モモと簪
嬉しさを身体で表現する娘は、カワイイ!!
「まーた変なの拾ってきたのー」
風呂場に『ドロん子』達を仕舞い終えた奥さんが様子を見に来た。
「【コレ】…、さぁ」
手に持っているモノに不安を感じながらも奥さんの前にに差し出す。
「んー…『簪』、かなーコレ」
少し考えた後、そう言葉にした。
「『簪』?簪って頭に刺す?」
「髪ね、頭に刺したら死ぬから…」
そんな話しをしながら、さらに顔を近づけて観察し始める。
「キレーだねコレ!金属みたいに全体が輝いてるし、細かく装飾もあって…でもー、っコレ!」
ハッとしてオレに顔を向ける、気づいたようだ。
「うん」
そう。
〘…キレイすぎる〙
キッチンにある窓から庭を見る。
そこには、子供達がスコップを使って掘ったであろう穴が見えた。
結構な大きさだ、あれならたぶん深さもあるだろう、子供たちの汚れ具合からもソレは伝わってきた。
それなら、最近うちの庭に紛れ込んだ物とかでは…無いハズだ。
だが、土を流しただけの【コレ】は綻びもない、さらに言えば錆や腐食といったものも皆無で、今しがた買ってきたような新品のように輝いていた。
そう、…まるで特別なチカラが働いているよかのうに。
「なんかさ、…気持ち悪くない?」
奥さんの呟いたセリフに、オレも激しく同意だ。
早く【コレ】を手放したくなり、そばにあったキッチンタオルで素早く包み、シンクの上に放る様に置く。
シンクの上にある【ソレ】を二人してじっと見つめ沈黙…。
微妙な空気がながれ始め、お風呂に居る子供達の声と、シャワーの音だけが大きく聞こえる…。
そして、
「あ、でもさ、でもさぁ!子供たち今日も【モモ】とお話ししててさー、そしたら急にお庭探さなきゃって出てったの、…ソレって【コレ】と関係ありそうじゃない!」
奥さんのセリフで、そんな空気はすぐさま吹き飛んだ。
(えー、なにちょっとテンション上がってるのー)
「…まぁ、そうかもね」
楽しそうな奥さんと、シンクの上で輝き続ける『簪』をみながら、深く考えるのをやめる。
奥さんがキッチンタオルごと包まれたままの『簪』を持ちながらクルクル回り始めた…踊るほどか…。
(アナタが楽しそうなら…もういいや)
それなら…と、時計を少し確認する。
そろそろ時間かー(はぁ…)
日常にすこし変なコトがあったとしても、会社の歯車は回らなくてはイケナイ、であるならば、今日のオレの勤務は夜勤なので、昼過ぎ頃から家を出なくては…。
けして逃げるわけじゃない!
逃げるわけじゃないんだが…
仕事なら仕方ないじゃない!?
『簪』のこの後の事は奥さんに丸投げしておこう。
うん、そうしよう。