【昔話】モモと成る
躍動感のある描写…もぅまぢムリ
「!!… 、」
「 !、 !!…」
(なに…)
(…ん、)
周囲が騒がしい
意識は未だ微睡みの中。
視界は暗闇のままだが、その方が感覚は研ぎ澄まされる。
徐々に、懐かしい感覚が彼女の内側をかき乱す。
周囲の至る所から彼女の身体に入ってくる情報たち。
(ひさしいな…)
『神降ろし』を行った時のような感覚だ。
次に、大きな波が心になだれ込んできた。
強い怨み。
深い悲しみ。
その他諸々の負の感情が。
(っいくさ、なの…)耐えきれず覚醒する。
目を覚ましたことで感情の本流が緩くなる。
少し落ち着き、自身の置かれた状況を確認する余裕が出てきた。
まだ日が有る時間帯なのだろう、周囲に高く生い茂った木々の隙間から木漏れ日が入り、辺りを薄暗く照らしていた。
(…道理で、『周りの声が聴こえる』はずだ)照らし出された、自分の今居る場所を確認して彼女は納得した。
その場所は、城の側にある井戸であり、この地に嫁いでからは毎日のように拝みを行っていた『拝所』だったからだ。
しかし周りの様子から、長らく人の出入りが無いのだとも感じられた。
知っている場所なのだが、違う所も多く、それがまた不思議な雰囲気を醸し出している。
そんな風に考えながら周りを見渡していると(?、コレは…)薄明かりの中に光る物を足元に見つけた。
彼女は、ソレをそっと拾い上げ確認する、そして記憶の中のモノと一致した事に少しの間驚き固まっていたが、その後すぐにソレを優しく両手で包み込み抱き締めた…。
彼にたくしたハズの【簪】だった。
(彼はどうなったのだろう…)
ソレからしばらくの間そうしていた彼女だが、ふとそんな思いにかられ、それから知りたくもあり、知りたくない様な事実を確認すべく、目線を手元から上の方、丘の頂上に向けた。
木々の切れ目から見る事の出来る丘の頂上、そこには彼女の見慣れた城…その石垣『だけ』が見えた。
(やはり…)
持ち主が離れてかなりの年月が立っているであろう、周りからの情報で彼女もおよそ分かっていた。
(でも、せめて)と、自身も好きだったあの城からの眺め、恋しい風景を見るために丘の眼下にあるだろう海を見渡す。
無かった。
いや、海はそこにある。
が、あの綺麗だった青が見えない…
沢山の、見たことない【黒い大きな何か】それが煙を上げ海岸を取り囲むように埋め尽くしている。
(なにが)
…理解できない
一閃!!
物凄い衝撃。
側で何かが弾け飛ぶ。
土飛沫とともに吹き飛ばされる
(わたしは)
土砂が、(そばに)埋もれ
そのまま…心を、
おしつぶされ、
(い)た。
彼女は記憶と共に『御神体』に還る。
彼女には分からないことだが、【他国から攻めてきた戦艦】そこから撃ち込まれた艦砲射撃によって、存在ごと吹き飛ばされた瞬間だった。
その後、幾度もやって来た台風、それに伴う豪雨により『御神体』である【簪】は城の側から土砂と共に流されて行き…、裾野にあたる開けた場所にたどり着いた。
大戦が終わったのち、この地は他国のモノとなる、他国支配下たる軍用地がいろんな場所に出来き、城跡がある丘の近くの海岸にもソレは造られた。
それから半世紀のときが過ぎ…
途中《返還》、というイベントがあったようだが、それでもこの地に基地はあり続ける。
そんな駐留軍関係者、本土からの移住民を受け入れるため、城があった丘近くの裾野には、新興住宅地が建設された。
彼女が眠りについた場所も、その類に漏れず、『簪』を庭に埋めたまま傍らに住宅が完成した。
その後、そこには黒人夫婦が住むこととなる。