりになるだろう。

「まぁ……ねぇ」

 苦笑するリンディには、そんな奴らがどういう神経をしているのか、さっぱりわからない……。スリルを求めているとか? あるいは……もしかして、ボッコボコに対抗できるほどの猛者たちなのだろうか? 

「怖いですね……」

 ナユカが言及しているのは、ボッコボコにされる側とする側の、どちらも。一方、フィリスには、さきほど繰り返された特定の表現が気になる。

「ボッコボコ……」

 この擬音は、過去の過ちを思い出させるトリガーのよう。気分が沈む……。それを目にしたカラムゥ。

「表現がよくなかったですね……すみません」

 謝罪を受け……顔を上げるフィリス。

「え?」

「フィリスさんはヒーラーですよね?」

 能力値はいざ知らず、治療したときの反応で、カラムゥは気づいた。

「……ええ」

「ヒーラーの方には、暴力表現を嫌う方がよくいらっしゃるので……」

 ヒーラーをヒーラー足らしめる性格的傾向の一つ。

「あ、はい……そうですね」あの程度の表現は、どうってことはないけど……。フィリスは、カラムゥを見つめる。こいつ……紳士だ。「……お気遣いありがとうございます」

 それに、よく見れば、そこそこ美男子。加えて……全身をさっと見ると……スリムでも、貧弱ではなさそう。さっき、魔法なしでも俊足だったことから、引き締まっていることが予想される……やばい。そう思ったのは、フィリスだけではない。

「あ、あの……リンディさん、それで……」

 例の「ご病気」を危惧したナユカから水を向けられたこの場のリーダーも、同じ思い。

「あー、そうだね……それじゃ、移動しようか。行くよ、フィリス!」

 強めの声で呼ばれ、意識が戻ってくる。

「あ、はい」

 そのイケメン中毒の元凶となりそうなカラムゥは、ギルドの建物に目を向けている。

「そこはやめますか、やっぱり」

「うん。まずは、ここから近い……」リンディは端末を見つめる。オペレーション中に公道で「覗き覗き」と連呼したくないので、その単語は避けたほうがよさそう。「地点へ行ってみよう」

 歩き出したセデイターを先頭に、フィリスとナユカが続き、その後ろからカラムゥとアマミエルがついてゆく。


「あれかよ」

 すぐに、リーダーが立ち止まった。まだ少ししか移動していない。

「あそこは?」

 隣によってきた助手に、マスターが答える。

「訓練場」

 ギルド併設のもの。大きめの更衣室やシャワー室が設置されている。

「それだとやっぱり……」

 一歩下がったままのナユカ同様、誰でも予想がつく。

「ボッコボコですね」その後ろから口を挟んだカラムゥは、さらに後方のアマミエルから肩を小突かれる。「あ、失礼」

「お気になさらずに」振り返ったフィリスは、首を元に戻す。「でも、まぁ……ここだとギルドと同じことになりますね」

 むしろ、もっとひどいことに……。

「それでもやるわけだね……」リンディが思うに、こうなると覗きではなく別の性癖の持ち主なのではないだろうか? すなわち、ドM。「まぁ、うちらのターゲットは来ないと思うけど」

 セデイターに、ナユカが尋ねる。

「え? どうして?」

「だって、この街は初めてでしょ? それなら、もっとやりやすいところに行くんじゃない? そして、もっと一般的なところ……」

 ほのめかされているのは……異世界人でもわかる。

「それなら……やっぱりお風呂ですかねぇ」

 もちろん、大きなもの。覗ける人数が違う。

「……だと思うよ」

 公衆浴場……それは、この完璧ボディの苦手とする場所だ。

「初めて訪れた街の浴場をスルーすることはないでしょうね」

 自分が覗き魔でもそうする……などと、フィリスは思っても言わない。

「巡礼でもされているのですか? その方は」

 カラムゥは一歩前へ。

「おもしろいこと言うね」にやっと笑い、リンディは肩越しに振り向く。覗きの聖地巡礼とでも? 「そんな有名な『聖地』でもあるわけ?」

 微笑み返す冗談の主。

「あれば楽なんですが」

 そこで見張っていればいい。ただ、少し解釈を変えるなら……。

「常習者だけが知ってる場所とかでしょうか……」

 提示した助手に、マスターが同意。

「あるんだろうね」

 そんなところで、ばれずに覗いてるかと思うと……。

「やっぱり、ボコボコに……」

 危険な願望をつぶやいたナユカの後方から、アマミエルが突然、声を上げる。

「聖地、ある!」

 前の四人が一斉に後ろを振り向き、声の主に視線が集中。代表してリンディが尋ねる。

「……あるの?」

「……え?」見つめられて、はにかむアマミエル。「あ……うん」

「どこ?」

「あ、あの……」ドギマギする発言者。「この街の……近くの……神殿……」

「姉さん、これはそういう話ではなく……」

 弟がさえぎった。その聖地は文字通りの聖地であり、この副首都から少し離れたところにある。単語を伏せて会話していた「覗き」とは何の関係もない。

「ち……違う?」

 まずったという顔の姉。リンディもフォローのしようがない。

「まぁ……ちょっとね」

「ご、ごめ……」

 アマミエルの表情が泣きへと向かっている……。

「あー、いい、いい。気にしないで」面倒になる前に、リーダーは早期対応。「ボケとしては、まぁ……意外性があった……ストレートで……いいんじゃない?」

 何とか、フォローした。最近、こんなのばっかで慣れてきており、妙な反射神経が身についたのかも……。

「そう? えへへ……」

 なぜだかわからずにほめられ、照れているアマミエル……。リンディはどうにか面倒事を回避し、再度の追いかけっこをせずに済んだ。何事もなかったことにして、話を戻す。

「……とにかく、公衆浴場を一つずつ見回ることにする」

 にわかパーティのリーダーに対し、特に異論はなく、その方針で進めることとなった。




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